出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語17-1-11922/04如意宝珠辰 黄金の衣王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
真名井ケ獄の麓
あらすじ
 平助、お楢、お節、岩公、櫟公、勘公は連れ立って真名井ケ獄へ向う。
 岩公達は、分れて先に行くことにする。
 一方、平助に宿を断られた鬼虎と鬼彦は路傍の糞壷の中へ落ちて全身糞まみれになる。寒風吹き荒み、体は臭いし、凍えそうである。二人は一軒のあばら家を見つけて入り、井戸で糞にまみれた着物を洗濯して、火に当たった。そこへ、加米彦が現れて、悦子姫から預かったというボロボロの着物を渡す。
 岩公・櫟公・勘公も合流して、皆で真名井ケ獄へ向かった。
 途中で、おコンという娘がお布施を行っていたので、一行は休息させてもらう。鬼虎と鬼彦は家の裏の溜池で体を洗った。そして、おコンから悦子姫からの宣伝使の装束を受け取り、彦安命、虎彦命という名までもらった。
 しかし、彼ら一同が気が付くと、全員裸で、野雪隠の前で祝詞を唱えていたのだった。おコンは狐で、一行はばかされていたのだ。
名称
櫟公 岩公 おコン お節 お楢 鬼虎 鬼彦 加米彦 勘公 平助
音彦 鬼雲彦 心の鬼 皇神 節子姫! 豊国姫 虎彦命! 彦安命! 魔神 摩利支天 悦子姫
天津祝詞 天の数歌 大江山 糞壷 雪隠 刹那心 比沼の真名井ケ原 真名井ケ獄
 
本文    文字数=20364

第一章 黄金の衣〔六一二〕

 見渡す限り野も山も  平一面の銀世界
 人の心を冷やかに  わかやる胸を撫で下ろし
 雪の肌の愛娘  魔神の深き計略に
 押籠められて岩窟の  中にて絞る涙の雨
 何時しか比沼の真名井ケ原に  一陽来復の春待ち兼ねて
 皇神の恵の露に綻びし  心切なき節子姫
 この岩窟に捕はれて  悲しき月日を送る内
 春夏秋と十二節  越えて漸う東雲の
 空晴れ渡る思ひなり。  

 悦子姫に送られ、祖父母の家に帰り来れる節子姫は、嬉し涙に一夜を明かし、あくれば正月二十八日、平助、お楢の祖父母と共に、雪積む野路を辿りつつ、心も深き礼参り、岩公、勘公、櫟公諸共に、真名井ケ嶽の麓を指して進み行く。
お節『お客さま、御存じの通り、年を老つたる老爺サン婆アサン、それに繊弱き女の妾、思ふやうに足許も捗りませぬ。あなた方は神様にお仕へ遊ばす身の上、悦子姫様が嘸お待兼でございませう。何れ真名井ケ原の神様の御前にて、お目にかかりませうから、どうぞ妾等にお構ひなく、一足先へ行つて下さいませ』
岩公『左様なれば、お先へ道開けのために参りませう。一切万事用意を整へ、お待受を致して居ります、どうか緩々お出で下さいませ。お老爺サン、お婆アサン、お節さま、左様なれば吾々三人は一足先へ御免を蒙りませう。どうぞゆるりとお越し下さいませ』
平助『アヽそれがよろしい。此方は年老つた老爺に婆ア、繊弱き娘、到底あなた方のやうな屈強な若いお方と、同道するのは苦しうござります。またあなた方もマドロしく思はれませう。それよりも早う悦子姫様のお側へ行つて、すべての御用をお聞き下さいませ。吾々三人はボツボツ後から参ります』
岩公『ソンナラお老爺さま、お婆アさま、お節さま、一足先へ失礼致しませう。……サア勘公、櫟公、雪中強行軍だ。前進々々、お一、二、三』
と掛声諸共、バラバラと駆出しける。
お楢『アノ、夜前のお客さまの元気の良い事、……アーア、年は取りたくないものだ。これほど雪の積つた路を、猪かナンゾのやうに、驀地に駆出して、早モウ姿が見えなくなつてしまつた。サアサアボツボツ行きませう』
と三人は杖を突きながら、岩公等の通つた足跡を踏んでボツボツと進み行く。
 話は後へ戻る…………………………
 心の鬼に責られて泊りも得せず、雪積む夜路をトボトボと、雪しばきに向ひながら、互に肩を組み合せ、西へ西へと進み行つた鬼彦、鬼虎の両人は、路踏み迷ひ、路傍の糞壺の中へ、肩を組んだまま、ドボンと転落し、頭の先から足の爪先まで、忽ち黄金仏と早替り、二人は漸く生命からがら這ひ上り、身を切る如き寒風のピユウピユウと吹いて来る中を、震へ声を搾りながら、
鬼彦『罰は目の前だ、コンナ事なら、頭の一つや二つ、平助老爺に叩かれても、素直に謝罪つて、泊めて貰つたが得策だつた。貴様が、テレ臭いとか、何とか言つて、痩我慢を出すものだから、コンナ目に遭つたのだよ。実に糞慨の至りだ』
鬼虎『過去つた事を、今になつて言つた所で、何になるか。過去し苦労は大禁物だと云ふ事を忘れたか。刹那心だよ。しかしながら、かうして居れば、着物も体も氷結してしまふ。零度以下二十度と云ふこの寒空に、糞汁の着物を着て歩いて居るのも能い加減ナものだ。况して神様は神聖な……清浄潔白をお喜び遊ばす。コンナ着物を着て、どうして参拝が出来ようか。……貴様達はまだ悪が消えないから、参拝の資格がないと云つて、神様が糞壺へ放り込んだのかも知れぬ。……アヽ寒い寒い……寒さが通り越して、体中が痛くなつて来た。そこら中錐で揉まるるやうだ。……冷たい、痛い。……アーア泣くに泣かれぬ。どうしたらよからうなア』
鬼彦『平助やお楢に屁を噛まされ、馬鹿臭い、テレ臭い、阿呆臭い……と臭い目に会うて、その上また糞壺へ放り込まれ、……アーアぢぢ臭い、ババ臭い……此処にも平助、お楢が居よつたやうなものだ。おセツない思ひをして、真名井ケ原へ進むにも進まれず………エー糞いまいましい。どつか此処らに家でもあつたら、今度は何と言つても構はぬ、無理に押入つて、焚物でも焚いて、体を温め、ゆつくり湯でも沸して浄めなくては、どうする事も出来ぬぢやないか。グヅグヅして居ると、身体強直、石地蔵のやうになつてしまうワ、サア往かう往かう』
 二人は生命からがら、二三丁ばかり前進すると、バタツと行当つたまたもや一軒の茅屋、
『ヨー天道は人を殺さずだ。此処に一軒屋が有るワイ。……ハテこれは物置小屋と見える。……マアともかく、這入つて体の処置を附けようかい』
 二人は戸を押し開け、怖々這入つて見ると、暗がりに赤い物が見える。
鬼彦『ハハア、誰か火を焚いて行きやがつたなア。大方音彦、加米彦の仕事だらう』
と附近の藁を引摺り出し、火を吹き点け、真裸となり、
『一寸これで楽だ。しかしながら、着物を乾かさねばなるまい。……それにしても一度洗濯をして、その上にせなくては、乾いた所で、臭くて、どうにもかうにも仕方があるまい、のう鬼虎』
『ウンこの茅屋も、元は誰か住んで居つたのだらう。井戸がある筈ぢや。一つ探して、井戸でも有つたら、俺達の着物を突込み、バサバサとやつて、充分に圧搾を加へ、水気を除り、大火を焚いて焙る事にしやうかい。……オー有る有る、グヅグヅして居ると、落ち込むかも知れぬぞ。どうやら水溜りが有るらしい。……オイ貴様火を焚く役だ、俺がしばらく洗濯鬼になつてやらう。人鬼だ。婆の来ぬ間に鬼が洗濯……アハヽヽヽ』
 両人は糞まぶれの着物を、水溜りに向けて、手早く脱ぎ、投げ込み、
『サアこれで洗濯の用意は出来た。しかしながら着る物がない。どつか此処らに薦でもないかナア』
と二人はガサガサと、小屋の隅クラを、手探り、古薦や、古蓆を探し索めて、やうやう身に纏ひ、
『アヽこれで生命だけは助かつた』
と大火を焚いて、両人はあたつて居る。
『オイ、鬼虎の大将、お前は洗濯にかかるのだよ。俺は干す役を勤めるから』
『自分の着物は自分が洗濯し、他人の世話になると云ふやうな事は天則違反だぞ。……ヨシ、自分のだけを洗濯して、お望みとあらば、干す役もして貰はうかい。……ヤア井戸かと思へば、また糞壺だ。家の中に雪隠を拵へて置きやがるものだから、間違うのも無理はない。しかしマア陥らなンだだけは結構だ』
『オイ鬼虎、俺の方は、どうやら本物らしいぞ、かやくが浮いて居らぬワイ』
『アハヽヽヽ、鬼彦、貴様のは小便桶だ。何とかせなくてはなるまいぞ』
『アツヽヽ、火が点きやがつた。オイ鬼虎どうしやうどうしやう』
『雪の中へ転げ込め』
『よし来た』
と鬼彦は、矢庭に外へ駆け出し、雪の上を転げて居る。またもや鬼虎のお米の木の着物に火が燃へ移り鬼虎は、
『此奴ア堪まらぬ』
とザブリと水溜りへ飛び込めば、何処よりともなく怪しき笑ひ声、
『アツハヽヽヽ、オホヽヽヽ』
『オイ鬼虎、ナア貴様は気楽な奴だ。糞責め、火責め、水責めに逢うて苦しみて居るのに、何が可笑しいのだ。怪体な声を出しやがつて……』
『鬼虎が笑つたのぢやない、物が笑つたのぢやない。……ソレ、物が物言うとるぢやないか』
『ヤイヤイどこの奴ぢや。何が可笑しいのだ。俺は鬼彦さまだぞ』
 またもや隅の方より、
『鬼彦、鬼虎、随分苦労をしたネー。お節の宿で半殺しに会ひ、今また此処で半殺しのやうな目に遭つて、牡丹餅のやうに、黄金の餡や、雪の餡を着けて、中々うまい事をやるのウ。サアこれから、俺が招待れてやらう。鬼の共喰だ、アハヽヽヽ』
『さう言ふ声は岩公ぢやないか、奴跛の癖しやがつて、巫山戯た態をさらすと、鬼彦が承知をせぬぞ』
 作り声にて、
『この方は岩公でも無い、鬼でも無い、物ぢや、物ぢや』
鬼彦『物とは何だ、化物と云ふ事か。夜がホンノリと明けかかつて居るのに、化物が出るナンテ、チツト時季が過ぎとるぞ。化け損ひの大馬鹿者奴が』
加米彦『アハヽヽヽ、実の所は加米彦さまだ。悦子姫さまが豊国姫の神様から命令を受けて、今鬼彦、鬼虎の両人改心のため、糞壺へ陥めてあるから、グヅグヅして居ると凍て着いてしまふ。体は糞まぶれだ。早く往つて真名井の水で体を清め、この着物を着せてやれ…とおつしやつて、生れてから見た事もないやうな立派な着物を預つて来たのだよ』
 両人一度に、
『ヤアそれは有難い』
鬼虎『流石は悦子姫さまだ。腕振り合ふも多生の縁、夢にも文珠堂でこの鬼虎が、悦子姫さまを、間違つて叩いたお蔭で、かう云ふ結構な着物を頂戴するのだ。
 叩かれて、丸う治まる、桶の底、
だ……オイ鬼彦、俺のお蔭だぞ』
鬼彦『加米彦さま、あなたは偉いものだ。サア早く着物を着せて下さいナ』
加米彦『待て待て、これから半里ばかり、そのまま歩いて、真名井ケ原の塩の溜りで体を浄め、それから清の井戸でマ一遍清め、三遍目に大清の井戸で浄めた上で、着物を着せて下さるのだ。今は持合せがないのだよ』
鬼彦『ナーンだ。それまで体が続くだらうか、困つた事だワイ』
 かかる所へ、岩公、勘公、櫟公の三人、息急き切つて現はれ来り、
『オイオイ鬼彦、鬼虎の両人、まだコンナ所に居つたのか。大変だぞ。夜前は俺達は半殺しに遇うて来たのだ。貴様も夜前泊つた位なら、鏖殺しになる所だつたよ、マアマア生命が有つてお芽出度う。……ナンダナンダ、裸ぢやないか。一体着物はどうしたのだ』
鬼彦『着物かい、着物は神様に寄附してしまつたワイ』
岩公『どこの神様に寄附したのだ』
鬼彦『雪隠の神様に………。これから裸、跣足で参るより仕方が無い。貴様も一つ、摩利支天さまに、一枚脱いで寄附致さぬかい』
岩公『ヤア本当に、両人とも赤裸だなア。元気な事だ。俺達の着物を寄附してやりたいが、此方も着の身着のままぢや。山椒の木に飯粒ぢや、仕方が無い。マア行く所まで行かうか』
鬼虎『それだつて、裸で道中がなるものかイ』
岩公『なつてもならないでも仕方が無いワ。グヅグヅして居ると、夜前のお節さまが、おつつけ此処に出て来るぞ。コンナ姿を見つけられたら醜もない。サア行かう行かう』
 鬼彦、鬼虎、岩、勘、櫟の五人は、夜の明けた雪路を、トボトボと進み行く。家の内より加米彦の声、
『オイオイ鬼虎、鬼彦。着物だ着物だ』
とボロボロの継ぎ継ぎだらけの着物を引つ抱へ加米彦がやつて来て、
『サアともかく、当座凌ぎに、これなと着て行け』
鬼虎『ヤア、全然東海道以上だ、百ツギも二百ツギもやつた着物だ。…………エヽ仕方が無い。鬼彦、これでも無いより優しだ。拝借しようかい』
『さうださうだ、寒い時に穢い物なし』
と手早く加米彦の手よりひつたくり、クルクルと身に纏ひ、
『アヽなんだか、ウヂウヂするぢやないか』
加米彦『定つた事ぢや。虱の本宅だ。サアサア進もう進もう』
と雪路を西へ西へと走りゆく。道端に小瀟洒とした綺麗な家が左側に建つて居る。一人の綺麗な娘、戸口を開け、
『もうしもうし、あなた方は、真名井ケ嶽へ御参詣の方と見えますが、この雪路に嘸お困りでせう。湯も沸いて居ります。どうぞ一服して行つて下さいませ。別にお茶代の請求も致しませぬ。今日は親の命日で、お茶や御飯のお接待を致して居ります。サアサアどうぞ這入つて往て下さいませ』
鬼彦『ヤア捨てる神もあれば拾ふ神も有るとはよう言つた事だ。皆さま一服さして貰ひませうかな』
と鬼彦は早くも先に立ち、屋内に飛び込みたり。
『サアサア皆さま、お這入りなさいませ』
 加米彦は、
『アイ御免よ』
と尻振りながら這入り、
『ヨー、此処の家は、外から見た割とは広い家だ。……さうしてお娘、コンナ小広い家にお前一人居るのかい、随分険呑なものだなア。大江山の鬼雲彦の乾分、鬼虎、鬼彦がやつて来て、お節女郎のやうに掻攫へて帰ぬかも知れませぬぞ。気を付けなさいませや』
『ホヽヽヽ、鬼虎も、鬼彦も、今日のやうに、善の途に堕落してしまへば、モウ駄目ですよ。お節の家では断られ、糞壺へは落ち込み、薦を着ては火に舐められ、虱だらけの着物を着て、ウンバラ、散バラ若布の行列、褞褸の親分、雑巾屋の看板も跣足で逃げると云ふやうな、立派な着物をお召しになつて、真名井ケ嶽へ参拝するやうになつては、モウ駄目ですワ、ホヽヽヽ』
勘公『ヤア此奴ア妙だ。優しい顔をして居乍ら、口の達者な女だ』
娘『マアマア皆さま、ゆつくりなさいませ。しかしプンプンと匂ふぢやありませぬか、裏に溜池が有ります。あの池の外で、頭から水をかぶり、鬼彦、鬼虎さまは、洗濯をして来なさい。モシモシ岩さまとやら、あなた、此処に横槌がございます。二人の髻を掴んで、溜池に突込み、石の上でキユウキユウと踏み潰し、この横槌でコンコンとこづいて充分に圧搾をかけ、火に焙つて、綺麗サツパリと洗濯をしてあげて下さいナ』
『馬鹿にしやがる。着物と人間の体と一つにしられて彦も虎も堪まるものかい』
娘『キモノ弱い人は、キモノ弱いのも、おなじことぢや。一遍洗濯して、糊でも着けねば腰が立つまい。よつぽどよい腰抜野郎だからなア』
鬼彦『馬鹿にしやがるない。貴様は一体何者だ』
 女白き牙をニユツと出し、目をクルリと剥き、腮をしやくりながら、
『あてかいな、あてい……あの……おコンと云ふ者ですよ』
鬼彦『エイ、狐みたいな名の奴だ、大方……狐が瞞しとるのぢやないかナ』
おコン『雪に閉され、誠にコン窮千万、どうぞコン夜だけお泊め下されと、コン願したが、平助爺に、コンと肱鉄砲を喰はされ、コンな事なら、悪い事するぢやなかつたのに、エーエ仕方がない、コン夜は雪の路を、コンパスの続く限り歩かうかと、二人はコン限り力限り走つた揚句に糞壺の中へコン倒し、コンな因果が古コンを尋ねても、またと一人あるものか………とコン惑の態、茅屋の中へ飛び込み、薦を被つて火に焙り、やつと安心する間もなく体に火が燃えつき、雪の上に転げるやら小便桶へ陥るやら、コン難の最中に加米公の御親切な御志、虱の宿のやうな襤褸の錦を恵まれて、此処までやつて来たお前ぢやないか。これからこのオコンさまが、アンナ失敗を今後繰返さぬやうに、コンコンと説諭してあげよう。早く体を洗つて出て来なさい。炬燵へでも潜り込んで、ゆつくりと、おコンの話を聞かつしやいツ』
岩公『ともかくも、この縁の端を貸して貰ひませう。二人の体の処置をつけなくては、どうする事も出来ませぬワイ』
 鬼彦、鬼虎は、裏口の溜池にて、薄氷の張つた池水を掬ひながら、ザブザブと御禊をやつて居る。二人は体を清め、ビリビリ震へながら、
『アヽ皆さま、お待たせしました。これで気分がサラリとした。しかし困つた事にはお召物の心配だ。どうしたらよからうかなア』
おコン『ホヽヽヽ、ご心配なされますなお二人様、お召物はチヤンと此処に用意致してございます。悦子姫さまが前以てお預けになりました。サアサア御遠慮なしにお召し遊ばせ。……これが鬼彦様のお召物……此方が鬼虎さまのお召物ですよ』
 鬼彦、矢庭にグルグルと身に纏ひ、
鬼彦『ヤア立派な物だ。これは正しく宣伝使の装束だ……ヤアナンダ、妙な物が貼つてあるぞ。……エ……鬼彦を改名して、只今より彦安命と名を与ふ……ヤア有難い有難い、何だか鬼の字が癪に障つて仕方がなかつた。サアこれから彦安命の宣伝使だ。……オイ鬼虎、今日から俺の弟子にしてやらう。オツホン』
鬼虎『アハヽヽヽ、彦安命さま、誠に済みませぬが、拙者も虎彦命と名を与ふ……としてあるのだ。五分五分だよ。サア勘、櫟、岩、只今より天下晴れての三五教の宣伝使だ。左様心得たがよからうぞ』
岩公『ヘン馬鹿にしやがるワイ、糞宣伝使奴が。雪隠虫奴が。平助に屁を嗅がされて、お楢に追ひ出され、宣伝使もあつたものかい、アハヽヽヽ』
おコン『サア皆さまこれからが正念場だ。十四五丁進めば、愈真奈井ケ原の聖地に着く、此処で天津祝詞を奏上し、天の数歌をあげてお出なさい。妾が導師を致しませう』
と、声も涼しくおコンは祝詞を奏上する。一同その後に従いて、一心不乱に合唱する。平助、お楢、お節の三人、杖を突きながら、ヒヨコヒヨコと此処に現はれ、
平助『お前は昨夜の御客ぢやないか。大勢の方が、コンナ雪の中に赤裸になつて、何をしてござるのだ。皆さま、サアサア行きませう。着物はどうしなさつた』
 『ハツ』と一同気がつけば、野雪隠を中央に、一同手を合せ、一生懸命に祝詞を奏上して居た。後の山より狐の鳴き声二声、三声、
『コンコン、カイカイ』

(大正一一・四・二一 旧三・二五 松村真澄録)



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