出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語11-1-61922/03霊主体従戌 奇の都王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
荒れ野ケ原
あらすじ
 荒野ケ原の大蛇は、月雪花の三人娘が既に言向け和していた。東彦一行は野に火を放って焼け畑農耕を行う。鉄彦と時公が開発に当たり、そこはクスの都となった。
名称
秋月姫 東彦 梅ケ香姫 鉄彦 高彦 橘姫 時公 深雪姫
青雲別! 大蛇 東雲別! 竹野姫 松代姫
荒野ケ原 鉄谷村 神言 クスの都 鎮魂 ハザマの国 桃の実 黄泉比良坂 竜宮
 
本文    文字数=7737

第六章 奇の都〔四七三〕

 一行は身を没するばかりの冬の荒野ケ原を、草を分けつつ大蛇の棲処と覚しき処へ進んで行つた。此処には大変な大きな長方形の岩ありて、萱の穂を圧して高く突出してゐる。
鉄彦『向ふに見えるあの岩石の下には大変な大きな穴があつて、その穴に血腥さい膏のやうな水が一杯に漂ひ、竜宮まで通つて居るといふ事です。何時もその穴から太い奴が首を突き出してこの荒野を通ふ獅子や、虎や、狼、人間などを呑むのです。この大蛇のために結構な原野を耕す者はなく、草の生えるままにしてあるのです。この大蛇を言向和して草野を開き五穀の種子を播き、都をつくつたならば、どれほど世界の者が喜ぶ事か知れますまい』
東彦『それは面白い。サア愈此処で宣伝歌を歌ひませう』
と一同は岩の近くまで立寄つて神言を奏上し、口を揃へて宣伝歌を歌ひ始めた。宣伝歌の終ると共に、南北百間ばかり、東西五六十間ばかりの巌は、強大なる音響をたてて呻り始めた。この音響に天震い地割るるかとばかり疑はれた。時公、肩を怒らし肱を張り、
時公『ヤア岩公が吐き出したぞ。コラ岩公、貴様は何もいは公だと思つたら中々よう呻りやがる。それだけ呻る言霊があるなら、時さまが許してやるから何なりと吐け』
 不思議や時公の言葉終ると共に、さしもの大音響はピタリと止まつた。時公、得意になり鼻をツンとさせながら、
時公『ヤア、皆の方々、イヤ宣伝使様、時さんの言霊は、まあざつとした所でこの通り、とつときの力を出さうものなら、こんな岩くらゐ鼻の先で仮令百千万でも吹き散らすのですよ。なんと信仰の力は強いものでせう』
東彦『さうだ。信仰の力は山をも動かすといふからな。この位の事が出来ないでは宣伝使のお供は叶はない』
 この時岩穴より紫の烟、幾丈ともなく天に向つてシユーシユーと音をたてて昇り行く。岩の周囲は紫の烟に包まれてしまつた。見れば岩上には三人の娘が立つて居る。三人の娘は日の丸の扇を両手に持ち、何事か小声に歌ひながら三人巴となつて岩上に淑かに舞ひ始めた。梅ケ香姫は不思議さうに首を傾けて三人の女の舞を凝視めて居た。
時公『ヤア大蛇の奴、うまい事をやりやがる。こんな優しい姿で舞ひよると、なんぼ大蛇でも可愛ゆくなつて来る、サアサア、舞うたり舞うたり。モシモシ皆さま、女は魔と謂ひますから御用心なさい』
東彦『イヤ、我々は大丈夫だが時さま、確りしないと美しい女だと思つたら大変だ。それお前の足許に大蛇の尾が見えて居る』
 時公は、
『エツ』
と言ひつつ足許を見て何処に何処にと探してゐる。三人の姿はパツと消えた。時公は岩上に再び目を注ぐと三人の姿は影も形も無い。
時公『ヤア、また化けやがつた。今度は何だ。オイ大蛇、所望だ、一つ黄泉比良坂の桃の実の舞をやつてくれないか。東西々々、只今岩上に現れまする太夫大蛇姫、これから黄泉比良坂の桃の実の舞を御覧に入れます』
東彦『アツハツハヽヽヽヽ』
梅ケ香姫『ホヽヽヽ』
 かく笑ふ折しも、三人の娘は枯れたる萱を分けながらシトシトと五人の前に現れ来り両手をついて、
三人『ヤア、貴方は三五教の宣伝使、お道のため、世人のため、御苦労様でございます』
梅ケ香姫『ヤア、さう言ふ貴女は、ハザマの国の月、雪、花の三人のお娘御ではございませぬか』
 三人一度に梅ケ香姫の顔を見て、
三人『ヤア、梅ケ香姫さま、不思議な所でお目にかかりました。これも全く神様のお引合せ、ようマア無事で御用をして居て下さいました。お姉様の松代姫様、竹野姫様は、御壮健でございますか』
梅ケ香姫『ハイ、有難うございます。姉妹三人手分けを致しましてお道のため、宣伝使になつて廻つて居ります』
時公『ヤア、何ぢや、薩張り見当がとれぬやうになつて来やがつた。これこれお岩さまの化け物、お梅さま何の事だ。瞞さうと言つたつてこの時さんは瞞されないぞ』
 女四人一度に、
『オホヽヽヽヽ』
 男三人一度に、
『ワツハヽヽヽヽ』
 時公面を脹らし手を組み俯向いて思案顔。
梅ケ香姫『今此処に居られまする御方は、東雲別命の宣伝使東彦の神様、青雲別の宣伝使高彦の神様でございます。また此方に居られる方は鉄谷村の酋長で鉄彦と謂ふ。此処に居られる奴さまは鉄彦さまの門番の時公さんでございます。一寸妾が紹介致します』
秋月姫『ヤアこれはこれは、存ぜぬ事とて、失礼を致しました。貴神様が東彦様ですか、まあ貴神様は高彦様、何分女の宣伝使の事、よろしく御引立を願ひます。これはこれは鉄彦様、ようまあ来て下さいました』
時公『何だ、訳が分らぬやうになつて来たワイ。梅姫の奴、あんな別嬪に門番だの、奴さんだのと素破ぬきやがつて、非道い奴だ。チツト位気を利かしたつてよかりさうなものだなあ』
高彦『ヤア月、雪、花の三人様にお尋ね致しまするが、此処は大蛇の巣窟ではありませぬか』
秋月姫『ハイ左様でございます。二三日以前に不思議にも姉妹三人はこの野中で邂逅ひ大蛇の巣窟があつて種々の災をすると言ふ事を聞きましたので、これも言向け和さねば宣伝使の役が済まぬと思ひましたから、姉妹三人力を協せ倶に神言を奏上し、宣伝歌を謡ひチクチクと迫つた処大蛇は大きな姿を現し涙をボロボロと零し、今後は地底に潜んで決して此処へは出て来ませぬからと誓ひましたので、鎮魂を以て再び出ないやうに封じ込みました処でございます。このクスの原や新玉原は随分お土も肥えてゐます。これからこの原野に火をかけて耕作を致しましたら沢山の収穫があがり、数多の人間が喜ぶ事でせう』
東彦『ヤア貴女に功名を先んじられてしまひました。何はともあれ結構な事だ。さあこの原野に火を放けませう』
と火打を取り出し、折から吹き来る風に向つて火を放つた。火は見る見る四方に燃え拡がり、さしもに広き荒野原は焼野ケ原となつてしまつた。
 これより宣伝使一同は、鉄彦にこの原野の開墾を命じ、時公は喜んで鉄彦の命に従ひ、開墾に従事し家屋を造つてこれに住んだ。五穀は良く実り蔓物は豊に、遂には大変に繁華な都が出来た。これをクスの都と謂ふ。
 宣伝使一行は凱歌を挙げ、時公に別れを告げ、またもや宣伝歌を歌ひながら、西へ西へと進み行くのであつた。

(大正一一・二・二八 旧二・二 北村隆光録)



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