出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=17&HEN=2&SYOU=8&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語17-2-81922/04如意宝珠辰 蚯蚓の囁王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
魔窟ケ原の岩窟
あらすじ
 黒姫と高山彦は真名井ケ原の瑞の宝座を蹂躙するという計画を立てる。出陣の前に、夏彦、常彦、岩高、菊若は、高山彦一辺倒の黒姫に対して不満をもらしている。それを黒姫が耳ざとく聞きつけ、「今回だけは許す」と言う。
 黒姫の軍は真名井ケ原への攻撃したが、加米彦と青彦の言霊に敗れる。負けたのは、味方の軍の士気が落ちていたのもある。黒姫は青彦をウラナイ教に戻そうと、お節を使うことを画策する。
名称
岩高 菊若 黒姫 高山彦 常彦 富彦 虎若 夏彦
青彦 蠑リ別 お節 加米彦 素盞鳴尊 高姫 日の出神の生宮 変性男子 変性女子 魔我彦
ウラナイ教 大八州の国 言霊 神界 神政 フサの国 真名井ケ獄 真名井ケ原 瑞の宝座
 
本文    文字数=14400

第八章 蚯蚓の囁〔六一九〕

 黒姫、高山彦の発議により、愈真名井ケ原の瑞の宝座を蹂躙し、あはよくば占領せむとの計画は定まつた。黒姫夫婦は婚礼の後片付に忙殺を極めて居る。三軍の将と定つた夏彦、常彦、岩高、菊若の四人は入口の間に胡坐をかき、出発に先だち種々の不平談に花を咲かし居たりける。
常彦『人間と云ふものは身勝手のものぢやないか、石部金吉金兜押しても突いてもこの信仰は動かぬ、神政成就するまでは男のやうなものは傍へも寄せぬ、三十珊の大砲で男と云ふ男は片端から肱鉄砲を喰はすのだ、お前達も神政成就までは若いと云うても決して女などに目をくれてはならぬぞ、若い者が女に目をくれるやうな事では神界の経綸が成就せぬと、明けても暮れても口癖のやうに、長い煙管をポンと叩いて皺苦茶面をして、厳しいお説教を始めてござつたが、昨夜の態つたら見られたものぢやない、雪達磨がお天道様の光に解けたやうに、相好を崩しよつて、「モシ高山彦の吾夫様」ナンテ、団栗眼を細うしよつて何を吐しよつたやら、訳の分つたものぢやない、俺やもう嫌になつてしまつたワ』
岩高『定つた事ぢや、女に男はつきものだ。茶碗に箸、鑿に槌、杵に臼、何と云つたつてこの世の中は男女が揃はねば物事成就せぬのだ、二本の手と二本の足とがあつて人間は自由自在に働けるやうなものだ、三十後家は立つても四十後家は立たぬと云ふ事があるぢやないか』
常彦『四十後家なら仕方が無いが彼奴は五十後家ぢやないか、コレコレ常さま、お前は因縁の身霊ぢやによつて、どうしても三十になるまで女房を持つてはいけませぬぞえ、人間は三十にして立つと云ふ事があるなぞと云よるが、この時節に三十にして立つ奴は碌なものぢやない、俺等は既に既に十六七から立つて居るのぢや、今思うと立つものは腹ばかりぢや』
夏彦『貴様等は何を下らぬ事を云うて居るのだ、高姫さまだつて余り大きな声では云はれぬが、何々と何々し、また○○と○○し、それはそれは口でこそ立派に道心堅固のやうに云うて居るが、口と心と行ひの揃つた奴はウラナイ教には一匹もありやしないワ、俺も魔我彦や、蠑螈別や高姫に限つてソンナ事はあるまい、言行心一致だと初のほどは信じて居たが、この頃はどうやら怪しくなつて来たやうだ、本当に気張る精も無くなつてしまつた。今迄は二つ目には黒姫の奴、夏彦どうせう、常彦どうせう、岩高、菊若、かうしたら好からうかなアと吐しよつて、一から十まで、ピンからキリまで相談をかけたものだが、昨日から天候激変、ケロリと吾々を念頭から磨滅しよつて、箸の倒けた事まで、ナアもし高山彦さま、これもしこちの人、どうしませう、かうした方が宜敷くはございますまいかと、皺面にペツタリコと白いものをつけよつて、田螺のやうな歯を剥き出し、酒ばかり飲ひよつて、俺達には一つ飲めとも云ひよりやせむ、かう天候が激変すると何時俺達の頭の上に雷鳴が轟き、暴風が襲来するか分つたものぢやない、俺はホトホトウラナイ教の真相が分つて愛想が尽きたよ。今更三五教へ入信うと云つた所で、力一ぱい高姫や黒姫の言葉の尻について、素盞嗚尊の悪口雑言をふれ廻して来たものだから、どうせ三五教の連中の耳へ入つて居るに違ひない、さうすれば三五教へ入信る訳にも行かず、ウラナイ教に居ても面白くはなし、厄介者扱のやうな態度を見せられ、苦しい方へばかり廻されて本当に珠算盤があはぬぢやないか、何時迄もコンナ事をして居ると身魂の身代限をしなくてはならぬやうになつてしまふ、今の中に各自に身魂の土台を確り固めて置かうではないか。よいほど扱き使はれて肝腎の時になつてから、お前はどうしても改心が出来ぬ、身魂の因縁が悪いナンテ勝手な理屈を云つてお払ひ箱にせられては約らぬぢやないか』
常彦『それやさうだ。高姫は変性男子の系統ぢやと聞いたばかりに、変性女子の身魂より余程立派な宣伝使日の出神の生宮だと思うて今迄ついて来たのだ。しかし日の出神もよい加減なものだ。各自ウラナイ教脱退の覚悟をしやうではないか』
菊若『オイ、ソンナ大きな声で云うと奥へ聞えるぞ、静にせぬかい』
夏彦『ナニ、今日は何程大きな声で云つたところで俺達の声は黒姫の耳に入るものか、耳へ入るものは高山彦の声ばかりだ、俺達の声が耳に入るほど注意を払つてくれるほど親切があるなら、もとよりコンナ問題は提起しないのぢや、乞食の虱ぢやないが口の先で俺達を旨く殺しよつて、今迄旨く使つて居たのだ、随分気に入つたと見え、枯れて松葉の二人連、虱の卵ぢやないが彼奴ア死ンでも離れつこは無いぞ、アハヽヽヽ』
岩高『しかし、そろそろ真名井ケ嶽に出発の時刻が近よつて来たが、お前達は出陣する考へか』
夏彦『否と云つたつて仕方が無いぢやないか、ウラナイ教に居る以上は否でも応でも出陣せねばなるまい、しかしながら根つから葉つから気乗がしなくなつて来た、仕方が無いから形式的に出陣し、態と三五教に負けて逃げてやらうぢやないか、さうすれば黒姫は申すに及ばず、高姫もちつとは胸に手を当てて考へるだらう、高山彦だつて愛想をつかして黒姫を捨てて去ぬかも知れぬぞ。今こそ花婿が来たのだと思つて上品ぶつて、大きな鰐口を無理におちよぼ口をしやがつて、高尚らしく見せて居るが、しばらくすると地金を出して、また女だてら大勢の中で、サイダーやビールの喇叭飲みをやらかすやうになるのは定つてゐる。鍍金した金属が何時迄も剥げぬ道理はない、俺達もウラナイ教の信者と云ふ鍍金を今迄塗つて居たが、もう耐らなくなつて、そろそろ剥げかけたぢやないか、アハヽヽヽ』
 かかる所へ虎若と富彦の両人現はれ来り、
虎、富『ヤア四天王の大将方、高山彦、黒姫様の御命令でござる、一時も早く真名井ケ原に向つて出陣の用意めされ』
と云ひ捨ててこの場を急ぎ立ち去りにけり。
夏彦『エヽ何だ、馬鹿にしてゐる。昨日来たばかりの虎若、富彦を使つて吾々に命令を伝へるナンテ、あまり吾々を軽蔑し過ぎて居るぢやないか、如何に気に入つた高山彦の連れて来た家来ぢやと云つて、古参者の吾々を放つて置き勝手に新参者に命令を下し、吾々を一段下に下しよつたな、これだから好い加減に見切らねばならぬと云ふのだよ』
常彦『アヽ、仕方がない、ともかくも形式なりと出陣する事にしやうかい』
 黒姫は突然この場に現はれて、
『これこれ夏彦、常彦、お前今何を云つてゐらしたの』
常彦『ハイ、真名井ケ嶽に出陣の用意をしやうと申て居りました』
黒姫『それは御苦労ぢやつたが、その次を聞かして下さい、その次は何と仰つた』
常彦『ハイハイ、次は矢張その次でございますナ』
黒姫『天に口あり、壁に耳と云ふ事をお前達は知らぬか、最前から四人の話を初めから終まで、次の間に隠れて聞いて居りました。随分高山さまや黒姫の事を褒めて下さつたな』
 四人一時に頭を掻いて、
『イヤ何滅相もございませぬ、つい酒に酔うて口が辷りました、どうぞ神直日大直日に見直し聞き直して下さいませ』
『お前酔うたと云ふが、何時酒を飲みたのだい』
夏彦『ハイ、酒を飲みたのは貴女と高山さまと祝言の杯をなされました時……ぢやからそのために酔が廻つてつい脱線致しました』
黒姫『馬鹿な事を云ひなさるな、酒も飲まぬに酔が廻り、管捲く奴が何処にあるものか、それやお前達、本真剣で云つたのだらう、サアサアウラナイ教はお前さま達のやうな没分暁漢に居て貰へば邪魔になる、サアサア今日限り何処へなりと行つて下さい。エイエイ、お前達のしやつ面を見るのも汚らはしい』
夏彦『そらさうでせう、好きな顔が目の前にちらついて来たものだから、吾々のしやつ面は見るのも嫌になりましただらう』
黒姫『エヽ入らぬ事を云ひなさるな、サアとつとと去んだり去んだり、ウラナイ教では暇を出され、三五教では肱鉄を食はされ、野良犬のやうに彼方にうろうろ、此方にうろうろ、終には棍棒で頭の一つも撲はされて、キヤンキヤンと云うてまた元のウラナイ教に尾を振つて帰つて来ねばならぬやうにならねばならぬ事は見え透いて居るわ、ウラナイ教の太元の大橋越えてまだ先に行方分らず後戻り、慢心するとその通り、白米に籾の混つたやうに、謝罪つて帰つて来ても隅の方に小さくなつて居るのを見るのが気の毒ぢや、今の中に改心をしてこの黒姫の云ふ事を聞きなされ、黒姫は口でかう厳しく云つても、心の中は、花も実もある誠一途の情深い性来ぢや、誠生粋の水晶玉の選り抜きの日本魂の持主ぢやぞえ、サアどうぢや、確り返答しなさい、夏彦の昨夜の歌は何ぢや、目出度い時だと思うて辛抱して居れば好い気になつて悪口たらだら、大抵の者だつたらあの時に摘み出してしまふのぢやけれど、神様のお道の誠の奥を悟つたこの黒姫は、心が広いから松吹く風と聞き流して許して居たのだ、それにまたもや四人の大将株が燕の親方のやうに知らぬ者の半分も知らぬ癖に何を云ふのだい。お前達に誠の神の大御心が分つて耐るものか、知らにや知らぬで黙言つて居なさい』
夏彦『ハイハイ、誠に申訳がありませぬ、どうぞ今度に限り見直し聞き直して下さいませ』
黒姫『この度に限つて許して置く、この後において、一口でも半口でも、高山さまや黒姫の事を云はうものなら、それこそ叩き払にするからさう思ひなさい、サアサア常彦、菊若、岩高愈出陣の用意だ、高山彦の御大将はもはや出陣の準備が整うたぞへ』
 四人一度に、
『ハイ確に承知仕りました』
 茲に黒姫、高山彦は一族郎党を集め、旗鼓堂々と真名井ケ原に向つて進撃したが、加米彦、青彦の言霊に脆くも打ち破られ、蜘蛛の子を散らすが如く四方に散乱したりけり。
 ウラナイ教の鍵鑰を握つて居た黒姫の部下四天王と頼みたる夏彦、岩高、菊若、常彦の閣僚は黒姫結婚以来上下の統一を欠ぎ、自然三五教に向つてその思想は暗遷黙移しつつありき。そのため、折角の真名井ケ原の攻撃も味方の四天王より故意と崩解し、黒姫が神力を籠めたる神算鬼謀の作戦計画も殆ど画餅に帰し終りたるなりき。嗚呼人心を収攪せむとするの難き、到底巧言令色権謀術数等の虚偽行動をもつて左右すべからざるを知るに足る。これに反して三五教は一つの包蔵もなく手段もなく、唯々至誠至実をもつて神業に奉仕し、ミロクの精神を惟神的に発揮するのみ。されば人心は期せずして三五教に集まり、日に夜にその数を増加し、何時とはなしに天下の大勢力となりぬ。ウラナイ教は広い大八洲国において直接に信徒を集めたるものただ一人もなく、唯々三五教に帰順したる未熟の信者に対し、巧言令色をもつて誘引し、かつ変性男子の系統より出でたる高姫を唯一の看板となし世を欺くのみにして、根底の弱き事、砂上に建てたる楼閣の如く、その剥脱し易き事炭団に着せたる金箔の如く、豆腐の如く、一つの要もなくただ弁に任し表面を糊塗するのみ、その説く所恰も売薬屋の効能書の如く、名のみあつてその実なく、有名無実、有害無益の贅物とは、所謂ウラナイ教の代名詞であらうとまで取沙汰されけり。されど執拗なる高姫、黒姫は少しも屈せず……女の一心岩でも突貫く、非が邪でも邪が非でも仮令太陽西天より昇る世ありとも、一旦思ひ詰めたる心の中の決心は、幾千万度生れ代り死代り生死往来の旅を重ぬるとも、いつかないつかな摧けてならうか……との大磐石心、固まりきつた女の片意地、張合もなき次第なり。
 黒姫は力と頼む青彦の三五教に帰順せし事を日夜に惜み、如何にもして再びウラナイ教の謀主たらしめむと、千思万慮の結果、フサの国より高山彦に従ひ来れる虎若、富彦に命じ、青彦が日夜に念頭を離れざるお節を説きつけ、お節より青彦が信仰を落させむものと肝胆を砕きつつありける。

(大正一一・四・二二 旧三・二六 加藤明子録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web