出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語16-1-81922/04如意宝珠卯 衣懸松王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
大江山の魔窟ケ原
あらすじ
 鬼武彦に閉じ込められた者のうち、ウラナイ教の高姫と青彦は、童子ヶ淵の抜け穴から外に出た。
 高姫は青彦に「改心といふことは、神素盞嗚尊の誠の教えを、嘘だ嘘だと言って、その教え子を虱糊殺しに食い殺し、そっと舌を出して、会心の笑みを漏らすという謎」だと教える。
 高姫と青彦の二人は、衣懸松の隠れ家に向った。一方、鬼雲彦が大群を率いやってきて、部下が巌窟に閉じ込められているのを見つけ、大石を取り除かせるが石は動かなかった。そこへ、亀彦・英子姫・悦子姫がやってきて、言霊を発射したので、鬼雲彦一行は耐え切れず、大江山へ逃げ帰った。
 その後、亀彦、英子姫、悦子姫のところへ高姫と青彦がやってきて、「ウラナイ教の教えを話すから」と言って隠れ家に来ることを勧める。一行が隠れ家に行くと、その家は燃えている。

***米国暗示***
 「副守護神か、伏魔か知らぬが、米々とよく囀って人の虚に侵入せむとする天晴れの手腕、天の星をガラツやうな御説教、旅の憂さを散ずるため聴かして貰いませう。」
名称
青彦 鬼雲彦 亀彦 高姫 英子姫 悦子姫
悪魔 王仁 鬼彦 大八州彦命 お睦婆 国武彦 権兵衛 素盞鳴尊 常世姫 日の出神の生宮? 白蓮 副守護神 変性男子 変性女子 魔神 魔軍 瑞の御魂 行成彦命?
天津祝詞 天の岩戸 天の数歌 一厘の仕組 ウラナイ教 ウラル教 エルサレム 大江山 大八州 衣懸松 執着心 神界 神政 千座の置戸 童子ケ淵 バラモン教 宮垣内 日本魂 霊光
 
本文    文字数=21744

第八章 衣懸松〔五九八〕

 大江山の本城に間近くなつた童子ケ淵の傍に現はれ出でたる二人の男女、またもや地中より這ひ出でて、岩戸の入口を打眺め、
青彦『ヤア高姫さま、何時の間にか、吾等が入口を、かくの如き千引の岩を以て塞ぎよつたと見えます。幸ひ脱け穴よりかうして出て来たものの、万一この穴がなかつたならば吾々は三五教に魂を抜かれた鬼彦一派の奴と共に、徳利詰に遭つて滅びねばならない所であつたのです。何とかして、この岩を取り除けたいものですな』
高姫『オホヽヽ、これ全くウラナイ教の神様の御守護でございませう。何れまた時節到来せば、この岩は春の日に氷の解けるが如く消滅するであらう。瑞の御魂の変性女子が悪戯を致しよつたに相違なからふ。必ず心配に及びますまい』
青彦『さうだと言つて、この巨大なる岩石が、どうして解けませうか。押したつて、曳いたつて、百人や千人の力では、ビクとも致しますまい』
高姫『あのマア青彦さまの青ざめた顔ワイなあ、これ位な事に心配致すやうでは、神政成就は出来ますまい。あなたも聖地ヱルサレムに現はれた行成彦命と化けた以上は、モウ少し肝玉を大きうして下さいや』
青彦『ぢやと申して、この岩を取り除けなくては、再び吾等は地底の巌窟に出入する事は出来申さぬ。出る事はヤツトの事で、胸の薄皮を摺剥きながら出て来ましたが、這入るのは到底困難です。早速の間に合ぢやありませぬか。鬼雲彦の大勢力を以て、今にもこの場に現はれ来るとあらば、吾々は如何致すでござらう、吁、心許ない今の有様』
と悄気返る。高姫はカラカラと打笑ひ、
『ホヽヽヽ、マア阿呆正直な青彦さま、顔から首まで真青にして、慄うて居るのか、それだから、世間からお前は青首だと言はれても仕方があるまい。チト確乎なさらぬか、鬼雲彦が何恐ろしい』
青彦『それでも鬼雲彦はバラモン教の大棟梁、彼奴が恐さに、万一の時の用意と、此処に巌窟を掘つておいたのではなかつたのですか』
高姫『一旦はさう考へたが、最早今日となつては、何事もこの高姫が胸中の策略を以て、鬼雲彦も大半此方の者、あまり心配するものでない。お前もチツトは改心を致して、鬼心になつたがよからう』
青彦『イヤ、そのやうな悪魔に与するならば、吾々は真つ平御免だ、今日限りお暇を頂きませう』
高姫『オホヽヽヽモウこうなつては、逃げようと云つたつて、金輪奈落、逃がすものか、チヤンと、湯巻の紐でお前の知らぬ間に、体も魂も縛つて置いた。逃げようと云つたつて、どうも出来まい、逃げるなら、勝手に逃げて御覧うじ、妾の掛けた細紐は、鉄の鎖よりもまだ強い、女の髪の毛一筋で大象でも繋ぐと云ふではないか。それさへあるに下紐を以て結び付けた以上は、ジタバタしてもあきませぬ。ホヽヽヽ』
青彦『わたしは今迄、あなたの教は、三五教以上だ、変性女子の御霊をトコトン懲しめ、部下の奴等を一人も残らず、ウラナイ教の擒に致し、善に導き助けてやらうと思つて居たのに、これやまた大変な当違ひ、善か悪か、あなたの本心が聞きたい』
高姫『善に見せて悪を働く神もあれば、悪に見せて善を働く神もある。善悪邪正の分らぬやうな事で、よう今迄妾に随いて来た、………愛想が尽きた身魂ぢやなア、ホヽヽホーホ』
青彦『さうすると、ウラナイ教は、善に見せて悪を働くのか、悪に見せて善を働くのか、どちらが本当でござる』
高姫『エー、悟りの悪い、悪と言へば何事に係はらずキチリキチリと埒の明く人間の事だ。善と云へば、他人の苦労で得を取る、畢竟御膳を据ゑさして、苦労なしに箸を取ることだ』
青彦『益々合点が往かぬ、あなたの仰せ……』
高姫『善に強ければ悪にも強い、此方は仮令善であらうと、ソンナ事に頓着はない、盗人の群に捕手が来たら、その捕手は盗人からは大悪人ぢや、コツソリと博奕を打つて居るその場へポリスが踏み込んで来た時は、博奕打から見たら、そのポリスは大悪人だ。お前と妾と暗の夜に橋の袂でヒソヒソ話をして居る所へ、三五の月が雲の戸開けて覗いた時は、その月こそ吾等のためには大の悪魔だ。これ位の事が分らいで、ウラナイ教がどうして開けるか。全然これから数十万年未来の十七八世紀の人間のやうな事を思つて居らつしやる。せめて十九世紀末か、二十世紀初頭の、善悪不可解の人間に改善しなさい。エーエー悟りの悪い。……一人の神柱を拵へるのにも骨のをれた事だ。若い時から男性女と云はれたるこの高姫が、心に潜む一厘の仕組、言うてやりたいは山々なれど、まだまだお前にや明かされぬ、エーエー困つた事になつたワイ』
 青彦双手を組み、しばし思案にくれて居る。
高姫『アヽ仕方がない、コンナ分らぬ神柱を相手にして居ると、肩が凝る。エー仕方がない。サアサア衣懸松の麓の妾が隠れ家に引返して、酒でも飲みて機嫌を直し、ヒソヒソ話の序に、誠の事を知らしてやらう。さうしたら、チツとはお前も改悪して胸が落着くであらう。改心と云ふ事は、神素盞嗚尊の誠の教を、嘘だ嘘だと言つて、その教子を虱殺しに喰ひ殺し、そつと舌を出して、会心の笑を漏らすと云ふ謎だよ。お前もまだ悪が足らぬ、飽くまで改心……ドツコイ……慢心するがよい。慢心の裏は改心だ、改心の裏は慢心だ、表教の裏はウラル教、表と裏と一つになつて、天地の経綸が行はれるのだよ』
青彦『エー益々訳が分らなくなつた。さうすると貴女は迷信教を開くのだな』
高姫『さうだ、迷信とは米の字に、辵をかけたのだ。米の字は大八洲の形だよ、大八洲彦の命の砦に侵入して、信者をボツタクるから、所謂迷信教だ。オホヽヽヽ、迷うたと云ふ言葉は、悪魔の魔を呼ぶと云ふ事だ。それに三五教の奴は馬鹿だから、迷うたと云ふのは、誠のマに酔ふのだなどと、訳の分らぬ事を言つてゐよる、嗚呼迷信なる哉、迷信なるかなだ』
青彦『ますます迷宮に入つて来た』
高姫『定まつた事だ。米の字に因縁のある所に建てたお宮に立てこもつた吾々は、迷宮に居るのは当然だ。三五教の素盞嗚尊は、よつぽど、馬鹿正直な奴だ、世界のために千座の置戸を負ひよつて、善を尽し、美を尽し、世界から悪魔だ、外道だと言はれて、十字架を負ふのは自分の天職だと甘ンじて居る、コンナ馬鹿が世界にまたと一人あるものか、世界の中で馬鹿の鑑と云へば、調子に乗つて木登りする奴と、自ら千座の置戸を負ふ奴と、広い街道を人の軒下を歩いて、看板で頭を打つて瘤を拵へて吠える奴位が大関だ。……鬼雲彦も余つ程馬鹿だ。初から悪を標榜して悪を働かうと思つたつて、ナニそれが成功するものか、智慧の無い奴のする事は、大抵皆頓珍漢ばつかりだよ。善悪不二、正邪同根と云ふ真理を知らぬ馬鹿者の世の中だ。青彦、お前も大分素盞嗚尊に被れたな、世の中は何事も裏表のあるものだよ、ゴンベレルだけ権兵衛り、ボロレルだけボロつて、その後は、白蓮るのが賢い行方だ。お前も余つ程よい青瓢箪だなア』
と、ビシヤリと額を叩く。
青彦『ヤアどうも意味深長なる御説明恐れ入つてございます。モウこうなる上は、どうならうとも、あなたにお任せ致しますワ』
高姫『アヽさうぢや さうぢや、さうなくては信仰は出来ない。信仰は恋慕の心と同じ事だ、男女間の恋愛を極度に拡大し、宇宙大に拡めたのが信仰だ。恋に上下美醜善悪の隔ては無い、よいか、分かりましたか』
青彦『ハイ、根つから……よく分りました』
高姫『エー怪体な、歯切れのせぬ、古綿を噛むやうな、歯脱けが蛸でもシヤブルやうな返辞だなア、オホヽヽヽ、何はともあれ、衣懸松の隠れ家へ行きませう』
と先に立つてスタスタとコンパスの廻転を初める。青彦は不性不性に随いて行く。
 最前現はれた鬼雲彦の使の魔神、五人の男は先に立ち、数多の魔軍を引連れて、此方を指して進み来る。忽ち聞ゆる叫び声、右か左か後か前か、何方ならむと窺へど、姿は見えず声ばかり、足の下より響き来る。鬼雲彦は栗毛の馬にチリンチリンのチヨコチヨコ走り、馬を止めて大音声、
『ヤアヤア者共、この岩石を取除け。…この地底には宏大なる岩窟がある、ウラナイ教の宣伝使高姫、青彦の二人、数多の人々と共に隠れ忍ぶと見えたり。早くこの岩石を取除けよ』
と呶鳴り立つれば、数多の魔神はこの巨岩に向つて、牡丹餅に蟻が集つたやうに、四方八方より武者振り付く。然れども幾千万貫とも知れぬ、小山の如き岩石に対して、如何ともする事が出来ざりけり。鬼雲彦は気を焦ち、自ら駒を飛び下りて、人の頭髪を以て綯へる太き毛綱を持出し来り、巌に引つかけ、一度に声を揃へて、エーヤエーヤと曳きつける。曳けども、引けども、動かばこそ、蟻の飛脚が通るほども、岩は腰を上げぬ。中より聞ゆる数多の人声刻々に迫り来る。かかる所へ天地も揺るぐばかりの大声を張上げながら、宣伝歌を歌ひ、十曜の手旗を打振り打振り進み来る一男二女の宣伝使ありき。
亀彦『ヤアヤア鬼雲彦の一派の奴輩、最早汝が運の尽き、吾れこそは三五教の宣伝使、万代祝ふ亀彦、暗夜を照らす英子姫、悦子姫の三人なるぞ。一言天地を震動し、一声風雨雷霆を叱咤するてふ三五教独特の清き言霊を食つて見よ』
と云ふより早く、天の数歌を謡ひ上げつつ、三人一度に右手を差出し食指の先より五色の霊光を発射して、一同にサーチライトの如く射照せば、流石の鬼雲彦も馬を乗り棄て、転けつ、輾びつ一生懸命、大江山の本城指して雲を霞と逃げて行く。
亀彦『アハヽヽヽ』
二女『ホヽヽヽヽ』
亀彦『ヤア面白い面白い、彼れが鬼雲彦の大将、我言霊に畏縮して逃散つたる時の可笑しさ、イヤもう話にも杭にもかかつたものでござらぬ。これと申すも全く、神素盞嗚大神の尊き御守り、国武彦の御守護の力の致す所、先づ先づ此処で一服仕り、天津祝詞を奏上し、神界に対し御礼を奏上し、ボツボツと参りませう。今日は九月九日菊の紋日、是が非でも、今日の内に悪神を言向け和さねばなりますまい。六日の菖蒲十日の菊となつては、最早手遅れ、後の祭り、ゆるゆると急ぎませう』
 茲に三人は巨岩の傍に端坐し、天津祝詞を奏上したりしが、祝詞の声は九天に響き、百千の天人天女下り来つて、音楽を奏づるかと疑はるるばかりなり。祝詞の声は山また山、谷と谷との木霊に響き、悪魔の影は刻々と煙となつて消ゆるが如き思に充たされける。
亀彦『サアサア御二方、ゆつくりと休息を致しませう』
英子姫『大変に足も疲労を感じました。休息もよろしからう』
悦子姫『ゆつくり英気を養つて、またもや華々しく言霊戦を開始しませう』
 茲に三人は手足を延ばし、芝生の上に遠慮会釈もなく、ゴロリと横たはりぬ。後の方より震ひを帯びた疳声を張上げながら、
『オーイオーイ』
と呼ばはりつつ、此方を指してスタスタと息をはづませやつて来るのは男女の二人、
亀彦『ヤア何だか気分の悪い、亡国的悲調を帯びた声がする。あの言霊より観察すれば、どうで碌な神ではあるまい。ウラル教的声調を帯びて居る。……モシ英子姫様、一寸起きて御覧なさいませ』
 英子姫はムツクと立上がり、後を振返り眺むれば、顔を真白に塗り立て、天上眉毛の角隠し、焦茶色の着物を着流した男女の二人、忽ちこの場に現はれて、
女『これはこれは旅の御方様、斯様な所で御休息なされては、嘸やお背が痛うございませう、少し道寄りになりますが、妾の宅へお越し下さいますれば、渋茶なりと差上げませう。あの衣懸松の麓に出張致す者、どうぞ御遠慮なくお出で下さいませ。あなたのお姿を眺むれば、どうやら三五教の宣伝使とお見受け申す。妾等も三五教には切つても切れぬ、浅からぬ因縁を持つて居る、実地誠の事は、常世姫の霊の憑つたこの肉体、日の出神の生宮にお聞きなさらねば、後で後悔して、地団駄踏みても戻らぬ事が出来まする。あなたは三五教の教をお開きなさるのは、天下国家のため、誠に結構でございまするが、しかしながら三五教の教は国武彦命が表であつて、素盞嗚尊は緯役、邪さの道ばつかり教へる。天の岩戸を閉める、悪の鑑でございまする。根本のトコトンの一厘の仕組は、この高姫が扇の要を握つて居りますれば、マアマア一寸立寄つて下さい。本当の因縁聞かして上げませう。他人の苦労で徳を取らうと致す素盞嗚尊の教は駄目ですよ。三五教の教は国武彦の神がお開き遊ばしたのだ。本当の事は系統に聞かねば分りませぬ。サアサア永い暇は取りませぬ。どうぞお出で下さりませ』
亀彦『私はお察しの通り三五教の宣伝使、しかしながら、あなたとは反対で、国武彦の教は嫌です、緯役の素盞嗚尊の教が飯より好、お生憎様ながら、どうしても、あなたと私は意向が合はぬ。真つ平御免蒙りませう、ナア英子姫さま、悦子姫さま』
英子姫『ホヽヽヽ、亀彦さま、物は試しだ、一服がてらに聞いてやつたらどうでせう』
 高姫眉を逆立て、口をへの字に結び、グツと睨み、しばらくあつて歯の脱けた大口を開き、
『サアそれだから、瑞の御霊の教は不可ぬと云ふのだよ。女の分際として、今の言葉遣ひは何の態、……ホンニホンニ立派な三五教ぢや、ホヽヽヽ。コレコレ青彦さま、お前もチツト言はぬかいな、唖か人形のやうに、知らぬ顔の半兵衛では、三五教崩壊の大望は…………ドツコイ………三五教改良の大望は成就致しませぬぞや』
青彦『何れの方かは存じませぬが、吾々も元は素盞嗚尊の教を信じ、三五教に迷うて居ました。しかしながらどうしても変性女子の言行が腑に落ちぬので、五里霧中に彷徨ふ折から、変性男子のお肉体より現はれ給うた日の出神の生宮、誠生粋の日本魂の高姫さまのお話を聞いて、スツクリと改心致しました。あなたも今は変性女子に一生懸命と見えますが、マア一寸聞いて見なさい、如何な金太郎のあなたでも、訳を聞いたら変性女子に愛想が尽きて、嘔吐でも吐き掛けたいやうになりますぜ。物は試しだ、一つ行きなさつたらどうですか』
亀彦『ソンナラ一つ聴いてやらうか』
高姫『聴いて要りませぬ、誠の道を教へて、助けて上げようと、親切に言つて居るのに、聴いてやらうとは、何たる暴言ぞや。どうぞお聴かせ下され………と何故手を合はしてお頼みなさらぬか』
亀彦『アハヽヽヽ、お前の方から聴いてくれいと頼みたぢやないか、それだから、研究のために聴いてやらうと言つたのが、何が誤りだ。エーもう煩雑くなつた。ご免蒙らうかい』
高姫『妾がこれと見込みた以上は、どうしても、かうしても、ウラナイ教を、腹を破つてでも、叩き込まねば承知がならぬ、厭でも、応でも、改心させる。早く我を折りなされ、素直にするのが、各自のお得だ。あいた口が塞まらぬ、キリキリ舞を致さなならぬやうな事が出て来ては可哀相だから、……サアサア早う、日の出神の生宮の申す事を、耳を浚へて聴いたがよからう』
亀彦『アハヽヽヽ』
英子姫『オホヽヽヽ』
悦子姫『ホヽヽヽヽ』
高姫『何ぢや、お前さま等は、この日の出神の生宮を馬鹿にするのかい』
亀彦『イエイエ、どうしてどうして、あまり勿体なくて、見当が取れなくなつて、面白笑ひに笑ひました。笑ふ門には福来る。副守護神か、伏魔か知らぬが、米々とよく囀つて人の虚に侵入せむとする、天晴の手腕、天の星をガラツやうな御説教、旅の憂さを散ずるため聴かして貰ひませう』
高姫『サアサア神政成就、日本魂の根本の一厘の仕組を聴かして上げよう………エヘン……オホン……』
と女に似合はぬ、肩を怒らし、拳を握り、大手を振り、外輪に歩いて、ヅシンヅシンと、衣懸松の麓を指して跨げて行く。三人は微笑を泛べながら、青彦を後に従へ伴いて行く。
 衣懸松の麓に近寄見れば、些やかなる草屋根の破風口より黒烟、猛炎々々と立ち昇る。高姫はこの態を見てビツクリ仰天、
高姫『ヤア火事だ火事だ、サアサア皆さま、火を消して下さい』
亀彦『煙は猛炎々々と立上れ共、家はヤツパリ燃えると見える。お前さまの腹の中もこの通り紅蓮の舌を吐いて燃えて居るであらう、霊肉一致、本当に眼から火の出神の生宮だ、アハヽヽヽ』
高姫『ソンナ事は後で聞いたらよろしい。危急存亡の場合、早く助けて下さい、水を掛けなされ』
亀彦『ヤア大分最前から問答もして来た。水掛論は良い加減に止めて貰はうかい、舌端火を吐いた報いに、家まで火を吐いた。人を烟に巻いた天罰で、家まで烟に巻かれよつた。天罰と云ふものは恐ろしいものだ。マアゆつくり高姫さまの活動振を見せて貰ひませう。雪隠小屋のやうな家が焼けた所で、別に騒ぐ必要もなからう。人の飛出した空の家が焼けるのだ。高姫さまは雪隠の火事で糞やけになつて居らうが、此方は高見の見物で、対岸の火災視するとはこの事だ。一切の執着心を取るためには、火の洗礼が一番だ、これで火の出神の神徳が完全に発揮されたのだ。ナア高姫さま、あなたの……これで御守護神が証明されると云ふものだ。お喜びなさい』
高姫『エー喧しいワイ、何どこの騒ぎぢやない、グヅグヅして居ると、皆焼けてしまわア、中へ這入つて、燗徳利なと引つ張り出してくれい。コレコレ青彦、何して居る、火事と云ふのは家が焼けるのだ、水が流れるのは川だ、目は鼻の上に在る』
と狼狽へ騒いで半気違になり、摺鉢抱へて右往左往に狂ひ廻る可笑しさ。瞬く間に火は棟を貫き、バサリと焼け落ちた。高姫、青彦は着衣の袖を猛火に嘗められ、頭髪をチリチリと燻べながら、一生懸命に走りゆく。火は風に煽られて益々燃え拡がる。警鐘乱打の声、速大鼓の音頻りに聞え来る、二人は進退谷まり、丸木橋の上より青淵目蒐けて、井戸に西瓜を投げたやうに、ドブンと落込みしが、この音に驚いて目を覚せば、宮垣内の賤の伏屋に、王仁の身は横たはり居たり。堅法華のお睦婆アが、豆太鼓を叩き鐘を鳴らして、法華経のお題目を唱へる音かしまし。

(大正一一・四・一四 旧三・一八 松村真澄録)



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