出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語18-2-61922/04如意宝珠巳 真か偽か王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
剣尖山麓の珍の聖地
あらすじ
 紫姫一行は剣尖山麓の珍の聖地へ向う。紫姫は半日お宮にこもる。
 若彦たちが産釜、産盥へ修行に行くと、黒姫が水垢離をしている。黒姫は鹿公や馬公をしつこくウラナイ教へ誘う。若彦はなぜか黒姫に「三五教をやめてウラナイ教に戻る」と言う。紫姫もやってきて、黒姫に「話を聞かせてくれる」よう頼む。一行は魔窟ケ原の黒姫の隠れ家へ向う。
名称
馬公 お節 鹿公 紫姫 若彦
悪神 悪魔 青彦! 厳の霊 鬼 大蛇 黒姫 木の花咲耶姫 皇大神 日の出神? 副守護神 変性男子 変性女子 曲津見 竜宮の乙姫? 竜宮の乙姫の生宮
天の岩戸 一厘の経綸 宇宙 産釜 産盥 ウラナイ教 大江山 鬼の岩窟 河守 神言 剣尖山 言霊 神界 底の国 立替へ 立直し 陀羅尼 西坂峠 根の国 比沼の真名井山 船岡山 魔窟ケ原 弥仙山 三千年 日本魂 四尾山 桶伏山
 
本文    文字数=15506

第六章 真か偽か〔六三四〕

 紫姫は紫の  姿を装ふ弥仙山
 四尾の山や桶伏の  珍の聖地を伏し拝み
 西坂峠を後に見て  若葉もそよぐ若彦や
 心の馬公鹿公を  伴ひ進む春の道
 山追々と迫り来る  心も細き谷道を
 伝ひ伝ひて河守の  里を左手に打ち眺め
 船岡山を右に見て  日もやうやうに酉の刻
 暗の帳はおろされて  一行ゆくてに迷ひつつ
 道のかたへの小やけき  神の祠に立寄りて
 息を休むる折柄に  俄に女の叫び声
 紫姫は立ち上り  耳を傾け聞き終り
 若彦、馬、鹿三人を  声する方に遣はして
 様子探らせ調ぶれば  思ひがけなき愛娘
 闇の林に縛られて  息絶え絶えと苦しみの
 中を助けて三人が  忽ち登る月影に
 心照らして帰り来る  何処の方と訪へば
 若き女の物語  驚く若彦一同は
 互に労りかばいつつ  月の光を力とし
 四辺に注意をなしながら  剣尖山の麓なる
 珍の聖地に立向ふ。  

 三男二女の一隊は、月もる山道を漸くにして皇大神を斎き祀れる大宮の前に無事参向する事を得たり。水も子の刻丑の刻と夜は段々と更け渡り、淙々たる谷川の水の音を圧して聞え来る祈りの声、凄味を帯びて許々多久の、鬼や大蛇や曲津見の、霊寄り来む言霊の濁り、清き流れの谷川にふさはしからぬ配合なり。
紫姫『皆様、妾は神様のお告により、半日ばかりこのお宮の中で御神勅を承はらねばなりませぬ、どうぞその間、産釜、産盥の河原の谷水に御禊をなし、神言を奏上して待つて居て下さいませ』
若彦『委細承知仕りました。サアサア馬公、鹿公、お節殿、参りませう』
と神前の礼拝を終り天の岩戸の下方、紫姫が指定の場所に進み往く。夜はほのぼのと明けかかる。谷の向岸を見れば一人の女、二人の従者らしき者と共に産釜、産盥の水を杓にて汲み上げ、頭上より浴び、一生懸命皺枯れた声を絞つてウラナイ教の宣伝歌を唱へ居る。四人はつかつかと進み寄るを、婆アは頻りに四人の来たのも知らずに水垢離を取り居たり。
馬公『モシモシ何処の婆アさまか知らぬが、この聖地へやつて来て、勿体ない神様の御手洗を無雑作に頭から被り、怪体な歌を謡うて何をして居るのだ、些と心得なさい』
 婆、水を被りながら、
『何処の方か知らぬが、神様のため世界のために誠一心を立てぬく、日本魂の生粋の真正の水晶魂の守護神さまの命令によつて、この結構なお水で身魂を清め、結構な歌を宇宙の神々に宣べて居るのに、お前は何を云ふのだい、結構な言霊がお前には聞えぬのかい』
馬公『一向トンと聞えませぬ哩、何だかその言霊を聞くと悪魔が寄つて来るやうだ』
鹿公『オイ馬公、野暮の事を云ふない、牛の爪ぢやないが先から分つて居るぢやないか。悪魔の大将が、悪魔の乾児を集めやうと思つて全力を尽し、車輪の活動をやつてござるのだ、人の商売を妨害するものでないぞ』
馬公『別に妨害はしようとは思はぬが、アンナ声出しやがると何だか癪に触つて、反吐が出さうになつて来た。オイ婆アさま、もう好い加減にやめたらどうだい。この産盥はお前一人の専有物ぢやないぞ、好い加減に退却したらどうだ』
婆『何処の若い衆か知らぬが老人が世界のため道のため、命がけで修業をして居るのだ。私の言霊が偉いお気に触ると見えるが、それは無理もない、お前に憑いて居る悪魔が恐れて居るのだ、其処を辛抱してしばらく私の言霊を謹聴しなされ、さうして修業の仕方も私のやり方を手本として頭の先から足の裏まで、一分一厘の垢もない処まで落しなされ、さうしたら結構な結構なウラナイ教の神様のお道へ入信を許して上げる。今時の若い者は何でも彼でも新しがつて昔の元の根本の神様の因縁や性来を知らず、誠の事を云うてやれば馬鹿にしてホクソ笑ひをする者ばかりぢや、十万億土の根の国、底の国へと落されて、万劫末代上られぬやうな目に遇ふものばかりぢやから、それが可憐相で目を開けて見て居れぬから、世界の人民の身魂を立替立直し、大先祖の因縁から身魂の罪障の事から、何もかも説いて聞かして助けてやる結構のお道ぢやぞよ。お前も縁があればこそ、コンナ結構な私の行を見せて貰うたのぢや。ちと気分が悪うても辛抱して聞きなされ』
馬公『それは大きに御親切に有難う、私も元は都で生れたものだが、御主人の娘さまと比沼の真名井山へ参拝しようと思うて行く途中で、大江山の鬼の乾児に欺され、岩窟の中に放り込まれ、エライ目に遇うた。そこへ偉い人が出て来て私を助けて下さつたので、何でもこの辺に結構な神様がござると聞いてお礼詣りに来たのだよ』
 婆は、一生懸命に水を被りながら此方も向かず声を当に、
『さうだらう、さうだらう、真名井山に詣つてお蔭どころか、鬼の岩窟へ釣り込まれたのだな。真名井山と云ふのは、それや云ひ損ひぢや、あれは魔が井さまと云うて神様の擬ひぢや、変性女子の三つの御霊と云うて、どてらい悪神が変性男子の日本魂の根本の生粋の神様の真似をしよつて、善に見せて悪を働いとるのぢや、しばらく待ちなさい、私が結構の事を教へて上げる、三五教とやら云ふ教は三五の月ぢやと云うて居るが、三五の月なら満月ぢや、片割れ月の変性女子だけの教が何になるものか、雲に隠れて此処に半分、誠の経綸が聞きたければ私についてござれ、三千年の長い苦労艱難の一厘の経綸を、信仰次第によつて聞かして上げぬ事もない、マア其辺にヘタつて此方の修業がすむまで待つて居なさい』
とまたもや婆は頻りに水を被る。二人の男も影の形に従ふやうに、水を汲み上げてはザブザブと黒い体に浴びせて居る。婆は漸く水行を終り、頭の先から足の裏まですつくり水気を拭ひ取り、念入りにチヤンと風を整へ、紋付羽織を着用に及び、二人の男を伴ひ、谷川の足のかかる石を、蛇が蛙を狙ふやうな眼つきで、ポイポイポイと兎渡りに渡りつく。お節は腰を折り両手をもみながら、
『黒姫の先生様、久しうお目にかかりませぬ、お健康でお目出度う』
黒姫『ヤアお前はオヽお節ぢやつたか、何と云つてもかと云うても、ひつ括つてでも捉へてでも、聞かさにや置かぬは女の一心、大慈大悲の心をもつて助けてやらうと、滝、板の二人に跡を追はせたが、何処をお前は迂路ついとつたのだエ、サアサア私についてござれ。ヤアお前は青彦ぢやないか、三五教に呆けてまだ目が醒めぬか』
若彦『ハイ有難う、お蔭ではつきり目が醒めました』
黒姫『さうだらう、若い者はよう気の変るもので、彼方へ迂路々々、此方へ迂路々々して仕方の無いものぢや、お前を助けてやりたいと思うて、どれだけ骨を折つたか知れたものぢやない。サア悠くりと私の所までお節と一緒に出て来なされ、三五教も、一寸尤もらしい事を云ひよるが、終には箔が剥げて何程金太郎のお前でも愛想が尽きたらう、肝腎要の厳の霊の本家を蔑にして、新米の出来損ひのやうな三五教に呆けて見た処で、飯に骨があつて喉に通りやせまいがな。一杯や二杯は珍らしいので喉にも触らないで鵜呑みにするが、三杯目位からは、ニチヤづいて舌の先にザラザラ触り、それを無理に呑み込めば腹の具合が悪くなつて下痢を催し、終の果にはソレ般若波羅蜜多と云うて腹を撫でたり、尻の具合まで悪くして雪隠へお千度を踏み、オンアボキヤ、ビルシヤナブツ、マカモダラニブツ、ヂンラバ、ハラバリタヤと、陀羅尼を尻が称へるやうになつてしまふ、さうぢやから食つてみにや分らぬのだ。加減の好いウラナイ教の御飯を長らく食べて居つて、栄耀に剰つて餅の皮を剥ぎ、まだ甘い事があるかと思うて、三五教に珍しい食物があるかと這入つて見たところ、味もしやしやりも有りやせまいがな、三五教ぢやなく、味無い教ぢや、アヽよい修業をしてござつた。よもや後戻りはしやしまいなア』
若彦『ヘイ、どうしてどうして三五教ナンか信じますものか、これから貴方の頤使に従つて、犬馬の労をも惜しまぬ覚悟でございます』
黒姫『それは結構ぢや、お節、あの頑固な爺や婆アが、国替したので悲しいやら嬉しいやら、好な青彦と気楽に添はれるやうになつたのも、全くウラナイ教のお蔭ぢやぞエ、あのマア何と好う揃うた若夫婦ぢやなア』
と打つて変つて機嫌を直し、青彦の背中をポンと叩いて笑ふ。
馬公『お安くない所を拝見さして貰ひましてイヤもう羨望万望の次第でございます哩』
鹿公『何と妙ぢやないか、此処には産釜、産盥と云うて眼鏡のやうに夫婦の水溜りが綺麗に湧いて居る、河を隔ててお節サンに若彦、オツトドツコイ青彦さま、何と好い配合だ、俺等も早く誰人かの媒妁で配偶したいものだ、ナア馬公………』
黒姫『お前は初めて見た方ぢやが、青彦の弟子ぢやな、さうして名は何と云ふのぢや、最前から聞いて居れば四足のやうな名を呼びてござるが、本当の名で聞かして下さい、大方副守護神の名だらう、一寸見たところでは馬鹿らしいお顔ぢや、何程立派な女房が欲しいと云うても、そのスタイルでは駄目ぢやなア、四足の守護神をこれからウラナイ教で追つ放り出して、結構な竜宮の乙姫様の御眷属を守護神に入れ替て上げよう、どうぢや嬉しいか、恥かしさうに男だてら俯むいて、気の弱い事だ。しかし其処が良い所ぢや、優しいものぢや、人間も恥かしい事を忘れては駄目ぢや、サアサア四人とも私の処へお出なさい。この二人の男も一人は弥仙山の、ではない弥仙山の木花咲耶姫の神様が好きと云つて大変に信仰をして居つたが、モウ一つ偉い日の出神様、竜宮の乙姫様のある事を悟つて、かうして一生懸命に信神をして居るのぢや』
青彦『アヽさうですか、それは熱心な事ですなア』
馬公『お婆アさま、一寸待つて下さい、私には一人連がございます』
黒姫『極つたこつちや、お前の連は鹿ぢやないか』
馬公『イヤイヤま一人、元は私の御主人であつた紫姫と云ふ結構なお方が居られます』
黒姫『その方は何処に居られるのだ、早う呼びて来なさい』
馬公『三五教の宣伝使に、ついこの間からなられまして、今日初めて大神様へ御参拝なされました。今お宮で御祈念をして居られます』
黒姫『アーさうかな、コレコレ青彦、お前は改心をしてウラナイ教に戻つた土産に、その紫姫とやらを帰順させて来なさい、三五教へもしばらく這入つて居つたから、長所もあるけれど、短所も沢山知つて居るだらう、そのお前が三五教に愛想を尽かした経歴でも説いて聞かして、その紫姫を早く連れて来なさい』
青彦『確に請合つて帰順さして来ます、どうぞ私達を元の如くお使ひ下さいませぬか』
黒姫『使うて上げるとも、ヤア私が使ふのではない、竜宮の乙姫様がお使ひ遊ばすのだ』
 かかる所へ静々とやつて来たのは紫姫なり。
紫姫『若彦さま、馬公、鹿公、エローお待たせ致しました。サアサア下向致しませう』
 一同は、
『ハイ』
と、どことも無く躊躇気味の生返事をして居る。
黒姫『ヤアお前が紫姫と云ふのか、三五教の宣伝使と云ふ事ぢやが、神界のために御苦労様でございます、どうぞ精々、世界のために活動して下さい』
 紫姫、嬉しさうな顔つきで、
『ハア貴方は竜宮の乙姫様の生宮、好い所でお目にかかりました。妾は三五教の宣伝使になりましてから、まだ日も浅うございますので、何も存じませぬ、どうぞ老練な貴女様、よろしく御教授を願ひます』
黒姫『アヽよろしいよろしい、三五教でも結構だ、何れ私の話を聞いたらきつと兜を脱いでウラナイ教にならねばならぬ。発根の合点のゆくまで、お前は矢張三五教の宣伝使の肩書をもつて居なさるが宜敷からう、無理にウラナイ教に入つて下さいとは申しませぬ、神が開かにや開けぬぞよ、無理に引張には行つて下さるなと大神様がおつしやつてござる、心から発根の改心でなければお蔭はないから』
紫姫『一寸お見受け申しても、立派な貴女の神格、一目見れば貴女の奉じたまふお道は優れて居ることは愚かな妾にも観測が出来ます。何卒宜敷く御指導を願ひます』
黒姫『ヤア何と賢明な淑女ぢやなア、コンナ物の好う分る方がどうして三五教のやうな教に入つたのだらう、世の中にはコンナ人がちよいちよい隠れて居るから、何処迄も探し求めて、誠の人を集めねばならぬ。誠の者ばかり引き寄せて大望な経綸を成就致させるぞよとは、大神様のお言葉、アヽ恐れ入りました。変性男子の霊様、真実の根本の変性女子の霊様、サアサア皆様、神様にお礼を申しませう』
と黒姫は意気揚々として祝詞を奏上し、得意の色を満面に浮べ、鼻をぴこつかせ、肩を揺り、歩み振も常とは変つて、いそいそと崎嶇たる山道を先に立ち、魔窟ケ原の隠家さして一行八人進み行く。

(大正一一・四・二五 旧三・二九 加藤明子録)



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