出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語10-1-131922/02霊主体従酉 蟹の将軍王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
ロッキー山
あらすじ
 固虎は偵察に出たが、蟹彦と出会い、「ロッキー山の伊弉冊大神と日の出神は偽者で大国姫と大国彦であり、常世神王は広国別である」ことを聞かされた。また、蟹彦は「自分は竹島彦である」と言う。
 ロッキー山からは黄泉比良坂の戦いに多くの軍勢が出陣していた。オド山津見は珍山彦を疑っていた自分を反省した。
名称
オド山津見 固虎 蟹彦 杵筑姫 国玉姫 田糸姫 土雷 鳴雷 伏雷 美山別 若雷
伊弉諾神 伊弉冊大神? 珍山彦! 梅ケ香姫 大国彦 大国姫 蚊々虎 醜神 竹島彦 竹野姫 常世神王広国別 日の出神? 魔軍 松代姫
エルサレム 神懸り カリガネ半島 審神 天教山 常世城 常世の国 目の国 桃の実 黄泉国 黄泉島 黄泉比良坂 ロツキー山
 
本文    文字数=8149

第一三章 蟹の将軍〔四四三〕

 固虎は淤縢山津見神の案内者として、山道を攀ぢ、谷を渡り、間道を経てロッキー山の山麓に着きしが、数多の魔軍は武装を整へ、今や出陣せむとする真最中なり。淤縢山津見は偵察のために固虎を遣はして、ロッキー山の城塞に向はしめ、城門に入らむとする時、ピタリと蟹彦に出会せり。
蟹彦『オー固虎、数多の軍勢を引率れて、『目』の国カリガネ半島へ宣伝使を捕縛すべく出陣したではないか。その後一向何の消息も聞かぬので、どうなつたことかと思つてゐたが、ただ一人此処へ出て来たのは何か様子があらう。常世城へも帰らず、一体引率した軍隊はどうしたのだい』
固虎『どうもかうもあつたものか。戦ひは多く味方を損ぜざるを以て最上とする。何も知らぬ数多の戦士を傷つけるよりは、高の知れた宣伝使の三人や五人、計略を以て常世城へ誘き寄するに如かずと、取置きの智慧を出したのだ。マア見て居てくれ、この方の働きを』
『門番の成上り奴が、あまり偉さうに法螺を吹くない』
『門番の成上りはお互ひだ。しかしかく騒々しく数多の戦士を集めて、日の出神はどうする積りだい』
『そんな間の抜けた事を云つて居るから困るのだ。貴様は未だ知らぬのか。余程薄のろだな。常世の国の、眼とも鼻とも喉首とも譬へ方ない大事の黄泉島に、天教山より伊弉諾神が現はれ給うて、この醜けき汚き黄泉国を祓ひ清め、常世の国まで進み来らむと、智仁勇兼備の神将を数多引率して、黄泉比良坂に向つて攻めかけ来り給うたと云ふ事だ。さうなれば常世の国は片顎を取られたやうなもので、滅亡をするのは目のあたりだと云ふので、伊弉冊大神様、日の出神の御大将が此処に数多の戦士を集め、これより常世城の軍隊と合し、黄泉比良坂に進軍せむとさるる間際なのだ。貴様も早く軍隊を引率れて黄泉比良坂の戦に参加せなくては、千載一遇の好機を逸するぞ。愚図々々いたして悔を後世に胎すな。千騎一騎のこの場合、手柄をするなら今この時だ』
『神様の夫婦喧嘩といふものは、大袈裟なものだな。犬も喰はない夫婦喧嘩に大勢のものが、馬鹿らしくつて往けるものか。若も戦に行つて生命でも取られて見よ。数万の戦士は、何奴も此奴も可愛い女房や子に別れねばならぬ。たつた一つの夫婦喧嘩に使はれて、大勢のものが後家にならねばならぬとは、合点の行かぬ世の中だ』
『貴様は余程よい薄馬鹿だ。ロッキー山や、常世城の秘密は、うすうす判つて居りさうなものぢやないか。知らな云うてやらう。伊弉冊命と名乗つてござるのは、その実は大国姫命だ。そして日の出神と名乗つて居るのは、その夫神の大国彦命だよ。固虎もそれが判らぬやうではダメだよ』
『初めて聞いた。貴様の話は益々合点がゆかなくなつて来た。それなら常世神王は誰だい。蟹公知つてるだらう』
『常世神王は広国別だよ。一旦死んだと云つて常世の国の一般のものを誑かし、自分が大国彦様と相談の結果、広国別が常世神王になつて居るのだ。これには深い仔細がある。その秘密の鍵を握つた蟹彦は、常世神王の内々の頼みによつて、今まで故意と門番になつてゐたのだよ』
『それなら貴様は、元は誰だい』
『馬鹿だな、未だ分らぬか。俺はわざと身体を歪めて横に歩き、顔にいろいろの汁を塗つて化けてゐたのだが、もとを糺せば聖地ヱルサレムの家来であつた竹島彦命だよ。これから吾々は先頭に立つて、黄泉比良坂に向ふのだ。しかし軍機の秘密は洩らされない、他言は無用だ。しかしながら、ロッキー山の伊弉冊大神さまは全くの贋物だ。吾々も本物に使はれるのは、たとへ敵にもせよ気分がよいが、生地をかくした鍍金ものだと思ふと、何だかモー一つ力瘤が這入らぬやうな心持がするよ』
『貴様、今度は誰が大将で往くのだ』
『定つたことだ、これだよ』
と自分の鼻を押へて見せる。
『弱い大将だな。今度の戦ひは馬ーの毛だ。何分大将が間抜けだから仕方がない』
『馬鹿を云ふな。大将は馬鹿がよいのだ。あまり智慧があつて、コセコセ致すと大局を誤る虞があるので、この薄のろの竹島彦が全軍統率の任に当つて居るのだ。これでも三軍の将だぞ。あまり馬鹿にしては貰ふまいかい。しかし固虎、五人の宣伝使を何処に置いたのだ。松、竹、梅の三人の桃の実がなければこの戦ひは勝目がないと、伊弉冊命様の……ドツコイ大国姫命の御命令だ。早く三人を貴様の手にあるなら御目にかけて、抜群の功名をなし、手柄者と謳はれるがよからう』
『よし、今見せてやらう』
『俺に見せる必要はないから、早く伊弉冊の贋の大神さまに御目にかけるのだよ。ヤア鳴雷、若雷、早く来れ』
と馬に跨り法螺貝を吹き立てながら、ブウブウと口角蟹のやうな泡を飛ばして進み行く。
 固虎は蟹彦の偽らざるこの物語を聴いて胸を躍らせながら、淤縢山津見に一切を報告したるに、淤縢山津見は太き息を吐き、
『アヽさうか。疑はれぬは神懸りだ。蚊々虎の神懸りを実の事を云へば、今まで疑つてゐたのは恥かしい。審神は容易に吾々の如き盲では出来るものではない。しかしながらこれを思へば、珍山彦の神変不思議の力には感嘆せざるを得ない。先づまづしばらく身を潜めて、様子を窺ふことにしよう』
と、樹木茂れる森林の中に両人は姿を隠し時を待ちゐる。蟹彦の竹島彦が一隊を引率し、威風凛々として四辺を払ひ出陣した後に、またもや法螺貝の音、太鼓の響、ハテ訝かしやと木の間を透して打眺め、固虎は頓狂な声にて、
『ヤア、また第二隊が出て行き居るぞ。第二隊の大将は誰だか知らむ』
淤縢山津見『御苦労だが、敵近く寄つて様子を査べ報告してくれないか』
『畏まりました』
といふより早く固虎は、猿が梢を伝ふが如く、しのびしのび敵前近く進み行く。美山別は陣頭に立ち采配を打揮ひながら、
『進め進め』
と号令してゐる。左右の副将は土雷、伏雷の猛将である。花を欺く松、竹、梅の三人に扮したる国玉姫、田糸姫、杵築姫は馬上に跨りながら、桃の実隊として美々しき衣裳を太陽に照されながら、ピカリピカリと進んで来る。数多の軍勢は足音を揃へて、種々の武器を携へ繰出す仰々しさ。固虎は直様引返し、淤縢山津見に詳細の顛末を報告したり。
『ヤア、御苦労ご苦労、ロッキー山の軍人はあれでしまひか』
『ナニ、ほんの一部分です。必要に応じて未だ未だ出すかも知れませぬ』
『ウン、油断のならぬ醜神の仕組、吾々も一つ考へねばならぬワイ』
 このとき木霊に響く宣伝歌の声、二人は思はずその声に聞耳澄ました。忽ち東南の風吹き荒んで音騒がしく、宣伝歌は風の音に包まれにける。

(大正一一・二・二二 旧一・二六 外山豊二録)



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