出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語17-2-91922/04如意宝珠辰 大逆転王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
真名井ケ獄の山道
あらすじ
 平助、お節、お楢は比沼の真名井の参詣から戻ったあと、平助が水を汲もうとして、庭の真中で倒れ、それがもとで帰幽してしまう。
 それから、お節も体が弱ってゆく。お楢は、真名井ケ原へ跣参りに出かけるが、途中で黒姫一行に会い、説得される。そして、真名井ケ原へ行くのはやめて、黒姫を家に連れて帰る。
名称
お節 お楢 清子 黒姫 照子 平助
悪神 青彦 生神 艮の金神 素盞鳴尊 天地の神 豊国姫 分霊 瑞の霊
ウラナイ教 現界 極楽 神界 丹波村 比治山峠 比沼の真名井 真名井ケ原 瑞の宝座 冥土
 
本文    文字数=13330

第九章 大逆転〔六二〇〕

 比沼の真名井ケ原に現はれ給ふ豊国姫の瑞の宝座に詣でたる平助親子三人は、珍の聖地を踏みしめて心も勇み、意気揚々と帰り来る。雪積む道を苦にもせず、杖を曳きつつ漸う荒屋の門口に着きにけり。
平助『お蔭で無事に下向が出来た。サアサアお楢、早うお湯を沸かしてくれ、足でも洗つて悠くり休まうぢやないか』
お節『イエイエ、お爺さま、妾が湯を沸かします。お婆アさま、どうぞお休み下さいませ』
お楢『イヤイヤ、お前は永らく彼のやうな暗い穴の中に閉ぢ籠められて居つたのだから、火を焚いて目が悪くなるといかぬ、この婆が焚きますから、サアサア親爺どの、水を汲みて下され』
お節『お爺さま、妾が水を汲みます、どうぞお休み下さい』
平助『イヤイヤお前は身体が弱つてる、この爺が汲みてやるから湯が沸くまで、マアマアゆつくりして居るがよい』
 爺は撥釣瓶を覚束なげに何回も右左にブリンブリンと振り廻し漸う半分ばかり汲み上げ、汲み上げては手桶に移しまた汲み上げては手桶に移し、
『サアサアお楢、水が汲めた、早う沸かしてくれ、アーア年が寄ると水も碌に汲めはせないワ』
お楢『老ては子に従へと云ふ事がある、何でお節に汲ましなさらぬのぢや、それだからお前は何時も我が強いと言ふのぢや、もし腰の骨でも折つたらどうなさる、お前の難儀ばかりぢや無い、婆もお節も総体の難儀ぢやないか』
平助『エー八釜しう云ふない、何程年が寄つても水位は提げえでかい』
と手桶に一杯盛つた水を、ヨロヨロと提げながら、庭の滑石に滑つてスツテンドウと仰向にひつくり覆り、
『アイタヽ、ウンウン』
と呻つたきり庭の真中に打つ倒れける。お楢、お節は驚き、気も狂乱し、爺の頭部足部に走り寄り、
お楢『お爺さま、オーイオーイ、気をつけなさいのう』
 お節も、
『お爺さまお爺さま』
と泣き猛る。
お楢『アーア、どうしても此奴はいかぬ、サアサアお節、もうこうなつては神様をお願するより仕方がない、お前は三五教とやらの歌を知つてるさうぢや、どうぞ早く歌つて爺さまの息を吹き返して下され』
お節『ハイハイ、承知致しました、お婆さま早くお爺さまに気を注けて下さい、一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、百、千、万』
と三四回繰返せば、平助は漸く呼吸を吹き返し、
『アーア、えらい事ぢやつた、天は青く山も野も緑の色を帯び、種々の美しい花は処狭きまで咲き匂ひ、何とも云へぬ美しい大鳥小鳥は涼しい声を出して、常世の春を歌ひ、其辺処一面の花莚、何とも云へぬ綺麗な綺麗な田圃道を進み行くと、向ふの方に何とも云へぬ立派な三重の塔が見えた。その塔は上から下まで黄金作り、それに日輪様がキラキラと輝いて何とも云へぬ爽快な思ひに充され、一時も早く其処へ行きたいやうな気がして杖を力に一生懸命に駆出すと、遠い遠い後の山より幽に聞ゆるお楢の声、続いて可愛らしいお節の声がフツと耳に這入つたので、アヽ折角コンナ綺麗な処に来て居るのに何故馬鹿娘が俺を呼び止めるのか、アヽ情ない奴ぢや、しかしながら久し振りで会うた娘、何時もならば頑張つて呼び止めた位に後戻りする平助ぢやないが、あまり娘が可愛い声で悲し相に呼ぶものだから、フツと立ち止まり聞いて居れば、誰だか知らぬが俺の年を一つ二つ三と数へ出し、終には百千万と呼びて居る。アヽ俺は見慣れぬ結構な処へ来て居るが、これはヒヨツとしたら神界を旅行してゐるのではあるまいか、まだまだ七十や、そこいらで神界へ来るのぢやない、百千万の年を現界で苦労せなくてはコンナ結構な処へは来られぬのぢやと思ふ刹那に気がつけば、水だらけの庭に打つ倒れて居つたのか、アヽ情ない情ない、コンナ事なら後戻りをせなかつた方が良かつたに、また娑婆で一息苦労をせにやならぬかいな』
お楢『コレコレ親爺どの、それやお前何を云ふのだい、二世も三世も先の世かけても誓うた夫婦の仲、この婆一人を娑婆に残して置いて、お前ばつかり極楽へ行つて済むのかいなア』
平助『アヽさうだつたな、あまり結構な処でお前の事は何時の間にやら念頭を去つて居たよ、しかしながら目をまはして夢を見て居つたのだ、夢物語を捉へてさう真剣に怒つて貰うては困るぢや無いか、ア、お節か、どうぞ二人寄つて俺の身体を介抱して寝床を敷いて休ましてくれ、何だか腰の具合が変だから』
 お楢、お節は涙ながら寝床を拵へ足の掃除もそこそこに平助を抱へて床に休ませたるが、それより平助は発熱し毎日日にち囈言を云ひ半月ばかり経て遂に帰幽したりける。お楢、お節は死骸に取り着き号泣し漸く野辺の送りも済ませその後二人は日課のやうに朝昼晩と三回常磐木の枝を折つては供へ水を持ち搬びて亡き人の霊を慰めて居たり。お楢婆アは爺に先立たれ、娘のお節を力に面白からぬ月日を送り居たりけり。
 しかるにお節は平助の帰幽した頃より身体益々痩衰へまたもや床にべつたり着き囈言さへ言ふやうになりければ、婆は堪まり兼ね一生懸命に真名井ケ原に跣参詣を初め彼の比治山峠を登りつめると例の黒姫が白壁のやうに皺苦茶顔をコテコテ塗り立て花を欺く妙齢の照子、清子の二人と共に前方に立ち塞がり、
黒姫『これこれ、お婆さま、お前はこの間此処を通つた親子三人連れの婆さまぢやないか。またしてもまたしても素盞嗚尊の悪神の教を迷信して真名井山へ詣るのだな』
お楢『ハイハイ左様でございます、力と頼む親爺どのは神様に詣つて帰るが早いか庭で打ち倒けて、それが原因となり夜昼苦しみた揚句、到頭あの世の人となつてしまひました、オーン、オンオン』
と泣き崩れる。黒姫はニヤリと笑ひ、
『さうぢやろさうぢやろ、アンナ処へ俺の親切を無にして詣るものだから、瑞の霊の悪神に大切な生命をとられてしまうたのぢや。ようまアお前胸に手を当てて考へて見なさい、神様へ詣るのは倒けて死ぬのが目的ぢやあるまい、千年も万年も長生して孫から曾孫、玄孫まで生みて、百年も二百年も長生出来るやうに詣るのぢやないか、それに何の事ぢや、神様に詣つて帰るなりウンと、畳の上ならまだしもだが庭の真ン中に糞蛙を打つ付けたやうにフン伸びて、おまけに水まで被つて寂滅するやうな信心が何になるかいな、それぢやから彼れほど俺が親切に止めたのぢや、土台お前の親爺は屁のやうな名でも仲々我が強いから罰は覿面ぢや。愚図々々して居るとお前の娘まで生命をとられ、終にはお前も死ンでしまふぞや、メソメソと何程泣いたつて後の後悔先に立たずぢや、エーもう死ンだ爺は仕方が無いとして、お前だけなりと長生するやうに綺麗薩張と改心して、三五教の神を河へでも流し、結構な結構なウラナイ教の誠の艮の金神様をお祭りなされ、何時迄も頑張つて居るとド偉い事が出来ますぜ、大方お前の娘も青い顔して居つたが、今頃は三つ児が痺疳を病みたやうにヒーヒー云うて朝から晩まで、ひしつて居るだらう』
お楢『ハイハイ仰しやる通り爺さまと云ひ、大切の孫娘は何だか知らぬが日に日に身体は痩る、日向に氷が溶けるやうに息の音まで細つて行きます。私も親爺どのに先立たれ、力と思ふ孫娘は何時死ぬやら分らぬやうな大病に罹り、その上耳は遠くなり腰は曲り、足は碌に動きませぬ。アヽコンナ事なら親爺どのと一緒に死ンだがましぢやつたと、昨夕も一人そつと墓へ参り「親爺どの、どうぞ私も早う呼びに来て下さい、浮世が嫌になつた、お前と一緒にあの世で暮したいから」と一生懸命に頼みて居りましたら、死ンでも正念があると見えまして、親爺の姿が墓の中からポツと現はれ「お前は女房のお楢か、よう云うてくれた、ソンナラ俺がこれから冥途へ連れて行つてやらう」と嫌らしい顔して云ひました。私も俄に死ぬのが嫌になり「今度の今度のその今度、十年二十年三十年、百年経つたその上に迎ひに来て下され」と吃驚して倒けつ転びつ吾家へ帰つて見れば、娘のお節が何だか知らぬが青彦々々と夢中になつて嫌らしい声を出して居ります。親爺どのの墓では青い火に蒼い面を見せられ生命からがら逃げて来れば、一人の娘は熱に浮かされて青彦々々と夢中になつて呻いて居る、どうしてこれが堪りませうかいな、アーン、アンアン、ウーン、ウンウン』
と泣き崩れ居る。
黒姫『何、お前の娘のお節が青彦々々と呼びて居るか、それは偉いものぢや、お前は俺の言ふ事を聞いてウラナイ教になりなさい、そしたら娘の病気は千に一も助かるかも知れませぬよ、お前も死にたい死にたいと云つても、サア今となれば矢張死ぬのが嫌だらう、千年も万年も長生の出来るウラナイ教の神様を信心しなさい、これから俺がお前の宅へ行つて、三五教の神様が祭つてあれば放り出し、ウラナイ教の大神様を祭つて上げよう』
お楢『イエイエ、まだ三五教の神様は祭つてございませぬ、娘のお節が助けられたと云ふので信心をして居るのでございます、恰度幸ひお前さまが来て祭つて下されば娘の病気は癒るだらうし、俺も長生が出来ませうから、一時も早く頼みますわいな、ウン、ウン、ウン(泣声)』
黒姫『よしよし祭つては上げるが、さう軽々しう結構な神様だから、荷物を持ち運ぶやうにはいけませぬ、マアお節どのにも篤り云ひ聞かし、三五教を思ひ断らしたその上で祭つて上げやうかい、サアサこれより早く比沼の真名井の瑞の宝座とやらを拝みて来なさい、さうしてまた帰つて庭に大の字になつて……オホヽヽヽ』
お楢『イエイエどうしてどうして、貴女のお話を聞いた上は誰が真名井等へ詣りませうか、あの時にも俺はお前さまの話を聞いて耳を傾け改心しかけて居つたのだが、昔気質の親爺どのなり娘のお節が聞かぬものだから仕方なしに詣りました、あの時貴女の仰しやる通りにして置けばよかつたのに、親爺どのも取り返しのならぬ下手をしたものぢやわいな、アーン、アンアン』
黒姫『サア婆さま、決心がきまつたら仕方がない、俺が特別待遇で出張してあげよう、お前は余程型の良いお方ぢや、俺に直接来て貰うと云ふやうな事は滅多に無いぞえ』
お楢『ハイハイ、お勿体ない、有難うございます、お蔭様でお節の病気も本復致しませう、何分よろしくお頼み申します』
黒姫『アーア、生神様になると忙しいものだ、たつた一人の娘でも皆天地の神の分霊に違ひはない、一視同仁、至仁至愛の心を出して助けて上げようかい、サアサア照さま、清さま、お前も一緒に跟いて来るのだよ、これこれお楢さま、嬉しいかい』
お楢『ハイハイ、有難うございます、ソンナラこれから私が御案内致しませう』
黒姫『よしよし行つてあげよう、お前は余つ程幸福者ぢや、もうこれで真名井山を思ひ切つたぢやらうな』
お楢『ヘイヘイ、誰が真名井山なぞへ参りますものか』
と先に立つて行く。黒姫はしすましたりと北叟笑みながら二人の娘を伴ひ丹波村の婆が伏屋を指して意気揚々と進み行く。

(大正一一・四・二二 旧三・二六 北村隆光録)



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