出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語09-4-191922/02霊主体従申 悔悟の涙王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
アタル丸船上
あらすじ
 珍山彦が熊公に霊をかけると、大蛇彦命が神懸りして、虎公に「今が改心のしどころだ。天国に救われるか、地獄に落ちて無限の苦しみをなめるか、神になるか、悪魔になるか、二つに一つの境の場所だ」と改心を迫った。虎公は罪の意識にかられ海に飛び込む。熊公も虎公を助けようとして飛び込んだ。
名称
珍山彦 梅ケ香姫* 熊公 竹野姫* 虎公 松代姫*
悪魔 閻魔 大蛇 大蛇彦命 心の鬼 天地の神 八十の曲津
アタル丸 神懸り 審神 科戸 立替へ 地獄 天国 根底の国
 
本文    文字数=4756

第一九章 悔悟の涙〔四一二〕

 今まで黒雲に包まれたる大空は、所々綻びを見せて天書(星)の光り瞬き始め、十三夜の月は漸く東天に姿を現はし給ひ、皎々たる光りに照されてアタル丸の船中は昼の如く、誰彼の顔も明瞭に見え来る。珍山彦は虎公の話相手なる熊公に向つて霊をかけたれば、熊公は忽ち身体震動して、ここに神懸状態となり口を切つて、
『この方は大蛇彦命である。いま虎公に申渡すべき事あれば、耳を澄まして確と聴け』
と雷の如くに呶鳴りつける。船客一同は熊公に向つて視線を集注し、如何なり行くならむと片唾を呑んで凝視つてゐる。
『悪の企みの現はれ時、何時までも悪は続かぬぞよ。動きのとれぬ汝の自白、閻魔の調べは目のあたり、大蛇彦が今言ひ聞かす、神の教をしつかり聴け。木に餅のなるやうな、うまい事ばかり考へて苦労もせずに、他人の苦労の宝を奪ひ、誇り顔に述べ立てる怪しき卑しき汝が魂、心の鬼の囁きを吾と吾手に白状せしは天の許さぬ所、審神者の眼に睨まれて、その本人がこの船に居るともシヽヽヽ知らず知らずに口挙げ致した。悪は永うは続きはせぬぞ。速かに前非を悔い、澄み渡る大空の月の如くに心を洗へ。世界広しと雖も其方のやうな悪逆無道の痴漢は少ない。誰によらぬ、皆心得たがよい。些の悪でも積み重ぬれば根底の国に行かねばならぬ。強さうな事を言つても、人間の分際として木の葉一枚自由にならぬ、障子一枚先の見えぬ人間、天地の神を畏れよ。虎公ばかりでないぞ、長い間に重ねた罪はわが身を亡ぼす剣の山だ。憎まれ子世に覇張る、西も東も弁へずに、吾さへよけりやよいと申して、人の目をぬすみ、宝を盗み取り、悪の身魂に狙はれて根底の国に連れ行かれ、喉から血を吐く憂き目に遇うて恥を曝し、果敢なき運命に陥るやうな僻事を改めよ。日に夜に行ひを改めて心の雲を科戸の風に吹き払へ。悪は一旦栄えても永うは続かぬ、滅の種子だ。この世に悪をなすほど下手な事はない。生きても死んでもこの世の中は神のまま、長い月日に短い生命、太う短う暮すが得だと日夜吐いた虎公のその吠え面は何のざま、誠の道を踏み外し、身欲に迷うて無理難題を人に吹きかけ、誠の人を誑かしむしり取つたるその金子は、大蛇となつて火焔を吐き、冥途へ送る火の車だ。大勢の中で面目玉を潰されてもがき苦しむのも自業自得だ。八十の曲津よ、僻み根性の虎公よ。夢にも知らぬ三人の娘の前で、偉さうに吾身の悪をべらべらと、ようも喋り居つたな。羅刹のやうな心を以て利欲の山に駆け登り、人を悩ます悪魔の容器、わが身の仇とは知らずして、欲に呆けて何のざま。いよいよ改心いたせばよし、改心いたして生れ赤子の心になり、今までのゑぐたらしい心を立替へよ。鬼も大蛇も追ひ出せよ。虎公、今が改心のよいしどきだ。天国に救はれるか、地獄に墜ちて無限の苦しみを嘗めるか、神になるか、悪魔になるか、二つに一つの境の場所だ。ヤア船中の人々よ。必ず虎公のこととのみ思はれな。めいめい罪の大小軽重こそあれ、九分までは皆悪魔の容器だ、罪の塊だ。大蛇彦命が一同に気をつけるぞよ。今は余が懸つてゐる熊公とても同じことだ』
と言葉終つて神懸りは元に復したり。
 虎公は船底に畏縮して涙に暮れながら、この教訓を胸に鎹打たるるが如く、呑剣断腸の念に苦しみ、身の置き処もなく煩悶の結果、月照り渡る海原に向つてザンブとばかり身を投げたり。船客一同は、アレヨアレヨと総立ちになり、
『誰か救けてやるものはないか』
と口々に叫び合ふにぞ、熊公は堪り兼ね、忽ち真裸体となり、またもや海中に飛沫を立ててザンブとばかり飛び込みぬ。船客は総立ちとなつて立上り、海面に目をさらしてゐる。船は容赦もなく風を孕んで北へ北へと進み行く。
 アヽこの二人の運命は如何なりしぞ、心許なき次第なり。

(大正一一・二・一五 旧一・一九 外山豊二録)



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