出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語13-3-101922/03如意宝珠子 巌窟王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
フル野ケ原醜の窟
あらすじ
 一行は野原で火に焼かれそうになったせつな、土が陥没して土中に落ち込む。そこが岩窟の入口であった。入口は6つに分かれており、一人一人別の入口から入るが、中は途中で一つになっていた。
 亀彦が井戸のような穴に落ちてしまう。一行は亀彦を助けるかどうか会議を開く。その間に、亀彦は梯子を伝って上がってくる。
名称
岩彦 梅彦 音彦 亀彦 駒彦 鷹彦 日の出別命
悪神 火鼠
天津祝詞 ウラル教 神言 機密費
 
本文    文字数=11450

第一〇章 巌窟〔五三六〕

 日の出別の射放ちたる矢を拾ふべく、鷹彦、岩彦一行は、先を争うて我一に功名せむと、萱野を分けて進み行く。
岩彦『この萱野原へ萱製の矢をたつた一本位射放つて、それを拾つて来いと云うたつて、天然坊の星あたり、何だけ探しても無ければもう駄目だ。失望落胆の淵に沈むとは、コンナことを云ふのだらうかい』
亀彦『際限もなきこの萱野原を、僅に一本の萱製の矢を探すと云つたつて、到底不可能的大事業だ、竿竹をもつて空の星をがらつよりも頼りない話ぢやないか』
鷹彦『また弱音を吹きよる。これが身魂の審めだ。何でも構はない、日の出別の宣伝使のおつしやる通り、唯々諾々として遵奉するのだよ』
駒彦『あまり無理ぢやないか』
鷹彦『親と主人と師匠は無理を云ふものだと思うて居れば好いのだ。滅多に吾々を親や師匠が窮地に陥没さして、痛快を叫ぶと云ふやうな事はなさる気遣ひがない。何処までも徹頭徹尾命のまにまに矢探しをするのだよ』
駒彦『ヤヤコシイ、矢探しだナ。矢矢しばらく思案に暮れにけりの為体だ。オイオイ大変だ、火が燃えて来るぞ。これだけ生へ茂つた野原に火をつけられ、吾々は耐つたものぢやないワ、本当に日の出別の宣伝使は無茶ぢやないか、矢張り彼奴は怪しいと思つて居たよ』
鷹彦『吾々を奈落の底に陥穽すると云ふ悪神の企みに乗つたのだ。エヽもう自棄糞だ、焼け死する処まで荒れて、荒れて、暴れ廻してやらうかい』
 かくいふ折しも、火は四方八方より燃え猛り、黒煙濛々として一同を包んでしまつた。梅公、音公両人は、
『暑いワイ、煙たいワイ、苦しい。どうしよう』
鷹彦『また弱音を吹くな、心頭を滅すれば火もまた涼しと云ふ事があるわ。かういふ時に、火に対する水だ。乾く事なく尽る事なき神の尊き水をもつて、猛火を消すのだ。これが吾々の身魂の試錬だよ』
 かく言ふ折しも火は足許へ燃えて来た。進退谷まつた一同は一処に集まり互に抱きついて地団駄踏んで居る。忽ち地はバサリと陥落し、土中に一行は陥つた。火はその上を何の容赦もなく咆哮しながら燃え過ぎにけり。
岩彦『アヽこれで分つた。九分九厘叶はぬと云ふ処で神様が助けてやるとおつしやるのは茲の事だ。火鼠を現はして教へてやるなぞと、本当の赤い鼠が出るのかと思つて居たれば途方途徹もない大きな火鼠だつた。火の通つた跡は焼け殻が皆黒くなつて、炭になりよる。それで火鼠とおつしやつたのだな』
鷹彦『ホー中々貴様は悟りがよいワイ。何だ未だブクブクするぢやないか。地獄の底まで陥没しても困る、好加減に止めて貰はぬと、過ぎたるは猶及ばざるが如しだ』
 何処ともなく、『ククヽヽヽ』
一同『ヤア、あれは鼠の鳴き声ぢやないか。彼方の方に往つて見ようぢやないか』
と声を尋ねて一同は進んで行く。果して毛の緋色を帯びた古鼠が萱の矢を喰はへてこの処に現はれ、
『内はホラホラ、外はスブスブ』
と鳴いたきり姿を消してしまつた。一同はドンと足踏する途端、ズドンと音がして深い穴に落ち込んだ。見れば其処には六個の巌窟が開いて居る。
鷹彦『ヤア此処だ此処だ、日の出別命もなかなか偉いワイ、矢の落ちた処が矢張この巌窟の入り口だつた。悪魔と云ふものは、本当に注意周到なものだ、コンナ処に入口を拵へておけば誰も気の付く筈はない、至れり尽せりだ。サアこれから約束の通り各自分担して探険に出かけるのだ』
 六人は各一個の穴に姿を隠した。比較的高く横巾の広い巌穴である。どうしたものかこの巌窟の中は地中にも拘はらず非常に明い。六人は各一つの穴を目蒐けて進み行く。

 日の出別の火鼠荒野に現はれて  迷へる人の心を照せり

 時々穴と穴との巌壁に風通しが開けてある。六人は六個の穴を二三町進むと其処に非常に広い場所がある。これより先は堅固なる巌の戸が鎖されて進む事が出来ない。六人は期せずして一処に集まり、
鷹彦『ヤア皆の連中、どうだつた。別に変つた事は無かつたか』
亀彦『あつた、あつた、大にあつた』
鷹彦『何があつたのだ』
亀彦『巌壁の両方に覗き穴が沢山あつたのだ』
鷹彦『何を云ふのだ、大層らしい。どの窟にも共通的に空気穴が開いて居るのだよ』
岩彦『これでは約らぬぢやないか、相手なしの戦ひは出来やしない。何だ、醜の厳窟に化物が居るナンテ人を馬鹿にして居る。それだから世間の噂は当にならぬといふのだ』
鷹彦『イヤ、これからが正念場だよ。ここはホンの序幕だ。何十里とも知れぬほどあると云ふぢやないか、どこぞこの岩壁を力一杯押して見ようか。何でも沢山の戸があると云ふ事だから、アヽさうだ、一つ押してやらう。オイ皆一度に総攻撃だ』
と。力一杯ウンと押した。亀公の押した岩は、暖簾を押すやうに手もなく開いて、亀の勢あまつて巌穴の中へ飛び込んだ途端に幾丈とも知れぬ陥穽にザブンと音を立てて落ち込んだ。
亀彦『ヤヤ大変だ。皆の奴俺を助けてくれぬかい』
 五人は穴の傍を一足、一足、指に力を入れながらソツと向ふに渡り、
『アヽ、思はぬ不覚を取つた。これだから気許しは一寸も出来ないと云ふのだ』
鷹彦『何とかして亀サンを救うて上げてやらねばなるまい』
 亀、井戸の底より、
『オイ、オイ、何とかしてくれないか』
音彦『お前は名から亀サン、水の中は得意だらう、マア悠乎と水でも呑んで寛ぎたまへ。突差の場合よい智慧も出ないからこの井戸の傍で山の神ぢやないが、井戸端会議を開会してお前を助けるか、助けないかといふ決議をやるのだ。マアマア、閉会になるまで辛抱してくれ』
亀彦『ソンナ気楽な事を云うて居れるかい、一時も早く救ひ上げてくれ』
岩彦『エヽ、矢釜敷い云うな、手の付けやうが無いちやないか』
亀彦『手のつけやうどころか、足も頭も体中、浸けて居るぢやないか』
鷹彦『サアサア、臨時議会の開会だ、これから議長の選挙だ。院内総務は誰にしようかな』
亀彦『アヽ辛気臭い、洒落どころぢやないわ、冷たくなつて仕方がない、体も何も氷結してしまふわ』
岩彦『氷結したつて仕方がない、此方は多数決だ。五人を両派に分けて、三人と二人だ。鷹サンは議長といふ格だ』
鷹彦『エヽ諸君、遠路の処よく出席下さいました。今回臨時議会を開会いたしましたに就ては、最も急を要する事件でございまして、国家危急存亡の場合、何卒諸君の慎重なる御審議を願ひたいのです。抑々今回の議案提出の要件は、御存じの通り、元ウラル教のヘボ宣伝使、亀公と云ふ男、醜の巌窟の探険に出かけ、実に短見浅慮にも思はぬ不覚を取り、深く井中に陥没致し、生命旦夕に迫る、と云ふ場合でございます。どうぞ諸君の箱入の知識を絞り出されて、彼が救済の策を講じ最善の努力を尽されむ事を希望いたします』
『ヤア賛成々々』
と、四人は一度に拍手をもつて迎へる。亀公は井戸の底より、
亀彦『ヤーイ、早く助けぬかい。死んでからなら助けても役に立たぬぞ』
鷹彦『何だ。井戸の底から矢釜敷云ふな、議会の神聖を汚すでないか。どうでせう、諸君、先決問題として亀公を救済すべきものなりや、将又このままに見殺にすべきものなりや、起立をもつてお示し下さい』
音彦『皆すでに起立して居るぢやありませぬか』
鷹彦『ヤア、これは間違つた。議員一同そこにお坐り下さい。賛成者は起立を願ひます。亀彦を助けると云ふお心の方は起立して下さい、救はないと云ふ御意見の方はそのまま坐つて居てもらひませう。一二三』
鷹彦『ヤア起立される方は駒サン一人ですか、これは怪しからぬ。しからば議長が起立いたしませう』
岩彦『議長横暴だ。多数決多数決。かとする者二人、否とする者三人』
鷹彦『多数党横暴極まる。議会の解散を命じませうか』
 亀、井戸の底より泣き声を出して、
『ヤイ、馬鹿にするない、洒落どころかい。早く助けてくれないか』
岩彦『この井戸の周囲は皆この岩サンで固めてあるのだ。岩に手をかけ足をかけ登つて来ればよいのだよ』
亀彦『登れと云つたつて、手も足も引つかかる処がないのだよ』
岩彦『さうだらう、手足が短くて背の甲羅がつかへて登れぬのだらう。モシモシ亀よ亀サンよ、世界の中にお前ほど、体の不自由なものは無い、アハヽヽ』
亀彦『何とおつしやる兎サン』
鷹彦『危急存亡の場合、命の瀬戸際になつて、洒落るだけの余裕があるものなら、サツサと登つて来い』
亀彦『皆サン大きに憚りさま。上から暗くて見よまいが、立派な段梯子が刻んであるわ、アハヽヽヽ』
と笑ひながら悠々として井戸から登つて来た。
岩彦『こいつ一杯喰された。イヤ此方が臨時議会まで開いて大騒動をやつて、沢山の機密費を使つたのは、吾々の方が陥穽に放り込まれたやうなものだ。有もせぬ脳味噌から機密費を絞り出して馬鹿らしい。この度の議会は歳費五割増だ。アハヽヽヽ』
 かく笑ひさざめく折しも、前方に当つて何とも形容の出来ないやうな異声怪音頻りに一同の耳朶を打つ。
 不思議や一行の身体はその響と共に、電気にでも感じたやうに、身体の各部に震動を感じ、やや痳痺気味になつて来た。
鷹彦『ヤア、此奴は大変だぞ、オイオイ皆の者、緊褌一番、大に活動すべき時期が切迫した。何はともあれ、神言だ神言だ』
 一同は声をそろへて、天津祝詞を奏上する。

(大正一一・三・一七 旧二・一九 加藤明子録)



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