出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語15-1-21922/04如意宝珠寅 途上の変王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
エデンの河
あらすじ
 太玉命は田加彦と百舌彦に命じて、エデンの河に舟を出させるが、攻撃を受け、田加彦は胸を射られ、百舌彦は河に飛び込んでしまう。舟は岩にぶつかり木っ端微塵となる。
 太玉命は岸に泳ぎつき、顕恩郷に向って進む。太玉命の前に、偽の活津彦根や、偽の松代姫、照妙姫が現れるが、太玉串のおかげで騙されることはなかった。
名称
活津彦根神? 国彦 田加彦 鳶彦 太玉命 道彦 百舌彦 安彦
悪神 悪鬼 悪魔 天照大神 活津彦根神 妖怪変化 大国別 鬼雲彦 大神 鬼神 金毛九尾 神軍 邪神 大火光 照妙姫? 松代姫? 八岐大蛇
エデンの河 エデンの園 神言 顕恩郷 コーカス山 言霊 天国楽土 バラモン教 武器
 
本文    文字数=9449

第二章 途上の変〔五六九〕

 太玉命、安彦、国彦、道彦は河向ふの騒々しき物音に頭を傾けしばらく思案に暮れけるが、
太玉命『田加彦、百舌彦、その方は顕恩郷の様子を熟知するものならむ、彼の騒々しき物音は何物なるか、逐一陳弁せよ』
百舌彦『あの物音は察する処、顕恩郷の大将鬼雲彦の部下の軍勢、此方に向つて攻め来り、貴下等を召捕らむとの計画なるべし。一時も早く吾等を助け、この場を立ち退き給へ。三五教の神司ともあるべき御身が名もなき邪神に亡ぼされむは心許なし、早くこの場を』
と頻りに促す。
道彦『ナニ、敵を看て矛を収め、旗を捲いておめおめと遁走するは男子の本分に非ず。吾等には退却の二字なし、ただ進の一字あるのみ。如何なる強敵現はれ来るとも吾等は神の愛護により怯めず臆せず、ステツプを進めて敵の牙城に進撃せむ。生死勝敗は問ふ処に非ず』
と勇みの顔色物凄し。
安彦『ヤア敵の先鋒隊は蟻の如く黒山を築き向ふ岸に現はれたり。サアこれからは吾々が神力を試す時節の到来、田加彦、百舌彦、船の用意をせよ』
百舌彦『船の用意は何時でも出来て居ますが御覧の通りの大敵、仮令鬼神を挫ぐ神勇ありとも多勢に無勢、殊更味方は身に寸鉄を帯びず、敵は凡有精鋭の武器を持つて押し寄せ来る、勝敗の数戦はずして明かなり。時を移さば彼等はこの濁流を渡り吾等を生捕にせむは火を睹るよりも瞭なり。退いて徐に策を講じ、捲土重来の期を待たせ給へ』
 太玉命は大口を開けて高笑ひ、
太玉命『アハヽヽヽ、運は天にあり、吾は善言美詞の言霊の力を以て、寄せ来る敵を片つ端から言向和し、昔の顕恩郷に回復せむ。先んずれば人を制するとかや、この期に及んで躊躇逡巡するは御神慮に反す』
と言ふより早く身を躍らして船に跳び込んだ。五人は止むを得ず太玉命に従いて船中の人となつた。さしもに広きエデンの河の殆ど中流に進みし時、向岸より雨と降り来る急箭に百舌彦は胸を射抜かれ忽ち水中に顛落した。田加彦はこの態を見て大に驚き、ザンブとばかり水中に身を躍らして飛び込んだ。残り四人の宣伝使はこの河の水心を知らず、船は忽ち流れのまにまに下方に向つて濁流に押されて矢を射る如く流れ行く。敵の矢は雨の如く注ぎ来る。忽ち船は河中の岩石に衝突し木葉微塵に粉砕された。
 太玉命は辛うじて向岸に着いた。安彦、国彦、道彦は濁流に呑まれたまま行衛不明となつてしまつた。嗚呼三人の運命は如何に?
 太玉命は濡れたる衣を絞り日に乾かし、悠々として宣伝歌を歌ひ顕恩郷の敵の巣窟に向つて単騎進入するのであつた。日は西山に傾いて黄昏の空暗く一点の星さへ見えぬ闇夜は刻々と身辺を包んで来た。宣伝歌の声は暗を縫うて遠近に響き渡る。この時天地も割るるばかりの音響聞ゆると見る間に眼前に落下した大火光がある。不図見れば眉目清秀容貌端麗なる一柱の神人、身体より電光の如き火気を放出しながら太玉命に向ひ、
『吾は天照大神の第四の御子、活津彦根神なり。汝大胆にも唯一人悪逆無道の婆羅門が根拠に進入し来る事、無謀の極みなり。岩石を抱いて海中に投ずるよりも危し。一時も早く、もと来し道へ引返せよ』
太玉命『汝は活津彦根神とは全くの詐りならむ。鬼雲彦に憑依する八岐大蛇の変化か金毛九尾の変身か、悪鬼の変化ならむ。吾は苟くも大神の神使、この顕恩郷をして昔の天国楽土に復帰せしむるは吾大神より委託されたる一大使命なり。不幸にして神軍利有らずとも、そは天命なり、要らざる構ひ立て聞く耳持たぬ』
と暗の道を一目散に前進する。活津彦根神は、
『しからば汝の勝手にせよ』
と云ふかと見れば姿は忽ち消えて、山の尾上を渡る嵐の音のザワザワと聞ゆるのみなり。太玉命は漸く暗に慣れ、朧気ながらも探り探り進む事を得た。
 この時雲の扉を開いて十三夜の月は輝き初めた。太玉命は敵の城砦を指してまたもや宣伝歌を歌ひつつ進み行く。向ふの方より数十の黒き影現はれ来り、前後左右より一柱の太玉命を取り囲み、
鳶彦『ヤア我こそは大国別の命の従者にして、鳶彦と言ふ顕恩郷きつてのヒーロー豪傑、汝無謀にもただ一柱顕恩郷に進み来るとは生命知らずの大馬鹿者、サア尋常に手を廻せ』
と言ふより早く槍の切突を月光に閃かしながら四方よりつめ掛来る。進退維谷りし太玉命は懐中より柄の短き太玉串を取り出し、左右左と打ち振れば豈図らむや鳶彦以下の黒影は拭ふが如く消え失せて塵だにも留めざりける。
太玉命『アハヽヽヽ、何事も悪神の計画はかくの如く脆きものだ、吾が所持する太玉串の神力によつてかくも消え失せたるか。アヽ有難い有難い、三五教の大神!』
と大地に平伏してその神恩を感謝するのであつた。太玉命は不図頭を上ぐればこはそも如何に、コーカス山に残し置きたる妻、松代姫を始めエデンの園を守る最愛の一人娘、照妙姫は高手小手に縛しめられ猿轡を箝まされ、鬼の如き番卒数多に引き立てられ命の前を萎々と稍伏し目勝ちに通り過ぎむとす。太玉命はハツと驚き、二人の顔を息を凝らし目を見張り眺めて居た。松代姫、照妙姫は猿轡を箝められたるためにや、此方に向つて目を瞬き、何事か訴ふるものの如くであつた。この時黒頭巾を被りたる大の男、田蠑の如き目を剥き出し、
『ヤアその方は三五教の神司太玉命に非ずや、汝速にこの河を渡り再び顕恩郷を窺はざるにおいては汝の妻子を赦し遣はさむ。これにも屈せず益々顕恩郷に向つて進入するにおいては、汝が最愛の妻子を今この場において嬲殺しにしてくれむ、返答如何に』
太玉命『サアそれは……』
男『サア、サアどうじや、返答聞かせ』
太玉命『サア、それは……』
男『サア、サアサア』
と掛合ふ。この時如何しけむ、松代姫の猿轡はサラリと解けた。
松代姫『ヤア貴方は吾夫太玉命に在さずや、妾は今やバラモン教の兇徒に捕へられ、無限の苦を受け今またかくの如き憂目に会ふ。如何に夫にして勇猛絶倫に在せばとて、顕恩郷には鬼雲彦を始め、無数の強神綺羅星の如く固く守り居れば到底衆寡敵せず一時も早く自我心を折り、当郷を退却し妾母子の命を救はせ給へ』
とワツとばかりに泣き伏しにける。照妙姫の猿轡も如何しけむバラバラと解けたりける。
照妙姫『アヽ恋しき父上様、妾は敵のために無限の苦を嘗め、譬へ方なき侮辱を受け悲哀に沈む今の境遇、どうぞ妻子をお救ひ下さいませ』
とまたもやその場に泣き倒るるにぞ、太玉命は合点行かずと双手を組み稍少時思案に暮れて居た。松代姫、照妙姫は頻りに両手を合せ、
『吾夫よ、吾父よ、一時も早く貴方は我を折り、バラモン教の命に従ひ妾を助けてこの顕恩郷を退かせ給へ』
と前後より命に取り縋り泣き叫びける。
男『サア、太玉命、汝が所持する太玉串を吾等に渡し降参致せば、汝が妻子の生命を助けて遣はす。どうじや、妻子は殺され吾身を捨てても神の道を進まむとするか、返答聞かせ』
と詰め掛る。太玉命は心に思ふやう、
『焼野の雉子、夜の鶴、子を憐まざるはなしと聞く、况して最愛の妻諸共に非業の最後を遂ぐるをみすみす見捨てて敵城に進むは如何に神命なればとて忍び難し。さりながら松代姫はかくの如き悪魔にオメオメと捕縛せらるるが如き卑怯者に非ず。また吾が娘の照妙姫はかかる女々しき言を吐く娘に非ず、まさしくこれ妖怪変化の所為ならむ』
とまたもや神言を奏上し、太玉串を懐中より取り出して左右左と打ち振つた。忽ち雷鳴轟き電光石火、四辺眩き以前の神人この場に下り来るよと見る間に松代姫、照妙姫を始め数多の敵の影は煙の如く消え失せ、野路を吹き渡る風の音のみザワザワと聞ゆるのであつた。
太玉命『アハヽヽヽ、また欺しやがつたな』

(大正一一・四・一 旧三・五 北村隆光録)



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