出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語16-1-21922/04如意宝珠卯 暗夜の邂逅王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
由良の港の近辺
あらすじ
 英子姫達は、暗闇の中、由良の港にやって来ると、そこには亀彦がいた。そこへ、金州と源州がやってきて亀彦とゲンコ(拳固と握り飯)とケントウ(見当と間食)という方言でやりとりをする。
 亀彦は、英子姫達に「神素盞嗚大神は噂では、大江山の魔神に捕らえられているとう言うので自分が救い出す」と言う。そこへ、数十名の捕手が現れたので、亀彦、英子姫、悦子姫は短剣で戦い、蹴散らす。
名称
亀彦 金州 源州 英子姫 悦子姫
鬼 鬼雲彦 大蛇 菊子姫 神素盞鳴大神 捕手 曲津神 魔神
斎苑の山 大江山 自転倒島 顕恩郷 言霊 高天原 千座の置戸 由良の港 竜燈松
 
本文    文字数=9466

第二章 暗夜の邂逅〔五九二〕

 大江颪の凩に  吹かれて進む英子姫
 神に任せた身魂には  如何になろとも悦子姫
 爪先上りの山道を  転つまろびつ四辺に心を配りつつ
 鬼や大蛇や曲津神  二人の乙女に怖れてや
 谷の彼方にコンコンと  響く狐の叫び声
 人も出て来ん鬼も来ん  こん輪奈落の底までも
 探し索めて父上に  逢はずにこのまま置くべきか
 運ぶ足並ゆらゆらと  由良の港の手前まで
 辿り来れる折柄に  闇を通して鳴り響く
 声も涼しき宣伝歌  道の傍の物影に
 二人は立ち寄り身を忍び  何人ならむと窺へば
 夜目には確と分らねど  顕恩郷にて別れたる
 印象深き宣伝使  万代祝ふ亀彦が
 神素盞嗚の行衛をば  尋ねて来たる益良夫の
 凛々しき姿の面影に  飛び立つばかり英子姫
 折も悦子の姫二人  闇の中より淑やかに
 かくる言葉も震ひ声。  

英子姫『モシモシ旅の御方、突然ながら物を御尋ねいたします。妾は女の二人連、様子あつて遠き国より、この自転倒島の中心地にやうやう渡り着いたる、孱弱き女でございます。貴方は三五教の宣伝使ではございませぬか』
 暗がりより突然聞ゆる女の声に亀彦は、不審の眉を顰めながらツト立ち止り、しばらく無言のまま、坂道に双手を組んで首を左に傾けながら、糸の縺れをとく心地して、古き記憶をたぐつてゐる。たぐれどたぐれど容易にとけぬ胸の縺れ、百条千条八千条の辻に佇み行手に迷ふが如くなり。
 暗がりより二人の女の声として、
『モシ旅の御方、御返事なきは妾が知人に在さざりしか、但は女盗賊の出現と御思召しての御見違ひか、妾は決して怪しき女には候はず、少し以前、竜灯松の麓において怪しき人影に出会ひ、漸く此処に遁れ来りし者でございます。御差支無くば御名を名告せ給へ』
亀彦『何となく聞き覚えのある御声なれど、少しく心の沈む事有之候へば、容易に記憶の浮かび出で申さず、願はくは御二人のネームを名告せ給へ』
 暗がりの中より頓狂な声、
金州『やア何ぢや、道の真中に立ちはだかりやがつて、ネームぢやの、ねるだのと怪体な代物だ。オイ源州、一寸起きぬかい。怪体な奴が来居つたぢやないか』
源州『ウウ、ムニヤムニヤムニヤムニヤ』
金州『オイ源州、大変だぞ』
源州『ウヽヽヽウン何だ、喧しい哩。金州の奴、葬礼の家へ出会して沢山と御馳走を頂きかかつた最中に揺り起こしやがつて、さア罰金だ、御馳走の損害賠償を請求するぞ。アヽ眠い眠い』
金州『あちらにも眠い、こちらにも眠い、やア一向訳が分らぬやうになつて来た哩。如何に夢の浮世だと云つても、大江山に鬼雲彦と云ふ変な奴が現はれた世の中だから、夜中は化物が現はれて、天を枕に縦に寝る奴が出て来たのかな。オイ源州、起ぬかい、幸ひ夜半の事であり、対方は只一人、片一方は壁のやうな絶壁だ。片一方は断崖、おまけに荒波猛る海と来てるのだから、かう云う時に一つ追剥の練習でもやらねば、やる時が無いぞ。サア起きた起きた。コラコラ、ネーム、貴様の持物を綺麗薩張とこの場で脱いて金さまにくれないか』
亀彦『生憎長の道中で懐中欠乏、金サンに縁が薄い哩。アハヽヽヽ』
二人の女『オホヽヽヽ、オホヽヽヽ』
 源州は、ヌツと起き上りながら、
『そら薩張源助だ、何だ、男の声かと思へば忽ち変じて女の声、曲神の奴、味好うやり居る哩』
亀彦『源、金は持つて居らぬ。その代りに拳骨をくれてやらうかい』
(拳骨といへばこの地方では、固い握り飯の代名詞である)
源州『ヤアそりや気がきいて居る。有難い、いくらでも遠慮は致さぬ。一体いくら持つて居るか、ヤイ金州、貴様も金の代りに拳骨でも沢山と頂戴したらどうだ』
金州『よう、そりや有難いな、モシモシ旅の御方、本当に下さいますか。貰ふのは私は結構だが、貴方のお腹が空きませう。二つ三つ残して、残は下さいませ』
亀彦『やア俺の拳骨は無尽蔵だ。望みとあらば百でも千でも一万でもくれてやらう。さア顔を出せ、頬ぺたを向け、近く寄れ、何だか薄暗くて見当がとれないやうだ』
(この地方にては間食を、けんとうといふ)
源州『見当がこれでやつと取れました。成るべくは手に下さいな。頬ぺたに貰ふのは、口に近うて好いやうなものの、もしも転げて落ちたら勿体ないからな』
 亀彦は、声する方に向つて拳骨を固め、
亀彦『サア盗賊奴、これを喰へ』
と滅多矢鱈に乱打すれば、
源州『アイタヽヽヽ、これはまた大変な固い拳骨でございますナ。暗がりで何処へ落ちよつたか薩張分らぬやうになつてしまつた。同じ貰ふのならソツと手に乗せて下さるとよいになア』
亀彦『不届な泥坊奴、グヅグヅ吐すと踏み蹂り握り潰してやらうか』
源州『アヽ勿体ない、目が潰れますぜ。結構な握り飯を踏み蹂つたり、握り潰したりすると、百姓が汗水垂らして、やつと作つたその米を、そう粗末にするものぢやありませぬで』
英子姫『ホヽヽヽヽ』
悦子姫『ホヽヽヽヽ』
金州『イヤ何だ、此奴化物だな。声を三つにも使分けしやがつて、男になつたり女になつたり、莫迦にするない。大方団子石を、握り飯だナンテ吐して、俺に打付けよつたのだな、道理で痛いと思つた』
亀彦『アハヽヽヽヽ』
二女『ホヽヽヽヽ』
金州『ヤア此奴は愈バの字にケの字だ。オイ源州、命あつての物種だ、逃げろ逃げろ』
と暗がりの中を横になつて、団子を転がしたやうに転げ逃げ行く。
亀彦『アハヽヽヽ、妙な乞食が居つたものだ、イヤしかしながらこれから先は危険区域だ、気を付けねばなるまい。モシモシお女中さま、貴女は何れの方でござるかナ』
英子姫『是非に及ばぬ、申上げませう。妾は素盞嗚尊の娘英子姫でございます。一人は召使の悦子姫でございます』
亀彦『如何にも紛ふ方なきその御声、これはこれは暗夜の事とて失礼を致しました。私は御存じの亀彦でございます』
英子姫『ソンナラ貴方は、妹菊子姫の夫、思はぬ処でお目にかかり大いに力を得ました。してまたこちらへ御出でになつたのは、どういふお考へで』
亀彦『申上げ難い事ながら、御父上様は高天原の事変より、千座の置戸を負はせ給ひ、世界漂泊の旅にお出ましになりました。私は斎苑の山の頂において、御父上の御消息を知り、自転倒島にお下り遊ばしたと聞いた故、はるばると荒海を渡り、漸く由良の港に着いて御所在を尋ねむものと此処迄参りました途中でございます。噂に聞けば、父大神様は大江山の魔神の捕手に御捕はれの御身の上、しかしながら亀彦が参りました以上は必ず御心配なさいますな。屹度救ひ出して御覧に入れます』
 この時傍の木の茂みの中より、二三十人の男が三人の前に立ち現はれ、
『ヤアその方は素盞嗚尊の一味の奴ばら、最前からの汝等三人が囁き話、木蔭に忍び残らず聞いた。さアこの上は搦め取つて大江山の砦に連れ帰らむ、覚悟を致せ』
と闇に閃く氷の刃、四方八方より突きかかる。三人は両刃の短刀をヒラリと抜き放ち、
『何猪口才な、木ツ端武者』
と獅子奮迅の勢にて防ぎ戦ふ。数十人の捕手はドツと寄せては、またもやドツと逃げ、寄せては返す磯の波、四辺に響く剣戟の音。
亀彦『かかる悪逆無道の魔神に対しては、善言美詞の言霊を以て打ち向ふは勿体なし、懲しめのため、斬つて斬つて斬り捨てむ』
と阿修羅王の如く暴れ狂ふ。敵は二つに別れて、雲を霞と逃げて行く。
 亀彦は坂を下つて西へ西へと走り行く。一方英子姫、悦子姫は攻め来る敵に向つて華々しく戦へば流石の魔神も敵しかね、東を指して駆け出したり。二人は一生懸命後を追ひ行きぬ。アヽこの結果はどうなるであらう。

(大正一一・四・五 旧三・九 藤津久子録)



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