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原著名出版年月表題作者その他
物語18-4-121922/04如意宝珠巳 大当違王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
弥仙山
あらすじ
 弥仙山では、玉照姫が評判となって豊彦の家には信者が沢山押し寄せている。そこへ、ウラナイ教の富彦、寅若、菊若がやって来て、豊彦に「お玉と玉照姫を連れてにウラナイ教へ来てくれ」と頼むが、豊彦は追い返す。仕方がないので三人は、お玉をかどわかし、それを助けると言って豊彦の家へ行き、玉照姫を借り出す計略を立てる。
名称
お玉 菊若 玉照姫 富彦 豊彦 寅若
青彦 因縁の身魂 梅公 黒姫 木の花咲耶姫 木の花姫 神霊 天狗 分霊 紫姫 悦子姫
ウラナイ教 於与岐 神懸 審神 三本檜 日蔭葛 普甲峠 船岡山 弥仙山
 
本文    文字数=18019

第一二章 大当違〔六四〇〕

 月傾いて山を慕ひ  人老て妄りに道を説くとかや
 弥仙の山の麓なる  賤が伏家の豊彦は
 三五教の宣伝使  悦子の姫の一行に
 娘のお玉を助けられ  世にも優れし初孫の
 顔を眺めて老夫婦  蝶よ花よと労はりつ
 神の教を説き諭す  この事四方に何時となく
 風のまにまに伝はりて  於与岐の郷の爺さまは
 弥仙の山と諸共に  その名も高くなりにける
 老若男女は絡繹と  蟻の甘きに集ふが如く
 豊彦老爺の教示をば  神の如くに敬ひて
 昼は終日夜は終夜  救ひを求めて詣り来る。

 中に目立つて三人の大男、宣伝使の服を着けながら、
男『御免なさいませ。私は富彦、寅若、菊若と申す者、この度弥仙山のお宮に参拝を致し、神勅によりて承はれば、この山麓の一つ家に豊彦と云ふ方現はれ、誠の教を伝ふる故、汝等三人は帰路に立寄り、彼れ豊彦をウラナイ教に誘ひ帰れ、娘のお玉及び今度生れた玉照姫を本山に迎ひ帰れ……との、有り有りとの御神示、神様のお言葉は疑はれずと、弥仙の山麓を彼方此方と探す内、道行く人に承はれば於与岐の森の彼方の一つ家こそ、豊彦さまの住宅と聞いた故、御神勅により出張仕りました』
と門口に立つたまま呶鳴つて居る。幸ひ今日は参詣者もなく、老夫婦と娘、孫の四人、弥仙の神霊を祀りたる霊前に、拝跪黙祷する最中であつた。豊彦は拝礼を終へ、門口近く進み来り、
豊彦『どなたか知らぬが、門口に何か尋ぬる人が有るらしい、何れの方か、先づ戸を開けてお這入りなされませ』
寅若『ハイ有難う』
と斜交になつた雨戸をガラリと開け、
寅若『ヤア随分立派な家だなア……オイ富彦、菊若、這入れ、……汚い家に不似合な綺麗な娘さまがござるなア、下水に咲いた杜若と云はうか、谷底の山桜、これはどつか良い所へ植替へたならば、随分立派な者になるだろう』
豊彦『コレコレお前さまのおつしやる通りムサ苦しい茅屋なれど、これでも私の唯一の休養場ぢや、……あまり失礼ぢやありませぬか』
と足音荒く、破れ畳を威喝しながら、上り口に下りて来て、ジロジロと三人の顔を睨みつけて居る。
寅若『ヤアこれはお爺さま、誠に失言を致しました。決して悪く申したのぢやございませぬ。少しも飾りのない、正直正銘な、心に映じたままを申上げたのだから、お悪く思つて下さいますな、歪みかかつた家を、立派な家だと云つた方が却つて嘲弄した事になりませう。お多福を掴まへて、お前は別嬪だと言へば、お多福は馬鹿にしたと言つて怒るやうなもので、ともかくも神の道に仕へて居る者は、チツとも斟酌とか巧言とかが有りませぬ、お気に障りましたら、どうぞ宥して下さいませ』
豊彦『ソレヤお前の言ふ通りぢやが、しかし碌に挨拶もせないで、イキナリ吾々の住宅を非難すると云ふのは、あまり此方も気の良いものぢやない。お前も宣伝使だとおつしやつたが、かう云うたら人が感情を害するか、害せないか位は分りさうなものだなア』
寅若『只今申したのは決して寅若では有りませぬ。弥仙山に鎮まります大神の眷属、寅若天狗が言つたのです。天狗と云ふ奴は世に落ちぶれて、神様の下働きばつかりやつて居ますから、行儀も無ければ、作法も知らず、酒呑みの極道天狗もあり、どうぞお赦し下さいませ。何分身魂が研け過ぎて居るものだから、感じ易うて直に憑られて困ります、アハヽヽヽ』
豊彦『さうして御神勅の趣はどう云ふ事だ、早く聞かして貰ひませう』
寅若『御存じの通り、私はあまり素直な身魂で、種々の神が憑依致しますから、余程審神をせねばなりませぬが、この富彦と云ふ宣伝使は、それはそれは立派な者でございます。実は富彦に御神勅が有つたのです。サア富彦さま、御神勅の次第をお爺さまにお知らせなされ』
 富彦、両手を組み、威丈高になり、
富彦『コヽヽこの方は、弥仙山に守護致す木花咲耶姫であるぞよ。この度汝が家に、木花姫の御霊、玉照姫を遣はしたのは、深き仕組の有る事ぢや、何事も皆神からさせられて居るのだから、吾子であつて、吾子ではないぞよ。体内に宿つて十ケ月目に生れ出でたるこの玉照姫は、神のお役に立てるために、昔から因縁の身魂を探して、その方が娘に御用をさせたのであるぞよ。サアこれからはその玉照姫を神の御用に立てるが良いぞよ。神の申す事を諾かねば諾くやうに致して諾かしてやるぞよ。返答はどうぢや、豊彦、承はらう』
豊彦、平気な顔でニタリと笑ひ、三人の顔をギヨロギヨロ眺め、
『ハヽヽヽヽ、お前達、巧妙い事をやりますなア。田舎の老爺ぢやと思うて、一杯欺けようと企んで来ても、かう見えてもこの爺はナカナカ、酢でも蒟蒻でも行く奴ぢやない。お前達とは役者が七八枚も上だから、その手は喰ひませぬワイ、アツハヽヽヽ、なるほど人間の子は十月で生れるだらうが、此方の子はそんな仕入とはチツと種が違ふのだ。神さまもタヨリ無いものだなア。実際お前様に大神が懸つて仕組まれたのならば、この玉照姫は何時宿つて、何ケ月目に分娩したか、また何と云ふ方が取上げて下さつたか分つて居る筈だ。サアそれを聞かして下さい』
 富彦、汗をタラタラ出し、真青な顔をして、
『ヤア大神と云つたのは実は眷属だ。……ケヽヽ眷属はモウ引取る。今度は本当の大神様がお憑りなさるから、御無礼を致してはならぬぞ。ウーム』
と言つた限り、パタリと倒れ、またもや手を振つて、姿勢を直し、
『今度こそは真正の神だ。頭が高い、下れ下れ下り居らう……』
豊彦『ヘン、またかいな、どうで碌な神ぢやあるまい。大方羽の無い天狗か、尾の無い狐なんかだらう。随分この暑いのに、そんな芸当を無報酬でやつて見せて下さるのも大抵ぢやない。あんたは慈悲心の深い人ぢや、その点だけはこの爺も大いに感謝する。今朝も二三人参つて来よつたが、お前のやうな野天狗憑がやつて来て、法螺を吹くの吹かんのつて、随分面白かつた。お前もウラナイ教の宣伝使なら、モ一つ修業をなされ。そのやうな事で衆生済度なぞとは、思ひも寄りませぬぞい』
富彦『大神に向つて無礼千万な、その方はこの神を嘲弄致すか。量見ならぬぞ』
豊彦『ハヽヽヽヽ、此方から量見ならぬ。サア一つ審神してやらう。……娘のお玉の妊娠の日は何時ぢや。何ケ月孕んで居つた、ハツキリ云うて見よ。十月位で出来たやうな普通の粗製濫造品とはチツと違ふのだ。特別神界から念に念を入れて、鍛錬に鍛錬を加へ調製された玉照姫だよ。サアサア当てて御覧なさい』
富彦『十二ケ月だ。間違ひなからう。このお玉は牛の綱を跨げたによつて、十二ケ月かかつたのぢや。どうぢや恐れ入つたか』
豊彦『アハヽヽヽ、これ富彦さんとやら、良い加減に、そんな芸当はお止めなさい。随分エライ汗だ』
富彦『大神は折角結構な事を言うて聞かしてやらうと思ひ、因縁の身魂に憑つて知らしてやれ共、この爺は我が強うて、少しも改心致さぬから、神は已むを得ず、帳を切つて引取るより仕方はないぞよ。後で後悔致さぬやうに気を付けて置くぞよ』
豊彦『ヘエヘエ有難うござんす。お狸さまか、お狐さまか知らぬが、かう見えても、この家は神様の立派なお宮だ。エー四足の這入る所ぢやない。穢らはしい、出て下さい、玉照姫様が大変御機嫌が悪い。サアサア帰なつしやい帰なつしやい』
と箒を把つて掃き立てる。富彦は手持無沙汰に、手拭で顔を拭いて居る。
寅若『オイ爺さま、あまりぢやないか。人を埃か何ぞのやうに、箒で掃き出すと云ふ法があるか。よい年して居つて、チツと位行儀作法を心得たらどうだい』
豊彦『エーエー神様のお宮の中へ、ノコノコ這入つて来る四足に、行儀も何も要るものかい、行儀と云ふものは人間同士、または人間か、より以上の神様に対してこそ必要だ。グヅグヅ吐すと、この箒が頭の上まで参るぞ』
 菊若は爺の振り上げた箒をクワツと掴み、
菊若『モシモシお爺さま、お静まり下さい。短気は損気だ。さうお前のやうに神懸をけなしては話が出来ぬ。マア静まつた静まつた』
豊彦『お前達に説教を聴く耳持たぬ。かう見えても、この豊彦は神様の御神徳を頂いて、何処の教にもつかず、独立独歩で、神様直接の御用を致して居るのだ。人を助けるのは神の道だから、お前さへ改心して、低うなつて来れば、どんな結構な事でも教へてやるが、そんな態度では一息の間も置く事は出来ぬ。サアサア帰つた帰つた』
お玉『お爺さま、あまり酷い事を言はぬがよろしい』
豊彦『コレコレお玉、お前は黙つて居なさい。またこんな奴に因縁を附けられては煩雑いから……』
寅若『ヤアお玉さま、話せる、さうなくては女ではない。ヤツパリ社交界の花は女だ。挨拶は時の氏神、そこを巧く斡旋の労を取つて下さい。お前さま所の床の置物を御覧なされ。私等が此処の門を潜るや否や、ようお出やす……と云つて、あの長い頭をうちつけて、福禄寿の像が叮嚀に挨拶をして居るぢやないか。あんな無心の福禄寿さまでも、吾々の御威勢には……いや神格には感応して、畏まつてござる。それにこのお爺さまはあまり剛情が過ぎる。私達が言つても、中々年寄りの片意地で諾かつしやるまいから……娘にかけたら目も鼻も無い爺さまに、お玉さまからトツクリと気の軟らぐやうに言つて下さい』
お玉『ホヽヽヽヽ』
豊彦『エー帰ねと言つたら帰なぬか』
と床が落ちるほど四股を踏む。三人は、
『エーお爺さま、またお目にかかります。今日は大変天候が悪いから……また日和を考へてお邪魔に参ります』
豊彦『エーグヅグヅ言はずに、早く帰んでくれ、玉照姫様の御機嫌が悪くなると困るから……オイ婆ア、塩持つて来い。そこらを一つ浄めないと、何だか四足の香がして仕方がないワ、アハヽヽヽ』
 三人は突出されるやうに怪訝な顔してこの家を立出で、スタスタと弥仙山の急坂にさしかかる。
菊若『オイ此処らで一つ、一服しやうぢやないか』
寅若『あまり怪体が悪くつて、黒姫さまに会はす顔がない。休む気にもならぬぢやないか。そこらの蝶々や糞蛙まで、俺達の顔を見て、馬鹿にして居やがるやうな心持がする。どつか、蛙や蝶の居らぬ所へ行つて一服しやうかい』
と胸突坂を後から追手にでも追ひかけられるやうな、慌てた姿で、三本桧の麓までやつて来た。
『アヽ此処に良い休息所がある。清水も湧いて居る。水でも飲んで、ゆつくりと第二の作戦計画に着手する事としやうかい』
 三人は樹下に涼風を入れながら、雑談に時を移した。
菊若『これほど名高くなつた豊彦と云ふ爺も、あの玉照姫と云ふ赤ん坊が出来て、それがイロイロの事を知らすと云ふのが呼びものになつて、毎日日日、桃李物言はずして小径をなすやうに、あちらこちらから、信者が集まるのだ。黒姫さまが毎朝起きて、行水をなさると東の天に当つて紫の雲が靉靆くから、何でも弥仙山の方面に違ひないから一遍偵察に行て来いと言はれ、この間、俺一人この山麓まで来て見ると、大変な人気だ。紫の雲の出所は、どうしても、あの茅屋に間違ひない。そして毎晩東の天に当つて大変な綺麗な星が輝き始めた。偉人の出現には、キツと天に明星が現はれると云ふ事だが、テツキリそれに間違ないと、直に立帰つて報告をした所、黒姫さまは……「マア待て、一週間水行をして、ハツキリと神勅を受ける」とおつしやつて、夜、丑の刻から起き出でて、皆の知らぬ間に、何百杯とも知れぬ水行を遊ばした結果、イヨイヨそれに間違ない。グツグツして居ると、三五教の奴に取られてしまふから、お前達早く外の者に秘密で、その子供を貰つて来い……との御仰せ、あんな茅屋の娘、二つ返事でウラナイ教に、熨斗を付けて献上するかと思ひきや、今日の鼻息、到底一通りや二通りでは、梃子に合はぬ。それに寅若の先生、最初からヘマな神憑りをやつて爺に睨まれ、第二線として現はれた富彦は、老爺の審神に睨まれ、ヨロヨロと受太刀になり……これはヤツパリ野天狗でございました……と出直した所は巧いものだが、今度また大神と、太う出やがつて、零敗を喰はされ、最早回復の見込みなく、終局の果てにや、箒で掃出された無態さ……こんな事を、怪我の端にでも、黒姫さまや外の連中に聞かれようものなら、馬鹿らしくつて、外も歩けやしない。何とか一つ智慧を絞り出して、会稽の恥を雪がねばなるまい。何ぞよい考へはなからうか』
寅若『別に方法手段もないが、先づ梅公式だなア。それが最後の手段だ』
富彦『梅公式をやり損なうと、滝板式になり、終局におつ放り出されにやならぬやうな事になると大変だ。此奴ア一つ、熟思熟考の余地は充分に存するぞ』
寅若『ナーニ、目的は手段を選ばずだ。善のためにするのだから、別に罪になると云ふ事もあるまい。一つ決行しやうぢやないか』
菊若『アヽ結構々々、結構毛だらけ、猫灰だらけだ。弥仙山の大神さまは、猫が使者だと云ふ事だ、何でも今度は猫を被つて、梅滝流をやらうぢやないか』
富彦『梅滝流とはソラ何だ』
菊若『その正中を行くのだ。普甲峠の梅公のやり口は、味方八人も居つたものだから、大変に都合が好かつた。船岡山の近所でやつた滝板の芝居は、何分役者が少いものだから、バレてしまつたのだよ。しかし吾々三人では、どうする事も出来ぬぢやないか、三人寄れば文珠の智慧と云つても、ほどよい考案が浮んで来ない。ハテ困つた事だなア』
寅若『噂に聞けば、明日はお玉が七十五日の忌明で、弥仙山へお参りするさうだ。どうぢや。吾々三人は一つ、体一面に日蔭葛でも被つて、お玉の参詣路を脅かし、グツと括つて猿轡を箝め、山伝ひに連れ帰り、さうして外の連中を爺の家へ差し向け、「お前さまの家は、大事のお玉さまを悪者のために拐かされたさうぢや。気の毒なが、何と吾々が力一杯骨を折つて探して来るから、その褒美に玉照姫さまを、三日でも、四日でもよいから、貸して下さらぬか」……と云つて、チヨロまかすより外に途は有るまい、どうだ賛成かなア』
『ヤアあまり名案でもないが、かうなれば仕方が無い。マアそれ位な事で辛抱しやうかい。しかし巧くいかうかな』
『何はともかく一遍都合よくいくやうに、お空の大神様へ参拝をして来う。今晩中三人が一生懸命に、木花姫様の御分霊の前で、祈つて祈つて祈り倒すのだ、さうすれば神さまだつて……終局にや五月蠅いから……エー仕方がない、一遍は諾いてやらう……とおつしやるに違ひない。さうでなくちや、どうしてウラナイ教へ帰る事が出来ようか。青彦さまや、紫姫さまに恥かしいぞ』
と云ひながら、山上目蒐けて進み行く。一夜は頂上の社前に夜を明かし、一生懸命に願望成就の祈願を凝らし居る。果して大神様は御聴許遊ばすであらうか。

(大正一一・四・二八 旧四・二 松村真澄録)



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