出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語11-1-41922/03霊主体従戌 梅の花王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
クス野ケ原
あらすじ
 高彦と時公の前へ女が一人現れる。時公は女は大蛇であると思って、いろいろな問答をする。実はこの女は梅ケ香姫で、石凝姥神と鉄彦も一緒であった。
名称
石凝姥神 梅ケ香姫 鉄彦 千匹狼 高彦 時公
悪神 大蛇 清姫 邪神 蛇掴
鉄谷村 クス野ケ原 言霊
 
本文    文字数=7297

第四章 梅の花〔四七一〕

 東彦、時公の二人は草疲れ果てて、前後も知らず暖かき夢を結ぶ折しも、前方より慌しき何者かの足音が聞え来た。二人はこの物音に目を醒まし、折柄昇る半円の月に透かし見れば、巨大なる獅子の群幾百ともなく、二人の眠る横側を雲を霞と走り行くのであつた。時公は東彦の耳に口寄せ、
『モシモシ、宣伝使様、千疋獅子が通りましたデ、……知つてますか』
東彦『千疋獅子と云ふものがあるか、あれは千疋狼だ。お前がシヤツチもない宣伝歌を歌つて宣り直せと云ふに、宣り直さないものだから、神様が怒つて、獅子を遣はしてお前を探してござるのだ。モウおつつけ此方へ引返して来る時分だ。早う宣伝歌を宣り直せ』
時公『そんな事云つて恐嚇たつて、この時さんは、時々この野で千疋獅子に会ふのだから、獅子喰た犬にその嚇しは利きませぬで……貴方宣り直しなさい』
東彦『イヤ、汝はねぶた目で獅子と間違つたのだ、あれは巨大な狼だよ。何でも大きな大蛇が現はれたので逃げて来たのだ。キツトこの次は太い奴だ。用心せよ』
時公『太い奴つて、大蛇ですか』
東彦『さうだ、大蛇といふものはかういふ草原に隠れてるものだ。あまりお前が人間臭い事をいふものだから、大蛇の奴一つ呑んでやらうと思つて現はれたのだよ。しかしながらこの高彦さまがござる間は大丈夫だ。マア安心せい』
時公『あなた、矢張化物だな。悪魔彦だとか云つて居つたと思へばまた鷲は鷹だとか、鳶だとか、鳥とめもない事を言ふ人だ』
高彦『マアどうでもよい。今に長い太い奴がザーツと音を立ててお出ましだ。一つ宣伝歌でも聞かしてやらうかい』
時公『さうですなア。宣伝万歌(千変万化)の言霊の妙用を試すはこの時です』
 かかる所へ忽然として美しき女が現はれた。
女『ヤア、お前は時さまか。どうしてこんな所へ来やしやんしたのだい』
時公『ヤ、出やがつたなア。ヤイ大蛇、綺麗な別嬪に化けやがつて、俺を誤魔化さうと思つたつて誤魔化せないぞ。コラツ、俺を何と心得て居る。蛇を掴んで喰ふ蛇掴みの悪神でさへも、俺のフンと吹いた鼻息で、雲を霞と逃げ散るといふやうな、古今無双の豪傑だ。良い加減に姿を隠さんと、掴んで喰てやらうか』
高彦『アハヽヽヽ』
時公『コレコレ、高さん、何が可笑しい、千騎一騎だ。これから時さまの腕試しだ。チツト都合の良い宣伝歌を歌つて下さい。応援だ応援だ』
高彦『アハヽヽヽヽ』
女『ホヽヽヽ』
時公『フン、何を吐しやがる。この寒い時分にホヽヽなんて、呆けやがつて。鶯の真似をしたつて誰がその手に乗るかい。呆助奴が、とぼけやがるな。時さんは時を知つて居るのだ。ホヽヽと言うて出る奴は、梅の花の咲く時分だ』
女『わたしは梅ケ香姫でございます』
時公『ナニツ、梅ケ香姫もあつたものかい。梅ケ香姫は、二日前に鉄谷村を三人連で出た筈だ。貴様一人こんな処においとく筈がない。貴様の正体は時さまがチヤーンと見届けてあるのだ。ソレ、太い奴の長い奴だらう。俺の天眼通は百発百中だ。恐れ入つたか、邪神奴が』
女『ホヽヽヽ、時さまのあの気張りやう、わたしはお臍が茶を沸かします。ホヽヽヽ』
時公『エヽ、厭らしい。この野原に夜の夜中に出て来やがつて、魔性の姿をして、何をほざきやがるのだ。煙草の脂を飲ましてやろか』
高彦『アハヽヽヽ』
女『妾は時さまの天眼通力に恐れ入りました、お察しの通り、太い長いこのクス野ケ原の主でございます。妾は沢山の獅子を餌食に致して居ります。一口に牛のやうな獅子を十疋くらゐ喰はねば、歯にも当らぬやうな気が致します。ホヽヽヽ』
時公『ヤア、厭らしい奴だ。コレコレ高彦さま、あなたも起ぬか。なんぼ死んで生れて、死んで生れると言つても、こんな奴に呑まれて死ぬのは、チツト残念だ。サア起て下さい、早う早う』
高彦『アハヽヽヽ、可笑しい奴だナ。モシモシ大蛇娘さま、お前さま、獅子ばつかり喰つて居つても、あんまり珍しくなからう。ここに一つ人肉の温かいのがあるが、これはどうだな』
女『ホヽヽヽヽ、それは何よりの好物、頂戴致しませう』
時公『オヽ、それがよい、それがよい。蛇の口から、高彦が喰てくれと云つてる。此奴をグーと一つ呑んで、それで帳消しだ』
女『イエイエ、時さまが美味さうなお顔付、肉の具合といひ、コツクリと肌の黒い美味さうなお姿。ホヽヽヽヽ』
時公『エイ邪魔臭い、口開け、獅子の十も喰うて歯に当らぬやうな大きな口なら、俺もトンネルだと思つて喰はれてやらう。その代りにこの杖を振つて振つて振り廻し、腹の中に這入つた時に腸を突いて突いて突き廻してやるから、さう思へ。サア、早う正体を現はさぬか』
女『わたしの口は火のやうな熱があります。口へ入れたが最期、火の中へ薄氷を投り込んだやうなもの、時さまのお身体も、鉄棒もみんな熔けてしまひます』
時公『コイツ都合が悪いなア。オイ高さま、籤引だ。言ひ出し、放き出し、笑出しだ。屁でもないやうな事を云ふものだから俺を喰ふなんて云ひやがるんだ。サア、一緒に附合だ。二人ながら呑ましてやらうかい』
高彦『アハヽヽヽ』
女『モシモシ時さん、嘘ですよ。妾は蛇掴みの岩窟へ清姫さまの身代りになつて、貴方に担いで往て貰うた梅ケ香姫です』
時公『嘘のやうな、本真のやうな話だが、そんなら何故俺ん所の主人の鉄彦さまと、石凝姥の宣伝使をどうしたのだ』
女『二人共此処に居られます。アヽモシモシお二人様、此処へお越し下さいませ』
 草の中から二人の男の声
『アハヽヽヽ、オホヽヽヽ』
 今まで薄雲に包まれ、ドンヨリとして居た月光は皎々と輝き初めた。
高彦『ヤア、貴方は石凝姥の神様、珍しい処でお目にかかりました』
時公『ナーンだ。全然お紋狐に魅まれたやうだ』
 これより五人は夜の明くるを待つて、クス野ケ原の大蛇を言向け和す事となつたのである。

(大正一一・二・二八 旧二・二 松村真澄録)



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