出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語12-2-141922/03霊主体従亥 大蛇ケ原王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
秋月の滝
あらすじ
 初公の行平別は深雪の滝へ行き、五人の宣伝使が大蛇に飲み込まれるところを見た。また、大蛇は行平別も呑んでしまい、一行は大蛇の腹の中で再会した。しかし、これは行平別の錯覚で、実は一行は秋月の滝の近辺を歩いていた。
名称
大蛇 蚊取別 国光彦* 高光彦 玉光彦* 初公 祝姫
行成彦 行平別
秋月の滝 イホの国 シナイ山 白瀬川 高天原 高熊山 万寿山 弥仙山 深雪の滝
 
本文    文字数=7112

第一四章 大蛇ケ原〔五一〇〕

 有為転変の世の習ひ  淵瀬と変る人の身は
 栄枯盛衰会者定離  浮世の風に操られ
 高天原の天使長  その神政を輔翼する
 行成彦の伴神と  仕へてその名を内外に
 轟かしたる行平別の  神の命はイホの国
 花の都に現はれて  卑しき人の群に入り
 弱きを救ふ侠客  名も初公と改めて
 花咲く春を待つ間に  世は常暗となり果てて
 春夏秋の別ちなく  悪魔は日々にふゆの空
 心さむしく世を渡る  身の果こそは哀なり
 月日は廻る時津風  神の伊吹に払はれて
 心も勇む宣伝使  五人の後に従ひて
 夜も秋月の滝の音に  曲言向けてただ一人
 神の御稜威を称へつつ  深雪の滝に立ち向ふ。

 初公の行平別は、荊棘茂る谷道を、尋ね尋ねて瀑布を目当てに下り行く。瀑布の前には数十人の人声、見れば蚊取別、祝姫その他の宣伝使を口に啣へながら、蜒々たる大蛇は鎌首を立て此方に向つて進み来る。
 数十人の人々はこの光景を見て、手を打ち心地よげに立ち騒いで居る。初公はこれを見るより怒り心頭に達し、
『につくき大蛇の悪魔、五人の宣伝使を呑み食はむとするか、待て待て我真心の言霊の剣に亡ぼしくれむ』
と宣伝歌を歌はむとすれば、口塞がり痺れてピリツとも動かなくなつて居る。身体は見る見る硬直して自由に動く事さへ出来なくなつて来た。
 行平別は身体を縛られ口を鎖され、どうする事も出来ず、力と頼む五人の宣伝使は、見る見る大蛇に呑まれてしまつた。大蛇は行平別に向つて、
大蛇『ヤア彼処に、もう一人の片割れが居る。これも序に呑むでやらうか』
と云ひながら大口を開けて、今や一口に食はむとする勢である。行平別は心の中で神言を奏上しながら……どうなとなれよ、神々に任したこの体、呑むなら呑めよ……と口には得云はねど顔色に現はして居る。心では一生懸命祝詞を奏上するや、不思議に発声の自由を得た。
『ヤア大蛇の奴、貴様は怪しからぬ奴だ。五人の宣伝使を、今見て居れば、一口に呑んでしまひよつたな。ヨシ俺が貴様の腹の中に這入つて、大蛇身中の神となつて平げてやらう。サア足から呑むか、頭から呑むか、お望み次第だ』
 大蛇は一丈ばかりの岐になつた舌をペロペロと出し、行平別を舌の先に巻いてグツと呑み込むでしまつた。
『ヤア、たうとう俺を呑むでしまひよつたナ。随分暗い穴だ。五人の宣伝使は何処まで行つて居るのか知ら。大分に来た積りだがねつから其処辺に声がせぬ。随分大きな大蛇だ。この間夢に見た奴かも知れぬぞ、このまま雲を起して俺達を呑むだまま天に舞ひ上るのか知ら。何構ふものか舞ひ上つたつて腹の中だ、落ちる心配はない、また地から天におつこちた者もない、マア緩くり宣伝歌でも歌つてやらうかい』
と、真暗がりの大蛇の腹を四股踏み進んで行く。
『ヤア大分にジクジクして居るぞ。大蛇の小便袋を踏むだのぢやなからうかなア』
 遥向ふの方に少し光る物がある。
『サアこれからあの光を目蒐けて、どんどんと行平別だ』
と云ひながら足を速めた。何だか黒き頭が見える。
『ヤア此奴ア子持だな、大蛇の卵だらう』
と立止つて思案をして居る、闇より蚊取別の声として、
『ヤア初公さま甚う遅かつたねえ』
『ヤア蚊取別さまか、秋月の滝で魔神を言向け和して居る間にお前さまも腹の悪い、五人一度にどろんと消えて、初さま一人をほつときぼりにして、余り酷いぢやないか、五人が五人ながら揃うて五人情の薄いお方だ。私一人にするとは余りだよ』
蚊取別『イヤ、秋月の滝はお前に一任したのだから、それで当然だ。我々の精神を誤認されては困るよ』
行平別『エヽ六人でも無い事をおつしやりますな。しかし此処は大蛇のトンネルですか、イヤ祝姫様も万寿山の宣伝使も其処に居られますか。どうです怪我はありませぬか』
祝姫『別に、お蔭で怪我もせず、谷道を越えて此処までやつて来ました。どうも暗い事ですなア、軈て深雪の滝に間もありますまいから、此処で一服揃うてして居ますのよ』
高光彦『ヤア初さま、御苦労でしたなア、マア緩くり一服致しませうかい』
行平別『さう気楽な事も云うて居られますまい、此処は大蛇のトンネルぢやありませぬか。今貴方方五人が大蛇に呑まれて居たのを見ましたので、何くそ、この行平別の言霊によつて、大蛇を征服してやらむものと、深雪の滝に進み入つたところ、大蛇の奴、またもや我を大きな長い舌の先でペロリと舐て喉坂峠をごろごろ、漸く細頸道を探り探りて大野腹にやつて来て見れば、貴方方の私語声、一体この大蛇と云ふ奴よほど太い奴ですなア。どうでせう、六人が力を合せて横つ腹に穴でも開けて出てやりませうか』
蚊取別『オイオイ、初公さまお前何を呆けて居るのだ。ここはシナイ山の麓の秋月の滝の二三町下手だよ』
と云はれて初公は、目を擦り四辺を見れば、こは抑如何に水音滔々として白瀬川が布を晒したる如く流れて居る。
行平別『ヤアまた大蛇の奴、魅みよつたなア、油断も隙もあつたものぢやないワ、岩も木も草も皆化けて化けて化けさがしよるワ。その筈だ。最前も云つたなア、我は大化物だと、大方蚊取別が目を眩ますのだろう』
 この時山岳も崩るるばかりの物音凄く、見上ぐるばかりの大岩石は風に吹かれて散る木葉の如く、天に舞ひ上り地上に向つて、ドスンドスンと音を立てて雨や霰と降り来る。一行六人は空を仰ぎながら、岩に打たれじと前後左右に躰をかはし、汗を流して飛び廻る事殆ど一時ばかり、遂には足疲れ目眩み千仭の谷間にズデンドウと顛落した。ハツと思ふその途端目を開けば、高熊山の巌窟の前、十四夜の月は早くも弥仙山の頂に姿を隠さむとする真夜中頃なりき。

(大正一一・三・九 旧二・一一 加藤明子録)



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