出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語15-1-81922/04如意宝珠寅 ウラナイ教王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
北山山中ウラナイ教の本部
あらすじ
 安彦、国彦、道彦と田加彦と百舌彦の五人はウラナイ教の本部へとやってくる。田加彦と百舌彦が様子を覗うために中に忍び込んだ。
 教主の高姫はぽってり肥えた中婆で、信者は皆盲人のようである。田加彦と百舌彦は盲目につけこみ、とろろ汁を盗んで食べる。高姫がそれに気づき怒って騒動となる。百舌彦は痰の入った鉢を頭にかぶってしまう。高姫は出刃包丁を持ち二人を追いかける。二人は水溜の池に飛び込んだ。また、高姫も池に落ちてしまった。
 そんなところへ安彦たち宣伝使が来て、三人を助けた。高姫は安彦、国彦、道彦をお礼にと館にさそった。道彦は「田加彦と百舌彦はウラナイ教の宣伝使にこそ向いている」と言う。
名称
国彦 田加彦 高姫 長助 伴助 松助 道彦 百舌彦 安彦

ウラナイ教の本部 ウラナイ教 ウラル教 神代文字
 
本文    文字数=11072

第八章 ウラナイ教〔五七五〕

 安彦、国彦、道彦の宣伝使を始め、田加彦、百舌彦の五人は、この広き館の門前に佇み内部の様子を耳を澄ませて聞き居たり。
 フト表門を眺むれば、風雨に曝された標札に幽に『ウラナイ教の本部』と神代文字にて記されてある。安彦は覚束なげに半剥げたる文字を読み、
『ヤア此奴は、ウラル教と三五教を合併した変則的神教の本山と見える哩、それにしても最前の女の声、何となく聞き覚えのある感じがする。ハテなア、オー百舌彦、田加彦、汝はそつとこの塀を乗り越え、中の様子を探り吾等の前に報告してくれ』
 百舌彦、田加彦は嬉し気に打ち諾き、木伝ふ猿か、小蟹の蜘蛛の振舞逸早く、ヒラリと塀を飛越えて、庭先の木の茂みに姿を隠し、様子を窺ひつつありき。
 ウラナイ教の教主と見えて、ぼつてり肥た婆一人、雑水桶に氷のはつたやうな眼をキヨロつかせながら中央に控へて居る。七八人の宣伝使らしき男女は、孰れも白内障か、黒内障を病んだ盲人の如く、表面眼はキロキロと光りながら、何も見えぬと見えて手探りして巨大なる丼鉢に麦飯薯蕷汁を多量に盛り、ツルリツルリと吸うて居る。二人の薬鑵頭の禿爺は、頻りに摺鉢に山の薯を摺つて居る。これもどうやら盲人らしく手探りしつつ働いて居る。二人はこの光景を見やり、
『オイ百舌公、此処の奴は何奴も此奴も皆盲人ばかりだと見える。大きな丼鉢に麦飯薯蕷汁をズルズルと啜つて居るぢやないか、俺達もこれを見ると俄に胃の腑の格納庫が空虚を訴へ出したよ。どうだ、盲を幸ひにそつと一杯頂戴して来ようぢやないか』
 百舌彦は、
『ソイツは面白からう』
と言ひながら、のそりのそりと足音を忍ばせ一同の前に現はれ、素知らぬ顔して控へて居る。禿爺は丼鉢に麦飯薯蕷汁を盛り、
『サアサアお代りが出来ました、高姫サン』
とニウツと突き出す。高姫と云ふ中年増のお多福婆は機械人形のやうに両手を前にさし出した。折も折百舌彦の面前に突き出した丼鉢を百舌彦は作り声をしながら、
『ハイ、これは御馳走様、もう一杯下さいな』
 爺は丼鉢を百舌彦に渡し、
『よう上る高姫サンぢや』
と小声に呟きながらまた探り探り台所の方に帰り往き、一生懸命に薯を摺つて居る。
高姫『コレ松助、何処に置いたのだえ、早く此方へ渡してくれないか』
 松助は耳遠く盲と来て居るから、何の容赦もなく一生懸命に鼻を啜りつつ薯を摺つて居る。彼方にも此方にもミヅバナを啜るやうな声が、ずうずうと聞えて居る。
 百舌彦、田加彦は、丼鉢の両方より噛みつくやうに腹が滅つたまま、ツルツルと非常な吸引力で、蟇蛙が鼬を引くやうに大口開けて呑み込んだ。この時松助はまた探り探り麦飯に薯蕷汁を掛た大丼鉢を、足許覚束なげに、川水の中を歩くやうな体裁で、
『サアサア高姫サン、お代りが出来ました』
 田加彦はまたもや作り声をして、
『アア松助、御苦労であつた。もう一杯お代りを頼むよ』
『ハイハイ、もう薯のへたばかりじやが、それでもよろしければお上りなさいませ』
と面膨らし、部屋に引返す。高姫は、
『コラコラ松助、未だ持つて来ぬか、何処へ置いたのだい』
 田加彦、百舌彦は矢庭に一杯を平げた。傍に十数人の盲人は、丼鉢を前に据ゑ、一口食つては下に置き楽しんで居る。
 百舌彦は甲の丼鉢をソツと乙の前に置き、乙の丼鉢を丙の前に置き、丙の丼鉢を高姫の前にソツと据ゑた。
甲『まだ半分余りはあつた積りだに何時の間に此様に滅つてしまつたらう、オイ貴様俺のを一緒に平げてしまつたな』
乙『馬鹿を云ふな、俺の丼鉢を何処かへやりよつたのだ。自分は一人前平げて置いて未だ他人のまで取つて食うとは、余りぢやないか』
と互に盲人同志の喧嘩が始まつた。十数人の盲人は、取られては一大事と丼鉢を堅く握り、下にも置かず、ツルツルズルズルと吸うて居る。田加彦は、火鉢の灰を掴んで、盲人の丼鉢に一摘みづつソツと配つて廻つた。
『ヤア何んだ、この丼鉢の………俄に薯蕷汁の味が変つたやうだ。他人が盲人だと思つて馬鹿にしよるナ、誰か灰を入れよつたわい』
百舌彦『ハイハイ、左様々々』
高姫『ヤヽ、誰か声の違ふ奴が来て居るらしい、オイ皆の者気をつけよ、何だか最前から怪しいと思つて居た。俺は最前から盲人の真似をして居れば、何処の奴か知らぬが、二人のヒヨツトコ野郎奴、要らぬ悪戯をしよつた。サアもう了見ならぬ、家の爺が酷い肺病で、此処に薯蕷汁によう似た痰が一杯蓄へてある。これを食つてサツサと出て失せ』
 百舌と田加は頭を掻きながら、
『ヤア、そいつは御免だ』
高姫『御免も糞もあつたものか、ヤアヤア長助、伴助、二人の者を縛つてしまへ』
『畏まつた』
と次の間より、現はれ出でたる大の男、出刃庖丁を振り翳し、二人に向つて迫り来る。高姫も眉を逆立て、出刃庖丁を逆手に持ち、三方より二人に向つて斬つてかかる。百舌彦、田加彦は丼鉢を頭に被りトントントンと表を指して逃出す。百舌彦の被つた丼鉢には爺の吐いた痰が一杯盛つてあつた。頭から痰を一ぱい浴びたまま、スタスタと表を指して駆け出す。二人の荒男は大股に踏ん張りながら二人の後を追ひかけ来り、澪れた痰につるりと辷つて、スツテンドウと仰向けに倒れた。
 高姫は出刃を振り翳しながら表に駆け出で、二人の荒男に躓き、バタリと転けた機に長助の腹の上に出刃を突き立て、長助はウンと一声七転八倒、のた打ち廻る。忽ち館の中は大騒動がおつ始まりける。
 田加彦、百舌彦は一生懸命に駆け出し、道端の溜り池にザンブと飛込み、痰を洗ひ落さうとした。この水溜は数多の魚が囲うてある。鼬や川獺の襲来を防ぐために柚の木の針だらけの枝が一面に投げ込んであつた。二人はそれとも知らず真裸となつて飛込み柚の木の針に刺されて身体一面に穴だらけとなり辛うじて這ひ上りメソメソ泣き出してゐる。
 婆は眉を逆立て二本の角を一寸ばかり髪の間より現はしながらこの場に現はれた。二人が姿を見て心地よげに打ち笑ひ、蹌跟く機にまたもや池の中にザンブとばかり落ち込み、
『アイタタアイタタ』
と婆々が悶え苦しむ可笑しさ、二人は真裸のまま、
『態ア見やがれ』
と云ひつつ足をちがちがさせ田圃道を走つて往く。安彦、国彦、道彦の三人は素知らぬ顔して宣伝歌を歌ひつつこの池の傍を通り過ぎむとするや、池の中より高姫は掌を合し、頻りに助けを呼んで居る。三人の宣伝使は気の毒さに耐へ兼ね、漸くにして高姫を救ひあげた。高姫は大に喜び三人に向つて救命の大恩を感謝したりける。
 この時逃げ去つた百舌、田加二人の男は真裸のまま慄ひ慄ひこの場に現はれ来り、
『モシモシ宣伝使様、寒くつて耐りませぬワ、どうぞウラナイ教の婆アサンに適当な着物を貰つて下さいな。ナア婆アサン、お前も宣伝使のお蔭で命拾ひをしたのだから着物位進上なさつても安いものだらう』
安彦『ヤア吾々は着物の如きものは必要がござらぬ。平にお断り申します』
国、道『吾々も同様、衣服なんか必要がござらぬ』
百舌彦『エヽ気の利かぬ宣伝使だな、此処に二人も着物の要る御方がござるのが目につきませぬかい』
道彦『吾々はウラナイ教の信者になつたと見え、薩張明盲人になつてしまつたよ。アハヽヽヽヽ』
高姫『お前等は、ノソノソと吾が座敷に這ひ込み、薯蕷汁を二三杯もソツと横領して喰ひ、その上大勢の盲人を附け込み、薯蕷汁の中に灰を掴んで入れた不届きの奴ぢや、着物をやる処ぢやないが、しかし生命を救けてもらつたそのお礼として、長公、伴公の死人の着物をくれてやらうか』
道彦『これやこれや、貴様等二人は薯蕷汁を盗み食つたのか』
百舌彦『ハイ、トロロウをやりました。その代り酷い目に遭つたんぢや、汚い物を頭に被つたんぢや。盲人を瞞して薯蕷汁を多量食つたんじや、それから長公伴公に追ひかけられてタンタンタンと一生懸命逃げたんじや。門口で長公伴公が転倒つたんぢや、其処へ婆が飛んで来て転けたんぢや、倒けた拍子に長公のどん腹を突いたんぢや、二人は一生懸命、痰の体を清めんと溜池に矢庭に飛込んたんぢや、柚の針に身体を突かれて痛かつたんぢや、たんたんと立派な着物を頂戴致したいもんぢや、なア田加たん』
 道彦は吹き出し、
『アハヽヽヽ、身魂の汚い奴ぢやなア、貴様はこれから改心を致してウラナイ教の盲人仲間に入れて貰うと都合がよからう。モシモシお婆アサン此等二人は三五教の教理は到底高遠にして体得する事は出来ませぬ、善とも悪とも愚とも訳の分らぬ半ドロ的の人間ですから、ウラナイ教の宣伝使にでもお使ひ下さらば最も適任でせう』
婆『それはそれは誠に有難い御仰せ、ウラナイ教の宣伝使には至極適当の人物、幾何で売つて下さいますか』
道彦『サア、ほんの残り者の未成品ものでございますから、無料にまけて置きます。米や麦を食べさして貰うと胃を損ねますから、身魂相当に鰌や蛙で飼うてやつて下さい、アハヽヽヽ』
婆『オホヽヽヽ』

(大正一一・四・一 旧三・五 加藤明子録)



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