出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=16&HEN=3&SYOU=18&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語16-3-181922/04如意宝珠卯 遷宅婆王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
丹後の元伊勢 魔窟ケ原
あらすじ
 元伊勢の宮が完成した神霊鎮祭の場で、英子姫に天照大神が懸かり「悦子姫は真名井ケ岳に行き、曲霊を言向け和し、英子姫と亀彦は聖地に向え」と命じた。
 一行はそれに従う。
 悦子姫は青彦、鬼虎、鬼彦と数人の従者を連れて大江山にむかう。魔窟ケ原までやってくると、以前に焼けた高姫の小屋が建て直されていた。その中に、黒姫と音公と勘公が寝ている。青彦が舌戦を挑むと、黒姫は対抗する。また、音公は実は、音彦で間者としてウラナイ教にもぐり込んでいたのだった。
名称
青彦 石熊 音公! 音彦 鬼虎 鬼彦 亀彦 勘公 熊鷹 黒姫 英子姫 悦子姫
秋山彦 天照大神 鬼武彦 娑婆幽霊 神霊 邪気 邪霊 皇大神 三途川の鬼婆 高姫 天神地祇 豊国姫 和魂 曲神 曲霊 瑞の御霊 竜宮の乙姫
芥川 天の霊の川 天の真名井ケ岳 綾の聖地 宇宙 ウラナイ教 ウラル教 大江山 衣懸松 沓島 執着心 神界 田辺 地獄 直会 如意宝珠 バラモン教 火水の経綸場 筆先 魔窟ケ原 霊魂の因縁 宮川 ミロク神政 冥土
 
本文    文字数=20338

第一八章 遷宅婆〔六〇八〕

 百日百夜の一同が苦辛惨憺の結果、漸く建ち上りし白木の宮殿、鎮祭式も無事に済み一同直会の宴にうつる。今日は正月十五日、雪は鵞毛と降りしきり、見渡す限り一面の銀世界、天津日の影は地上に光を投げ、玲瓏として乾坤一点の塵埃も留めず、実に美はしき天国の御園もかくやと思はるるばかりなり。
 英子姫は神霊鎮祭の斎主を奉仕し悠々として階段を降り来るや、忽ち神霊に感じ神々しき姿は弥が上に威厳備はり徐に口を開いて宣り給ふやう、
『我は天照大神の和魂なり、抑も当所は綾の聖地に次げる神聖の霊場にして天神地祇の集まり給ふ神界火水の経綸場なり、神界における天の霊の川の源泉にして宇宙の邪気を洗ひ清め百の身魂を神国に救ふ至厳至聖の神域なり。またこの東北に当つて大江山あり、此処は神界の芥川と称し邪霊の集合湧出する源泉なれば霊の川の霊泉を以て世界に氾濫せむとする濁悪汚穢の泥水を清むべき使命の地なり。この濁流の彼方に天の真名井ケ岳あり、此処は清濁併せ呑む天地の経綸を司る瑞の御霊の神々の集まる源泉なり。豊国姫の分霊、真名井ケ岳に天降りミロク神政の経綸に任じ給ひつつあり、されども曲神の勢力旺盛にして千変万化の妖術を以て豊国姫が経綸を妨碍せむとしつつあり。汝悦子姫、これより大江山の濁流を渡り真名井ケ岳に打向ひ百の曲霊を言向和し追ひ払ひ吹き清めよ。また亀彦、英子姫には神界において特別の使命あればこれより聖地に向へ、その上改めて汝に特別使命を与ふべし』
と言葉厳かに言挙げし給ひ忽ち聞ゆる微妙の音楽と共に引きとらせ給ひぬ。アヽ尊き哉皇大神の御神勅よ。
 茲に亀彦、英子姫は神勅を奉じ、熊鷹、石熊両人を始め数十人の供人と共に、聖地に向ふ事となりぬ。また悦子姫、青彦は、鬼彦、鬼虎の二人に、四五の従者を伴ひ谷川に禊を修し宣伝歌を唱へながら大江山の魔窟ケ原を打越え真名井ケ岳に向つて進む事になりける。
 悦子姫は宮川の渓流を溯り、険しき谷間を右に跳び、左に渉り漸くにして魔窟ケ原の中央に進み入り、衣懸松の傍に立ち止まり見れば、百日前に焼け失せたる高姫の隠家はまたもや蔦葛を結び、新しく同じ場所に仮小屋が建てられありたり。
悦子姫『この間妾が高姫に招かれてこの松の下へ来ると、間もなく火煙濛々と立昇り、小屋の四方八方より猛烈に紅蓮の舌を吐いて瞬く内に舐尽し、高姫さま始めこの青彦さまも火鼠のやうに、彼の丸木橋から青淵へ目蒐けて飛び込まれた時の光景は実にお気の毒なりし。その時妾は高姫さまの水に溺れて苦しみ藻掻き居られるのを、真裸になりて救ひ上げた時、高姫さまに非常に怒られた事あり、「妾が勝手に心地よく水泳をやつて居るのに、真裸で飛ンで来て妾の手を引ン握り、ひつ張り上げるとは怪しからぬ」と反対に生命を助けて怒られた事あり、あの一本橋を見るとその時の光景が今見るやうな』
と述懐を漏したり。
青彦『さうでしたな、あの時に私も亀彦さまが居なかつたら土左衛門になる処でした。真実に生命の親だと思つて心の底から感謝して居ました。それに高姫さまは私がお礼を申さうとすれば目を縦にして睨むものですから、つひお礼を申し上げず心の裡に済まぬ事ぢやと思つて居ました、真実に負惜みの強い方ですな』
鬼彦『ウラナイ教の奴は皆アンナ者だよ、向ふ意気の強い、負ず嫌ひばかりが寄つて居るから負た事や弱つた事は知らぬ奴だ、悪と云ふ事も知らず本当に片意地な教だ、負た事を知らぬものに勝負も無ければ、恥を知らぬものに恥はない、人間もああなれば強いものだ、否気楽なものだ、自分のする事は何事も皆善ときめてかかつて居るのだから身魂の立て直しやうがありませぬ哩』
青彦『ヤア私も高姫の強情なには呆れて物が言はれませぬ、沓島で岩蓋をせられた時にも私は消え入るやうな思ひがして、泣くにも泣かれず慄うて居ましたが、高姫は豪気なものです、反対に窮鼠却て猫を咬むやうな談判をやるのですから呆れざるを得ぬぢやありませぬか、漸く田辺に着いたと思へば暗に紛れてドロンと消え失せ、間もなく月の光に発見されて鬼武彦に素首を掴まれ、提げられて長い道中を秋山彦の館まで連れ行かれ、苦しいの、苦しうないのつて、息が切れさうでしたよ、それでも減らず口を叩いて太平楽を並べると云ふ意地の悪い女だから、何処迄押し尻が強いか分つたものぢやない。如意宝珠の玉を大勢の目の前で平気の平左で自分の腹の中に呑み込みてしまひ、終には煙のやうに天井窓から逃出すと云ふ放れ業をやるのだから、化物だか、神様だか、魔だか、素性の知れぬ痴者だ、そして随分口先の達者な事と言つたら燕か雀の親方のやうだ、人には交際つてみねば分らぬが、あの剛腹の態度と弁ちやらとにかかつたら、大抵の男女は十人が九人までやられてしまふ、本当に巧な者だ、其処へまた、も一つ弁舌の上手な黒姫と言ふのが始終後について居つて応援をするものだから、口八丁手八丁悪八丁と言ふ豪の者に作りあげてしまつたのだ。しかしチヤンとこの焼け跡にまたもや新しい小屋が建つて居る、大方黒姫の奴、後追つかけて来よつて焼け跡に小屋を建てて隠れて居るのではあるまいか、何処までも執念深いのはウラナイ教の宣伝使だからな』
鬼虎『一つ調べてやりませうかい』
鬼彦『もし黒姫が居つたら貴様どうする、また舌の先でチヨロチヨロと舐られてグニヤグニヤとなりやせぬかな』
鬼虎『何、大丈夫だよ、鬼虎には鬼虎の虎の巻がある、俺の十一七番を御目に懸けてやるから悠りと見物をせい』
 一同は路傍の恰好の石に腰掛けて休息しながら雑談に耽つて居る。鬼虎は七八間ばかり稍傾斜の道を下り衣懸の松の麓の藁小屋を外からソツと覗き、
鬼彦『ヤア、居るぞ居るぞ、婆が一匹、男が二匹だ、オイ婆ア、貴様は何だ、バラモン教か、ウラナイ教か、ウラル教か、返答致せ』
 小屋の中より、
『エー、八釜しい哩、何処の穀潰しか知らぬが新宅の成功祝で、グツスリ酒を飲みて暖い夢を見て居た処だ、大きな声で目を覚まさしよつてチツト人情を知らぬかい。安眠妨害で告発するぞ』
鬼虎『ヤア、一寸洒落て居やがる、よう牛のやうにツベコベと寝ながらねちねちと口を動かす奴だ、丸で高姫か黒姫みたいな餓鬼だ、改心せぬとまたそれ紅蓮の舌に舐められて、藁小屋は祝融子に見舞はれ全部烏有に帰し、頭の毛や着衣に火が延焼して一本橋から身を投げて寂滅為楽、十万億土の旅立をせにやならぬやうになるぞ』
 小屋の中より、
『何処の奴か知らぬが俺は貴様の今言うた黒姫だよ、名は黒姫でも顔の色はそれ今其処らに降つてる雪のやうに白い雪ン婆のやうな心の綺麗なウラナイ教の宣伝使ぢや、この沢山な雫を掻き別けて寒い寒い山道をうろつく奴は余程ゆきつまつたしろ物と見える哩。今日らの日に彷徨ふ奴は家の無いもののする事ぢや、田螺でも蝸牛虫でも一つは家を持つて居る、家無しのド乞食奴が、何とか、彼とか言ひよつて人の処の家へ泊めて貰はうと思つても……さうは往かぬぞ、しかし魚心あれば水心ありぢや、俺の言ふ事を聞くのなら泊めてやらぬ事は無いわ、それほど寒相に歯の根も合はぬほど、カツカツ慄ふよりもどうぢや、俺の結構な話を聞いて暖い火にあたつて、味の良い濁酒でも鱈腹飲みた方がましだらう、世の中は馬鹿者が多いのでこの雪の降つてピユウピユウと顔の皮が剥けるやうな風が吹くのに、下らぬ宣伝歌を涙交りに謡ひよつても誰が集まつて聞くものかい、後から後からこの雪のやうに冷かされる一方だ、一つ冷静に酒の燗ドツコイ考へて見たがよからうぞ』
鬼虎『アハヽヽヽ、オイ鬼彦、一寸来い、大分にようツベコベ吐す奴ぢや、高姫の二代目が居りよる哩。白姫とか赤姫とか吐す中年増の婆ぢや、一つ此奴を、真名井ケ岳に行く途中の先登として言向け和したら面白からうぞ』
鬼彦『ヤ、さうか、何でも婆の潜みて居さうな藁小屋ぢやと思つた。ドレドレこれから鬼彦が応援に出掛けやうかい』
 雪の中をザクザクと音させながら小屋の側に寄り添ひソツと中を覗き、
鬼彦『ヤア、居る居る、此奴は何時やら見た事のある奴ぢや。随分八釜しい婆ぢやぞ、鈴の化物見たやうな奴ぢや』
鬼虎『鈴か煤か知らぬが何でも黒い名のつくババイババイ婆宣伝使だ。オイ、婆ア、一つ貴様の得意の雄弁を振つて天下分け目の舌鋒戦でも開始したらどうだ、面白いぞ』
婆『オイ、音、勘、酒に喰ひ酔うて何時迄寝て居るのだ、外には貴様に合うたり叶うたりの荷担うたら棒が折れるやうなヒヨツトコ男が来よつて、百舌鳥のやうに囀つて居る、貴様一つ出て舌戦をやらぬかいナ』
音、勘『ムヽヽヽ、ムニヤムニヤムニヤ、アヽア、アー』(寝惚け声で)
婆『エー、じれつたい、欠伸ばかりして夜中の夢でも見てるのかい、もう午時ぢや、早く起きぬか』
音公『午時か猫時か知らぬが二人がグツスリと猫を釣つて、甘い物をドツサリ喰つた夢を見てる時に、アヽ偉い損をした、十七八の頗るのナイスが現はれて、細い白い柔かい手で目を細うして「音さま、一杯」と盃をさしてくれた最中に起されて、エーエ怪つ体の悪い、一生取り返しのならぬ大損害だ、生れてから見た事もないやうなナイスにお給仕をして貰ふ時の心持と言つたら天国浄土に行つても、夢でなくては有りさうもない、アヽア、嬉しかつた嬉しかつた』
婆『オイ、音、何をお前は惚けて居るのだい、チツト確りしなさらぬか、戸を開けて外を見なさい、沢山の耄碌がやつて来て今この黒姫の舌鋒に刺されて、ウラナイ教に帰順せむとする準備の最中だ、サアサア勘公も起きたり起きたり』
 婆はノソリノソリと小屋を立ち出で、
『ヤア誰かと思へば青彦も其処に居るのか、コレヤ、マアどうしたのだ、何時の間に三五教に這入りよつたのだ、宣伝使の服が変つて居るぢやないか、サア早く脱ぎ捨ててウラナイ教の教服と更へるのだよ』
青彦『これはこれは黒姫先生、憚りながら今日の青彦は最早百日前の青彦とは趣が違つて居ますから、その積りで物を言つて貰ひませぬと、某聊か迷惑の至りだよ』
婆『オホヽヽヽ、猫の眼の玉のやうに、よう変る灰猫野郎だな、そこに居る女宣伝使はこの間来た悦子姫と言ふ破れ宣伝使だらう、ソンナ者に従いて歩いて何になるか、チツトお前も物の道理を考へて利害得失を弁へたがよからうぞ、オホヽヽヽ』
勘公『皆さま、ソンナ処へ腰掛けて居らずに、トツトとお這入りなさいませ、内はホラホラ外はスウスウぢや、随分広い間がありますよ』
婆『コレヤ、勘公よ、よう勘考してものを言はぬかい、主人の黒姫にも応へずに僕の分際として勝手にお這入り下さいとはソレヤ何を言ふのか、アンナ者を一緒に入れたら丸で爆弾を詰めたやうなものぢや、何処から破裂致すやら分つたものぢやないぞ』
勘公『爆弾でも何でもよいぢやありませぬか、先方の爆弾をソツと此方へ占領して使ふのが妙案奇策、敵の糧を以て敵を制する六韜三略の兵法でござる、アハヽヽヽ』
婆『お前の兵法は矢張屁のやうな物だ、匂ひも無ければ音もこたへず、音公と同じやうな掴まへ所の無い人三化七ぢや』
音公『これこれ、黒姫のチヤアチヤアさま、音公のやうな者とは、ソレヤ何を証拠に言ふのだ、チヤアチヤア吐すと量見せぬぞ、世界一目に見え透く竜宮の乙姫ぢやぞと、明けても暮れても口癖のやうに自慢して居るが、現在足許に居るこの音さまを誰だと思つて居るのか、明き盲目だな、三五教の宣伝使音彦司とは此方の事だぞ』
婆『音に名高い音彦の宣伝使と言ふのはお前の事か、オツト、ドツコイ、音に聞いたほども無い見劣りした腰抜け野郎だ、水の中でおとした屁のやうな男(音公)だな、こンなガラクタ男が三五教の宣伝使だなぞと本当におとましい哩、生るる時に母親の腹の中で肝腎な、目に見えぬものをおとして来たやうな間抜けた顔付をしよつて、宣伝使の何のつて、雪隠虫が聞いて呆れますぞえ、宣伝使ぢや無うて雪隠虫ぢやらう、オホヽヽヽ』
音彦『エー、仕方のない剛情な婆ばかりウラナイ教には寄つて居やがるな』
婆『きまつた事ぢや、お前も余つ程の馬鹿人足だな、今頃に瘧が落ちたやうな顔しよつて、「剛情な奴ばかりウラナイ教は寄つて居やがるな」なぞとソンナ迂い気の利かぬ事でウラナイ教の間者に這入つたつて何が成功するものか、この黒姫は此奴一癖ある間抜けだと思つて、知らぬ顔で居れば良い気になりよつて何を言ふのだ、貴様の面を見い、世界一の大馬鹿者、三五教の腰抜け野郎と貴様の寝てる間にこの黒姫司が墨黒々と書いて置いた、それも知らずに偉相に言ふな、鍋の尻のやうな面になりよつて、お前も余つ程くろう好きぢやと見える、「心からとて吾郷離れ、知らぬ他国で苦労する」とはお前のやうな馬鹿者の境遇を剔抉して余蘊なしだ、ホヽヽヽ、それに付けても青彦の奴、何の態ぢや、日蔭に育つた瓢箪のやうな面をして結構なウラナイ教の神様に屁をかがしたか、かかさぬか、…………ド拍子の抜けたシヤツ面をこの寒空に曝し、瑞の霊と言ふ冷たい名の付いた奴の教を有難相に聞きよつて、蒟蒻の化物のやうにビリビリ慄ひ歩く地震の化物奴、チツと胸に手を当てて自身の心を考へて見よ』
青彦『大きに憚り様、どうせ青彦と黒姫は名からして色彩が違ふから反が合ませぬ哩。黒い黒い顔に石灰釜の鼬見たように、ドツサリと白粉をコテコテ塗りたて、丸で此処にある焼杭木に雪が積つたやうなものだ。五十の尻を作りよつて白髪を染めたり、顔を塗つたりしたつて皺は隠れはせぬぞ、若い者の真似をして若相に見せやうと思つても雪隠の洪水で糞浮きぢや、汚いばかりぢや、良い加減に改心せぬかい』
婆『俺が顔に白粉をつけて居るのが何が可笑しい、何事も隅から隅まで前にも気をつけおしろいにも手を廻して抜目の無い教と言ふ印に白粉をつけて居るのだ、貴様は尾白い狐に魅まれよつてウロウロとうろついてるのだな、娑婆幽霊の死損なひ奴が』
青彦『娑婆幽霊の死損なひとは貴様の事だよ、人生は僅か五十年、五十の坂を越えよつて白粉をつけて俏した処で地獄の鬼は惚れてはくれはせぬぞ、三途川の鬼婆の姉妹と取り違へられて、冥土に行つてもまた大々的排斥をせらるるのは判を捺したやうなものだ、本当に困つた婆だな、執着心の強い粘着の深い、着いたら離れぬと言ふ牛蝨のやうな代物だ、どうぞして結構な三五教に救うてやりたいと思つて居るのだが、もうかうなりては駄目かな、耳は蛸になり目は木の節穴のやうに硬化してしまひ、口ばつかり無病健全と言ふ代物だから、どうしても見込みがつかぬ哩』
婆『エー、ツベコベと世迷ひ言をよう囀る男だ、初めには三五教が結構だと言つて涙を零し、洟まで垂らして有難がり、次には三五教は薩張り駄目だ、瑞の霊の不可解な行動が腑に落ちぬ、もうもう愛想がつきた、三五教のあの字を聞いても胸が悪いと言ひよつて、この黒姫の紹介でウラナイ教にヤツと拾ひ上げ、もうどうなりかうなり一人歩きが出来るやうになつたと思へばまたもや変心病を出しよつて、「矢張りウラナイ教は駄目だ、先の嬶は嘘はつかぬ哩、三五教の御神力が強い」と、萍のやうな心になつて、風が東から吹けば西に漂ひ、西から吹けば東の岸に漂着すると言ふ漂着者だ、ソンナ事で神様の御蔭が貰へるか、終始一貫、不変不動、岩をも射抜く梓弓、行きて帰らぬ強き信仰を以て神に仕ふるのが万物の霊長たる人間の意気だよ、ようフラフラと変る瓢六玉だ、アヽ可憐相な者だ、ヤア哀なものだなア、オホヽヽヽ』
青彦『何を言ひよるのだ、コラ黒姫、貴様だつて三五教は結構だ、広い世界にコンナ誠の教があらうかと言ひよつて、今迄信じて居たバラモン教を弊履を捨つるが如く念頭より放棄し、今またウラナイ教の高姫の参謀になりよつたと思つて、偉相な事を言ふない。お猿の尻笑ひと言ふのは貴様の事ぢや、オヽそれそれ猿で思ひ出した、猿と言ふ奴はかく事の上手な奴ぢや、貴様は高姫の筆先だとか、何とか折れ釘の行列のやうな、柿のへたのやうなものを毎日、日にち写しよつて、それを唯一の武器と恃み、鬼の首を篦でかき切つたやうな心持になつて、世界中の誠の信者の信仰をかき廻すと言ふ、さるとはさるとは困つた代物だよ、猿が餅搗くお亀がまぜると言ふ事がある、コラ猿婆貴様の舌端に火を吐いて言向け和した信者の持ち場を、青彦の宣伝使がこれからかき廻すのだから、マアマア精出して活動するが良い哩、貴様は三五教の先走りだ、イヤ、もう御苦労のお役だ、霊魂の因縁によつて悪の御用に廻されたと思へば寧ろお気の毒に堪へぬワイ、アヽ惟神霊幸倍坐世、叶はぬから霊幸倍坐世、アハヽヽヽ』

(大正一一・四・一六 旧三・二〇 北村隆光録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web