出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語13-2-91922/03如意宝珠子 火の鼠王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
フル野ケ原醜の窟
あらすじ
 六人は日の出別命の案内により醜の窟に入ることになっているが、日の出別命は矢を放って、六人にそれをとりに行かせて、大国主神の神の神話のように野原に火を放った。
名称
岩彦 梅彦* 音彦 亀彦 駒彦 鷹彦 化物 日の出別命
悪魔 生神 閻魔 大国主神 キリスト 邪神 火鼠 弥陀
コーカス山 言霊 醜の窟 神界 琵琶の湖 霊界
 
本文    文字数=9096

第九章 火の鼠〔五三五〕

 日は西山に傾きしと見えて、さしも陰鬱なる天地に一層の暗澹を加へ、荒野を吹捲る風の音は刻々に激しくなり来たりぬ。
鷹彦『サア、これから愈魔窟の探険だ。充分の食料を用意してしまはないと、この岩窟は琵琶の湖の底を通つてコーカス山に貫通して居るのだから、三日、五日、十日位の旅では予定の探険は出来ない。先づドツサリとこの袋にパンでも格納して、プロペラーに勢ひを付けて、身魂の基礎工事をしつかり撞固め、気海丹田を練つて進む事としよう。中途になつて腹の虫が汽笛を鳴らすと困るから準備が肝腎だ』
岩彦『ヨウ、エライ決心だ、モウ直に行くのか』
鷹彦『ナニまだまだ時機が早い、子の刻限だ。この六ツの岩穴は全部塞いであるから一寸やそつとには分らぬ。ましてかう夜中になつて来ては猶更の事だ。日の出別命の宣伝使によつて子の刻になれば、真赤気の鼠が現はれて案内する事となつてるから、マア夫迄待つ事にしよう』
音彦『サア、これからが正念場だ。仮令百千万の悪魔、邪神、一団となつて攻め来る共この音チャンは言霊の神力によつて、木つ葉微塵に打ち伸ばし、叩き潰してしまふは訳はない』
鷹彦『オイコラ音公、今からさう逆上るな、キニーネでもあれば頓服でもさせてやるけれど生憎持合せがなくて仕方がない』
音彦『ナーニ悪魔を頓服させるのだ。ヤアこの辺が穴恐ろしい穴の口らしいぞ。刻限の来るまでは、稲荷サンの昼寝とやらうかい』
亀彦『何だ、怪つ体な事を言ふぢやないか、稲荷の昼寝とは何の事だい』
鷹彦『アハヽヽヽ、穴のふちにころりだ。それにしても、日の出別の宣伝使の姿がまたもや紛失してしまつたぢやないか、一行中の大巨頭が居らなくなつては、指揮命令がうまく行かない。何程岩公が万丈の気焔を上げた所で風のやうなものだ。危機一髪の、ハツハツになつて、直にベソをかくのだから頼りないものだ』
岩彦『オイオイ、お手際拝見してから後に言うて貰はうかい、貴様の気焔とは訳が違うのだ。朝つぱらは滅茶矢鱈にはつしやいで、昼前になるとヤアモウ機械の油が切れたの一歩も行進が出来ないなぞと、弱音を吹きよるからコンナ弱い奴を途連れにして居ると、同行者も並大抵の事ぢやない。忌憚無く駄法螺は噴火口から天を焦すやうに噴出させるなり、序に運の悪い先ばしりの糞をプンプンと振れ撒きよるなり、嗚呼糞慨の至り屁口千万だ』
鷹彦『オイオイ、ソンナ馬鹿話を言つてる処ぢやないぞ。それ見ろ、茅原の中を昨夜出た奴が………』
岩彦『ヤまた出よつたな。今度は化の奴、位置を変更しよつて、味方の間近く攻寄つたりと云ふ光景だ。オイ化サン、昨日の岩公とチツト岩公が違うのだい。この醜の巌窟をよく見よ。俺の腕は正にかくの通りだ。何時でも愚図々々と洒落た事をしよると已むを得ない、直接行動を取るから覚悟致せ』
化物『アハヽヽヽ、俺だ俺だ、岩公の胆試しに一寸化けて見せてやつたのだよ』
岩彦『さういふ貴様は一体誰だ』
化物『人をこまらす駒サンだ。それでも貴様この暗に俺の顔が見えるのかい』
岩彦『オツト待つた、見えるでもなし、見えぬでもなし、何だか亡国的悲調を帯びた異声怪音が耳に映ずるのだ。俺の耳は重宝なものだぞ、耳で見て目で聴くのだから化物よりも上手を越す宣伝使さまだ。馬鹿な真似をして後でベソをかくな。何だ蝗か、ばつたのやうに草叢にもぐり込んで、あつちやに飛び、こつちやに飛び、飛びあるきよつて、それだから飛沫ものと云ふのだ。まるで際物師のやうな芸当をやらかして、胆力無双の岩さまを恐喝しようと思つたつてその手は喰はぬぞ』
駒彦『アー俺もこの岩窟へ探険と出かくれば、ドンナ奴が出て来るか分らないから一寸化物の予習をやつてみたのだ。どうぞ今後は御贔屓にお引立を願ひまして、引続き不相変予習を願ひます』
岩彦『洒落どころかい、戦場に向つて何をソンナ気楽な事を言つて居るのだ。ソンナ事では屹度途中に屁子垂れる事は確定的事実だ。貴様のしくじる事は既に已に閻魔の登記簿にチヤンと印紙を貼つて登録済になつて居るのだ』
駒彦『オイオイ、貴様何を言つて居るのだ。登録済だの登記簿だのつて、ソンナ言葉は基督降誕後二十世紀の人間のぬかす事だ。今は紀元前五十万年の昔だぞ』
岩彦『過去、現在、未来を超越した霊界の物語だ、ソンナ事は当然だよ。チツポケな時代だとか、言葉だとかに囚はれて居るやうな小人物で無限絶対無始無終の神界の経綸が分つてたまるものかい。学、古今を圧し、知識東西を貫くと云ふ三五教の新宣伝使だよ。貴様もちつと文明の空気を吸ふたが好からう』
駒彦『何だ、不分明の事をよう囀る奴だ。今日の原始時代に、文明の糞のつて尻があきれるワイ』
岩彦『文明の逆転旅行と云ふ事を知らぬのか。これでも、マア見て居れ、地上の人間が豆のやうな胆玉になつた二十世紀と云ふ非文明の世の中が出て来ると、何処かに妙な奴が現はれて屹度吾々が今採りつつある行動を、寝物語にほざく奴が出来て来るかも知れぬのだ。その時にまた歴史は繰返すと云うてその時代の人間が、これは非文明とか、非真理とか、屁理窟に合うとか合はぬとかほざくやうなものだ。マアマア黙つて時の移るを待つたが好からうぞい』
 またもや一天俄に暗く逆巻く雲の渦、暴風しばく雨の槍衾に包まれにけり。
音彦『ヤヽヽヽ、またどつさりとあめ利加がフラン西とけつかるワイ。鼠の奴早くやつて来て岩窟を吾々に明示してくれないと、こつちの方が先に濡れ鼠になつちまふわ』
駒彦『その態はなんだ、猫に追はれた鼠のやうな腰付をしよつて、ニヤンチウ不格好な情ないていたらくだい』
鷹彦『オイオイ言霊の奏上だ。貴様等は暇だと直にはしやぎよつて騒がしくて仕様がない。篏口令の代りに間断なく祝詞奏上宣伝歌の合唱を厳命する』
岩彦『言はしておけば際限もなきその暴言、貴様の言ふ事を聞くものは、この広い天地の間に鼠一匹あるものかい。あまりメートルを上げ過ぎると汽缶が破裂するぞ』
 この時日の出別命はまたもや忽然として岩上に現はれける。
一同『弥陀の来向だ、生神の顕現だ、有難い有難い』
岩彦『モシモシ日の出別命様、ドウゾ早く火鼠の御出現遊ばすやうに斡旋の労を執つて下さいナ』
『ヨシヨシ、今だ』
と云ひながら、日の出別命は岩上に密生せる灌木を幹打ち切り末打断ちて、腰の細紐を解きこれを縛つて弓を拵へ、茅の茎を切つて矢を作り、東西に延長せる岩山に向つて、発矢と射放ちける。
『サアよほど天も紅くなつて来た。いま私の射放つた矢を拾つて来い。さうすれば入口がはつきりと判るのだ』
鷹彦『これから十万年未来において、大国主神が矢を拾ひに原野に往つたやうな古事ではない未来の事実だ。拾ひには行きませうが、その時のやうに原野に火をかけて焼かれては困りますぜ』
日の出別『マア吾々の命のまにまに探して来るのだよ』
岩彦『サアサ、これから流れ矢の探索隊編成だ。何れ日の出別と云ふから、火を出して焼くには違ひない、さうすると、内はホラホラ外はスブスブと鼠の先生がやつて来ると云ふ段取だナ。全隊進め、オ一二三』
と暗雲に駆け出したり。
 日の出別は直ちに燧石を取り出し折柄吹き来る暴風に向つて火を放てば、忽ち轟々たる音を立て火は四方に燃え拡がりぬ。嗚呼鷹彦以下の運命は如何に成り行くならむか。

(大正一一・三・一七 旧二・一九 谷村真友録)



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