出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語12-1-31922/03霊主体従亥 蚊取別王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
イホの森
あらすじ
 酋長と春公が初公達に襲われようという刹那、蚊取別の宣伝使が現れ、酋長と春公は難を逃れて逃げ去った。蚊取別は初公の勧める酒を断る。初公達は逃げた酋長と春公の家を襲いに行こうとするが、蚊取別が霊縛をかけ動けなくしてしまう。そこへ、高光彦、玉光彦、国光彦がやってくる。
名称
蚊取別 国光彦 酋長 高光彦 玉光彦 初公 春公 斧公
磐楠彦 自在天大国彦 純世姫 皇神 日の出神 曲津
天の真奈井 イホの都 イホの森 ウラル教 コーカス山 筑紫の州 常世会議
 
本文    文字数=7993

第三章 蚊取別〔四九九〕

 イホの都の町外れ、国魂の祠の森に集まりたる群集は、直会の神酒に酔ひ、終に酋長および春公に向つて、棍棒を振つて四方より飛びかからむとするその時しも、闇を透かして宣伝歌聞え来たる。

『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直せ聞き直せ
 身の過は宣り直せ』  

と声も朗かに唄ひながら、群集の中に悠々として進み来る一人の宣伝使、篝火に照されて、茹章魚のやうな赭い顔に禿頭、腰つき可笑しくその前に現はれ、またもや以前の宣伝歌を繰返すのであつた。初公は大に怒り、
初公『コラ、何処の奴か知らぬが、善も悪も有つたものかい。章魚のやうな面付しやがつて何だツ。折角の我々の面白い酒宴に茶々入れるのか。サア、マ一遍吐いて見ろ、量見ならぬぞ』
と右の肩を無理に聳やかし、凹目をギロつかせ、ヒヨロリ、ヒヨロリと宣伝使の前に現れ、ウンとばかりに突き当つた。宣伝使は体を躱し、
宣伝使『ヤア、お前さんはこの町のお方と見えるが、お酒は余り上らぬが良からう』
初公『ナヽ何だツ。お酒を上ろと上るまいと、放つときやがれ。何も貴様の酒を飲むだのでもなし、俺の酒を俺が勝手に飲むだのだ。この辛い時節に、自分の酒までかれこれ云はれてたまるかい。貴様は何処の馬鹿者だ。オイオイ皆の奴、此奴は三五教だぞ。酋長も春公も同腹だ。二人叩くも三人叩くも同じ事だ。此奴が親分らしい。これから先へ、畳ンだ、畳ンだ』

宣伝使『朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  誠の力は世を救ふ
 救ひの神の御教に  心を覚せ目を醒せ
 黒雲四方に塞がりて  黒白も分ぬ闇の夜に
 人の心を照さむと  神の御言を畏みて
 朝な夕なに山河を  渡りて此処にイホの森
 人声高しと来て見れば  初めて会つた初彦が
 酒の機嫌で熱を吹く  吹くは吹くは法螺の貝
 二百十日ぢやなけれども  吹いたる後は良くないぞ
 早く静まれ風の神  弱い奴ぢやと附け込みて
 肩臂怒らす可笑しさよ  酒を飲むのはよけれども
 酒に飲まれた初公の  その足附は何事ぞ
 恰も家鴨の火事見舞  腰はフナフナ目クルクル
 今に心を直さねば  天地は暗く揺り動き
 五穀実らず果物も  残らず虫に落されて
 眩暈が来るは目の当り  頭を土に足上に
 のたくり苦む憐れさを  誠の神は見捨て兼ね
 コーカス山に現れて  この世を照す朝日子の
 日の出神の御教を  天地四方に宣べ玉ふ
 アヽ人々よ人々よ  一日も早く速けく
 酒に腐りし腸を  天の真奈井の玉水に
 洗つて神の御為に  誠を尽せ皆尽せ
 三五教は世を救ふ  救ひの船は今此処に
 我も昔は自在天  大国彦に使はれて
 あらぬ罪をば作りたる  曲津の神の住の家
 腸を腐らす酒好み  瓢を腰にブラ下げて
 ウラルの教を開きつつ  生血を絞りし蚊取別
 わけて尊き朝日子の  日の出神に救はれて
 心も魂も澄み渡り  筑紫の島の守り神
 純世の姫の神使  悪を退け善に附き
 身の罪科を天地に  謝罪り悔いて元津祖
 神の賜ひし真心に  一日も早く帰れかし
 畏き神の御教は  水を洩らさぬ三五教
 あな有難や尊しと  共に手を拍ち皇神を
 称へまつれよ百人よ』  

初公『何だ、ベラベラと気楽さうに、訳も分らぬ事を吐きやがつて、それほど酒が喰ひたいのか、喰ひたければ此処に燗冷しがある。これでも一杯喰つて、もう一切り歌つてくれ。貴様の姿は気に入らぬが、声と歌が気に入つた。サア、この燗冷しでもグツと飲むで、もう一切り歌つたり歌つたり』
蚊取別『イヤ、私は三五教の宣伝使、神様の神酒は戴きますが、皆様の飲みふるした余り酒は、平に御免を蒙ります』
初公『ナヽ何を吐しやがるのだ。ド乞食奴が、贅沢を云ふな。貴様のやうな贅沢な奴が、この世の中にうろつくものだから、春公の奴、沢山に米や酒を倉にウンと持つて居やがつて、まだ御前らは贅沢なとか、世の中が其処まで行詰まつて居らぬから、倉を開くは早いとか吐きやがるのだ。悪い智慧をつけよつて、量見ならぬぞ』
蚊取別『それは大変な間違です。我々は贅沢を戒めに歩いて居るもの、聞き違つて貰つては困りますよ』
 群集の中よりまたもや一人の泥酔者が、行歩蹣跚としてこの場に現れ来り、
男『コラコラ、初公、コンナ奴に相手になつて居るものだから、肝腎の酋長や春公の奴、知らぬ間に逃げてしまひよつたぢやないか』
初公『ヨウさうだ。風を喰つて逃げ失せたか。イヤ、ナニ、彼奴の家へこれから押しかけて行かう。小さくなつて、倉の中へ逃込むで、鼠のやうに俵に喰ひ附いて居やがるだらう。サアサアこれから春公征伐だ。酋長も巻添だ』
 蚊取別声を張り上げて、
『ヤア、皆の方々しばらく御待ちなされ。我々が申上げたい事がある。キツト悪い事は云はぬ。御聞きになつたが皆様のためだらう』
初公『エー、何を愚図々々云やがるのだ。この棒で貴様の頭を蚊取別と胴突いてやらうか、貴様は燗冷しは嫌ひだと吐きやがつた。何ぼ燗取酒でも、こンな処で立派な燗酒が飲めると思ふか。冷酒でも結構だのに、何を不足さうに愚図々々云ふのだい。オイオイ皆の連中、行け行け、春公の家へ』
 蚊取別は声も涼しく天の数歌を歌ひ、最後にウンと群集に向つて霊を送つた。初公、斧公の二人は化石のやうになつて、その場でピタリと倒れた。群集は口を開けたまま、手を振り上げたまま、足を踏んばつたまま、立かけたまま、千種万態、化石のやうになつて、目ばかりギロギロと動かし居る。この時祠の後より、

『神が表に現はれて  善と悪とを立て別る
 家を破るも酒のため  喧嘩をするも酒のため
 泣くも怒るも酒のため  酒ほど悪い奴は無い
 蚊取の別の宣伝使  今やこの場に現れて
 酒に狂へる里人を  各々に霊縛り
 アヽ勇ましや勇ましや  神の力はまのあたり
 四辺輝く篝火に  照して見れば三五の
 神の教を伝へ行く  雄々しき姿の一人旅
 心も堅き磐樟彦の  神の命の三柱御子の
 高光彦や玉光彦  国光彦の宣伝使
 君の勲を覗し見て  心の底より愛でまつる
 アヽ惟神々々  御霊幸ひましませよ』

と歌ひながら三人の宣伝使は蚊取別の前へ粛々として現れ来たる。

(大正一一・三・六 旧二・八 岩田久太郎録)



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