出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語17-1-41922/04如意宝珠辰 羽化登仙王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
真名井ケ獄の山道
あらすじ
 魔の岩窟でお節を救い出した鬼彦一行と平助らは真名井ケ原に向って山道を行く。
 岩公が、「平助達を背中に負って峠を登る」と言い出す。平助達は断るが、岩公は「裸の自分たちの体も温かくなる」と言って頼むので、平助らは岩公、櫟公、勘公に乗ってやる。
 鬼虎と鬼彦は寒いので、すもうをとって暖を得ようとしていたが、雪の谷底に落ちてしまう。平助が、「それは悪いことをしてきた当然の報いだ」と言うので、岩公たちは鬼虎と鬼彦の改心の情を分ろうとしない平助たちに怒りを感じる。
 鬼虎と鬼彦はなんとか谷底から這い上がる。そこへ、空中から声が聞こえ、岩公、櫟公、勘公に宣伝使服が与えられ、彼らの服は羽衣のように変化し、顔は天女のように替わり、真名井ケ原の奥の聖地をめがけて飛び立った。
 その後、鬼虎と鬼彦にも羽衣が与えられ、同じく、真名井ケ原の奥の聖地をめがけて飛んでいった。
 お節は「平助とお楢が自分の身欲を捨てないから、自分を取られるような罰を受けた」のだと改心を迫る。それから、三人は真名井ケ原の豊国姫の出現場へ向う。実は、鬼虎達は羽化登仙(死ぬ)していたのだった。

***羽化登仙***
 ちなみに鬼虎、鬼彦、その他三人の羽化登仙せしは、その実肉体にては、徹底的改心もできず、かつまた神業に参加する資格なければ、神界の御慈悲により、国替え(凍死)せしめ、天国に救い、神業に参加せしめたるなり。五人の肉の宮は、神の御慈悲によって、平助親子の知らぬまに、ある土中へ深く埋められ、雪崩に圧せられ、鬼虎、鬼彦に救い出されたお節は、その実鬼武彦の眷属の白狐が所為なりき。また夜中お節を送ってきた悦子姫はその実は、白狐旭明神なりき。お節を隠したる岩窟は、鬼虎、鬼彦の両人ならでは、救い出すことが出来なかったのである。それは岩窟を開くについて、一つの目標を知っているものは、この両人と鬼雲彦より外になかったから、鬼武彦のはからいによって、ここまで両人を引き寄せ、お節を救い出さしめ給うたのである。
名称
櫟公 岩公 お節 お楢 鬼虎 鬼彦 勘公 空中の声 平助
旭 青彦 おコン 音彦 鬼武彦 大神 加米彦 天女 天人 豊国姫命 白狐 悦子姫
天の羽衣 羽化登仙 大江山 惟神 国替へ 神界 天国 比治山 比治山峠 真名井ケ岳 真名井ケ原 魔の岩窟 幽界
 
本文    文字数=19169

第四章 羽化登仙〔六一五〕

 名さへ恐ろしき魔の岩窟よりお節を救ひ出し、鬼彦一行五人は裸のまま、比治山颪に吹かれ、震ひ震ひ平助親子を先に立て、雪解の山坂を登り行く。
岩公『アヽ平助さま、お楢さま、年寄りの身で、この山坂をお上りになるのは、大抵の事ぢや有りますまい。お節さまも永い間、岩の中に押し込められ、足も弱つたでせう。どうぞ、吾々は若い者、あなた方を負はして下さいませぬかナア』
平助『イエイエ滅相な、ソンナ事をすると、参詣つたが参詣つたになりませぬ。人様のお世話になつて行く位なら、婆アと二人が炬燵の中から拝みて居りますわ』
岩公『これはしたり平助さま、それもさうだが、吾々を助けると思つて、負はれて下さい。実の事を云へば、赤裸で風に当られ、何程元気な私達でも、辛抱が出来ませぬ、負はして下さらば、体も暖くなり、またお前さま等も楽に参れると云ふものだ。これが一挙両得、私も喜び、あなた方も楽に参れると云ふものぢや。神様は好んで苦労をせよとはおつしやらぬ。チツとでも楽に信神が出来るのを、お喜びなさるのだから、どうぞ痩馬に乗ると思つて、私の背中にとまつて下さいな』
平助『お前の背中は宿屋ぢやあるまいし、………鳥かなぞのやうにトマル事が出来るかい。あまり人を馬鹿にするものぢやない』
岩公『ヤアこれはこれは失言致しました。どうぞ三人さま共、御馬の御用を仰せ付け下さいますれば、有難う存じます』
平助『コレコレお楢、お節、大分キツイ坂ぢや。裸馬に乗ると思うて、乗つてやらうかい』
お楢『アハヽヽヽ、二本足の馬に乗るのはお爺サン、ちつと剣呑ぢやないかい』
平助『ナアニ、此奴ア六本足だ。本当の馬より大丈夫かも知れぬ』
岩公『おぢいさま、六本足とはソラどう言ふものだ。三人一緒に勘定しられては、チツと困るデ……』
平助『ナニお前、三人寄れば十八本だ。お前一人で六本ぢや。肉体の足が二本と、副守護神の四足と合はしたら、六本になるぢやないかい』
鬼彦『アハヽヽヽ、馬鹿にしよる。俺達を獣類扱にするのだなア』
平助『定まつた事だよ。狐とも、狸とも、鬼とも分らぬ代物だ。六本足と言うて貰うのはまだ結構ぢや』
鬼彦『エツ、寒いのに仕様もない事を言つて、冷かしてくれないツ………ナア鬼虎、寒いぢやないか』
鬼虎『ウン、大分によく感じますなア、………もしもしおぢいさま、お婆アさま、どうぞ吾々を助けると思うて、背中に乗つて下さい………アヽ寒いさむい、お助けだ』
平助『アヽそれならば、お楢や、お節、乗つてやらうかい。大分寒さうぢや。チツと汗を掻かしてやつたら、温もつてよからう。これも神様参りの善根ぢやと思うて、少々苦しいても辛抱してやらう。その代りにお前達、落す事はならぬぞ、落したが最後神罰が当るから、鄭重にお伴するが良いワ』
『ヤア早速のお聞届け、鬼彦、鬼虎、身に取り、歓喜雀躍の至りでございます』
平助『コレ、彦に、虎、誰がお前のやうな、意地癖の悪いジヤジヤ馬に乗るものか、わしの乗るのは岩馬ぢや。婆アは勘馬の背中に、お節は櫟馬の背中に乗つて往くのだよ。大きに、御親切有難う』
『どうしても吾々には、御思召がございませぬか』
平助『エー、何程金をくれたつて、お前等のやうな者に乗つて堪るかい。体が汚れますワイ。一寸の虫も五分の魂だ。酷い目に遇はされて、負うて貰つた位で、恨みを晴らすやうな腰抜があつてたまるものか。何処までも、お前の御世話にやなりませぬワイナ』
鬼虎『アーア、執心の深いお老爺さまだ。しかしこれも身から出た錆だ。………エー仕方がない、寒い寒い、体も何も氷結しさうだ。比治山峠において、首尾よく凍死するのかなア……オイ鬼彦、一つ……モウ仕方がないから、裸を幸ひ、相撲でも取つて、体でも温めやうぢやないか』
『オウさうぢや。良い所へ気が付いた』
と二人は少し広い所に佇み、両方から力を籠めて、押合ひを始め出した。あまり力を入れすぎ、ヨロヨロと、鬼彦が蹌跟く途端に、二人は真裸のまま、雑木茂れる急坂をかすりながら、谷底へ落ち込みにける。平助は背中に負はれながら、
平助『アーア罰は目の前じや。あまり悪党な事をすると、アンナものぢや。神様は正直ぢやなア。……オイ岩公、貴様も彼奴等の……もとは乾児ぢやつたらう。今日は俺のお蔭で温い目に会はして貰うて、さぞ満足ぢやらう。アハヽヽヽ』
岩公『コレコレぢいさま、お前さまも好い加減に打解けたらどうだイ。あれだけ鬼彦や、鬼虎の哥兄が改心して、一生懸命に謝罪つて居るのに、お前さまはどこまでも好い気になつて、苦めようとするのか……イヤ恥をかかすのか。かうなると、この岩公も却て二人の方に同情したくなつて来た。エー平助ヂイ奴がツ……谷底へ放り込みてやらうか。好い気になりよつて、あまりだ。傲慢不遜な糞老爺奴が……』
平助『コラコラ岩公、滅多な事を致すまいぞ。コンナ所へ放られようものなら、それこそ一たまりもない、俺の生命は風前の灯火だ。気を附けて行かぬかい。……第一貴様の足は長短があつて、乗心地が悪い。その跛馬に乗つてやつて居るのに、何ぢや、その恩を忘れよつて、御託吐すと云ふ事が有るものか。グヅグヅ云うと、鬢の毛をひつぱつてやらうか』
岩公『アイタヽヽ、コラぢいさま、ソンナ所を引つ張られると、痛いワイ』
平助『痛いやうに引つ張るのだ。サアしつかりと上らぬか、………モツとひつぱらうか』
岩公『オイ勘公、櫟公、どうぢや、大変都合が好い所が有る。三人一度に此処から転げたろか。あまり劫腹ぢやないか、この糞老爺奴、馬鹿にしやがる。裸一貫の荒男を掴まへて、爺、婆アや阿魔女に、コミワラれて堪まるものかい。此処まで、吾々も善を尽し、親切を尽して来たのだ。最早勘忍袋の緒が切れた。鬼彦、鬼虎の哥兄は今頃は谷底に落ちて、ドンナ目に遭つてるか知れやしないぞ。此奴等三人を一緒こたに谷底へ放り込んで、俺等も一緒に、哥兄と心中しやうぢやないか』
勘公『オウさうぢや、俺もモウむかついて来た。この坂を婆アを背中に乗せて、御苦労さまとも言うて貰はずに、恩に着せられ、おまけに悪口までつかれて堪つたものぢや無い、いつその事、一イ二ウ三ツでやつたろかい………アイタヽヽ……コラコラ婆アさま、酷い事をするない。鬢の毛を無茶苦茶にひつぱりよつて……』
お楢『曳かいでかい曳かいでかい、この馬は手綱が無いから、手綱の代りに、鬢なと引かねば、どうして馬が動くものか。シイ、シーツ……ドード……ハイハイ』
勘公『エーツ、怪体の悪い……愈四足扱ひにしられてしまつた。……オイ櫟公、貴様はどうだ。一イ二ウ三ツで、谷底へゴロンとやらうぢやないか。貴様も賛成ぢやらう』
櫟公『どうしてどうして、これが放されるものか。寒うて堪らない所を温かうして貰つて、汗の出るのも三人のお蔭だ。ソンナ事を言うと冥加に尽きるぞ。罰が当らうぞい……』
勘公『アヽ貴様はよつ程目カ一ヽヽの十ぢやな。お節の若い娘に跨つて貰ひ、気分が良からうが、俺は皺苦茶だらけの、骨の堅い婆アを背中に負うて、温い事も、なんにも有りやしないワ。喃、岩公……』
岩公『オウさうぢや、まだ貴様等は婆アでも女だから好いが、俺の身になつて見い、堅い堅いコンパスを、ニユウと前の方へ突出しよつて、前高の山路、歩けたものぢやないワ。エー、大分に体も温うなつた。……オイ老爺に、婆ア、モウ下りて貰ひませうかイ』
平助『アヽもう下して下さるか。それは有難い。酷い所はモウ済みたし、これからは平地なり、前下がり路だ。目を塞いどつても、モウ往ける……アー苦しい事ぢやつた。その代りお前達はまた寒いぞ。昔の地金を出して、俺達の着物を追剥でもしやせぬかな』
岩公『アヽ老爺さま、情無い事を言つてくれな。改心した以上は、塵片一本だつて、他人の物を盗るやうな根性が出るものかいナ』
平助『それでもなア、婆ア、此奴等の改心と云ふものは、当にならぬものぢや。婆ア、しつかりして居れよ』
お楢『さうともさうとも、老爺さまお前も確りしなさい、コレコレお節や、お前も気を附けぬと云うと、何時追剥に早変りするかも知れたものぢやない。背に腹は替へられぬと云つて、年寄りや、女子を幸ひに、追剥をするかも分つたものぢやないワ』
 この時、鬼虎、鬼彦は、谷の底からガサガサと這ひ上がり来たり、
岩公『ヤア彦に虎か、貴様は谷底で、今頃は五体ズタズタに破壊してしまつたぢやらうと思うて居たのに、まだ死なずに帰つて来たか、マア結構々々、サア祝ひに此処で一服でもしやうかい』
『一服もいいが、かう風のある所では、寒うて休む気にもならぬ。体さへ動かして居れば暖かいから、ボツボツ行くことにしやうかい』
 この時何処ともなく微妙の音楽聞え来たり。一行八人は思はず耳を倚て聞き入る。忽ち空中に声あり、
『岩公、勘公、櫟公、真裸で嘸寒いであらう、今天より暖かき衣裳を与へてやらう。これを身に着けて、潔く真名井ケ原の奥に進むがよからう』
 鬼彦、鬼虎一度に、
『モシモシ、空中の声の神様、吾々二人も真裸でございます。どうぞお見落しなさらぬやうに……同じ事なら、モウ二人分与へて下さいませ』
空中の声『鬼虎、鬼彦の衣裳は、追つて詮議の上、………与へるとも、与へぬとも、決定せない。今しばらく辛抱致すが良からう』
 何処ともなく、立派なる宣伝使の服三着、この場に風に揺られて下り来り、三人の身体に惟神的に密着した。
岩公『ヤア有難い有難い、時節は待たねばならぬものぢや。……オイ勘に、櫟よ、立派な服ぢやないか。これさへ有れば、宙でも翔てるやうになるだらう、天から降つた天の羽衣では有るまいかなア。……もしもし平助さま、お婆アさま、お節さま、偉う御心配をかけました。お蔭様で、この通り立派な天の羽衣を頂戴致しました』
平助『お前等は、悪人ぢや悪人ぢやと思うて居つたが、……ホンに立派な衣裳を神様から貰ひなさつた。モウこれから、決して決してお前さまに口応へは致さぬ。どうぞ赦して下され』
 三人の着けたる装束は、見る見る羽衣の如くに変化し、岩、勘、櫟の顔は忽ち天女の姿となり、空中を前後左右に飛びまわりながら、真名井ケ原の奥を目蒐けて、悠々と翔り行く。鬼彦、鬼虎、平助、お楢、お節の五人は、この光景を打仰ぎ、呆然として控へ居る。しばらくあつて、お節は声を揚げて泣き出したれば、平助、お楢は驚いて、
『コレヤコレヤお節、どうしたどうした、腹でも痛いのか。何を泣く……』
と左右より、老爺と婆アとは獅噛み付き、顔色変へて問ひかける。お節は涙を拭ひながら、
『お祖父さま、お祖母さま、どうぞ改心して下さいませ。あのやうな荒くれ男の岩さま、勘さま、櫟さまは大神様の御心に叶ひ、あの立派な平和の女神となつて、神様の御用にお立ちなさつた。妾は女の身でありながら、改心が足らぬと見えて、神様の御用に立てて下さらぬ。どうぞ、あなた二人は、今迄の執拗な心をサラリと払ひ捨て惟神の心になつて下さい。さうでなければ、妾は神様にお仕へする事が出来ませぬ』
とまたもや『ワツ』とばかりに泣き沈む。この時天上に声あり、
『鬼彦、鬼虎、今天より下す羽衣を汝に与ふ。汝が改心の誠は、愈天に通じたり』
 鬼彦、鬼虎は飛び立つばかり打喜び、両人大地に平伏し、
『ハハア、ハツ』
と言つた限り、嬉し涙に掻き暮れて居る。二人は不図顔をあぐれば、えも謂はれぬ麗しき羽衣、地上一二尺離れた所に浮游して居る。手早く拾ひ上げむとする刹那、ピタリと二人の体に密着した。追々羽衣は拡大し、自然に身体は浮上り、二人は空中を前後左右に飛揚しながら、
『平助さま、お楢さま、お節さま、左様ならお先へ参ります』
と空中を悠々として、真名井ケ岳の霊地に向つて翔り行く。後に三人は呆然として、この光景を物をも言はずに見詰め居たりけり。
平助『アーア人間と云ふ者は、訳の分らぬものぢやなア、俺のやうな善人は、かうして山の上で寒い風に曝され、娘は痩衰へ、親子三人やうやう此処まで出て来る事は来たが、五人の大江山の眷属共はまた、どうしたものぢや。アンナ立派な衣裳を天から頂きよつて、羽化登仙、自由自在の身となりよつた。神様もあまりぢや あまりぢや、アンナ男が天人に成れるのなら、俺達親子三人も、立派な天人にして下さつたら良かりさうなものぢやないか。アーアこれもヤツパリ、身魂の因縁性来で、何時までも出世が出来ぬのかなア』
お楢『おやぢドン何事も神様の思召通りより行くものぢやない。人間の目から悪に見えても善の身魂もあり、人間が勝手に善ぢや善ぢやと思うて、自惚て居ると、何時の間にやら邪道に落ちて苦しむと云ふ事ぢや、去年お節を奪られてから、二人が泣きの涙に暮らしたのも、若い間から欲ばつかりして、金を蓄め、人を泣かして来た報いで、金はぼつたくられ、一年の間も泣いて暮したのぢや。今迄の事を、胸に手を当てて考へて見れば、人こそ、形の上で殺さぬが、藪医者のやうに、無慈悲な事をして、何程人の心を殺して来たか、分つたものぢやない、おやぢどの、お前も若い中から、鬼の平助、渋柿の平助と言はれて来たのぢやから、コンナ憂目に遭うのは当然だよ。親の罰が子に報うて、可愛いお節が、一年が間、コンナ目に遭うたのぢや。誰を恨める事も無い。みな自分の罪障が報うて来たのじや、アンアンアン』
平助『俺が常平生、食ふ物も食はず、欲に金を蓄めたのも、みなお節が可愛いばつかりぢや、どうぞしてお節を一生楽に暮さしてやりたいと思うたために、チツとは無慈悲な事もやつて来たが、それぢやと云うて、別に俺が美味い物一遍食つたのでもなし、身欲と云ふ事は一つもして居らぬぢやないか』
お楢『それでも、おやぢドン、ヤツパリ身欲になるのぢや。他人の子には辛く当り、団子一片与るでもなし、何もかも、お節お節と、身贔屓ばつかりしとつて、天罰で一年の苦しみを受けたのぢや。そこで神様がこの通り、善と悪との鑑を見せて下さつたのぢや。これから綺麗サツパリと心を容れ替へて下されや、婆アも唯今限り改心をする。親の甘茶が毒になつて、お節の体もあまり丈夫ではない。コンナ繊弱い体をこの世に遺して、年取つて夫婦が幽界とやらへ行く時に、後に心が残るやうな事では行く所へも行けない。今の間に改心し、お節の身体が丈夫になるやうに、真名井の神様へ、心から誓ひをして来ませう』
と三人は、雪積む路をボツボツと、真名井ケ原の豊国姫命が出現場指して、杖を力に進み行く。
 因に、鬼彦、鬼虎、その他三人の羽化登仙せしは、その実肉体にては、徹底的改心も出来ず、且また神業に参加する資格無ければ、神界の御慈悲により、国替(凍死)せしめ、天国に救ひ神業に参加せしめ給ひたるなり。五人の肉の宮は、神の御慈悲によつて、平助親子の知らぬ間に、ある土中へ深く埋められ、雪崩に圧せられ、鬼彦、鬼虎に救ひ出されたお節は、その実鬼武彦の眷属の白狐が所為なりき。また夜中お節を送つて来た悦子姫はその実は、白狐旭明神の化身なりき。お節を隠したる岩窟は、鬼彦、鬼虎の両人ならでは、救ひ出す事が出来なかつたのである。それは岩窟を開くに就て、一つの目標を知つて居る者は、この両人と鬼雲彦より外になかつたから、鬼武彦の計らひによつて、此処まで両人を引寄せ、お節を救ひ出さしめ給うたのである。また途中に五人の男を裸にした娘のおコンは、白狐旭の眷属神の化身であつた。曩に文珠堂にて別れたる悦子姫、及び平助の門口にて別れたる音彦、青彦、加米彦は真名井ケ岳の聖地に既に到着し居たりしなり。

(大正一一・四・二一 旧三・二五 松村真澄録)



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