出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語18-4-131922/04如意宝珠巳 救の神王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
弥仙神社
あらすじ
 富彦、寅若、菊若の三人は計略の成功を祈願して、弥仙神社で一夜を明かす。寅若は「お玉は玉照姫をウラナイ教に渡さなければならぬ」という内容の神勅を書いて神社に置いておく。参拝に来たお玉は神勅を見ていたずらとみなした。
 三人は最後の手段としてお玉を襲う。お玉は抵抗したが押さえつけられた。そこへ、丹州が現れ、三人を霊縛してお玉を救う。霊縛を解かれた三人は黒姫達の所へ逃げ帰る。丹州はお玉の家に同棲することとなったが、二人の関係は清いものであった。
名称
お玉 菊若 丹州 富彦 寅若
悪霊 生神 生宮 黒姫 木の花姫命 曽富斗神 高姫 高山彦 玉照姫 豊彦
ウラナイ教 於与岐 神言 金峰山 言霊 審神 日蔭葛 弥仙神社 日本魂 霊縛
 
本文    文字数=13539

第一三章 救の神〔六四一〕

 寅若、富彦、菊若の三人は金峰山の頂上、弥仙神社の前に一心不乱に願望成就の祈願を凝らし、遂に夜を明かした。
寅若『アヽ大分沢山に神言を奏上し、最早声の倉庫は窮乏を告げたと見え、そろそろかすつて来だした』
と瘡かきのやうな声で云ふ。二人も同じくかすり声、
寅若『もう仕方がない、ありだけの言霊を献納したのだから、声としては殆んど無一物だ、声の裸になつたやうなものだ、これだけ生れ赤子になれば、如何な願も聞いて下さるだらう』
と枯れ草の上を竹箒で撫でるやうな貧弱な言霊をやつと発射してゐる。寅若、懐中の短刀をヒラリと抜いて傍の木を削り、それへ向けて矢立から、竹片を叩いた、笹葉のやうな、長三角の筆を取り出し、何かクシヤクシヤ書き初めた。書き終つて唖のやうにウンウンと木の文字を見よと指さし得意顔、二人は立ち寄つて読み下ろすと、
『木花姫の命の筆先、今日は七十五日の忌明で必ず参拝致す筈のお玉に神が気をつける、汝に授けた玉照姫は普通の人間の子で無いぞよ、神が御用に立てるために汝の肉体に、そつと這入つて生れ変つたのであるから、今此処で改心を致してウラナイ教に献り、神のお役に立てて下されよ、これが神の仕組であるぞよ、もし承知を致したなればそのしるしに日蔭葛を頭にのせて、其方の家まで帰つて下されよ、もし不承知なればそのままで帰るがよい、また後から神がみせしめを致すぞよ』
と書いてある。菊若、かすり声で、
菊若『アハヽヽヽ、うまいうまい、ナア富彦、やつぱり哥兄貴だなア』
寅若『哥兄貴だらう』
と、かすり声で云つて居る。三人は軈てお玉が朝参詣して登つて来る時刻と裏山より、ずり下り、そつと廻つて中腹の灌木の繁茂に姿を隠し、お玉の下向を待つて居た。お玉はただ一人桜の杖をつきながら漸く頂上に達し、神前に向つて感謝の辞を奉り、フツと社側の大木を見れば何か文字が現はれて居る。『ハテ不思議』と近寄つて見れば以前の文面、しばらくその木と睨めくらし、腕を組んで思案に暮れて居た。暫時あつて、
お玉『エー、馬鹿らしい、神様がこんな事をお書き遊ばすものか、何者かの悪戯であらう。日蔭葛を被つて帰る所を眺めて、近在村の若い衆が手を拍いて笑つてやらうとの悪戯だらう、ホヽヽヽ、阿呆らしい』
と独語ちつつまたもや神前に軽く会釈をし、もと来し急坂を下り行く。半分あまり下つたと思ふ時、
寅若『ヤア、駄目だ、日蔭葛を被つて居やがらぬぞ、不承諾だと見える、もうこうなる上は直接行動だ、サア、一、二、三つで一度にかからうかい』
菊若『オイオイ、あまり慌るな、彼奴の身体を見よ、一歩々々些とも隙がない、うつかりかからうものなら、谷底へ取つて放られるかも知れないから、余程ここは慎重の態度をとらねばなるまいぞ』
富彦『愚図々々云つてる間に、さつさと帰つてしまうちや仕方がないぢやないか、もうかうなつては何の猶予もない、サア一、二、三つだ』
とお玉の前に身体一面、日蔭葛で取り巻いた化物のやうな姿で三人は現はれた。
お玉『シイツ、オイ畜生、何と心得て居る、此処は神様のお宮だ、昼中に四つ足が出ると云ふ事があるものか、昼は人間の世界、夜はお前達の世界だ、早く姿を隠せ、一二三四五六七八九十百千万……』
 寅若、作り声をして、
寅若『オイ、お玉、その方は生神様に向つて獣と云つたな、もう量見がならぬ、覚悟致せ』
お玉『オホヽヽヽヽ、お前は昨日妾の家へやつて来て、お爺さまに審神をせられた狐や狸の生宮だらう、やつぱり争はれぬもの、宅のお爺さまは目が高い、今日は正真になつて姿を現はし遊ばしたな、ホヽヽヽヽ』
寅若『何を吐すのだ、もうこう成つた上は此方も死物狂ひだ、幸ひ外に人は無し、何程貴様に神力があるか、手が利いて居るか、荒くれ男の三人と女一人、愚図々々吐さず後へ手を廻せ』
お玉『オホヽヽヽ、お前こそ、ちつと尻へ手を廻さぬと大変な失敗が出来ますよ、後へ手を廻すやうな人間はお前のやうな悪人ばつかりだ、やがて捕手が出て来て……括つて去なれぬやうに御注意なさいませや』
菊若『エー自暴糞だ、やつてしまへ、サア一、二、三つ』
お玉『オホヽヽヽ、随分偉い馬力ですこと、お宮の前に綺麗な楽書がしてございましたな、妾拝見致しまして、見事なる御手跡だと感心しましたのよ』
寅若『エー、ベラベラと怖くなつたものだから追従ならべやがつて、この場をちよろまかして逃げやうと思つたつて、仏の碗ぢや、もうかなわんぞ、神妙に手を廻さぬかい』
お玉『大きに憚りさま、廻さうと、廻すまいと妾の手、自由の権利だ、お構ひ下さいますな、それよりも貴方の身の上を御注意なさいませ、玩具のピストルを突きつけるやうな脅喝手段にのるやうなお玉ぢやございませぬワ』
富彦『何程口は達者でも力には叶うまい、オイ寅若菊若、もうこうなれば容赦はならぬ、愚図々々して居ると、人に見付かつちや大変だ、早う事業に着手しようぢやないか』
『オツト合点だ』
と三人は武者振り付く。お玉は右に隙かし左に隙かし、飛鳥の如く揉み合ひへし合ひ戦つて居る。寅若はお玉の足に喰ひついた途端にお玉は仰向態に、ひつくりかへり二三間谷を目蒐けて、寅若と上になり下になりクレリクレリと三四回軽業を演じた。菊若、富彦は予て用意の藤綱を以て後手に縛り、猿轡を箝めやうとする。この時下の方から白い笠が揺らついて登つて来る。
寅若『ヤア、何だか怪しげな奴が一匹やつて来やがつたぞ、大方豊彦爺だらう』
菊若『親爺にしては随分足並が早いやうだ、早く縛りあげて其処辺へ隠し、彼奴の通るのをば待とうぢやないか』
と慌て括つたお玉の肉体を灌木の繁茂に隠してしまつた。そこへ上つて来た一人の男、
『ヤアお前はウラナイ教の方ぢやなア、一寸物をお尋ね致します、此処へ於与岐の豊彦の娘お玉と云ふ綺麗な女は通らなかつたかな、見れば貴方等は身体一面、狐の襷を身に纒うて居るが、何ぞ面白い事でもありましたか』
寅若『イヤ、別に何もありませぬ、お玉さまはねつからお目にかかりませぬがな』
と故意とお玉を隠した反対の方へ目を注ぐ。
男『もう此処へ来て居らねばならぬ時刻ですが……彼方から一寸窺つて居ましたが人の影が四ばかり動いて居つたやうだ』
寅若『ハイ、そう見えましたかな。それは大方昼の事でもあり影法師がさしたのでせう』
男『天を封じたこの密林、影が映すとは妙ですな、私も此処で一つ煙草でも……さして貰ひませう、何だか女の息が聞えるやうだ、ハツハツハヽヽヽ、お前、隠して居るのぢやあるまいな』
寅若『滅相な、この昼中に隠すと云つたつて……何を隠す必要がありますものか、かくすればかくなるものと知りながら止むにやまれぬ日本魂と云ひまして、ホンの一寸……』
男『何が一寸……だ、その一寸が聞かして欲しい』
寅若『そう四角張つておつしやるに及びませぬワ、サアサアお伴致しませう、貴方お空へお詣りでせう、私お伴致します。オイ菊若、富彦、いいか、合点か、お前は足弱だから、先へ何を何々せい、私はこのお方のお伴をしてお空へ詣つて来るから……』
菊若『昨晩詣つただないか』
 寅若、グツと目を剥き、
寅若『シイツ、何を云ふのだい、夢を見やがつて……此処までやつて来て「アヽお山はきついから……神様は何処からも同じことだ、ここで勘へて貰はう」と平太つてしまつたぢやないか、アハヽヽヽ。昨晩のうちに詣りよつた夢を見たのぢやな、旅人、こんな弱虫を連れて居ますと閉口致しますワイ、サアお伴致しませう』
男『御親切は有難いが、私はお空には一寸も用はない、私の許嫁のお玉と云ふものに会ひさへすればよいのだ、何だか此処へ来ると足がピツタリ止まつて、お玉臭い匂ひがして来た』
 三人は徐々目と目とを見合して逃げかけやうとする。
男『オイオイ、三人の奴共、貴様に談判がある、一寸待て』
寅若『ヘイ、なゝゝゝ何と仰しやいます』
男『一寸待てと云うのだ』
寅若『ぢやと申して……鬼と申して……寅と申して……』
男『アハヽヽヽ、随分よく動くぢやないか、その態は何ぢやい』
寅若『ハイ………地震の霊が憑依しまして……いやもう慄つて居ますワイ』
男『真に三人共慄つてるな、まてまて今一つ退屈覚しに悪霊注射でもやつて霊縛してやらう』
菊若『めゝゝゝ滅相な、もうこれで沢山でございます』
男『ウン』
と一声、霊縛を施した。三人は腰から下は鞍掛の足のやうに踏ん張つたまま地から生えた木のやうにビクツとも動かず、腰から上は貧乏ぶるひをやりながら目ばかりぎろつかせて居る可笑しさ。
男『アーア、お玉さまをこれから助けて上げねばなるまい』
と傍の灌木の中に倒れて居るお玉の綱を解き猿轡を取り外し、
男『旅のお女中、否お玉さま、えらい目に会ひましたね、サ、しつかりなさいませ、もう大丈夫ですよ、あの通り霊縛を施して置きました』
 お玉はキヨロキヨロ男の顔を見廻し、
お玉『ヤア、その方は同類であらう、そんな八百長をしたつて欺されるやうなお玉ではありませぬよ』
男『これは迷惑千万、私は丹州と云ふ男、豊彦さまの知己ですよ』
 お玉は男の顔を熟視し、
お玉『ヤア貴方は先日お越し下さいました丹州さまでございますか、これはこれはよい処へ来て下さいました、サア帰りませう』
丹州『マア、ゆつくり成さいませ、足は歩かねども天の下の事悉く知る神なりと云ふ案山子彦またの御名は曽富斗の神が御三体現はれました、アハヽヽヽ』
お玉『ほんに、マア見事な案山子彦の神さまですこと』
丹州『何でも世界の事は御存じのお方だから、一つ伺つて見ませうか』
お玉『それは面白からう、いやいや面白いでせう』
丹州『神様に伺ふのに面白いなんて、……そんな失敬な事がありますか、ちつと言霊をお慎みなさい』
お玉『ホヽヽヽ、屹度慎みませう』
と寅若の前に徐々と現はれ、
お玉『ハヽア、この神様は目ばかり剥いて居らつしやる、何かお供へしたいが何もありませぬ、丹州さま、どうでせう、大きな口を開けて居らつしやいますが………』
丹州『お土かお石の団子でも腹一杯捻込んであげたらどうでせう、アハヽヽヽ』
お玉『それは経済でよろしいね、お三方とも勝負のないやうにお供へしませうか』
丹州『ヤア手が汚れますから措きませうかい、こらこら六本足、霊縛を解いてやる、一時も早く立帰りこの由を高姫、黒姫、高山彦の御前に包まず隠さず注進致して、御褒美に預つたがよからう』
 『ウン』と一声霊縛を解くや否や三人は一生懸命ガラガラガラと坂道に石礫を打ちあけたやうに転んで逃げて行く。
 丹州はお玉と共に於与岐の豊彦の家に黄昏ごろ帰つて来た。豊彦夫婦はお玉の遭難の顛末より丹州が助けてくれた一条を涙と共に聞き非常に感謝し、丹州は生命の親として鄭重に待遇され、それよりお玉の宅に暫時同棲する事となつた。されど丹州とお玉との両人の仲は一点の怪しき関係も無く極めて純潔であつた。

(大正一一・四・二八 旧四・二 北村隆光録)



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