出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語15-3-121922/04如意宝珠寅 一人旅王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
地教山の中腹
あらすじ
 素盞嗚尊は母伊弉冊命に会いに地教山に行く。鬼掴が山に登らせないので、その鬼掴を足で蹴り飛ばしてさらに進んだ。しかし、行く手は巨大な大蛇が道を塞いでいた。素盞嗚尊が思案にくれていると、伊弉冊命があらわれ、「あまたの神人の罪汚れを救うは汝の天賦の職責なれば、千座の置戸を負いてあまねく世界を遍歴し、あらゆる艱難辛苦をなめ、天地にわだかまる鬼、大蛇、悪狐、醜女、曲津見の心を清め、善を助け悪を和め、八岐大蛇を十握の剣をもって切りはふり、彼が所持せる叢雲の剣を得て天教山に坐す天照大神に奉るまでは」会えないと言う。
 鬼掴が素盞嗚尊に帰順した。実は、鬼掴は鬼雲彦の家来ではなく「高天原のある尊き神様より内命を受け、貴神の当山に登らせたまうを道にて遮断せよとの厳命をいただきしもの」であった。鬼掴は、「この度の天の岩戸の変は貴神の罪に非ず、罪はかえって天津神の方にあり、いづれの神も御心中御察し申し上げいる方々のみ」と、素盞嗚尊に同行することを申しでる。
名称
伊弉冊命 鬼掴 素盞鳴尊
悪狐 悪魔 天足彦 天津神 天照大神 胞場姫 鬼 鬼雲彦 大蛇 金毛九尾 国津神 醜の霊魂 醜女 神素盞鳴大神 皇大神 曲津霊 曲津見 瑞霊 八岐大蛇
葦原の国 天津祝詞 天の岩戸 天の数歌 大八州国 高天原 千座の置戸 地教山 都牟刈の太刀 天教山 十握の剣 曲津 叢雲の剣
 
本文    文字数=9030

第一二章 一人旅〔五七九〕

 天津神達八百万  国津神達八百万
 百の罪咎身一つに  負ひてしとしと濡れ鼠
 猫に追はれし心地して  凩荒ぶ冬の野を
 母の命に遇はむとて  出ます姿ぞ不愍しき
 天の岩戸も明放れ  一度清き神の代と
 輝き渡るひまもなく  天足の彦や胞場姫の
 醜の霊魂の荒び来る  山の尾上や河の瀬は
 風腥く土腐り  河は濁水満ち溢れ
 雨は日に夜に降り続き  流れ流れて進む身の
 蓑もなければ笠もなく  とある家路に立ち寄りて
 一夜の宿を訪へば  はつと答へて出で来る
 荒くれ男の顔みれば  こは抑も如何にこは如何に
 鬼雲彦の夫婦づれ  地教の山の山の下
 奇石怪巌立ち並ぶ  谷の辺に細々と
 立つる煙も幽かなる  奥に聞ゆる唸り声
 神素盞嗚の大神は  物をも云はず戸を開き
 つかつか立ち寄り見給へば  八岐大蛇の蜿蜒と
 室一面に蟠まり  赤き血潮は全身に
 洫み渉りて凄じく  命を見るより驚愕し
 忽ち毒気を吹きかくる  鬼雲彦と思ひしは
 全く大蛇の化身にて  鬼雲姫と思ひしは
 大蛇に従ふ金毛の  白面九尾の古狐
 裏口あけてトントンと  後振り返り振り返り
 深山をさして逃げて往く  神素盞嗚の大神は
 天津祝詞の太祝詞  声爽かに宣りあげて
 この曲津霊を言霊の  御息に和め助けむと
 心を籠めて数歌の  一二三四五つ六つ
 七八九十の数  百千万の言霊に
 さしもに太き八つ岐の  大蛇も煙と消えて行く
 あゝ訝かしと大神は  眼を据ゑて見たまへば
 家と見えしは草野原  跡方もなき虫の声
 不審の雲に蔽はれつ  地教の山を目標とし
 息もせきせき登ります  折柄吹き来る山颪
 八握の髯のぼうぼうと  風に吹かれて散り果つる
 木々の梢の紅葉も  命が赤き誠心を
 照らしあかすぞ殊勝なる。  

 素盞嗚尊は、地教山の中腹なる道の辺の巌に腰打ち掛け、高天原における磐戸隠れの顛末を追懐し、無念の涙にくれ居たまふ時こそあれ、忽ち山上より岩石も割るるばかりの音響陸続として聞え来る。
 怪しの物音は刻々に近づき来たる。素盞嗚尊はまたもや大蛇の悪神襲来せるかと、ツト立ち上り、剣の握に手をかけて身構へしつつ待ち居たまへば、雲突くばかりの大男四五十人の手下と共に、尊の前に大手を拡げて立ち塞がり、
『ヤア、その方は天教山の高天原において、天の岩戸に、皇大神を閉ぢ込めまつりたる悪魔の張本、建速素盞嗚尊ならむ。一寸たりともこの山に登る事罷りならぬ』
と呶鳴りつくるを、尊は言葉優しく、
『吾は汝が言ふ如く、高天原を神退ひに退はれたる、素盞嗚尊なり。さりながらこの地教の山には、吾母の永久に鎮まり居ませば、一度拝顔を得て、身の進退を決せむと思ひ、遥々此処に来れるものぞ。汝物の哀れを知るならば、一度はこの道を開きて、吾を母に会はせかし』
と下から出ればつけ上り、大の男は鼻息荒く仁王の如き腕をニウツと前に出し、
『男子の言葉に二言は無いぞ、罷りならぬと云へば絶対に罷りならぬ。仮令天地は上下にかへるとも、ミロクの世が来るとも、いつかな、いつかな、吾々が守護する限りは、一分一寸たりとも当山に登る事は許さぬ。たつて登山せむと思はばこの方の腕を捻ぢて登れ、この方は天教山に坐し在す大神の命を奉じ、素盞嗚尊万一この山に登り来らば都牟刈の太刀をもつて斬りはふれ、との厳しき御仰せ、万々一その方をこの岩より一歩たりとも登すが最後、吾々一族は天地間に居る事は出来ないのだ。汝も元は葦原の国の主宰ならずや、物の道理も分つて居らう、下れ下れ、一時も早くこの場を立ち去らぬか』
『アヽ是非に及ばぬ、しからば汝の勝手に邪魔ひろげ、吾は母に面会のため、たつて登山致す』
と群がる人々の中を悠然として登り往かむとしたまふを、大の男はぐつと猿臂を延ばし、
『コラコラコラ、俺を誰方と思うて居るか、実の事を白状すれば、バラモン教の大棟梁、鬼雲彦のお脇立と聞えたる、鬼掴なるぞ』
と云ひながら尊の胸倉をぐつと取りぬ。尊はエヽ面倒と云ひながら、片足をあげてポンと蹴り玉ひし拍子に、鬼掴の体は四五間ばかり空中滑走をしながら片辺の林の中に、ドスンと倒れさまに着陸し、頭蓋骨を打つてウンウンと唸り居る。尊は委細構はず大手を振つて急坂をとぼとぼ登りたまへば、数多の家来はこの勢に辟易し、蜘蛛の子を散らすが如く四辺の森林に姿を隠したりけり。
 尊は猶も足を速めて急坂を登りたまふ時しもあれ、傍の木の茂みより、またツト頭を出したる滅法界巨大なる大蛇の姿路上に横はり、尊の通路を妨げて動かず。
 尊は大蛇に遮られ、稍当惑の体にてしばし思案に暮れたまふ時、山上より嚠喨たる音楽響き来り、数多の美はしき神人列を正しこの場に現はれ給ひ、中に優れて高尚優美なる一柱の女神は、素盞嗚尊に向ひ、
『ヤヨ、愛らしき素盞嗚尊よ、妾は汝が母伊邪冊命なるぞ、汝が心の清き事は高天原に日月の如く照り輝けり。さりながら大八洲国になり出づる、数多の神人の罪汚れを救ふは汝の天賦の職責なれば、千座の置戸を負ひて洽く世界を遍歴し、所在艱難辛苦を嘗め、天地に蟠まる鬼、大蛇、悪狐、醜女、曲津見の心を清め、善を助け悪を和め、八岐の大蛇を十握の剣をもつて切りはふり、彼が所持せる叢雲の剣を得て天教山に坐し在す天照大神に奉るまでは、唯今限り妾は汝が母に非ず、汝また妾が子に非ず、片時も早く当山を去れよ、再び汝に会ふ事あらむ、曲津の猛び狂ふ葦原の国、随分心を配らせられよ』
と宣らせ給ふと見れば、姿は煙と消えて後には地教山の峰吹き渡る松風の音のみにして、道に障碍りたる大蛇の影も何時しか見えずなりぬ。
 素盞嗚尊は止むを得ず此処より踵をかへし、急坂を下らせたまへば、以前の男、鬼掴は大地に平伏し尊に向つて帰順の意を表し、
『私は実を申せば鬼雲彦の家来とは偽り、高天原のある尊き神様より内命を受け、貴神の当山に登らせたまふを道にて遮断せよとの厳命を頂きしもの、嗚呼しかしながらこの度の天の岩戸の変は貴神の罪に非ず、罪は却つて天津神の方にあり、何れの神も御心中御察し申上げ居る方々のみ。吾はこれより心を改め貴神の境遇に満腔の同情を表し奉り労苦を共にせむと欲す、何卒々々世界万民のために吾が願を許させ給へ』
と誠心表に現はれ涙を流して歎願したりける。尊は、
『その方は頭の傷は如何なせしや』
と尋ね玉ふに、鬼掴は畏みながら、
『ハイ、お蔭様にて思はず知らず、神素盞嗚の大神様と御名を称へまつりしその刹那より、さしも激烈なる痛みも忘れたる如くに止まり、割れたる頭も元の如くに全快致したり。瑞霊の御神徳には恐れ入り奉る』
と両手を合して涙をホロホロ流し居る。素盞嗚尊は大に喜びたまひ、
『吾れ、高天原を退はれしより、時雨の中の一人旅、実に淋しい思ひを致したるが、世の中は妙なものかな、一人の同情者を得たり。いざこれより汝と吾とは生の兄弟となりて大八洲の国に蟠まる悪魔を滅し、万民を救ひ天下に吾等が至誠を現はさむ、鬼掴来れ』
と先に立ち、柴笛を吹きながら足を速めて何処ともなく天の数歌を歌ひつつ、西南指して進みたまふ。

(大正一一・四・二 旧三・六 加藤明子録)
(昭和一〇・三・二〇 於彰化神聖会支部 王仁校正)



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