出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=15&HEN=1&SYOU=6&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語15-1-61922/04如意宝珠寅 北山川王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
北山の細谷川
あらすじ
 安彦、国彦、道彦と田加彦、百舌彦の五人は細谷川の川べりで息をふきかえした。百舌彦が香具の木に登って木の実を食べるが、田加彦と喧嘩になり、木から落ちて人事不省となる。彼らは宣伝使の天津祝詞で救われるが、馬や象になってしまう。しかし、最後には元の姿に戻ることができた。
名称
国彦 田加彦 道彦 百舌彦 安彦
アダム エバ 大神 金毛九尾悪狐 邪気 鷹津神 人象 ハム 広道別! 太玉命 枉神 妙音菩薩 八頭八尾大蛇
天津祝詞 一途の川 エデンの河 エデンの園 香具の木の実 神言 北山 顕恩郷 顕恩城 現界 コーカス山 中有 畜生道 バラモン教 細谷川 冥途 幽界
 
本文    文字数=13400

第六章 北山川〔五七三〕

 誠を教ふる四方の国  広道別の宣伝使
 太玉命に従ひて  ハムの一族婆羅門の
 教を築き立て籠る  顕恩城に向はむと
 エデンの河の渡し場に  来る折しも枉神の
 篠つく征矢に悩まされ  或は倒れまた溺れ
 木葉微塵に船は割れ  一同エデンの河底に
 沈みつ浮きつ河下の  巌の間に挟まれて
 露の玉の緒縡れし  その折柄に何処よりか
 微妙の音楽聞えきて  救ひの網を下しつつ
 妙音菩薩の御守りに  生命拾ひし五人連れ
 忽ち来るコーカス山の  神の使ひの鷹津神
 小脇に抱へ中空を  東を指して翔り行く
 安彦、国彦、道彦や  百舌彦田加彦五人連れ
 神に救はれ北山の  千尋の谷間の砂原に
 投げ下されて目を醒まし  一途の川に向ひたる
 夢の思ひ出恐ろしく  身慄ひしながら起上り
 四方の景色を眺むれば  こはそも如何にこは如何に
 山と山とに包まれし  細谷川の川の辺に
 枕を並べて睡るこそ  実に訝かしの限りなり
 実にも不思議の極みなり。  

国彦『アーア恐ろしい事だつた。胆玉がすつての事で洋行する処だつたよ。マアマア御蔭様でどうやら無事着陸したやうな塩梅だ。よう不思議な事があればあるもの、エデンの河を渡る時に肝腎のスクリウを押し流し、乗つたる船は波にまかせ、生た心地も無く生命からがら神言を奏上する間もなく、無残や吾船は激流の中に立てる大岩石に向つて大衝突を試み脆くも木つ葉微塵の厄に遭ひ、太玉命の宣伝使を始め吾々一同は水の藻屑となつたと思へば際涯もなき草野の原を五人連れ、テクテク彷徨ひつつ濁流漲る辺にやつと到着し、怪しき婆の妙な器械に操られ、木の葉の如く天上高く捲き上げられ、生命も今や絶えむとする折しも大空に轟く雷の声、稲妻の光に打たれて地上に真逆様に墜落し、骨も身も木つ葉微塵になつたかと思ひきや、不思議にも生命を助かつたは全く大神様の御守護だ。何しても不思議な事だ、吾々は飽迄も生命のつづく限りお道のために驀進せなくてはならないなア』
安彦『何とも知れぬ吾々の境遇、夢に夢見る心地がして現界に居るのか、幽界に居るのかまだ判然と確信がつかぬ哩、ヤイ道彦サン、お前はどう思ふか、矢張冥土の旅をやつて居るのではあるまいかなア』
道彦『サアこうなつて来ては薩張り見当が付かない。現幽混淆、判然と区劃がついてゐないのだからお前の考へも決して馬鹿げた事とは断定出来ないなア』
百舌彦『モシモシ宣伝使様、彼処に生つて居る香具の木の実を一つ採つて食つて見ませう。幽界の果実は総て苦味があると言ふ事ですから、もしも苦かつたら矢張り幽界でせうし、酢つぱかつたら矢張り現界でせう。私が一つ木登りをして採つて来ませうか』
国彦『それは良い考へだ、早く登つて採つて見てくれ。しかしながら比較的大木だ。枝も高いなり用心して登らないと、今の夢のやうに空中滑走を演じて樹下の岩石に頭蓋骨を衝突させ、またもや幽界の行脚をするやうな事ではつまらないから十分に気をつけてくれ給へ』
百舌彦『私は顕恩郷においても猿の百舌公と言はれた位木登りの名人ですから、決して決して御心配はして下さいますな』
と言ふより早く猿の如くに大木の枝高く登り行く。田加彦は樹下に立寄り、
『オーイ、百舌彦、どうだ。酸つぱいか、苦いか、甘いか、どちらだ』
 百舌彦はむしつて皮を剥き、グツと頬張りまたむしつては皮を剥き、咽喉をならせながら眼を細くして肩をすくめて食つて居る。さうして皮を掴んでは、樹下に口を開けてポカンとして見上げてゐる田加彦の顔を目蒐けて打ちつける。
田加彦『オーイ、百舌公、どうだ、味は、……早く返答せぬかい』
百舌彦『八釜しい哩、二十や三十食つたつて味が分るかい。酸いか、甘いか、苦いか、三つの中だ。坂の下の子供ぢやないが、お上り遊ばすのを悠然と見てござれ。アヽ酸い事も無い、甘い事もない、苦い事もない哩。何だか言ふに言はれぬ味がする、アヽ生とればこそコンナ美味しい物が沢山に頂けるのだ。オイ田加公、貴様も一つ登つて食つたらどうだ』
田加彦『俺は貴様の知る如く身が重くつて木登りは出来ないのだ。屋根葺きの手伝と木登りする奴は馬鹿の中の大関と言ふ事だ。オイ馬鹿の大関、一つ美味相な奴を落さぬかい』
百舌彦『仲々一寸落さぬ哩、落したら最後、貴様が皆拾つて食つてしまふから落し損だ。それほど欲しけりや猿蟹合戦ぢやないが、瘡蓋のカンカンの石のやうな奴を落して与らうか』
と云ふより早く田加彦の頭を目蒐けてピシヤツと打ちつける。田加彦は烈火の如く憤り手頃の石を拾つて樹上目蒐けて速射砲的に打ちつける。百舌彦は青き果実をむしつて田加彦目蒐けて打ちつける、この場に一場の戦闘は開始された。百舌彦は飛び来る石を右に賺かし左に賺かし、樹上を猿の如く駆廻り足踏み外しスツテンドウ…………、田加彦が頭の上に真逆様に唸りを立てて落下した。田加彦はヤツと一声、体を躱した途端に蛙をぶつつけたやうに百舌彦は大地に大の字になつてウンと一声、手足を伸ばしビリビリビリ、眼の玉はくるくるくる、一言も発せず、フンのびてしまつた。
安彦『ヤア大変だ、酸いとも苦いとも判断のつかぬ中に落命されては吾々も益々方向に苦しむ訳だ。何とかして甦らせ確な答を聞きたいものだ。オイ田加彦、百舌彦は貴様が殺したやうなものだ、この責任は貴様にあるぞ。何とか工夫を致さぬかい』
田加彦『鷹も百舌も一所には寄せぬぞよと神様がおつしやります。私は田加彦、到底百舌の世話は出来ませぬ』
安彦『何を愚図々々言つてるのだ、早く水でも呑まして与れ、死んだらどう致すか』
田加彦『一旦吾々一同は死んだのですから滅多に死ぬやうな事はありますまい。死んだ奴の昼寝でせう、マア悠然目の醒める処まで放つといたらどうでせうか。大分に百舌公も空中飛行の疲労が出て居るから、マアマア大目に見てやつて下さいな』
道彦『ヤア国彦サン、安彦サン、どうも吾々は未だ現界の人間らしい、百舌公をこのままにして置けば本当に死んでしまひます。何卒一同揃うて神言を奏上してやつて下さいな』
 三人は異口同音に天津祝詞を奏上し始めた。百舌彦は忽ち身体振動し、大口を開けて、
『アヽヽ』
と声張り上げ、中風病みのやうに涎をダラダラ流しかけムクムクと身体を動かし始めた。
安彦『ヤアヤアもう此方の者だ、生命だけは大丈夫だ』
 百舌彦は忽ち四つ這ひになり、ヒン ヒン ヒンと馬のやうな嘶きを連発しながら足を以て河砂を足掻し、ムクムクと這ひ出した。
田加彦『ヤア此奴一旦死によつて馬に生れて来よつたナ。大善大悪に中有は無いと言ふ事だが如何にも此奴は常から大悪人だつた。中有なしに忽ち畜生道へ早変り、否生れ代り、俺も今迄永らく交際つた誼で此奴の馬に跨つて与れば因業が満ちて再び人間に生れて来るだらう。サア百舌彦の四つ足、貴様は余つ程幸福者だ。労役に服する畜生も沢山あるのに、勿体なくも三五教の宣伝使の御供、田加彦サンを乗せて歩くとは何たる幸福者ぞ、サア駆出せ駆出せ』
百舌彦『ヒンヒンヒン』
田加彦『ヤア此奴は本式だ、馬にしては少し背が低いから乗り心地が悪い。しかしながら資金要らずの小馬だから辛抱するかい』
と云ひつつ百舌彦の背に跨つたまま、有りあふ木片を以て鞭に代へ無性矢鱈に鞭つた。忽ち百舌彦は身体膨張し、象の如き巨大なる人面獣体の怪しき獣となつてしまつた。
田加彦『ヤア三人の宣伝使様、御覧の通り顔は人間、胴体は象のやうな大きな脚の太い馬が出来ました、皆サン御一緒にお乗りになつては如何ですか。昔エデンの園でこの世の造物主の大神様がアダムとエバとの二人の男女にこの果物を食ふなと警められた。それも聞かずにエバの奴、餓虎の勢でムシヤムシヤと採つて食ひ、ハズバンドのアダムにまで勧め食はして遂に神罰に触れ、その邪気は凝つて八頭八尾の大蛇となり、金毛九尾の悪狐となり天下に横行するやうになつたと云ふ事だ。罰は覿面、百舌公の奴、この結構な果実を唯一人吾物顔に人にもくれず食つた酬い、樹上より顛落して生命を失ひ、忽ち畜生道に陥りコンナ怪体な人獣となつてしまつた。皆サン、袖振り合ふも他生の縁だ、此奴の罪亡ぼしのために乗つてやつて下さいな』
 百舌彦の身体は忽ちウ、ウ、ウと唸り始めた。
田加彦『エー静かにせぬかい、あまり唸りよるので貴様の身体中がビリビリ震うて、俺の尻まで擽ゆくなつて来た。八釜しう吐すと尻を叩くぞ』
と木片を以てピシヤリピシヤリと打ち叩く。人象は上下に運動を始めた。初めの間は四五尺の間を上下しつつあつたが遂には七八間の中空を昇降し、上下左右に躍り始めた。その震動に跳飛ばされて田加彦は以前の香具の木の枝に噬み付き顛落を免れた。人象の姿は忽ち容積を減じ以前の百舌彦の姿に還元してしまつた。
百舌彦『アハヽヽヽ、オイ田加彦、どうだ、酸いか、甘いか、苦いか、返答せぬかい』
田加彦『ナヽヽヽ、何を吐しよるのだ。酸いも、甘いも苦いもあつたものかい。俺をコンナ甚い辛い目に会はせよつて、こら、俺が死んだら化けて出てやるからさう思へ、ヒユー、ドロ ドロ ドロぢやぞ』
 百舌彦は目を剥き舌をペロリと出して、
『御縁があつたらまたお願致します、サア サア サア三人の宣伝使様、彼奴をああして香具の木の実に預けて置けば死ぬまで大丈夫です。皆サン一時も早くこの場を立ち去り宣伝に向ひませう』
安彦『アハヽヽヽ』
国彦『オホヽヽヽ』
道彦『ヤア百舌彦、貴様は化物だ、妙な病気を持つてるな。しかしながら田加彦をあのままに放擲て置く訳にはゆくまい、これは貴様の責仕だからソツと樹下に下して連れて行くがよからう』
田加彦『モシモシ道彦サン有り難うございます、よう言つて下さいました。人情知らずの安彦、国彦の宣伝使、百舌彦の馬鹿野郎、永らく御心配を掛けました、大きに憚り様』
と云ひながら猿の如く樹上よりスラスラスラと下つて来た。四人一度に、
一同『アハヽヽヽ』
と転けて笑ふ。田加彦は百舌彦の尻をクレリと引ん捲り、
『コラ、屁放き馬、よくこの方を馬鹿にしよつたな』
百舌彦は『何ツ』と云ひながら矢庭に拳骨を固めて田加彦の頭を続け打ちにポカポカとやつた。田加彦は烈火の如くまたもや拳を固めて骨も挫けと打下す。この時遅く彼時早く、百舌彦は細くなつて雑草茂れる田圃道を一目散に駆け出す。田加彦は、
『おのれ百舌彦、卑怯未練な、逃がしてならうか』
と尻ひつからげ後を追つかけ、雲を霞と彼方を指して姿を隠してしまつた。
安彦『ヤア、面白き活劇を見物した。しかしながらこのままにして居れば二人の奴、如何な事をするかも知れない。国彦、道彦殿、一時も早く後追つかけて彼の所在を探しませう』
と安彦は慌しく先に立つて駆出せば、二人も続いて跡を追ひ行く。

(大正一一・四・一 旧三・五 北村隆光録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web