出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語16-2-111922/04如意宝珠卯 宝庫の鍵王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
秋山彦の館
あらすじ
 高姫と青彦が秋山彦の館に来る。門番と問答して中に入れてもらう。紅葉姫が応対に出るが、席を外したときに、高姫と青彦は冠島、沓島の宝庫の鍵を盗み出して、由良の港から夜の海に漕ぎ出す。
名称
秋山彦 青彦 加米公 銀公 高姫 紅葉姫
悪霊 厳霊 鬼雲彦 鬼武彦 亀彦 国武彦 神素盞鳴大神 英子姫 日の出大神? 曲神 曲津神 曲津見 瑞霊 行成彦? 悦子姫
伊吹山 ウラナイ教 大江山 冠島 沓島 底の国 天眼通 根の国 バラモン教 魔窟ケ原 由良の港
 
本文    文字数=16797

第一一章 宝庫の鍵〔六〇一〕

 神素盞嗚の瑞霊  国武彦の厳霊
 三五教の宣伝使  名さへ目出度き亀彦が
 闇を照して英子姫  悦子の姫と諸共に
 鬼武彦の守護りにて  さしもに猛き曲津神
 鬼雲彦の一族を  言向け和し服従はぬ
 数多の鬼は四方八方に  雲を霞と逃げ散りて
 鬼雲彦は雲に乗り  伊吹の山の方面に
 逃げ失せたりと取り取りの  高き噂を菊月の
 空を照して昇り来る  三五の月の夕間暮
 秋山彦の門前に  現はれ出でたる二人の男女
 覆面頭巾の扮装に  四辺を憚り声低に
 そつと門戸を叩きつつ  頼も頼もと訪へば
 ハツと答へて出で来る  加米公銀公の両人は
 戸の隙間より垣間見て  二人の姿を怪しみつ
 何人なるかと訊ぬれば  声淑やかに答へらく
 我は日の出大神ぞ  行成彦の神の宮
 早く開けさせ給へかし  秋山彦の神司に
 申上ぐべき仔細あり  早く早くと急き立てて
 何とはなしに落ち付かぬ  怪しき風情に加米公は
 口を尖らし呶鳴り立て  日の出神とは心得ぬ
 三五の月の皎々と  上り初めたる夕間暮
 門戸を叩き訪ふは  日暮の神に非ざるか
 行成彦とは嘘の皮  宿を失ひ行詰り彦の
 醜の命の曲神か  門は締めても秋山彦の
 神の司の御館  汝等二人の胸の内
 未だ開かぬ曲津見の  醜の容れもん砕け門
 摺つた門だと申さずに  早く帰るがよからうぞ
 日暮に門を叩く奴  碌な奴ではあるまいぞ
 用事があれば明日来れ  この大門は吾々が
 夜昼寝ずに守る門  大門開きは日の出時
 その日暮しの門番も  日暮の門は開かない
 帰れ帰れと急き立つる。  

高姫『十里四方は宮の内、大門開きの日の出神、一時も早く秋山彦の御大将に、日の出神行成彦の神の御入来と申し伝へよ、門番の分際として門の開閉を拒む事はなるまい、愚図々々致して、後で後悔するな、今宵に迫る当家の大難、救ひの神と現はれた日の出神を何と心得る』
と慄ひを帯びた癇声を張上げ、形相凄じく突立ち居る。
加米公『オイ銀公、一寸覗いて見よ、顔に白粉をべたりとつけて何だか嫌らしい女が一人、青瓢箪のやうな面をした男が一人だ。何でも大変な事がお館にあるので知らしに来たとか、この門開けねば明日になつて後悔をするとか云つて居る、どうしたら好からうかな』
銀公『何と云うても御主人様の云ひつけ、暮六つ過ぎたなら、何人が来ても開ける事はならぬとの厳命だ。ほつとけほつとけ』
加米公『それでも普通の人間ではない、神だとか云つて居るやうだ』
銀公『神にも種々ある、人を喰ふ狼もあれば曲津神もあり、鼻紙、塵紙、尻拭き紙もあるワ、ようかみ分けて判断をせないと後になつて歯がみをなして悔しがらねばならぬ事が出来するぞ、どれどれ一つ俺が覗いて様子を調べてやらう』
 銀公は門の隙間より片目を塞ぎ、片目を当てて覗きながら、
銀公『ハヽヽヽヽ、彼奴ア神に間違ひないが、薑だ、咳嗽や痰の薬なら持つてこいだ。よう何だか耳に口を当てて密々話をやつて居よるワ、あの顔色の青い男はあの女のハズバンドだな、気楽な奴もあればあるものだ、人の門前に立つて意茶ついて居やがる。お月さまに恥かしくは無いだらうかなア』
青彦『モシモシ、御館に対して今夜の中に大事が突発致します、一寸先は闇の夜だ、吾々は天下を助ける宣伝使だ、どうぞ開けて下さい』
銀公『ナヽヽ何を吐すのだ、今夜のやうな明月に、一寸先は闇の夜だとはそれや貴様の心の中の事だらう、用事があらば明日来い。仮令この館に如何なる変事が突発せうとも、貴様の容喙する所ぢやない、トツトと帰れ』
高姫『左様ではございませうが日の出神様より強つての御神勅、何はともあれ秋山彦の御主人にこの由お伝へ下さいませ』
銀公『アヽ仕方がないな、ともかく御主人様に申し上げて来るから、それまで、貴様は此処に待つてけつかりませ、オイオイ加米公、俺が出て来るまで邪が非でも開けてはならぬぞ』
と言ひ捨て奥を目蒐けて駆け出したり。
青彦『もしもし門番さま、早く開けないか、愚図々々して居るとお前の身の上が危ないぞ。根の国底の国へ真逆様に落されると可憐さうだから気をつけてやりたいと神様の御神勅で出て来たのだ』
加米公『神勅でも何でも主人の許しなきまでは開けられぬ、根の国底の国と云ふ地獄に落ちるか知らぬが、地獄の沙汰も金次第だ、もしこの門あけて地獄にでも落ちては困るから、お前さまも何々を出しなさい、さうしたら開けて上げやう、金さへあれば地獄の釜の蓋でも開くと云ふ事、鬼に酒代をやつて地獄を逃れる分別をさせなくてはならぬからサア出したり出したり、惚薬外にないかと蠑螈に問へば指を輪にして見せたげな、蠑螈でさへもそれだもの、同じ水に住む加米公に円いものを出しなさい、そつと開けてやるから』
高姫『サアこれだから瑞の霊の教は悪のやり方だと云ふのだよ、門番までが金取主義ぢや。これこれ青彦さま、この一事を見ても如何に三五教が現金主義、利己主義、吾よしの遣方と云ふ事が分るぢやないか。お前さまもよい加減に目を醒まさぬと瑞の霊に尻の毛が一本も無いところまで抜かれてしまひますぞゑ』
青彦『さうですな、隅から隅まで抜け目のないお前さまと思つて居たのに、三五教はも一つ哥兄ですなア』
加米公『エヽ、愚図々々と出し惜みをする奴だなア、何処の宣伝使か知らぬが、三五教が銭払ひがよい、吾々のやうな門番のやくざものでも、此方から何も云はぬに小判の二枚や三枚はそつと懐中に入れてくれる、此奴はウラナイ教と見えて此方から露骨に請求しても出しやがらぬ吝嗇坊だ、それだから三五教の信者を自分が苦労もせずに掻き落しに廻つてウラナイ教に入れる事ばかり考へて居やがるのだ。オイオイ二人の宣伝使、忘れものはないか、何かお前は忘れて居るだらう、渡し船に乗つてもはし銭が要るぢやないか、門を潜るのに何々で潜ると云ふ法があるか、エヽ気の利かぬ宣伝使ぢやな、銀公の奴が居らぬ間に一つ権兵る積りで居たのに、先方が気の利かぬドンベイだから成功覚束なしと云ふものだ』
 かかる所へ銀公は走り来り、
『ヤア加米公、御主人の申つけだ、直に門を開いてお通し申せ』
『アヽさうか』
と閂を外し左右に開いて声を変へ、
加米『アヽこれはこれは立派な立派な御神徳のありさうな二人の宣伝使様、私は奥に急用あつて居りませなかつたものだから家来の奴、摺つた門だと理屈を申し、吝嗇な事を申してお金を強請つたさうでございます、決して、当家は三五教の信者ですから、上から下まで清浄潔白お金などは手に触れるのも汚がつて居るものばかりです、この頃傭うた門番が一人ございまして、其奴が今迄バラモン教の信者であつたものですから、二つ目にはお金の事を申しまして恥かしうございます、決して私が申たのではございませぬ、悪しからず、御主人にお会ひになつても加米公が云つたのではないと弁解して置いて下さい、兎角誤解の多い世の中、清浄潔白の加米公までが、門番の傍杖を喰つて痛くない腹を探られるのも余り心持の好い門ぢやございませぬ』
と初めの作り声をいつしか忘れて元の地声になつてしまひける。
高姫『ホヽヽそれでも貴方のお声が好く似てますナア、初の方は違ふ方かと思ひましたが、矢張最前のお声の持主、ようマアお化け遊ばすなア、大化物の瑞霊の乾児だけあつて化ける事は奇妙なものだ。ホヽヽヽヽ』
 加米公はまたもや作り声になつて、
『イエイエ決して決して、初の内は私の地声でございました、中途に新米門番の生霊が憑きやがつて云つたのです、それで新米門番其儘の声が出ました。アハヽヽヽ』
と笑ひに紛らさうとする。
銀公『アハヽヽヽ、地獄の沙汰も加米次第だな』
加米公『地獄の沙汰も加米と銀公とで埒が明く世の中だ。アハヽヽヽ、サアサアお二人のお方、トツトとお入り遊ばせ』
 二人は定つた事だと云はぬばかりに大手を振り大股に意気揚々として、のそりのそりとのさばり行く。二人は玄関にヌツと立つて家の様子を覗き込むやうな、覗かぬやうな体に聞き耳立てて居る。玄関の障子をさつと開いて現はれ出でたる一人の男、
『オー貴方は高姫さま、青彦さま、この間は豪いお気の毒な御災難がございまして、その後一度お見舞に参らうと思つては居ませぬが、随分お火傷なさいましたさうで、水責、火責、煙責、眼から火の出の神様、青息吐息の顔真青な青彦さま、ようマア態々、お尋ね下さりやがつた。マアマア御遠慮がありますれば、御用事無く、とつとと入りやがるな』
と云ふかと見ればプスリと姿は消えにける。二人は玄関に立ちながら、
高姫『これだから化物教だと云ふのだよ、青彦さま、これだから私に随いて実地教育を受けねば駄目だと云ふのだよ、日の出神の眼力は違やしよまいがな』
青彦『本当にさうです、いやもう恐れ入谷の鬼子母神ですワ』
高姫『ソンナ剽軽な事を云うてはなりませぬ。お前もどうやらすると瑞の霊の悪霊に憑依されたと見える、些と確りなさらぬかい』
 この時奥の方より紅葉姫は淑やかにこの場に現はれ、
『これはこれはお二人のお方、夜中にお越し下さいましたのは何か変はつた事が在すのではございませぬか、ともかくお上り下さいまして御休息の上、御用の趣仰せ聞け下さいませ』
高姫『左様ならば遠慮なく御免蒙ります、サア青彦、貴方も随いて来なさい、随分気をつけて油断せぬやう眼を八方に配るのだよ』
紅葉姫『私方は三五教の信者、善の道を遵奉するもの、御心配下さるな、滅多に陥穽もありませぬ、また地の底に魔窟ケ原のやうな隠れ場所も造つてはございませぬ、マア悠くりと、安心して胴を据ゑて下さいませ』
高姫『この間は御主人様はお気の毒な事でございましたなア、どうぞ霊様なりと拝まして下さい、三五教を信仰なさつても矢張悪魔には叶はぬと見えます、大江山の鬼雲彦の部下に捕へられ嬲殺しにお遭ひなさつたさうだが、私が聞いても涙が澪れる、况して女房の貴女、御愁傷のほどお察し申します』
と、そつと目に唾をつけ、オンオンと空泣きに泣き立てる。青彦はポカンとして紅葉姫の顔を見詰めて居る。高姫は青彦の裾をそつと引き、泣き真似をせよと合図をする、青彦は些しも合点行かず、
『エ何ですか、私の着物に何ぞ着いて居りますか、甚う引つ張りなさいますな』
紅葉姫『オホヽヽヽ、それは御親切有難うございます、私の主人は無事帰つて参りました、これも全く三五教の御神徳でございます、余り三五教の勢力が強いので嫉み猜みから、ウラナイ教とやらが出来て、其処ら中を掻き廻して歩くと云ふ事でございます、よう人の真似の流行る世の中、人が成功したからと云うて自分がその真似をして向ふを張らうと思つても、身魂の因縁性来で到底思惑は立つものぢやありませぬ、貴女はウラナイ教の宣伝使とお見受致しますが、一体ウラナイ教はドンナ教でございますか』
高姫『三五教はあれは元は好かつたが、今は薩張り駄目です、三五教の誠生粋の根本は、日の出神の生宮、この高姫が何もかもこの世の開けた根本の初りから、万劫末代の世の事、何一つ知らぬと云ふものはないウラナイ教です、それだから誰にも聞かずにお家の御主人秋山彦様の御遭難もチヤンと分つて居るのです、ナンとウラナイ教は立派なものでせうがナ』
紅葉姫『死ンでも居ない吾夫秋山彦を死人扱ひなさるのは、如何にも好く分つた偉い神様ですなア、秋山彦はピンピンして居りますよ』
高姫『それは貴女身魂の因縁をご存じないからソンナ理屈をおつしやるが、三五教で一旦大江山に囚はれ死ンだ処を、この高姫が日の出神の水火を遠隔の地よりかけて、神霊の注射をやつたから生返つたのだよ、サアこれからは心を改めてウラナイ教に改宗なされ』
紅葉姫『朝日は照るとも曇るとも、月は盈つとも虧くるとも、仮令大地は沈むとも、三五教は世を救ふ、誠の神の御教、ウラナイ教はどうしても虫が好きませぬ、合縁奇縁蓼喰ふ虫も好き好き、えぐい煙草の葉にも虫がつく、改宗するのは見合しませう、いや絶対に嫌ですワ、ホヽヽヽヽ』
 奥の方より秋山彦の声がして、
『紅葉姫紅葉姫』
と聞え来る。
『ハイ』と答へて紅葉姫は二人に軽く会釈して奥の間さして進み入る。
 二人は紅葉姫の後姿を目送しながら眼を転じて額を見れば、額の裏に鍵の端が現はれて居る。高姫は立上り、手に取り見れば冠島沓島の宝庫の鍵と記されてある。高姫はニヤリと笑ひ、これさへあれば大願成就と手早く懐中に捻込み素知らぬ顔、青彦はがたがた慄ひ出し、
青彦『もしもし高姫さま、ソヽそれは何と云ふ事をなされます、当家の什物を貴女の懐中にお入れ遊ばすとは合点が参りませぬ』
高姫『シーツ、エヽ融通の利かぬ男だな、日の出神の御命令だ、此家に冠島沓島の鍵を持つて居る事は天眼通でチヤンと睨みてある、これをかぎ出すためにやつて来たのだよ、サアサア今の中に夜に紛れて此処を立ち去り船を拵へ冠島に渡りませう』
と先に立つて行かむとする。
青彦『一応当家の方々に御挨拶を申上げねばなりますまい、何だか心懸りでなりませぬわい』
高姫『エヽ合点の悪い、愚図々々して居る時ぢやない、時期切迫間髪を容れずと云ふこの場合だ。大功は細瑾を顧みず細君は夫を顧みず、神国成就のために沐雨櫛風、獅子奮迅の大活動早くござれ』
と裏門よりそつとこの家を逃出したり。秋山彦邸内の者は一人として二人の者の逃走せし事に気が付かざりける。二人は由良の港に駆けつけ一艘の小船を○○し、青彦は艪を操り、高姫は櫂を漕ぎ一生懸命月照る海原を漕ぎ出したりける。

(大正一一・四・一五 旧三・一九 加藤明子録)



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