出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語10-1-91922/02霊主体従酉 尻藍王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
目の国のカタハの町
あらすじ
 オド山津見と松代姫、竹野姫、梅ケ香姫の三人は、目の国のカタハの町で出会った。四人が話をしようと傍らの森に行くと、そこでは一人の宣伝使が群集にとりかこまれて話をしている。群集の中から、鷹取別の部下の牛雲別や蟹雲別が宣伝使に打ってかかるが、逆に投げ飛ばされる。
名称
牛雲別 梅ケ香姫 オド山津見 蚊々虎* 蟹雲別 竹野姫 松代姫
悪神 金勝要大神 言霊姫命 琴平別 駒山彦 鷹取別 月 照彦 常世神王 戸山津見! 花 春山彦 日の出神 分霊 正鹿山津見 桃上彦命 雪
アタルの港 珍の都 宇都山峠 ウラル教 エルサレム カタハの町 惟神 カルの国 玉山 言霊 神諭 高砂 高照山 地獄 智利の国 天国 常世城 常世国 間の国 秘露の国 五六七の神代 メキシコ峠 目の国 竜宮城 ロツキー山
 
本文    文字数=9281

第九章 尻藍〔四三九〕

 一時千金花の春、金勝要大神の御分霊言霊姫命の鎮まり給ふ常世国、山野は青く春姫の、百機千機織成して、緑紅白黄色、花咲き乱れ百鳥は、木々の梢に歌ひ舞ひ、天津日かげも麗かに、陽炎の野辺に立つ有様は、大海原の凪ぎたる波の如くなり。竜宮城に救はれて、日の出神と諸共に、琴平別の亀に乗り、智利の海辺にうかび上りし淤縢山津見は、朝日も智利や秘露の国、宇都山峠を踏み越えて、歩みもカルの国境、御稜威も著く高照の山を下りて、神のめぐみも高砂や、常世の国をつなぎつけ、東と西に波猛る、大海原に浮びたる、『間』の国に一人旅、心も軽き簑笠の、盲目もひらく『目』の国の、荒野ケ原を治めむと、草鞋脚絆の扮装に、夜と昼との別ちなく、恵みの露に濡れながら、草の衾に石枕、星のついたる蒲団着て、山河あれし国原を、心も清き宣伝歌、歌ひて進む雄々しさよ。三五教の宣伝使、五六七の神代を松代姫、心直ぐなる竹野姫、梅ケ香姫の夜昼を、露に濡れつつ進み来る。人足繁き十字街、川田の町の真中に、ピタリと合す顔と顔、
淤縢山津見『ヤア、貴女は珍の都の城主、正鹿山津見の御娘子におはさずや。風に香へる梅ケ香の、床しき後を尋ねつつ、この町の入口まで、スタスタ進み来る折しも、町人の噂によれば、年は二八か二九からぬ、十九や二十の美しき女の宣伝使通過ありとの女童の囁き、まさしく御姉妹にめぐり会ふ時こそ来れりと、心の駒に鞭つて、思はず駆出す膝栗毛、イヤ去年の夏、アタルの港に上陸し、玉山の山麓にてお別れ申してより、何の便りも夏虫の、秋も追々近づきて、哀れを添ふる心の淋しさ。鬼をも挫ぐ淤縢山津見の大丈夫さへも、かくも淋しき秋の旅、紅葉は散りて啼く鹿の、しかとお行方も探すによしなく、心の色の紅葉散る、智利の山路を踏み越えて、『間』の国に来る折しも、心驕れる鷹取別が目付の者に捕へられ、常世の国に送られ給ひしと聞きたる時のわが思ひ、隙間の風にもあてられぬ花の蕾の女宣伝使、秋野にすだく虫の音の、いとど哀れを催して、男泣きにぞ泣きゐたる、折から囁く人の口、聞き耳立つる時の駒、花の姿の宣伝使、艶麗まばゆきばかりのやさ姿と、道説きあかす『目』の国の、今目のあたり御目にかかり、嬉しさ、悲しさ、御いたはしや、その御姿のやつれさせ給ふことよ。神の御為め道のためとは言ひながら、聖地ヱルサレムにおいて神政を掌握し給ひし天使長、桃上彦命の御娘子の雄々しき御志、男子としての吾等、実に汗顔の至りに堪へませぬ』
と、三人の娘が応答するの暇さへ与へず、心のたけをくだくだと、賤の小田巻繰返すのみ。
松代姫『どなたかと思へば淤縢山津見の宣伝使様、珍しい所で御目にかかりました。妾姉妹三人は『間』の国の酋長春山彦に助けられ、照彦の戸山津見、駒山彦の宣伝使にめぐり会ひ、月、雪、花の三人の春山彦が娘と共に、この『目』の国に進み入り、メキシコ峠の山麓にて、あちらへ一人こちらへ三人と袂を別ち、宣伝歌を歌ひつつロッキー山に進み行かむとする所でございます。マアマア御壮健でゐらせられます。貴下に妾は異郷の空で巡り会ふことの嬉しさ、天にも上る心地がいたします。ここは路の上、彼方の森に行つて休息の上ゆるゆるお話をいたしませうか』
『それもよろしからう。しからば、あの森を目当に一足参りませう』
 ここに一男三女の宣伝使は、宣伝歌を歌ひながら東北指して進み行く。永き春日も早西に傾きて、四辺は霧の如き靄に包まれ、闇の帳は下されて四辺は暗く、千羽烏は空を包んでカハイカハイと啼きわたる。夕暮告ぐる鐘の音は、四人の胸を打ちて秋の夕の寂寥身に迫る。
 花の姿を『目』の国の、野辺にさらすも糸桜、心も細き糸柳の、並木を縫うて進み行く。俄に前方にあたり、騒々しき物音聞ゆるにぞ、四人は思はず立ちどまり耳を傾くれば、宵闇の空を通して細き篝火瞬き出し、忽ち宣伝歌が手にとる如く聞え来る。一同は声する方に引きつけらるる如く近より見れば、数百人に取り囲まれ、何か頻りに述べ立つるものあり。
 四人は窃に足音忍ばせつつ、闇に紛れて群集の中に紛れ込み、よくよく見れば一人の男、小高き巌の上に立ちて、頻りに群集に向ひ何事か説き諭しゐる。
 群集の中より、眼のクルリとした鼻の左に曲つた、色黒の大男は宣伝使に向ひ、
『ヤイ、貴様は三五教の宣伝使であらう。ここは常世神王の御領分なるぞ。ウラル教を奉じて、民心を統一する神国なるに、汝等が如き悪宣伝使、魔術を使つて常世の城を攪乱し、鷹取別の司の高き鼻をめしやげさせたる悪神を奉ずる宣伝使であらう。この方は牛雲別と申す者、汝を召し捕らむがために、常世神王の大命を奉じて、三五教の宣伝使を捜索に来たのだ。この『目』の国は、その名の如く鷹取別の幕下の鵜の目、鷹の目、目を光らす国だ。サア、その巌を下つて尋常に縛に就け。もはや叶はぬ。ヂタバタしたとても、かくの如く数十人の手下をもつて取り囲みたる以上は、汝が運命ももはや百年目、素直に降伏いたせ』
と雷の如き声を張り上げて呶鳴りゐる。巌上の宣伝使は、殆ど耳に入れざる如き鷹揚なる態度にて、
『アイヤ、牛雲別とやら、よつく聞けよ。吾こそは汝の言ふ如く三五教の宣伝使だ。如何に多勢を恃み吾を取り囲むとも、吾には深き神護あり。一時も早くこの世を乱すウラル教を捨てて、治国平天下の惟神の大道なるわが教を聞け。常世神王かれ何者ぞ。鷹取別かれ何者ぞ。積悪の報い、神罰立所に下つて鼻挫かれしその哀れさ。かくの如き神の戒めを受けながら、なほ悔い改めずば、鷹取別が臣下たる汝等が鼻柱、一人も残らず粉砕しくれむぞ。サア、わが一言は神の言葉だ。救ひの声だ。きくか、きかぬか、善悪邪正、天国地獄の分水嶺、この巌の如き堅き信仰を以てわが教に従ふか。否むにおいては吾は千変万化の神術によつて、汝等が頭上に懲戒を加へむ。汝等の中、わが言葉の身に沁みし者は名乗つて出よ』
と牛雲別の雷声に数倍せる銅鑼声して、獅子の咆ゆるが如く唸りゐる。数十人の手下は、この強き言霊に胆を挫がれ、耳を塞ぎ、思はず地上に縮み踞むぞをかしけれ。
 牛雲別は、
『エヽ面倒なり、思ひ知れよ』
と言ふより早く、巌上に羅刹の如き相好にて駆け上り、鉄拳を固め、宣伝使の面部を目がけて、骨も砕けよとばかり力を籠めて殴りつけむとする。
 この時遅く、かの時早く、宣伝使は飛鳥の如くヒラリと体をかはし、牛雲別の足に手をかくるや否や、牛雲別はモンドリうつて、さしもに高き巌上より、大地にドツとばかり顛落する途端に、体の重みにて柔かき土の中に頭部をグサリと刺し、臀部を天にむけ、花立の如き調子にて手足を藻掻き居る。
 またもや群集の中より、
『吾は蟹雲別なり、わが鉄拳を喰へ』
と云ふより早く、拳骨を固めて打つてかかるを、宣伝使は、
『エヽ面倒なり』
と首筋掴んで、猫を提げし如く片手に撮んで、牛雲別の上に向つて吊り下したり。牛雲別の両足と、蟹雲別の両足はピタツと合うて、ここに面白き軽業が演ぜられたり。頭と頭とは天と地に、尻と尻は向ひ合して、シリ合ひとなりぬ。流石両人の乱暴なる計画も、シリ滅裂となりにける。
『神の誠の道を取違いたすと、頭を土に突込んで足を仰向けにして、のたくらねばならぬぞよ』
との神諭そのままである。
 牛と蟹との両雲別は、頭を下に牛のしりの、手四つ足四つ、ドタリと倒けて四つ這ひとなり、蟹雲別の八つ足となつて大地を這ひ廻る可笑しさ、外の見る目も哀れなりける次第なり。

(大正一一・二・二一 旧一・二五 桜井重雄録)



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