出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語09-5-341922/02霊主体従申 森林の囁王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
間の森
あらすじ
 間の森に現れたのは照彦だった。捕らえにきた春山彦は村人を遠ざけようとするが、腰が抜けて動けなくなったものあった。そこで、密意をこめて謡いかけると、照彦も了解した。二人は春山彦の館へ向う。
名称
乙 甲 照彦 春山彦 丙 村人
悪魔 幽霊 鷹取別 天人 常世神王 戸山津見! 八公 魔神
ウラル教 ウラル山 神言 常世の国 間の国 間の森
 
本文    文字数=8391

第三四章 森林の囁〔四二七〕

 宵闇の月は御空に照彦の、すたすた来る宣伝使、折柄降り来る村時雨、息を休めむと間の森に立寄つて雨宿りしながら、

『月は照る照る常世は曇る  間の森に雨が降る』

と歌つてゐる。木蔭に潜む四五の若者、
『ヤアまた出たぞ、宣伝使だ。夜前出て来た奴は幽の字に霊の字だつたが、今夜の奴は力のある声で歌つてゐるワ。到底此奴は吾々の手に合はぬ。村中が総出して此処を通さぬやうにせぬことには、鷹取別神さまに、貴様達は咽首に居つて、何故ウカウカと宣伝使を常世の国に入れたかと言つて、村中のお目玉、また春山彦の司にどのやうに叱らるるかも知れぬ。それぢやと云つて吾々五六人では、到底捕捉まへることが出来ぬ。早く貴様ら各自手配して村中の者を招んで来い。俺は此処に見張りをしてゐる。』
『よし来た』
と、五六人の若者は東西南北に袂を別ち、月の光に照され家々を叩き廻る。照彦の宣伝使は、悠々として木株に腰打下し、
『アヽア、何時見ても月の光は心持ちの好いものだ。况して森の木の間を洩れる月の影は一層気味の好いものだな。しかしながら、この間の国は常世へ渡る咽首だ。今までのやうにウカウカとしては居られぬ。前後左右に心を配り、敵の奸計に陥らぬやう、神様にお願ひをいたさうかな。オーさうぢや』
と独語ちつつ拍手の音を木霊に響かせ、音吐朗々として神言を奏上する処へ、さしもに広き森林を縫うて幾百とも知れぬ提燈の光瞬き来る。見る間に照彦の周囲は黒山の如く、提燈の火は夏の螢の如く、遠巻きに巻きゐる。されど彼らは宣伝使の威勢に恐れてか、一人として近寄り来るもの無く、一方の木蔭に押し寄せたる男、
甲『オイ今度の奴は中々手硬いぞ。どうしても春山彦の司がお出でにならなくちや、マア六ケしいなあ』
乙『ソウ心配するな、今に栗毛の駒に乗つてお出で遊ばすのだ、チヤンと報告がしてあるからのう』
甲『さうか、それなら大丈夫だ。早く来て下さるとよいがなあ』
丙『春山彦の神さまは智慧もあり力もあり、情深いお方だが、昨夜も昨夜とて、それはそれは美しい松竹梅とかいふ三人の娘を、甘いこと自分の家へ引張り込んで、御利益ごかしに鷹取別にお渡しになつたと云ふことだ。俺はつひよう行かなかつたが、隣の八公がさう言うてゐたよ』
甲『そんなことは、俺も昨夜三人の娘が送られて行く時に見てをつたのだ。別嬪だといつても大したものではないよ。まあ俺の女房に比べたらチヽヽちーと位なものだ』
乙『何を吐かしよるのだい。あのやうな立派な天人娘と、貴様の嬶と比べものになつて堪るかい。大神楽鼻の、鰐口の、出歯の、兎耳の、団栗眼みたやうな、碾臼に菰巻いたやうな醜態な嬶を持ちよつて、ちーと好いの、悪いのつて、よう呆けたものだな。云うと済まぬが、河豚の横跳びのやうな嬶でも、貴様の目には柳のやうに見えるのだらう。俺達の手では一抱へに抱へられぬやうな胴腹をして、やがて臨月だとか云うて、昨日も俺ん所へ貴様の嬶が出て来をつて、すつぽんに蓼を噛ましたやうに鼻をペコつかせ、フースーフースーと苦しさうな息づかひをして居つたが、俺あ、その時に鍛冶屋の鞴にでもしたら調法だと思つた位だ』
甲『馬鹿にすな。
 一抱へあれど柳は柳かな
だ。貴様のやうな部屋住が女の味を知つてたまるかい。なにほど綺麗な御姫さまでも自分の自由にならねば、別嬪でも何んでもないワイ。自分の専有物にしてこそ立派な女だよ』
丙『よう、偉い権幕だなア、もうよう言はぬワ、フヽヽヽヽ』
 かく雑談に耽る折りしも、駒の蹄の音かつかつと馳せ来る一人の男あり。
村人『ヤア、春山彦の司だ。アヽこれでもう吾々も安心だ。ヤー進め進め』
と虎の威を借る狐の勢ひ、俄に肩臂をいからしながら、宣伝使の方に向つてチクチクと四方八方より近づき迫つて来る。照彦は声を張揚げて、

『神が表に現はれて  善と悪とを立別る
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 曲津の神は世に亡ぶ  月は照るてる常世は曇る
 間の森の雨晴るる』  

と歌ひ出せば、馬上の一人は宣伝使に向ひ、
『ヤアヤア、汝は三五教の宣伝使、此処を何と心得てをらるる。勿体なくも常世神王の御領分、鷹取別が管掌の下に、ウラル教を以て教を樹つる間の国。御上意だツ。神妙に手を廻されよ』
 照彦はカラカラと打笑ひ、
『われこそは三五教の宣伝使、戸山津見の神なるぞ。悪逆無道の鷹取別に諂び諛ひ、この世を曇らす悪魔の部下、耳をさらへてわが宣伝歌を聴け』
『ヤアヤア村人達、この宣伝使は不思議の魔力を以て、宣伝歌を歌ひ、汝等が身体を鉄縛りにいたす魔神であるぞ。われこそはウラル山の大神の神力を得て、神変不思議の術を得たれば少しも怖るることなし。汝らは力の弱き臆病者なれば、生命の惜しき奴は早くこの場を立去れ。汝らが遁げ去りし後は華々しき竜虎の争ひ、春山彦が生命を取らるるか、宣伝使を生擒りにして馬に乗せ、縛つてわが家へ連れ帰るか、二つに一つのこの場の境、足手纏ひにならぬうち早く立去れ』
と大音声に呼はれば、群衆は各々提燈の火を吹き消し、雲を霞と遁げて行く。この言葉に驚いて肝を潰し、腰をぬかした弱虫共は、彼方に三人此方に五人と戦いてゐる。春山彦はまたもや、
『ヤア村の者ども、残らず遁げ去つたか。グヅグヅいたせば険難だぞ』
 彼方此方の森蔭より、
『モーシモーシ腰が抜けました、ニヽヽヽヽヽ遁げられませぬ。どういたしませう』
 春山彦は小声で、
『ヤア困つた奴だな。腰は抜けても、耳は利いてゐる。コリヤ、迂闊したことは言はれない』
と呟きながら、
『ヤア三五教の宣伝使、この春山彦が現はれし上は、千変万化の秘術あるとも到底叶ふまじ。速かにわが馬に乗つてわが館に来れ、取調ぶる仔細あり。

 久方の天津月日の照る中に
  情けを知らぬ人のあるべき』

と歌ひかけた。腰の抜けた弱虫連中はこの歌を聞いて、
甲『オイ、何だ、春山彦の司は……久振りに、つきもののついた化物奴、人は知らぬと思ふか情けない、とおつしやつたぞ』
乙『偉いな、流石は春山彦の司だ』
 照彦はこの歌を聞いて、しばし頭を傾け考へゐたりしが、

『昇る日に消えしと見えし星影は
  消えしにあらずかくれたるなり』

と答へけるに、春山彦は宣伝使のわが意を悟りし事を悦び、
『汝三五教の宣伝使、今の言葉によれば往生せしと見えたり。サア、早くこの駒に乗つてわが館に来れ』
と呼ばはる。宣伝使は、
『われは天下の宣伝使、汝が如き悪魔の家に伴はれ行くは汚らはしけれど、衆生済度のために汝が馬に乗つて遣はすべし』
と云ふより早くヒラリと跨り、春山彦と轡を列べて、蹄の音高らかに館を指して走り行く。

(大正一一・二・一七 旧一・二一 高橋常祥録)



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