出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語11-4-181922/03霊主体従戌 琵琶の湖王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
汐干丸
あらすじ
 一行は琵琶の湖を行く汐干丸に乗船したが、船は風待ちで梅島の港に停泊した。大工達が大気津姫の噂話をしている。コーカス山に引っ越すヤッコスが多いらしい。また、竹野姫は捕われて岩窟に入れられているらしい。話を聞いた松代姫と梅ケ香姫は、「自分たちは大工達の話している宣伝使である。自分たちを大気津姫のところに連れて行って欲しい。」と、大工達に頼む。
名称
牛公 馬公 梅ケ香姫 鴨公* 鹿公 時公 虎公 八公* 松代姫
ウラル姫 大気津姫! クス 醜神 醜女 竹野姫 常世姫 ヒツコス ヤツコス
宇宙 梅島 鬼城山 黒野ケ原 コーカス山 汐干丸 青雲山 体主霊従 竹島 蛸間山 天山 被面布 琵琶の湖 松島 黄泉の国
 
本文    文字数=13014

第一八章 琵琶の湖〔四八五〕

 さしもに寒き冬の日も  何時しか暮れて春霞
 靉く時を松代姫  神徳薫る梅ケ香の
 姫の命の宣伝使  三人の随伴を引連れて
 魔神の猛ぶコーカスの  山の神達悉く
 神の御水火に言向けて  三五教を開かむと
 夜を日に継いで雪の路  ゆき疲れたる膝栗毛
 心の駒もはやりつつ  早くも琵琶の湖の辺に
 月照る夜半に着きにけり  明くれば広き琵琶の湖
 浪に漂ふ汐干丸  朝日を受けてコーカスの
 御山を指して走り行く  コーカス山の山颪
 降る雪さへも交はりて  歯の根も合はぬ寒空に
 神の恵の暖かき  救ひの船と喜びつ
 言霊清く琵琶の湖  浪音立てて進み行く。

 琵琶の湖には松島、竹島、梅島といふかなり大きな島がある。松島は全島一面に鬱蒼たる松樹繁茂し、竹島は斑竹一面に発生してゐる。さうして梅島には草木らしきものは一つもなく、殆ど岩石のみ屹立した島である。
 船は漸くにして梅島の麓に着いた。断岸絶壁、紺碧の湖中に突出し、見る者をして壮烈快絶を叫ばしむる絶景である。この島には天然の港がある。折しも風波激しければ、岩窟の港に船を横たへて、しばらく此処に天候の静穏になる日を待つ事とした。
 これより三日三夜颶風荐りに至り、波高く、已むを得ず三日三夜を岩窟の港に過す事となつた。船客は百人ばかりも乗つて居る。船の無聊を慰むるために、彼方にも此方にも歌を歌ふ者、雑談に耽る者が現はれた。船中の客は七八分まで鑿や鉋や槌などの大工道具を持つて居る。時公は四五人の男の車座となつて、何事か雑談に耽つて居る前に胡床をかき、
時公『一寸お尋ね致します。この船のお客さんは大抵皆大工さまと見えますが、これほど多数の大工が何処へ行かれるのですか』
甲『俺は黒野ケ原から来た大工だが、これからコーカス山に引越すのだ』
時公『コーカス山には、それほど沢山の大工が行つて何をするのですか』
乙『お前さんは、あれほど名高いコーカス山の御普請を知らぬのか。ソレハソレハ立派な御殿が、彼方にも此方にも建つて居る。さうして今度新しい宮さまが建つのだ。それでコーカス山の大気津姫とかいふ神様が家来をそこら中に配置つて、遠近の大工を御引寄せになるのだ。ヤツコスやヒツコスやクスの神が毎日日日、コーカス山に集まつて大きな都が開けて居るのだよ』
時公『ヤツコス、ヒツコス、クスの神とはソラ何ンだ。妙な者だナ』
乙『お前何にも分らぬ男だな、大きな図体をしやがつて、それだから独活の大木、柄見倒しといふのだ、大男総身に智慧が廻り兼ねだ。マアわしの言ふ事を聞いたがよかろう。山椒は小粒でもヒリリと辛いといふ事がある、俺はお前に比ぶれば根付のやうな小さい男だが、世界から、あの牛公は牛の尻だ牛の尻だと言はれて居るお方だぞ。どんな事でも知らぬ事はやつぱり知らぬ、知る事は皆知つとる。聴かして欲しければ胡床をかいて傲然と構へて居らずに、チンと坐つて、御叮嚀にお辞儀せぬかい』
時公『アヽ仕様ないなア。マア辛抱して聞いてやらうかい』
牛公『開いた口が塞がらぬ、牛の糞が天下を取ると云ふ譬を知つとるか。何でも、三五教の小便しいとか大便使とかいふ奴が、こないだ、そんな事云つてコーカス山へ行きやがつて、頭から糞かけられて、今ではアババのバアぢや。アツハヽヽヽ』
時公『随分前置きが長いなア』
甲『モシモシ貴方、そんな奴に物を聞いたつて何が分りますか。此奴は何時も猿の人真似で、偉さうに威張るのが芸だ、モウあれだけ云つたら後はないのです。私が何でも知つてますから、分らぬ事があれば問うて下さい。三五教の宣伝使ぢやないが、大は宇宙の真相から小は虱の腸までよく御存じの馬さまだ。あなたも牛を馬に乗替へて、牛の尻の物知らずの牛糞の言ふ事は、テンから取上げぬがよろしい。馬さまがウマく説明して上げます』
牛公『コラコラ、モウ止めぬか、馬鹿な奴、コレコレ大きなお方、彼奴のウマい話に漫然乗らうものなら、牛々いふやうな目に遭はされて馬鹿を見ますで……』
馬公『コラ牛公、何を吐かしやがるのだ。他人の事に横槍を入れやがつて……』
丙『オイオイ、貴様達は牛飲馬食と云つて、酒ばかり喰つて飯は五人前も十人前も平気で平げやがつて、腮ばつかり達者な法螺吹きだ。この鹿さまはその名の如くシツカリとしてござる鹿さまだ』
牛公『鹿公、貴様は鼻ばつかり高くしやがつて、下らん事をよう囀るから、彼奴はハナシカだと云うて居るぞ、大工のやうな事は職過ぎとる。モシモシ大きな男のお方、此奴の言ふ事は皆落話で、聞落し、言ひ落し、見落し、人嚇し、烏嚇しのやうなものです。聞かぬがよろしいで』
鹿公『愚図々々吐かすとシカられるぞ』
牛公『牛と見し世ぞ今は悲しき、といふやうな目に会はしたろか。鹿がシカみついてやつた。ナンダ蟹のやうなシカ見面をしやがつて、牛の尻もあつたものかい』
時公『ヤ、モウモウ牛さまの話で馬鹿を見ましたワイ。本当に旅をすると、馬鹿々々しい目に会うものだ。この島ぢやないが、ウメイ話はないかい』
丁『ありますともありますとも。コーカス山にマア一寸登つて見なさい、美味い酒は泉の如くに湛へられてある。肉は沢山に吊下げてある。それはそれは酒池肉林だ』
馬公『コラ虎公、なんぼウメイ物があつても、話だけでは根つから気が行かぬぢやないか、其奴は皆八王や奇の神が食ふのだ。貴様達は指を銜へて、朝から晩までカンカンコンコンとカチワリ大工をやつて、汗をかいて汗の脂を舐つとる位が関の山だ。ヒツコスはヒツコスで引込んどれ』
時公『ヤ、そのヤツコスとかヒツコスとか云ふのが聞きたいのだ』
虎公『八王といふのは、世界中の贅沢な奴が沢山な金を持ちやがつて、ウラル姫とか常世姫とか云ふ偉い贅沢な神が、大けな尻を振りやがつて大尻姫などと言つてる。その家来が皆家を持つて家を建てて方々から移転して来るのだ、それをヤツコスと云ふのだ。昔は十二も八王とか、八王とか云つた偉い神さんが、天山にも、青雲山にも、鬼城山にも、蛸間山にも、その外にも沢山あつたさうぢやが、今度の八王はそんな気の利いた八王ぢやない、利己主義の、人泣かせの、財産家連中の楽隠居をするのを、これを称して即ち八王といふ。ヘン』
馬公『コラ虎公、何をヘンなんて空嘯きやがつて、馬鹿にするない。ヒツコス奴が』
虎公『貴様もヒツコスぢやないか、甲斐性なし奴が。カチワリ大工の其処ら中で恥を柿のヘタ大工奴が使用主がないものだから、刃の欠けた鑿を一本持ちよつて、荒削りの下役に行くんぢやないか、アラシコ大工奴が。こう見えてもこの方さまは上シコだ。せめて中シコ位にならねば巾は利かぬぞ。大工も上シコ鉋を使ふやうになれば、占めたものだ』
馬公『貴様はシコはシコだが醜神だ。悪い事には一番に四股を入れやがつて、他人の膏をシコタマ搾りやがる醜女だ。チツトこれから俺が天地の道理を説いて、貴様を仕込んでやらうか。仕込杖も一本や二本持つて居るから、愚図々々吐かすと、貴様のドテツ腹へ仕込むでやるぞ』
時公『オイオイ大工同志、喧嘩ははづまんぢやないか、酒を鑿ぢやとか、カンナぢやとか、冷酒だとか言はずに、マアマア心を落付けて、カンナガラ霊幸倍坐世を唱へたらどうぢや』
馬公『ナントあんたは馬い事を云ひますね。そら燗した酒の味は耐りませぬ、チツトち割つてくれとおつしやるのか。現代の奴は利己主義だから中々チワルのチハイマスのと云ふやうなお人善はありませぬデ。酒も酒も曇つた世の中だ。……酒に就て思ひ出したが、ナンでも酒の姫とか云ふ小便使がコーカス山へ大尻姫と穴競べとか、尻比べとかに行きよつたさうだ。そした所がその小便使は穴無い教だとかで、薩張り大気津の神に取つ詰られて、岩窟の中へ投込まれたと云ふ話だ。三五教だから穴の中へ入れて貰ひよつたのだらう』
時公『酒の姫、そりやあなたの御聞違ぢやありませぬか。竹野姫と云ふ女の方ぢやあるまいかなア』
馬公『ナンデも、青いやうな長いやうな名だつた。ウンさうさう、この湖には竹島という島があるワイ。琵琶の湖の島によく似たまた二人の姉妹があると云ふ事だ。梅とか、松とか云ふ小便使が、コーカス山へ小便垂れに来ると云ふ事だから、其奴を捉へたら、それこそ大したものだ』
時公『それは誰がそんな事を言つて居たのだ』
馬公『イヤ誰でもない、その竹野姫が岩室へ打込まれる時に、アヽ松島、梅島助けて下さいとほざけやがつたのだ。それでまだ二人の小便使があると云ふので、それを大気津姫が手を配つて探しに廻らして居るのだ。そいつを捕へたら最後、我々も御褒美を頂戴して、かち割大工を廃め、引越すから直に八王になるのだ』
時公『コーカス山には大概八王が幾許ほど居るのだ』
馬公『サア、大概八百八十八位あるだらうなア』
牛公『うそ八百云うな、貴様は嘘馬と云うて村中の評判だ』
馬公『耄碌大工牛の尻黙れツ、愚図々々云うと、化が露はれて糞が出るぞ。牛糞が天下を取り損ねるぞ』
 松代姫、梅ケ香姫は被面布を除り、牛公、馬公の前に現はれ、
『妾がお話の松代姫、梅ケ香姫でございます。竹野姫の姉と妹、どうぞ妾を連れて大気津姫とやらの側へ案内して下さらぬか。あなた方のお手柄になりますから……』
時公『これはしたり御両人様、大胆不敵なそのお言葉………オイオイ牛、馬、鹿、虎、嘘だぞ嘘だぞ。この方は小便使でも何でもない。松でも、梅でもないのだ。お前達があまりウメイ事を言うて、牛糞が天下を取る世を待つもんだから、滑稽交りに妾が松だとか、梅だとか、ウメイ事をおつしやるのだ。全く戯談だ。こんな女を引張つて行かうものならそれこそ大騒動が起つて仕末におえぬぞ』
松代姫『オホヽヽヽ、時さま、嘘言つてはいけませぬ、宣り直しなさい』
時公『こんな所で宣り直して堪まりますか、この船の客は残らずヒツコスばつかりだ。ウツカリした事おつしやると大変ですデ』
梅ケ香姫『ホヽヽ、時さんの弱いこと、愚図々々云つたら、ヒツコスの首を残らずヒツコ抜くまでのことですよ』
時公『これはこれは、あなたこそ宣り直しなさい』
梅ケ香姫『イエイエ、皆さま達の体主霊従魂が黄泉の国に引越して、神の国の身魂が皆さまの腹の中へ引越すといふ事です』
時公『アハヽヽヽ、梅ケ香さま、ウメイ事をおつしやる』
松代姫『ホヽヽヽ』
 かくする間、三日三夜の颶風はピタリと歇ンだ。船は再び真帆に風を孕んで、西北指して畳のやうな、凪ぎ渡つたる浪の上をスルスルと辷り行く。

(大正一一・三・三 旧二・五 松村真澄録)



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