出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語19-1-41922/05如意宝珠午 善か悪か王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
世継王山悦子姫の館
あらすじ
 悦子姫は、夏彦、常彦、加米彦、滝公、板公を伴い、自分の使命を明かさずに出発した。音彦と五十子姫も別の方向へ去った。世継王山の館は、紫姫、若彦、お節、お玉、馬公、鹿公が守ることになった。
 秋のなかばのこと、亀彦の宣伝使が英子姫の代理として、威厳のある正装で現れ、神勅を述べた。それは、「紫姫と若彦は天地の律法を忘却し、権謀術数の秘策を用い、反感苦肉の策をもって、神界経綸の玉照姫を手に入れたことは、神意に叶はない」というものであった。そして、「玉照姫をウラナイ教の黒姫の手元に送れ」というものであった。また、紫姫と若彦は宣伝使の職を解かれる。
 若彦はこの亀彦の神勅を、「亀彦の副守護神のいたずら」だと言い、審神をすると、うるわしい女神が現れたので真実を悟った。これを聞き、今まで泣いていた玉照姫がうれしそうに笑い出した。
名称
馬公 お節 お玉 亀彦 鹿公 玉照姫 紫姫 女神 若彦
悪魔 青彦! 生御霊 五十子姫 板公 音彦 加米彦 奇魂 黒姫 神素盞鳴大神 滝公 棚機姫 常彦 夏彦 英子姫 副守護神 本守護神 悦子姫
天の岩戸 ウラナイ教 ウラル教 神言 惟神 江州 三千世界 下津岩根 神界 真如の日月 神諭 神霊注射 小三災 大三災 竹生島 天地の律法 錦の機 瑞穂の国 五六七神政 世継王山 霊縛
 
本文    文字数=14196

第四章 善か悪か〔六四九〕

 瑞穂の国の真秀良場や  青垣山を繞らせる
 下津岩根と聞えたる  要害堅固の神策地
 小三災の饑病戦  大三災の風水火
 夢にも知らぬ世継王の  山の麓に現れませる
 玉照姫の御稜威  光は四方に照妙の
 衣を纏ひて経緯の  綾と錦の機を織る
 棚機姫と現はれし  紫姫に侍かれ
 月日を重ね年を越え  その名は四方に轟きぬ。

 悦子姫は、夏彦、常彦、加米彦、滝、板を伴ひ、我使命を明かさず、世継王山麓の住家を後にして、何処ともなく神業のために出発したり。音彦、五十子姫は別の使命を受け、これまた何処ともなく、行先を明かさず、惟神的に、世継王の住家を後にして出発せり。
 後には、紫姫、若彦、お節、お玉、馬公、鹿公の面々朝な夕なに、玉照姫の保育に全力を尽し居たりける。
 夏も何時しか暮れ果て、天高く、風清く、野には稲穂が黄金の波を打ち、佐保姫の錦織なす紅葉の、愈秋の半となりぬ。
 時しもあれ、真夜中に戸を叩く一人の男あり。馬公、鹿公はこの音に驚き目を醒まし、
馬公『オイ鹿公、何だか表の戸を叩く音がするではないか、お前御苦労だが一つ調べて見てくれないか』
『何、あれは秋の夜の紅葉を散らす凩の戸を叩く音だ。余程お前も神経過敏になつたものだな、そりや無理もない、五六七神政の生御霊玉照姫様の御保護の任に当つて居るのだから、雨の音、風の響にも注意を払ふのは当然だ。しかしながら余り思ひ過ぎると神経病を起すやうになつては詰らないから、何事も神様にお任せして、吾々は能ふ限りのベストを尽し、忠実に務めさへすればよいのだよ』
『そりやお前の云ふ通りだが、しかし今の音は決して雨や風の音ではない、何か訪るる人が門にありさうだよ』
鹿公『峰の嵐か松風か、一つ違へば狐狸の悪戯か、尻尾を以て雨戸を叩き、吾々を脅威さうとするのだ。この間から幾度となく、ウラナイ教の間者がやつて来て、玉照姫様を奪ひ返さうとかかつて居るらしい、迂濶り夜中に戸でも開けやうものなら大変だ、英子姫様、悦子姫様に申訳がない、先づ此処は、見ざる、聞かざる、言はざるの三猿主義を取る方が安全第一だ。俺の鹿とお前の馬とでシカりとウマウマ守るのだナア』
 戸を叩く音益々烈しくなり来る。
『それでも益々烈しく叩くぢやないか、どうだ一つ紫姫様に伺つて見たら』
『それもさうだな、しかしながら折角よくお寝みになつて居られるのだから、夜中にお目を醒まさせるのもお気の毒だ』
 表を叩く音益々烈しい。鹿公はムツとしたやうな声で、
『誰だい、人の寝しづまつた家を無闇に叩くものは』
『吾れは英子姫様の御命令によつて、江州竹生島よりはるばる単騎旅行でやつて来た者だ。紫姫は在宅か、若彦は居るか』
鹿公『紫姫様や若彦様の名を知つて居るからには、何でも何だらう、さう考へると容易に開ける事は出来ない。吾々は昼は寝ね夜は不寝番をつとめて居るのだ。夜の間は俺達の権限があるのだから誰が開けいと云つても、この鹿公の本守護神が開けと命令を下すまでは開けられぬのだ。マアマアしばらく御苦労だが正体が分らぬから、自然に開けるまで待つて居たがよからう。日光に照されて、モウモウした毛を体一面に現はすのだらう。吾々は夜分は目の見えぬ人間だから、平にお断り申す』
 外より、
『さう云ふ声は鹿公ぢやないか、今日参つたのは余の儀ではない。神素盞嗚大神様の御心により、英子姫様の大命を奉じて御直使として出張致した、三五教の宣伝使亀彦であるぞよ』
『何、亀彦さまか、ソンナラ開けぬ事は無いがもしや作り声ではあるまいかなア』
『何、作り声する必要があるか、紫姫以下一同に申し渡す仔細がある。一時も早く開けたがよからうぞ』
『何だか亀彦さま、今日に限つて言葉つきまで厳粛に構へてござる、何かこれに就ては善か悪か、吉か凶か、普通のお使ではあるまい、なア馬公、どうしたらよからうなア』
『荘重な語気だな、今日は大神様の代理権を以て来て居るのだと見えて、いつもとは言霊の響きが何処とは無しに森厳だぞ』
『何、アンナ事を云つて洒落てるのだよ。大変な用向きがあるやうな語調で吾々を威喝しようと思つて居るのだ。何、心配する事はないさ、大山鳴動して鼠一匹位なものだ。アハヽヽヽ』
亀彦『早く開けぬか、何をぐづぐづ致して居るぞ』
鹿公『ヨオ高圧的に大袈裟に出やがつたな、これでは吾々両人にては一寸解決がつき難い、若彦の大将に一寸相談して見ようか』
馬公『それがよからう』
と云ひながら若彦の居間に立ち入り肩を揺つて、
『モシモシ若彦さまか、青彦さまか、どちらを云つてよいのか知らぬが一寸起きて下さい。門口に大変な者が現はれました。サアサア早く起きたり起きたり』
『誰かと思へば馬公ぢやないか。夜の夜中に何を喧しう云ふのだい』
『イエイエ急な事件が突発しました。素盞嗚大神様の御心により英子姫様より御直使として、亀彦の宣伝使が見えました』
若彦『何、亀彦の宣伝使が見えたと、何と遅かつたな、もう英子姫様よりお褒めの言葉が下るか下るかと指折り数へて、紫姫を始め吾々一同は首を伸ばして待つて居たのだ。馬公喜べ屹度御褒美を頂戴するのだらう』
『それは有難い、ソンナラ開けませうか』
『一寸待つてくれ、寝間を片付け、其処いらを掃除してそれから御這入りを願はないと、こう散けては御直使に対して御無礼だ。モシモシ紫姫さま、お玉さま、早く起きて下さい、英子姫様のお使として亀彦の宣伝使が只今見えました』
紫姫『ア、さうですか、そりや大変です、困つた事になりましたねエ』
『あれだけの吾々は苦心惨憺を重ね玉照姫様を三五教へお迎へ申したのだから、褒めて貰ふ事はあつてもお咎めを蒙るやうな道理がない。御心配なさいますな、何程立派な神人ぢやと云つても、女は矢張り女だナア、そンな取越苦労はするものぢやありませぬよ』
『それでも何だか気掛りでなりませぬワ。何はともあれ、早く室内を片づけて這入つて貰ひませう』
と一同は夜着を片付け、綺麗に掃除をなし終り、
若彦『サア準備は出来た、馬公、鹿公、表を開けて亀彦さまを御案内申したがよからう』
 馬、鹿の両人は畏まりましたと表戸をサラリと開け、驚いたのは両人、亀彦の宣伝使は威儀儼然として金色の冠を頂き、夜光の宝玉四辺を照らし、薄き絹の袖長き白衣を着し、入口狭しと悠々と進み入り、二人に一揖し、つかつかと奥の間に進み、玉照姫の御前に端坐し、拍手再拝、神言を奏し終り正座に着きける。
 紫姫は手を突ひて、
『これはこれは亀彦の宣伝使様、否、英子姫様の御直使様、夜陰といひ遠方の処、ようこそ御入来下さいました。御用の趣仰せ聞けられ下さいませ』
 亀彦は威儀を正し、
『今日只今この館に参りしは余の儀ではござらぬ。この度その方紫姫を始め若彦の行為に就いて神素盞嗚大神様、以ての外の御不興、英子姫様に御神示あらせられたれば、亀彦ここに英子姫の命の直使としてわざわざ参りたり』
 紫姫、若彦はハツと両手をつき、
『これはこれは御直使様御苦労に存じます。御用の趣、速にお聞かせ下さいませ』
『その方事は神界経綸の玉照姫を天地の律法を忘却し、権謀術数の秘策を用ゐ、反間苦肉の策を以て目的を達したる事神意に叶はず、彼れ玉照姫の神は、一旦、ウラナイ教の黒姫に与ふべきものなり。一時も早く玉照姫様及びお玉を黒姫の手許に送り、汝等はこの責任を負ひて宣伝使の職を去るべし、との厳命でござる』
と厳かに云ひ渡したり。
 紫姫は顔を赤らめ、
『実に理義明白なる御直使のお言葉、妾不徳の致す処、今となつては最早弁解の辞もございませぬ。謹みてお受け致します』
『モシモシ紫姫さま、この若彦を差し置き、さうづけづけとものをおつしやつては後の結びがつきませぬ。仮令権謀術数の策にもしろ五六七神政の貴の御宝、玉照姫の生御霊を三五教に迎へ奉りたる抜群の功名手柄、御賞詞こそ頂くべきに、却つて吾々の職を免じ、剰つさへ玉照姫様を黒姫に渡せとは大神様始め英子姫様の御言葉とも覚えませぬ。オイ、コラ亀彦、貴様は吾々の成功を嫉み、左様な事を申すのであらう。否、汝の本守護神より出でたる世迷ひ言ではあるまい、屹度副守護神の悪戯ならむ。只今若彦が神霊注射を行ひ、汝に憑依せる悪魔を現はしくれむ』
と早くも両手を組みウンと一声霊縛を加へむとするや、亀彦の背後より煙の如く忽然として顕はれ給うた光華明彩六合を照徹するばかりの女神顕はれ給ひ、若彦が面を射させ給ひぬ。紫姫、若彦は身体萎縮しその場に畏伏しワナワナと震ひ戦き、涙に畳を潤すに至りぬ。亀彦は顔色を和らげ、
『英雄涙を振つて馬稷を斬るとは神素盞嗚大神、英子姫様の御心事、さりながら汝よく直日に見直し聞き直し、奇魂の覚りによりてこの大望を完全に遂行せば、再び神業に参加する事を得む』
と稍俯むき、同情の涙を流しつつ女神と共に、亀彦の姿は忽然としてこの場より消えにける。玉照姫の泣き給ふ声はこの時より時々刻々に烈しくなり来たれり。
お玉『玉照姫様、どうぞ御機嫌を直して下さいませ。何かお気障りがございますか。幾重にも御詫致します』
と頭を畳にすり付け詫入る。
『紫姫さま、大変な事になりましたねエ。若彦はどう致したらよろしいのでせう』
『仕方がありませぬ、成功を急ぐの余り無理をやつたものですから、何程目的は手段を選ばずといつても、それは俗人のなすべき事、吾々宣伝使の分際として余り立派な行動をやつたとは云はれますまい。吾々両人を殊勲者として大神様より賞詞さるるやうな事あらば、それこそ三五教の生命は茲に全く滅亡を告げ、ウラル教となつてしまひませう。アヽ大神様の御言葉には千に一つもあだはございませぬ。これよりは前非を悔い身魂を研いて本当の宣伝使にならなくちやなりませぬ。玉照姫様のあの御泣き声、御神慮に叶つて居ないのは当然です』
『エヽ仕方がありませぬなア』
 馬公は、(小声で)
『オイ鹿公、梟鳥の宵企み、夜食に外れて難かしい顔を致すぞよ。ドンナ良い事でも誠で致した事でなければ、毛筋の横巾ほどでも悪が混りたら、物事成就致さぬぞよ、と云ふ三五教の御神諭を知つて居るか』
『ウン、いつか聞いたやうに思ふ。ナント神様といふものは七難かしい事をおつしやるものだな。三千世界を自由になさる大神様が、ソンナ小さい事をゴテゴテおつしやるやうでは神政成就も覚束ないワイ。しかしながら若彦さまや、吾々の師匠と仰ぎ主人と崇むる紫姫様までが、御退職なさる以上は吾々とても同じ事だ。何とか考へないと馬鹿な目に遭はねばならぬぞ』
『モシモシ若彦さま、紫姫さま、御目出度う、お祝ひ致します』
 鹿公は慌てて馬公の口に手を当て、
『コラコラ馬公何を云ふのだ、些と失礼ぢやないか』
『馬公、よう云ふて下さつた。本当にコンナ目出度い事はありませぬワ。今日只今始めて臍下丹田の天の岩戸が開けました。これから本当の真如の日月が現はれませう。お互様にお目出度う存じます』
 若彦は拍手を打つて、
『大神様有難うございます。愈私も心天の妖雲が晴れました』
と感謝の辞を涙と共に述べたて居る。
 玉照姫は何とも形容の出来ない美はしき顔色にて、御機嫌斜ならずニコニコと笑ひ始め給ひ、お玉は嬉し泣きに泣き入る。
 馬公、鹿公二人は互に顔を見合せ、
『ハテ合点がゆかぬ。こりやマアどうなり往くのであらうかな』
 紫姫、若彦は今後果して如何なる行動に出づるならむか。

(大正一一・五・六 旧四・一〇 藤津久子録)



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