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原著名出版年月表題作者その他
物語15-1-71922/04如意宝珠寅 釣瓶攻王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
北山山中
あらすじ
 田加彦と百舌彦は石地蔵の所で、バラモン教の鳶彦に捕われ、滝の下の修行所に連れてゆかれる。そして、身体を縛られ、滝壷に身体を投げ入れられては引き上げられるのを繰り返す修行をさせられる。二人は死にそうになるが、安彦、国彦、道彦の宣伝使によって救われる。
名称
石地蔵 国彦 田加彦 鳶彦 道彦 百舌彦 安彦
幽霊 生神 鬼雲彦 太玉命 亡者 妙音菩薩
天津祝詞 天の数歌 エデンの河 言霊 バラモン教 冥護 霊主体従
 
本文    文字数=10031

第七章 釣瓶攻〔五七四〕

 百舌公、田加公は、汗をタラタラ流しながら、蛙の行列向う見ずと云ふ大速力を以て、細き田圃路をマラソン競走的に進行して行く。
 行く事十数丁、忽ち前途に突当つた石像の姿、百舌公はこの石像に現を抜かして見惚れて居る。後より追付いた田加彦は、矢庭に拳骨を固めてポカポカポカと擲り付ける。石地蔵は一尺有余の長き舌をノロノロと吐き出し、目を白黒と剥いたまま、一尺ばかりも前に突き出し、鼻をムケムケさせて居る。田加彦はまたもや現をぬかして、異様の石像を見詰めて居た。百舌彦はまたもや拳骨を固めて、田加彦の横面をポカポカとやる。
田加彦『アイタタ、もうこれで借金済しが済んで居る筈だのに、また二つも擲りよつて仕方のない奴だ。待て待て今に返報がやしをしてやらう』
と捻鉢巻となり、拳を握つて打つてかかるを、百舌彦はヒラリと体をかはし、
『ヤア田加彦、モウ返金は仕て要らない。利息も免除してやる』
と逃げ廻る。田加彦は、
『ナニ、貴様に借金して返さずに男が立つかい。ドツサリ利子を附けて、返してやらう』
と追ひかける。百舌公は石像の周囲を逃まはる、田加彦は追ひかけまはる。殆ど石像を中心に巡る事数十回、遂には両人とも目をまわし、山も野も一時にモーターの如くに廻転し始めた。二人は大地にしがみ付き、
『ア、地震だ地震だ、天変だ』
とわめいて居る。この場に現はれた四五人の荒男、手早く二人を後手に縛り上げ、肩に綱をひつかけ、ドンドンドンドンと、草生え茂る畔路を林の中に駆けて行く。二人は引きずられながら、
『ア、天変だ、地妖だ。天が地となり、地が天となる』
と言ひながら、縛られたる事に気付かず、わめきつつ、数百丈の滝の下に引きずられて行つた。四五人の荒くれ男は、忽ち滝水を汲み来つて、二人を仰向けに寝させ、目鼻口の区別なく滝の如くに注ぎかけた。二人は苦しさに眩暈も止まり、
『ヤア助けて助けて』
と泣き出すを大の男は声を荒らげ、両人に向ひ、
『その方はエデンの河の関守を致せし百舌彦、田加彦の両人であらう。この方は鬼雲彦の家来、鳶彦であるぞ、吾面をトツクリ見よ』
と、ズズ黒い顔をヌツと突出し、目を剥いて見せる。
百舌彦『ヤア貴様は鳶彦だな、何時の間にコンナ所へ来よつたのだ。俺の縛を解いてくれぬかい、石地蔵の奴、失敬千万な、吾々両人を後手に縛りよつて、コンナ所へ吹飛ばしよつたのだ。友達の好誼だ、グヅグヅ致さずに早く吾々の縄を解かぬかい』
鳶彦『ナニ愚図々々言うのだ、貴様は三五教に寝返りを打ち、遂には神罰のため、エデン河の藻屑となつたその方ではないか。憎まれ子世に覇張るとかや、またもノソノソ娑婆に甦つて来よつて、再び三五教を開かうと致すのか、……待て待てこの方にも一つの考へがある。……サアこれからバラモン教の最も厳しき修行をさしてやらう。霊主体従の極致を尽し、貴様の肉体を、散り散りバラバラに致して、霊だけは天国に救うてやらう、有難く思へ』
と縛めを解き、滝壷へ押込まうとした。百舌彦は作り声をしながら、
『アー恨めしやな、吾れこそはバラモン教の信者となり、エデンの河の関守を勤めて居たが、思ひの外に神力の強い肝の太玉命が三人の勇士を伴れて、ニユーとその場に現はれた。俺は計略を以て四人の宣伝使を河の中に葬つてやらうと思うたが、ハーテ恨めしやなア、ウ恨めしやなア、事志と違ひ鶍の嘴の、船は忽ち木葉微塵、俺はエデンの河の藻屑となつてこの世へ迷うて来たワイ、ヤイ鳶彦の奴、貴様も霊主体従の教を奉ずる代物、汝が生首をひつこ抜き、冥途へ伴れて酔つてやらうか、ホーホーホーホーホー、恨めしやなア』
 田加彦は、手を前にニユツと下げ、舌をペロリと出し、右の手を前に突出し、
『ヒユードロドロドロドロ、恨めしやなア………』
鳶彦『ヤイヤイ貴様達何だ、生きて居る間から結構なバラモン教を棄てて、三五教に迷う娑婆の幽霊だと思つて居たが、ヤツパリ死んでもまた迷うのか、此処はバラモン教の修行場だ、亡者の来る所でない。一時も早く姿を隠せ、消えてしまへ、アタ厭らしい、シーツシーツシーツ』
百舌彦『恨めしやなア、鳶彦の生首が欲しいワイ』
田加彦『冥途の土産に鳶彦の御首頂戴仕らむ。ホーイホーイホー』
と蟷螂のやうな手附をして、稍後方に体を反りながら空中を掻く。
鳶彦『ヤア此奴は半死半生の化物だ、幽霊にしては立派な足がある。此奴ア偽幽霊かも知れないぞ、オイ家来共、此奴を縛れ』
百、田『ヤア待つた待つた、幽霊を縛る奴が何処にあるか。チツト量見が違ひはせぬかのう、ホーホーホーホーイ』
鳶彦『エー量見違も糞もあつたものかい、モウこうなつては、どこまでも了見ならぬのだ』
と言ひながら、二人の帯に大き綱をシツカと結び付けた。
鳶彦『サアもう大丈夫だ、ハンドルを廻せ』
 四五人の家来は『ハツ』と答へて、修行用のハンドルをクルクルと繰り始めた。井戸の釣瓶のやうに、一人は頭上に高く舞上る。一人は滝壷にドブンと落ち込む。今度は反対に、上の奴が下の滝壷に落ち、交る交る数十回、上げては下ろし上げては下ろし、井戸の釣瓶の如く、上り下りの道中最も雑踏を極め、お蔭参りの伊勢道中の光景そのままである。二人は息も殆ど絶え、真青になつて九死一生の憂目に会うて居る。この時涼しき宣伝歌が聞えて来た。鳶彦は四五人の家来と共に一目散に、山奥指して姿を隠したり。安彦、国彦、道彦は何気なく滝の音を知辺にこの場に現れ来り、百舌彦が滝壷の中空にひつかかり居るを見て打驚き、
『ヤア此奴は大変だ、一時も早く助けてやらねばなるまい』
と矢庭に両刃の剣を抜いて綱をブチ切つた。忽ち百舌彦は滝壷にドブンと落ち込んだ。安彦は赤裸となり、滝壷に飛込んで、百舌彦の足を握り、ひつ張り上げた。またも一人の田加彦の頭髪は水面に現はれて居る。再び滝壷に飛込みさま、頭髪を握つて救ひあげた。二人共多量の水を呑み、息も絶え絶えになつて居る。
安彦『アヽよう水に縁のある男だナア、何とかして水を吐かしてやらうかい。まだビコビコと動いて居るから、今の間なら助かるだらう』
国彦『大変に沢山に水の御馳走を頂きよつたと見えて、腹は太鼓のやうだ。一つこの双刃の剣で、腹袋を破つて水を出してやらうか』
道彦『馬鹿を言うな、ソンナ事したら、それこそ縡切れてしまうよ』
国彦『縡切れるか、縡切れぬか、ソンナ事は吾々の関する所にあらずだ。生きるも死ぬるも神の御心だ。神が生かさうと思へば生かして下さる。吾々はどうなつとして水さへ出せば良いのじやないか、アハヽヽヽ』
安彦『洒落所かい、九死一生の場合だ。この両人を見殺にする訳にも行くまい。吾々宣伝使は敵でも助けねばならぬ職掌柄だ。どうしたらよからうかな』
道彦『どうもこうも仕方があるものか、吾々は天津祝詞の言霊を奏上して、神助を仰ぐより外に道はない』
安、国『ア、さうだつたナア。余りの事に周章狼狼、肝腎の言霊の奏上を忘れて居たワイ』
と言ひながら、滝水に口を漱ぎ、手を洗ひ、拍手再拝、天津祝詞を奏上し、天の数歌を声もスガスガしく歌ひ了つた。二人は忽ち水を吐き出し、ムクムクと起きあがり、附近キヨロキヨロ見廻しながら、三人のこの場に在るに驚き、
『ヤア宣伝使様、よう来て下されました。バラモン教の鳶彦の奴にスツテの事で代用の無い生命を奪られる所でした。アヽ有難い有難い、生命の親の安彦サン、国彦、道彦の生神様……』
と両人は大地に鰭伏して、涙を滝の如くに流し感謝する。この時何処ともなく美妙の音楽響き渡り、妙音菩薩の冥護有り有りと伺はれける。五人はまたもや手を拍ち、妙音菩薩の恩恵を感謝した。
 これより五人はまたもや道を転じて広野を渉り、東南指して足を速めた。行く事数百丁にして、十数軒の小さき家の建ち並ぶ村落に出た。この村落の中に巍然として聳えたる大厦高楼がある。五人の宣伝使はこの館を目標に足を速め門前に佇めば、琴の音幽かに聞え、何処となく覚えのある女の笑ひ声、門外に千切れ千切れに漏れ来たる。安彦、道彦は首を傾け、
『ハテナア』

(大正一一・四・一 旧三・五 松村真澄録)



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