出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語16-1-71922/04如意宝珠卯 空籠王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
大江山の魔窟ケ原
あらすじ
 (白狐の)秋山彦の宣伝歌に、鬼虎、熊鷹、鬼彦、石熊他の面々は心の底より前非を悔いて改心の情を示した。鬼雲彦の部下が迎えにやってきたが、囚われていた(白狐の)素盞嗚尊達はいなくなっていた。
 鬼彦は、「自分たちは三五教に帰順したので、大江山に戻り鬼雲彦を改心させる」と言うが、バラモン教の仲間の問いに言葉を濁す。
 一行は一緒に大江山に帰ることになったが、その途中で高姫と青彦に誘われて巌窟に入った。そこを、鬼武彦が穴の入口に大石を置いて塞いでしまった。
名称
秋山彦? 青彦 石熊 鬼武彦 鬼虎 鬼彦 亀彦? 国武彦? 熊鷹 高姫
悪魔 鬼雲彦 邪人 素盞鳴尊 八岐大蛇
天津祝詞 大江山 言霊 天国楽園 バラモン教 魔窟ケ原
 
本文    文字数=11498

第七章 空籠〔五九七〕

 秋山彦が心籠めたる宣伝歌に鬼彦、鬼虎、石熊、熊鷹その他の面々は心の底より前非を悔い、一行の前に鰭伏して両手を合せ、覚束なき言霊の息を固めて秋山彦の後につき天津祝詞を奏上し、宣伝歌を唱へ帰順の意を表したりけり。
鬼彦『素盞嗚尊様を始め御一同の方々に御礼申し上げます、吾々の如き悪魔の容器赦し難き罪人の危難をお救ひ下され、その上にも大慈大悲の大神の大御心を以て身体不自由の吾々をお助け下されし御志何と御礼を申し上げてよろしいやら、今後は心の底より悔い改めます、サアサ何卒一刻も早くこの場を御立退き下さいませ、この魔窟ケ原をズツト奥へ進みますれば愈鬼雲彦の岩窟の棲家、また立派なる本城がございまする、其処へ参れば数多の邪人共手具脛引いて待ち構へ居れば、如何に勇猛なる貴神様も多少御苦みの事と存じますれば、吾々の言葉をお用ひ下さいまして、何卒この場より御逃れ下さいますよう』
と真心を面に表はして忠告する。亀彦は揶揄半分に、
『ホー鬼彦の大将、随分智慧がよく廻るぢやないか、親切ごかしに吾々の勇将を撃退し暫時の猶予を貪らむとする猾い計略、今此処において吾ら一行を苦めむとせし処、天罰立所に致り過つて味方の石弾、征矢に中り零敗の大見当違ひを演じ懲り懲りしたと見えるワイ。しかしながら吾々は決して婆羅門教の如く、否鬼雲彦の如く善の仮面を被り天下を攪乱せむとするものに非ず、これより鬼雲彦に面会し彼をして汝等の如く心の底より悔い改めしめねばならぬ、今よりは吾々一行を旧の如くに高手小手に縛め、御苦労ながら、この網代籠に乗せて担いで行つてくれよ』
鬼彦『イヤ滅相な、貴神等の如きお方を本城へ迎へ入れるが最後、天地転動の大騒動、大江山の城内は乱離骨灰、落花微塵の惨状を演出するは明鏡の物を照して余蘊なきが如しであります、何卒々々この場をお引き取り下さいませ』
亀彦『貴様は矢つ張り鬼雲彦の贔屓を致して居るな、ヤア感心々々、一旦大将と恃みた者に対してそれだけの心遣ひを致すは人間の真心の発露である。しかしながら此処迄思ひ立つたる吾々の心中、中途に駒の頭を立て直す事は男子として忍び難き処だ、どうしても聞かねば吾々はこれより強行的行脚を続け大江山の本城に立向ふであらう』
とそろそろ歩み初めたれば、鬼彦は泣声を出し、
『モシモシ、タヽヽヽ大変でございます、如何に貴神方が英雄なればとて多勢に対する無勢、御苦戦のほどお察し申す』
と真心より止める。部下の一同は驚異の面相を陳列して鬼彦の顔をうち衛り居る。
亀彦『何だ、女々しい事を言ふな、貴様も鬼雲彦の左守とまで言はれた男じやないか、それに何ぞや、亡国的哀音を立て絶望的悲調の涙を湛へて吾々を止めむとするはその意を得ない、これには何か深き謀計のある事ならむ、吾等一行は自由自在に山中徒歩の権利を有す、サアサ御一同様、進みて参りませう。仮令鬼雲彦百万の大軍を擁し防ぎ戦うともこの亀彦がただ一人あれば沢山なり。強風の砂塵を捲き上ぐる如く、吾一言の息吹によつて根底より悔い改めしめ、悪魔の巣窟をして天国楽園と化せしめむ。ヤア面白し、勇ましし』
と独語ちつつ肩を怒らし気焔万丈当るべからず、足踏み鳴らし雄猛びする。
鬼彦『亀彦様、大変な勢でメートルをお上げになつて居られますな』
亀彦『オウさうだ、敵の敗亡目前にメートルだ、某の前進を妨げむとしてメートルの事致すと量見ならぬぞ、ジヤンジヤ、ヒエールの某を何と心得てるか』
鬼彦『ジヤンジヤ、ヒエールか、ジヤンジヤ馬か存じませぬがよう貴下はジヤンジヤを捏ねるお方ですな』
亀彦『エーエ、ジヤンジヤマ臭い、愚図々々して居ると折角上つたメートルがヒエールだ、サアサ行かう』
とまたもや行かむとする。
鬼彦『アヽア、行つて下さるなと親切に申し上げても貴下は何処までも行かむとする御気色、モウこうなつてはゆかんながらゆかんともする事が出来ませぬ哩』
亀彦『エ、洒落どころかい、愚図々々吐さずとこの方を縛り上げて本城へ担ぎ込まぬか』
鬼彦『ソヽヽヽそれが大変でございます、今迄の私なれば貴下等が何程行かむと仰しやつても連れて行つて手柄に致しまするが、最早天地の因果を悟り悪を悔い改めた上は、どうしてこれが黙つて居られませう、人の性は善でございます、決して悪い事は申しませぬ』
亀彦『ヤア仕方のない弱虫ばかりだナア、鬼雲彦もコンナ連中を養つて居れば並大抵の事でもあるまい、思へば思へば鬼雲彦の御心中お可憐相である哩』
 かかる処へ二本の角をニユツと生した鬘を被つた五人の男、ノソリノソリと手槍を提げ、この場に現はれ来り、
男『ヤア、鬼彦の大将、お手柄お手柄、サアこれから吾々が御案内申さう、鬼雲彦の御大将様子如何にと首を長うしてお待ちかね、嘸お骨折でござつたらう』
と言ひながら駕籠の中を一々覗きこみ、
男『ヤア何だ、空籠じやないか、素盞嗚尊その他はどうなされた、首尾克う生擒つたとの御注進ではなかつたか』
 鬼虎、熊鷹、石熊、鬼彦は四辺を見ればこは如何に、今迄盛にメートルを上げて居た亀彦の姿も素盞嗚尊、国武彦その他一行の影も形もなくなつて居る。
鬼彦『ヤア、此奴は不思議だ、今迄この網代籠に乗せて来た一同の神人、ではない囚人何処へ姿を隠しよつたか、合点の往かぬ事である哩』
熊鷹『サア此処は名に負ふ魔窟ケ原、目に見えない悪魔が出て来よつて吾々が知らぬ間に喰つてしまつたのか、但は鬼雲彦の大将の威勢に恐れて自然消滅致したか、何に付けても合点の往かぬ事である哩。ヤア五人の方々、一時も早く本城へ立ち帰りこの由早く注進致すな』
 五人の中の一人、目を円くし、
男『ヤア何と仰せられます、一時も早く注進致すなとは合点が承知仕らぬ』
熊鷹『俺は昨日までの熊鷹ではない、今日は立派な三五教の信者であるぞ、これより本城へ逆襲なし鬼雲彦が素首捻切り引きちぎり八岐大蛇の身魂を片つ端より言向和し、勝鬨あげるは瞬く間だ、汝は一刻も早くこの場を立ち去り吾々が寄せ手の軍勢に向つて防戦の用意オサオサ怠るな』
 五人は一度にいぶかりながら、
『ソヽヽヽそれは真実でござるか』
熊鷹『真偽は今に分るであらう、汝は早くこの場を立ち去れ』
 この権幕に五人は互に顔見合せて、
『何だ、鬼彦の大将と言ひ、熊鷹の阿兄と言ひ、その他一同の顔の紐は薩張解けてしまひ、今迄の鬼面は忽ち変じて光眩き女神のやうな顔色に堕落してしまひよつた、ハテ困つた事だワイ、善の道へ堕落するとコンナ腰抜けに成つてしまふものかなア』
 五人は踵を返し一目散に彼方を指して逃げ帰る。鬼彦は衝立ち上り三五教の宣伝歌を謡ひ終り、
『サア一同の方々、如何でござる、何だか拍子抜けがしたやうにはござらぬか』
一同『左様でござる、折角張り詰めた今迄の悪心は水の中で屁を放つたやうにブルブルと泡となつて消え失せました、誰も彼もアルコールの脱けた甘酒のやうになつてしまつた、亀彦が意見をしてくれたがこれも余り拠り所が無い、甘いやうな辛いやうな、厳しいやうな寛かなやうな訳の分らぬ言葉であつた。丁度甘酒に、生姜の汁を入れて飲むやうなものだ、親爺の強意見を聞きながらソツとお金を貰ふやうな心持だつた、サアサこれから入信の記念として大江山の本城に駆け向ひ鬼雲彦の素首、オツト、ドツコイ悪神の魂を抜いて助けてやらねばなるまい』
 一同拍手して賛成の意を表し、鬼彦を先頭に宣伝歌を謡ひつつ、凩荒ぶ荒野原や谷川を右に左に跳び越え進む折しも、忽然として叢の中より現はれ出でたる男女の二人、鬼彦一行の姿を目蒐けて冷やかに笑ひながら、
『ヤア貴方は大江山の英雄豪傑と聞えたる御方、しかるに今日のお姿はどうでござる。薩張台なしではござらぬか、玉の落ちたラムネのやうな判然致さぬその顔付、狐にでも欺されなさつたか、イヤ、エ、素盞嗚尊の悪神の口車に乗せられて胆をとられ腰を抜かしたのではあるまいか、何れにしても合点の往かぬ耄碌姿、耄碌魂、脆くも敵に翻弄されてノソノソと帰り来るとは言ひ甲斐なき鬼彦一同の面々、鬼雲彦の大将におかせられても嘸々お喜び遊ばす事であらう、持つべきものは家来なりけりと団栗のやうな涙を流してお喜びになるであらう、アハヽヽヽ、オホヽヽヽ』
と笑ひ転ける。鬼彦はムツト顔にて、
『エー、何処の何奴か知らぬが吾々は吾々としての自由の権利を実行したのだ、汝等の如きものの容喙すべき処でない、愚図々々吐すと言霊の発射を致してやらうか。蠑螺の如き鉄拳、否牡丹餅で貴様の頬辺を殴つてやらうか』
『アハヽヽヽ、オホヽヽヽ、ヤア皆の方々、此方へござれ、サアサ早く』
と岩をクレツと剥れば、中には階段がついて居る。
鬼彦『ヤア何時も吾々のお通り路だがコンナ処に穴があるとは今迄知らなかつた。こいつは妙だ、ヤイ鬼虎、熊鷹、石熊その他の面々一同、見学のために岩窟の探険と出掛ようではないか』
 鬼虎は、
『面白からう』
と先に立つて下り行く。数百人の荒男は残らず好奇心に駆られて岩窟の中にガラガラツと田螺の殻を山の上から打ちあけたやうな勢で一人も残らず転げ込むだ。忽然として現はれたる鬼武彦は岩石の蓋をピタリと閉めその上に千引の岩をドスンと載せ、
『アハヽヽヽ、マアこれでしばらくは安心だワイ』

(大正一一・四・一四 旧三・一八 北村隆光録)



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