出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語13-4-161922/03如意宝珠子 玉遊王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
フル野ケ原醜の窟
あらすじ
 音彦、亀彦、駒彦は先に進むと、赤白のゴムマリのような玉が浮遊して回転している。それが倍々に増えて洞窟内を飛び回る。これらの玉は、共産主義を奉じて団体交渉しようとしていたのだ。亀彦が「この弱肉強食の世の中では、正当なことを言うものは排斥されるので、処世法を知れ」と言うと、玉は亀彦を攻撃する。亀彦は夢を見ていたのだった。
名称
音彦 亀彦 巨大の玉 駒彦
魔神
ウラル教 共産主義 言霊 醜の窟 天眼通 普通選挙 野球
 
本文    文字数=6820

第一六章 玉遊〔五四二〕

 明るくなつた道を三人は足を早めて進み行く。前方に当つて赤白の護謨毬のやうなもの上下左右に浮動廻転してゐる。音彦は目敏くこれを眺め、
音彦『ヤア駒彦、また面白いぞ。先を見よ、魔窟の魔神が玉突をやつてるわ』
亀彦『オー、あれや野球戦だ、流石は魔窟だな、味な事をやりよるわ。この次にはまたダンスの余興が見られるかも知れないぞ。文明の空気は山の谷々はおろか、斯様な地底の巌窟内までもゆき亘つてゐるのだね』
音彦『マア一寸ここらで腰を下して見物しながら臨時将校会議を開いて、その結果吾々も魔神の打球会に参加するかせないかを決定したらどうだ』
亀彦『三人では将校会議も良い加滅なものだな。何はともあれ、ゆつくりと見物する事に仕様かい。ヤアヤア殖えるわ殖えるわ、沢山な毬が現はれた、十が二十になり、二十が四十になり、四十が八十になり、八十が百六十になり、百六十が三百二十になり……』
音彦『コラコラ、貴様はコンナ処で算術の稽古でもするのか』
亀彦『ヤア会計検査院へ決算報告をする必要があるから、遺漏ないやうに十分のベストを尽して居るのだ。会計検査官も骨の折れたものだ』
音彦『それは数十万年後の豆人間のする事だ。吾々は神代の英雄豪傑だ。ソンナ取越苦労はやめて現実的活動をやらなくてはならぬでは無いか』
亀彦『智識の宝庫とも言ふべき亀サンは、万年の先まで前途を達観してるから、天眼通に映じて仕方がない。コンナ神秘的な事は貴公等には諒解出来まいが、しかし原始的で頭脳の発達せない宣伝使には無理もないワイ』
駒彦『貴様はどうしてもウラル教の垢が脱けないから直に物質的の智識を出したがるのだ。神代には計算等は必要が無い。神は無形に見、無声に聞き、無算に数へ給ふものだ。ソンナ時代に適合はぬ前後のそろばんやうな、迂遠な事は没にした方が面倒臭くなくて良からう』
亀彦『フト不成立の問題を提出して非難の焦点となつてしまつた。ヤア仕方が無い。本案は撤回します』
音彦『撤回も何もあるものか、吾々は白紙主義だ。ソンナ愚案は忽ち握り潰しだ』
亀彦『それでも上院はどうする積りだ。ヒヒヽヽヽ』
 三人はまたもや立つて幾百とも数へ尽くせぬ玉の前後左右に浮動廻転する中心目がけて驀に進撃せむと一決し、音彦は先頭に立つて、
音彦『ヤイ、選手も居らぬのに玉ばかり何だ。コンナ処で民衆運動を開始しよつて良い加減に廃めないか、不穏当だぞ』
亀彦『ヤア此奴、中々野球にしては大きいなり、重たい玉だ。此奴は石玉だ。うつかり衝突でも仕様ものなら大変だ。ヤイ数多い化け玉、この亀サンの言霊と競争だ。どうだ、屏息するか』
玉の中の最巨大なるもの忽ち目、鼻、口、現はれて、
『アハヽヽヽヽ、玉げたか、玉らぬか』
亀彦『ヨウ、矢張醜の巌窟式だ。貴様一箇だけでは興が尠い。何奴も此奴も一斉に目、鼻、口を現はせ』
『御註文とあれば幾百万でも現はれて見せてやるぞ』
亀彦『貴様は螢の燐のやうな奴だ。何程にでも砕けよるのだな。一体全体何物だ。三五教の宣伝使のたまたまの御探険だ。玉を飾つて歓迎するのか、それとも俺達の御威勢に恐れて、こいつはたまらんと言ふので騒ぐのか。眼の玉の飛び出るやうな目に会はねばならぬぞ。胆玉がデングリ返るぞ、オイ玉公、返答はどうだ』
巨大の玉は『ウフヽヽヽヽヽイヒヽヽヽ』を連続してゐる。
亀彦『ヤア怪体な奴だ。旅をして居れば偶にはコンナ事も慰みになつて良いが、こう沢山にやつて来よると五月蝿くて堪らぬワイ。一体貴様等の目的は那辺に在るのだ。神に代つて世界を救済する天下の宣伝使だ。何でも不平な事があれば、俺に遠慮は要らぬ、逐一開陳したが良からうぞ』
『吾輩は何にも欲しくない、普通選挙の玉が欲しさに、かう皆の霊魂が一団となつて活動してゐるのだ』
音彦『貴様は共産主義だな。仰山らしい隊を組んでその態は何だ。何故代表者を選定して交渉せないのか』
巨大の玉『盲目、聾ばかりだから三人や五人の代表者が言つたつて貴様等の目には着きはせない。それだから已むを得ず多数の団体を組んで目に留まるやうに、聞えるやうに甲声をあげて団体運動を開始してるのだ。これだけ大勢の玉が叫んで居るのに貴様の耳には這入りはしまい』
亀彦『何だ、蚊の泣くやうなチツポケな声を何万集めたつて、吾々の耳に進入するものか。第一俺等は鼓膜がすつかり麻痺して居るから、もつと大きな声で大声叱呼せないか』
巨大の玉『大声俚耳に入らずと言ふ事がある。天の声が貴様の耳には入らぬか』
亀彦『貂の声か鼬の声か知らぬが、ソンナ事騒ぐよりも鼬の最後屁を放らぬやうに気をつけたが良からうぞ。糞蝿のやうに臭いものを嗅ぎ出しよつてブンブンと跳ね廻つても、元が蝿だから敗北するのは当然だ。どうせ優勝劣敗、強い者の強い、弱い者の弱い現代だからジタバタしても駄目だよ。正当な事を言ふ奴は排斥されるものだ。貴様は時代に不忠実な奴だ。処世法を解せない馬鹿者だ。アハヽヽヽヽ』
 巨大な玉は、目を怒らし眉毛を逆立て、鼻息荒く手足をニユウと出し拳骨を固め、
『皆の奴、コラコラ皆これから直接行動だ』
と亀彦に向つて四方八方より打つてかかる。亀彦は蠑螺の如き拳骨に頭蓋骨をしたたかに打たれてアツと言うた途端に夢は覚めた。
亀彦『ヤアコンナ処にコクリコクリと舟を漕いで居たワイ。オイ音サン、駒サン尻に白根が下りたやうだ。良い加減に立つて強行的前進を続けようかな』

(大正一一・三・二〇 旧二・二二 北村隆光録)



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