出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語18-3-91922/04如意宝珠巳 朝の一驚王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
魔窟ケ原
あらすじ
 浅公たちの八百長話を聞いた綾彦とお民は黒姫の前で、「ウラナイ教をやめる」と言い出す。黒姫に問い詰められた梅公はとっさに、「大江山の鬼に憑依されていた」とごまかし、二人を計略で連れ帰ったとは知らない黒姫も言葉を添えて綾彦とお民を翻意させた。梅公たちは、黒姫に、「谷川で禊をする」ように命じられる。梅公は道々、新しい計略を歌でもらす。
名称
浅公 綾彦 幾公 丑公* 梅公 お民 黒姫 鷹公 高山彦 辰公 鳶公 寅公
悪魔 悪霊 厳の霊 閻魔 お節 鬼 高姫 日の出神? 曲津 魔霊 文殊菩薩 竜宮の乙姫?
ウラナイ教 大江山 神霊注射 高城山 鎮魂 普甲峠 筆先
 
本文    文字数=16450

第九章 朝の一驚〔六三七〕

 晩秋の長き夜はいつしか明けて、朝霧籠むる東南の天に、太陽は霞みて低うかかり居る。高山彦は漸く起き上り、不便の地に似あはぬ贅沢三昧、朝風呂、丹前、長火鉢、入り日の影に当つたやうな細長き体に、長煙管を持つた黒姫と二人睦まじさうに、ニタニタと、昨夜の夢を思ひ出してか、悦に入つて居る。かかる処へ新参者の夫婦連、恭しく両手をつかへ、
綾彦『コレハコレハお二人様、お早うございます、昨夜はいかい御厄介になりまして、吾々夫婦は暖かく寝さして頂きました。どうぞ今日より、折角の思召ではございますが、吾々夫婦にお暇を下さいませ』
 黒姫、怪訝な顔にて、
『お前は昨夜来たばかりぢやないか、あれほど固い事を云つて居つて、一夜の間にさうグラグラと心をかへてどうするのだい。大方お民を高城山へ遣はすのが、夫婦共お気に入らぬのだらう、ヤアそれは若い夫婦として御無理もない、しかしながら此処が辛抱だ、前夜も云つたやうに、一つの苦労心配と云ふ事がなければ、人間は誠の花が咲きませぬぞや』
『重ね重ねの御教訓、誠に有難うございます、しかしながら吾々夫婦は一旦神様にお任せした以上は、仮令夫婦がこのまま生別れにならうとも、ソンナ事に執着心は持ちませぬ。しかしながら、夜前承れば皆様のお酒の上のお話に、八人の方が八百長をおやりなされて、私をウラナイ教に引き込む手段で、俄に芝居を仕組まれましたのですから、私のやうな馬鹿正直者は、到底あの方々と共に暮す事は出来ませぬから、どうぞお暇を下さいませ』
黒姫『何と妙な事をおつしやるぢやないか、誠正直一方のウラナイ教に、ソンナ八百長芝居があるものか、大方お前旅の疲れで、ソンナ夢でも見たのだらう』
綾彦『イエイエ決して夢ではございませぬ、夜前貴方様に御挨拶をして、寝さして貰はうと思ひ、廊下を通りますと、皆さまがお酒に酔ひ、面白さうなお話、聞くともなしに吾々夫婦の耳に雷の如くに響いたのは、夜前普甲峠の辛辣な計略、一伍一什の自慢話、私は腹が立つやら恐ろしいやら、一旦有難いと思うた信念も煙と消え、ただ口惜しさに二人は一睡もせず、夜の明けるのを待つて泣いて居りました。必ず夢ぢやございませぬ、どうぞお暇を下さいませ』
 黒姫不思議の顔をして、
『何とお前合点が行かぬ事をおつしやる。どうかして居るのぢやないかな、此処の若い者には、毎日噛みて含めるやうに誠の道が説き聞かしてある。鵜の毛で突いたほども嘘を云ふものはない、あまり正直で間が抜けて、当世に役に立たぬやうな代物ばかりぢや、ソンナ筈は断じてありませぬ、それや何かの幻でせう』
『イエイエ決して幻でも何でもございませぬ、現に夜前のお方が自慢話におつしやつたのをお民は確かに聞きました』
と聞くより黒姫は訝しがり、
『一寸待つて下さい、妙な事を云ひなさる、今査べて見ませう。これこれ浅公、幾公、梅公、寅公、辰公、鳶公、皆々此処へ、尋ねたい事がある、出て来なさい』
と稍慄ひ声で呶鳴り立てる。この声に一同八人はバラバラと現はれ来り、各自蛙踞ひになつて、
『今吾々を、お呼びになつたのは、何御用でございますか、ねつから間に合ひませず、偶に人を助けた位で沢山の御馳走を戴き、まだその上に何彼の恩命を下し給ふのは余り勿体なくて冥加に尽きます、何一つ御恩報じも致さず、誠に恥かしい次第でございます。ヤアお前は夜前の人、マアマアよかつたねエ、これと云ふのも全くウラナイ教の神様のお蔭だ、次には私達のお蔭だよ、この御恩は何時迄も忘れてはなりませぬぞえ』
 綾彦、煮え切らぬ返事、
『ヘエ』
お民『ヒン』
浅公『これこれお民さまとやら、その返事は何だ。痩馬か何ぞのやうにあげづらをしてヒンなぞと、命の恩人に向つて嘲弄するのかい、イヤ挑戦的態度を執るのだな』
お民『ヘン』
黒姫『お前達八人の者、夜前の話をもう一遍詳しうして下さらぬか』
 梅、肩を怒らし得意顔で、
『アヽ夜前の吾々の功名手柄話ですか、よう聞いて下さいました。ただ一回だけでは折角の神謀奇略、ではない辛苦艱難したことが、貴女のお心に十分徹底しないやうな心持がして物足りないと思つて居ました。それはそれは随分沢山な鬼の手下共』
と針小棒大にべらべらと喋り立てるを黒姫は、
『アヽそれは嘘ぢやあるまいなア』
『エヽ決して決して嘘と坊子の頭は生れてからいうた事がありませぬ、正真正銘ネツトプライスの物語ですよ』
『それでもお前、夜前酒を飲みて、種々の手段を廻らし、八百長をやつてこの方を無理に信仰させ、引張つて来た手柄話を交る交るやつて居たぢやないか、誠一つの神の教の道に居ながら、何と云ふ事をするのだい。綾彦夫婦が大変残念がつてこれから暇をくれと云うて居らつしやる所だ。何程云つて聞かしてもお前等は駄目だ、サア只今限り浅、幾外六人破門する。エヽ汚らはしい、ウラナイ教を破る者は外からでない、ウラナイ教から現はれるから気をつけよと神様がおつしやつた、何程要害堅固な針をもつて固めた丹波栗でも、中からはぢけ落ちるやうに、お前等はウラナイ教の爆裂弾ぢや、神様のお道の面汚し、アヽ汚らはしい、トツトと一時も早く帰つて下さい』
『それは何をおつしやいます、傘屋の丁稚ぢやないが、骨折つて小言を聞かされては梅公一同も一向算盤が合ひませぬ』
『それでも蛙は口からと云うて、現在お前の口から自白したぢやないか』
 梅公は空とぼけて、
『アヽあれですかい、夜前は沢山なお酒を頂いて気が緩みたものですから、其処へ大江山の悪魔の霊が襲うて来よつて、吾々八人の功名手柄を抹殺しやうと思ひ、私を初め皆にのり憑り、酒は私には余り呑まさず、悪霊が皆飲みてしまひ、遂には私等の口を藉りて反間苦肉の策をやりよつたのですよ、真実に悪霊と云ふものは油断のならぬものですなア、アハヽヽヽ。オイ浅、幾、寅、辰、鳶、鷹公、貴様も余程腹帯を締めぬと昨夜のやうに魔霊に襲はれ、鬼の容器になつてしまうぞよ』
辰公『偉さうに云ふない、貴様にも矢張鬼が憑いて居るのぢやないか』
梅公『それやさうだ。お互さまぢや、悪平等的に、吾々八人にすつかり憑依しよつたのだ、アヽ何だか気分が悪い、どうぞ高山彦さま、黒姫さま、一遍悪魔の入らぬやう、ウンと神霊注射の鎮魂をして下さいませな』
黒姫『オホヽヽヽ、アヽさうだつたか、大抵ソンナ事だと思うて居た。これから気をつけなさい、追て鎮魂して上げるから、谷川にでも行つて充分体を清めて来るのだよ』
梅公『オイ、大江山の鬼の住宅七軒の奴、サア洗濯だ。またもや鬼の来ぬまに洗濯婆サン婆サン』
と志やり散らしながら、尻引きからげ、細い岩戸を潜り谷川目蒐けて走り行く。後には高山彦、黒姫、綾彦、お民の四人。
黒姫『ヤア油断のならぬ悪霊ぢや、折角の綾彦夫婦が善の道に救はれようとなさる最中に、執拗なる鬼の霊がやつて来よつて引落しにかからうとする。高山さま、確りせないと、何時悪霊が襲来するやら分りませぬなア』
高山彦『ヤアさうだなア、これこれお二人のお方、心配なさるな、今お聞の通りだから決してウラナイ教にはソンナ悪いものは居りませぬ、安心なされ』
綾彦『悪霊と云ふものはソンナものですか、ヘエ油断がなりませぬなア』
黒姫『隅から隅まで、蜘蛛の巣を張つたやうに手配りをして居ますから、一寸も油断は出来ませぬよ、貴女は未だウラナイ教は初めてですから、霊の事を云つても分りますまいが、しばらく信神して見なさい、何もかもすつかり分つて来ます、さうしたらお前さまの疑も氷解するでせう』
お民『アヽ左様でございましたか、誠にお気を揉ましまして申訳がございませぬ、どうぞ宜敷お願ひ致します』
黒姫『アヽ、それで好い好い、奥へ往つて神様にこの解決がついたお礼を云つて来なさい』
 二人は叮嚀に頭を下げ、静々と神壇の間に進み行く。
 梅公外七人は黒姫の面部にさつと現はれた低気圧の襲来を、危機一髪の間にやつと許され、虎口を逃れた心地して谷川目蒐けて禊のために走り行く。梅公は道々、

『嗚呼恐ろしや恐ろしや  剣を渡る心地して
 あらぬ智慧をば絞り出し  反間苦肉の策を立て
 漸く目的成就して  意気揚々と立ち帰り
 黒姫さまの御前に  忠臣気取で報告し
 やつと解けた閻魔顔  福禄寿のやうなハズバンド
 高山彦の目の前で  手柄話を諄々と
 並べ立つれば黒姫も  相好崩して感歎し
 褒美の積りで甘酒を  どつさり飲ましてくれた故
 出会ふうた時に笠ぬげと  世の諺のそのままに
 前後を忘れて舌鼓  うつて廻つた酒の酔ひ
 副守か何か知らねども  功名心にかり出され
 迂闊と喋つた謀み事  天に口あり壁に耳
 いつの間にかは綾彦や  お民の奴に顛末を
 一切残らず聞き取られ  知らぬが仏、神心
 白河夜船のぐうぐうと  夢路を渡り起き上り
 互に顔を見合せて  旨くやつたな、ようやつた
 俺の知識はこの通り  文殊菩薩も丸跣
 これから信者を集めるは  これより外に手段なし
 これや好い事を覚えたと  心窃に誇りつつ
 肩肱怒らす折柄に  黒姫さまの高い声
 こいつアてつきり御褒美と  喜び勇み八人が
 西瓜頭を並ぶれば  電光石火雷の
 轟くやうな凄い声  胆玉取られ臍ぬかれ
 爪を取られて恥をかき  この難関を如何にして
 突破しくれむと首ひねる  折しも浮かぶ守護神
 法螺を副守のべらべらと  布留那の弁の黒姫を
 煙に捲いて大江山  鬼の悪霊の仕業よと
 大責任を転嫁する  早速の頓智、梅公が
 甘い理屈に欺かれ  閻魔の顔は忽ちに
 急転直下の地蔵顔  鬼と仏の入替はり
 やつと破門を助かつて  黒姫さまの命令で
 憑依もしない悪霊を  放り出すために谷川で
 禊をせいと教へられ  胸撫で下ろし皺延ばし
 国家興亡はまだ愚か  危急存亡の身の始末
 川に流した心地して  漸く此処にやつて来た
 あゝ面白い面白い  孫呉に勝る兵法を
 際限もなく編み出し  虱殺しに諸人を
 一人も残さずウラナイの  教の道に引き入れて
 鼻高姫や黒姫の  笑壺に入るが吾々の
 上分別では在るまいか  知識の浅い浅公よ
 意気地の弱い幾公よ  うめい智慧出す梅公の
 手足の爪でも頂戴し  煎じて飲めば偉くなる
 寅公、辰公、鳶公よ  これから俺の云ふ事を
 聞いて出世をするがよい  黒姫さまの大将が
 口を極めてべらべらと  お節を説いてウラナイの
 道に入れよと全力を  尽して見てもあの通り
 弁論よりも実行だ  直接行動に限るぞや
 さは然りながら皆の者  夢にもコンナ計略を
 高山さまや黒姫に  必ず喋舌つちやならないぞ
 もしも分つたその時は  皆、各々の鼻の下
 大旱魃の大恐慌  蛙は口から、うつかりと
 酒を飲む時や心得よ  心一つの遣ひよで
 賢も見えるまた阿呆に  見えると思へば口だけは
 どうぞ慎み下されよ  賛成のお方は手をあげて
 拍手喝采しておくれ  あゝ惟神々々
 御霊幸倍坐しませよ  月は盈つとも虧くるとも
 朝日は照るとも曇るとも  仮令大地は沈むとも
 黒姫さまが怒るとも  金輪奈落この秘密
 云うてはならぬぞお互の  身の一大事と心得て
 必ず口外するでない  秘密はどこまで秘密だよ
 神の奥には奥がある  そのまた奥には奥がある
 奥の分らぬ梅公の  智慧の奥山踏み分けて
 確と梅公に従いて来い  こいでこいでと松世はこいで
 末法の世が来て門に立つ  一つ違へば俺達も
 門に立たねば、ならぬとこ  持つて生れた智慧の徳
 大きな顔して黒姫に  賞めて貰うて傲然と
 ウラナイ教の宣伝使  あゝ面白い面白い
 ただ何事も人の世は  曲津に見直し聞直し
 身の過ちは都合好く  宣り直すのが智慧の徳
 あゝ惟神々々  叶はぬ時があつたなら
 頭を下げて梅公に  ドンナ事でも聞くがよい
 聞くは当座の恥なれど  聞かずに知つた顔をして
 失敗したら末代の  それこそ恥となるほどに
 阿呆正直今迄の  態度すつくり立替へて
 権謀、術策、戦略に  心の底から立直せ
 あゝ惟神々々  何故に是程よい智慧が
 梅公だけは出るであろ  あゝその筈ぢやその筈ぢや
 厳の霊のお筆先  一度に開く梅の花
 梅で開いて常磐の松で  世界治める神の道
 見違ひするなよ皆の奴  黒姫さまは偉くとも
 高山さまを貰うてから  何とはなしにぼつとした
 これから俺が全軍の  参謀総長であるほどに
 参謀本部の梅公の  指揮命令に従つて
 事を執るなら毛の条の  横幅ほども違算なし
 余程偉い守護神  俺に守護をしてござる
 必ず俺が云ふでない  日の出神や竜宮の
 乙姫さまのお脇立  中でも一層偉い奴
 吾が神勅を軽蔑し  必ずぬかりを取らぬやう
 皆の奴等に気をつける  あゝ惟神々々
 叶はぬ時の神頼み  アハヽヽ ハツハア アハヽヽヽ』

一同『アハヽヽヽ、随分偉くメートルを上げたものだなア』
梅公『何をごてごて吐くのだ、貴様等の命の親だ、お飯の種だ、サアサア黒姫さまがお待ち兼だ。御禊がすみたら帰らう』
 一同はバラバラと元の地底の岩窟に向つて帰り行く。

(大正一一・四・二六 旧三・三〇 加藤明子録)



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