出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語10-3-331922/02霊主体従酉 鰤公王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
鉄谷村
あらすじ
 郷民は「自分たちの村は鉄谷村といい、アルタイ山の蛇掴に苦しめられている」と言う。また「蛇掴は一日に十二匹の蛇を食べ、蛇が無い時には村の女を食べる」と言う。
 石凝姥神一行が村の酋長鉄彦の家に行くと、「娘の清姫が今夜蛇掴に献上されることになった」と言う。また、「郷民鰤公の娘も今年の春に食べられてしまった」と言う。鰤公は取り乱す。
名称
石凝姥神 乙 吉公 時公 鰤公
悪神 鉄彦 清姫 蛇掴 曲津 魔神
アルタイ山 宇智川 鉄谷村 言霊
 
本文    文字数=7715

第三三章 鰤公〔四六三〕

 海月なす漂ふ国を固めむと、心も堅き石凝姥の、神の命の宣伝使、その言霊に川の辺の、四五の土人は堅き頭を宇智の川、浮木の橋を危なげに、やうやう西へ打渡り、
甲『アヽ三五教の宣伝使様、お蔭で三年振りに故郷に帰る事が出来ました。これも全く、あなた様のお蔭でございます。私の村へ一寸御立寄りを願ひたいのは山々ですが、そこには一寸、エヽ一寸……』
石凝姥『何だ、云ひ憎さうに、明瞭と云はぬかい』
『オイ鰤公、貴様俺に代つて申上げてくれないか』
鰤公『ソンナ甘い事を云ふな。この鰤公だつて久し振りに川を渡つて、やつと安心したとこだ、ソンナ事明瞭と云はうものなら、それまたアルタイ山の魔神さまにはブリブリと怒られて、ドンナ災難が俺の頭にブリ懸つて来るか、分つたものぢやないワ。さうすれば家の嬶めが三年振りに折角帰つて来て、好い男振りを拝んで、ヤレヤレ嬉しやと思つて居たのに、お前さまは馬鹿だから、ソンナ大事な事を喋つて、こんな目に遇ふのだと云つて、ブリブリ怒られて、大きな尻を俺の方へブリブリと振られやうものならつまらぬからなア』
石凝姥『オイ、貴様達は訳の分らぬ奴だな。何がブリブリだ』
乙『イヤ最う毎日日日、大雨がブリブリで、宇智川はドえらい洪水でございます。家の嬶もブリブリで腹立て、涙の雨がブリブリになると困りますから、どうぞこれだけは御許し下さいませ』
『貴様たち、愚図々々云つて秘密を明さぬならば、こちらにも考へがあるぞ。また石の玉を御見舞ひ申さうか』
と云ひながら、直ちに土を握つて団子を造り息を吹きかけたるを、
甲『マアマア待つて下さいませ。そんな石玉を貰つたら、私の頭は一遍にポカーンと割れてしまふ、堪つたものぢやない。胆玉までが潰れて睾丸が縮んでしまひます』
石凝姥『それなら素直に、何だか秘密らしい貴様の口振り、白状せぬかい』
『ハイハイ、仕方がありませぬ、さつぱりと申し上げます。エヽ実は、誠にそれは、ほんにほんに、真に、エー、アルタイ山の、アヽ間の悪い曲神が、マアマア、マアでございますが』
『貴様の云ふ事は益々分らぬ、真面目に申さぬか。また石玉をくれるぞよ』
『オイ、鰤公、貴様も俺ばかりに云はさずに、ちつとは責任を分担したらどうだ』
鰤公『エー仕方がない。どんな事があつても、三五教の宣伝使様引受けて下さいますか』
石凝姥『何でも引受けてやる、驚くな、尋常に真実を申せ』
『アルタイ山には蛇掴と云ふ、それはそれはえらい悪神が棲んで居ります。その神は毎日日日大きな蛇を十二匹宛餌食に致して居ります。その蛇がない時には此処ら辺の村々に沢山の子分を連れて来て、嬶や娘を代りに奪つて喰ひますので、大事な女房や娘を食はれては堪らないので、村々の者が各自手分けをして毎日十二匹の太い蛇を獲つて、これをアルタイ山の窟に供へに行くのです。夏は沢山に蛇が居つて取るのも容易ですが、かう寒くなると残らず土の中へ這入つてしまふので、これを獲らうと思へば大変な手間が入りますし、これを獲らねば女房子をいつの間にやら奪つて食はれるなり、イヤもうこの辺の人民は、大蛇獲りにかかつては命がけでございます。もしもこんな事をあなたに申し上げた事が、アルタイ山の魔神の蛇掴の耳へでも入つたら、それこそこの村は全滅の憂目に遇はねばなりませぬから、どうぞ助けて下さいませ』
『ヤア、何事かと思へばソンナ事か、よしよし。この方がこれからアルタイ山に登つてその蛇掴の魔神を退治てやらう。貴様等は案内せよ』
一同『案内は致しますが、三年振りで漸う帰つたばかし、どうぞ一度吾家へ帰つて妻子に面会した上案内さして下さい』
『三年も居らなかつたのだから、屹度お前等の女房子は喰はれてしまつたかも知れないよ』
 一同声を揃へてワアワアと泣き伏すあはれさ。
石凝姥『オー心配するな、滅多にそんな事はあるまい。とも角貴様等の村にしばらく逗留して様子を窺ふ事としよう』
と一同と共に彼等が部落に進み行く。
 この部落を鉄谷村と云ふ。一行がこの村の入口に差掛つた頃は、既に烏羽玉の闇の帳は下され、空には黒雲塞がり咫尺を弁ぜざる闇黒界となりぬ。
 七八十軒もある鉄谷村は、何故か、どの家にも一点の燈火もついて居ない。微に鼻をすする音や泣き声が聞えてゐる。鰤公の一行はあまりの暗さに吾家さへも分らず、一歩々々杖を持たぬ盲目のやうな足付をして探りさぐり進んで行く。やや高き所に忽然として一柱の火光が瞬き始めた。石凝姥その他の一行はその火を目当にドンドンと進んで来て見れば、此処は鉄谷村の酋長の鉄彦の屋敷である。何だか秘密が潜んでゐるやうな気がする。石凝姥神は門前に立つて声朗かに宣伝歌を歌ひ始めた。門内より雷の如き声を張り上げて、
『ヤア、この門前に立ちて三五教の宣伝歌を歌ふ奴は何者だツ。酋長様の御家の一大事、そんな気楽な事を云つてゐる場合ではあるまい。何処の何奴か知らぬが、悪戯た真似を致すと笠の台が飛んでしまふぞ』
 門外より鰤公声を張上げ、
『ヤア、さう言ふ声は門番の時公ではないか。俺は三年前に宇智川の向岸に渡つたきり、丸木橋が落ちたものだから、今日まで帰らなかつたので村の様子はちつとも知らぬが、酋長の家の一大事とは何だい』
時公『何だも糞もあつたものか、蛇掴の曲神さまに酋長の娘清姫さまを今晩中にアルタイ山の砦に人身御供に上げねばならぬのだ。あんな美しい可惜娘を蛇掴の曲神の餌食にするのかと思へば、俺はもう気の毒で惜しうて何どころではない。貴様それにも拘はらず、蛇掴の嫌ひな宣伝歌を歌ふとは何の事だい。貴様の娘も今年の春だつたか、食はれてしまうたのだよ』
 鰤公は、
『エーツ』
と云つた限り、その場にドツと倒れ伏し人事不省となる。
甲『オイ、俺は貴様のよく知つて居る吉公だが、門を開けてくれ。屹度酋長がお喜びになる事は請合だ。俺は救ひの神様をお迎へして来たのだから、清姫さまも屹度お助かりになるだらう。早く開けないかい』
『マア何はともあれ、開けて見ようか』
と時公はやや不安にかられながら、白木の門をガラガラと開ける。石凝姥神は、
『御免』
と云ひつつ門を潜つて進み入る。

(大正一一・二・二七 旧二・一 藤津久子録)



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