出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語16-1-41922/04如意宝珠卯 夢か現か王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
由良の港の秋山彦の館
あらすじ
 亀彦が館に入ると、英子姫と悦子姫が迎えに出た。門番は亀彦の両足にしがみついていたが、蹴り飛ばされる。
 しかし、これまでのことは門番の加米公と銀公の夢の中の話であった。
 それから、本物の亀彦がやってきて館に入った。夢と同じように二人の娘が門まで出て、秋山彦が亀彦を丁重に迎えた。館には神素盞嗚大神、国武彦、英子姫、悦子姫がいた。
 そこへ、鬼雲彦が襲来したという報告がある。亀彦は、応戦に出ようとしたが、国武彦に止められる。
名称
秋山彦 加米公 亀彦 銀公 国武彦 神素盞鳴大神 英子姫 紅葉姫 悦子姫
悪神 鬼雲彦 魔神
言霊 醜の窟 由良の港
 
本文    文字数=10918

第四章 夢か現か〔五九四〕

 亀彦は二人の門番を、靴に穿いたやうな心持で、本宅の入口までやつて来た。門口の騒がしさに中より戸を引き開けて現はれし二人の女、
『ヤア貴方は亀彦さま』
亀彦『ヨウ、お二人様、不思議な処でお目にかかりました』
英子姫『亀彦さま、貴方何を足に引つかけてゐらつしやるの』
亀彦『ヤア、何でもござらぬ、糞から生いた銀蠅が一匹と糞亀が一匹、足に喰ひつきました、鰌の生でもあつたら一つやつて下さいナ、アハヽヽヽ』
二女『ホヽヽヽ』
銀、加米『チエツ、人を馬鹿にして居やがる、この銀公司を捉へて銀蠅だの、加米を糞亀だのと虫の好い事を云やがるワイ。これや亀の奴、今に、一寸の虫でも五分の魂だ、むしかへしをやつてやるから、その覚悟で居たらよからうぞ』
 亀彦は、右の足を中天に向つてピンと跳る途端に、銀公は七八間プリンプリンプリンと中天に舞ひ上り、表門の自分の室の前に行儀よく落ちたまま、チヨコナンと坐つて居る。亀彦はまたも左の足をピンと跳ると、加米公は中空を毬の如く舞ひながら再び自分の門番小屋にチヨコナンと坐つて居る。
銀公『アヽヽヽ、淋しい事だ、偉い奴が来よつて、俺を中天に蹴り上げよつたと思つたら、何んだ夢を見て居たのか、それにしても怪体な夢を見たもんだワイ』
加米公『ヤヤ銀公、貴様も夢を見たのか、俺もその通りだ。亀と云ふ奴が来よつて、俺を足の先で中天に蹴りよつたと思つたら、俺も矢張り夢だつた。アヽコンナ夢を見るやうでは、碌な事はない哩、獏に喰はせ獏に喰はせ、茫々漠々として夢の如しだアハヽヽ』
 この時門前に声あつて、
『モシモシ門番様、妾は漂泊の旅の女、どうぞお慈悲にこの門開いて下さいませ。悪神に取巻かれ、命からがら此処迄逃げて参りました』
『ヤア聞き慣れぬ女の声』
と云ひながら門をサラリと開けば、二人は丁寧に目礼しながら、奥を目蒐けて足早に進み往く。
銀公『オイ加米公、夢に見た通りの二人の美人がやつて来よつた。夢と云ふものは馬鹿にならぬなア』
加米公『ヨーその夢なら俺も見たのだ。夢に見た美人と些とも違はぬ瓜二つだ、しかしながら、かう夢が当るとすれば、今度目に出て来る亀彦と云ふ強い奴は、それこそ大変だぞ、柔なしく下に出て無事に門を通すに限るぞ』
銀公『オヽさうだ、相手にならぬやうに柔しく開けてやらうかい』
 かかる所へ門前に聞ゆる男の声、門をポンポンと叩いて、
『モシモシ、私は旅の男亀彦と申します、お邪魔で有りませうが、この門をどうか開けて下さいますまいか』
加米公『それそれ夢が本当になつて来たぞ、加米さんがよい相方だ』
とまたもや門をサラリと開き、
加米公『これはこれはようこそお出で下さいました。サアずつと奥へお通り下さい、どうぞ中天へ放り上げる事だけは、オツト、ドツコイこれは夢でございました、早く柔しく暴れずにお入りなさいませ』
亀彦『私は決して乱暴な事は致しませぬ、御安心下さいませ』
と奥を目蒐けて悠々と進み入る。

 由良の港の人子の司  秋山彦の門前を
 サツと開かせ入り来る  暗夜もはれて英子姫
 四方の景色も悦子姫  小春の朝日を身にうけて
 冬の初と云ひながら  まだ温かき破風口に
 猫の眠て居る長閑さよ  夜昼不寝身の門番も
 主には尽す忠勤振  中門サラリと引き開けて
 何の躊躇も荒男  門番役に送られて
 玄関口にさしかり  頼も頼もと訪へば
 あいと応へて二人の女  襖押しあけ出で来る
 アツと見合す顔と顔  オヽ亀彦か姫様か
 思はぬ所で遇ひました  魔神の様子は如何にぞと
 問はむとせしが待てしばし  心許せぬこの館
 如何なる魔神の潜むやら  隙行く駒のいつしかに
 漏れてはならぬ壁に耳  父の便りを菊月の
 九月八日の今朝の秋  目と目に物を云はせつつ
 二人の女は静々と  奥の間さして入りにける
 後にしよんぼり亀彦は  両手を組みて思案顔
 あゝ訝かしや訝かしや  様子ありげのこの館
 英子の姫の御眼つき  只事ならぬ気配なり
 戸を押し明けて踏み込もか  待て待てしばし待てしばし
 大事の前の一小事  もしも仕損じたその時は
 長の苦労も水の泡  遇はぬは遇ふに弥まさる
 例も数多ある月日  しばしは此処に佇みて
 家の内外の様子をば  事細やかに探らむと
 直日に見直し聞直し  思ひ直すぞ雄々しけれ。

 玄関に佇みし亀彦は、さし上る朝日に向つて合掌し、何事か沁々と暗祈黙祷を続けて居る。この時玄関の襖を颯と開いて現はれ出でたる二人の娘は、亀彦に向つて丁寧に会釈し、
『これはこれは遠方のお客様、奥へ案内致しませう、サアこうお出でなさいませ』
と廊下を指して、ニコニコしながら先に立つて進み入る。
 亀彦は、
『ヤア有難い有難い、一つ違へば門前払ひの憂目に遇ふ所だつた。アヽ世間に鬼はない、此処には広いお庭がある。鬼は外々福は内、家の様子は何処となく物床しげに、一弦の琴の音さへも聞えて居る。あの声は確に英子姫の御手すさび、この家は自と平和な風も福の神、上下揃うて睦まじく月日を送るその様子、もしやこの家に、吾が慕ふ神素盞嗚の大神の隠れ在すには非ざるか、神ならぬ身の心にも、物穏かな内外の空気』
と独り言ちつつ娘の後に従ひて、長き廊下を伝ひ行く。
 この家の主人と見えて、人品骨柄卑しからぬ、五十前後の男、服装正しく衣紋繕ひ出で迎へ、
『これはこれは噂に聞き及ぶ三五教の宣伝使亀彦様、よくも入らせられました。私はこの郷の人子の司、秋山彦と申すもの、サアサア遠慮なくズツと大奥へお通り下さいませ、御案内致しませう』
と先に立つて進み往く。亀彦は不審の首を傾けながら、前後左右に目を配り、心を注ぎ、
『ヤア、嫌らしきほどの鄭重なもてなしだ。愚図々々して居ると抱き落しにかけられて、醜の窟のやうに陥穽にでも落されるのではあるまいか。否々人を疑ふは罪の最も大なるもの、心に曇りあれば人を疑ふとやら、アヽ恥かしい、未だ副守護神の奴、身体の一部に割拠して猜疑心の矢を放ち猛威を逞しうせむと計画して居るらしい、恐るべきは心の内の敵だ』
と思はず大声を出した。
 秋山彦はこの声を聞いて後振り返り、
『これはこれは亀彦様、貴方は今敵だと仰せられましたが、決して敵ではございませぬ、御心配なくお通り下さい』
『イヤ誠に済みませぬ、吾々の心中に潜む副守の奴が囁いたのです、心の鬼が身を責るとやら、いやもう神ならぬ身の吾々人間は、宣伝使と云ふ立派なレツテルは貼つて居りますが、実にお恥かしい代物です』
と歩み歩み語り居る。
『サアこれが大奥の間でございます、貴方にお会はせ申度き御方もございますれば、どうぞお入り下さいませ』
と腰を屈め、淑やかに襖を押しあけ案内する。亀彦は不審の雲に包まれながら進み入り、上座を見れば、こは如何に、正面の高座には、神素盞嗚の大神、厳然として控へさせたまひ、少しく下がつて国武彦、右側には英子姫、ズツと下がつて悦子姫、この家の妻と見えて四十歳ばかりの麗しき女、行儀よく控へ居る。亀彦は一目見るより打ち驚き、
『ヤア貴神は尊様』
と一言云つたきり後は涙にかき曇り、袖に顔をば覆ひつつしばしが間は平伏沈黙を持続し居たりける。四十ばかりの女は亀彦の頭を上ぐるを待ちかねたやうな調子で、
『これはこれは亀彦様とやら、よく来て下さいました。妾は秋山彦の妻紅葉姫と申す者、御存じの通り不便の土地、お構ひも出来ませぬが、どうぞ、ゆるりと御逗留下さいませ』
亀彦『これはこれは痛み入つたる御挨拶、何分宜敷くお願ひ致します。ヤア貴神は尊様でございましたか、好うまア無事で居て下さいました。嬉しう存じます』
素尊『その方は亀彦なりしか、無事で先づ目出度い。英子姫が途中においていかいお世話になつたさうだナア』
亀彦『どう致しまして』
英子姫『亀彦さま貴方も無事でお目出度う、妾は今の今迄お案じ申て居りました、安心安心』
と喜ぶ折しも、門外俄に騒がしく数多の人声、秋山彦は慌しく入り来り、
『アヽ皆様、お静かにして下さいませ、表は私が引受けます、一寸した事が起つて来ました』
素尊『アハヽヽヽ、その方好きに取計らへ』
亀彦『秋山彦殿、事が起つたとは鬼雲彦の襲来したのでせう、どうぞ私も連れて行つて下さい、ヤア面白い面白い、日頃鍛へし言霊の力を試すは今この時』
と先に立つて行かむとす。国武彦は初めて口を開き、
『ヤア亀彦しばらく待たれよ、尊の御許しあるまでは、一寸もこの場を動く事罷りなりませぬぞ』
 亀彦右の手にて頭を掻きながら、
『ヘエヘエヘヽヽヽヘイ、シシ仕方がありませぬ、ハイ、鳴るは鳴るはこの腕が、ウンウンと云つて仕方が無いワイ』
一同『アハヽヽヽ、オホヽヽヽ』

(大正一一・四・五 旧三・九 加藤明子録)



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