出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語09-3-161922/02霊主体従申 蛸釣られ王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
湯津石村の谷底
あらすじ
 駒山彦は改心が出来ず照彦も去ってしまった。駒山彦はこの谷底に百日の間座らされて、やっと改心ができた。
 駒山彦は羽山津見司と改名、照彦は後に戸山津見司となった。
名称
オド山津見 駒山彦 照彦
悪魔 珍山彦 蚊々虎! 少彦名神 素盞鳴尊 皇大神 天狗 戸山津見司 羽山津見司 分霊 曲津
神懸り 惟神 高砂 鎮魂 常世の国 細谷川 黄泉比良坂
 
本文    文字数=8162

第一六章 蛸釣られ〔四〇九〕

 神の恵の弥深き、この谷底に残されし、駒山彦は淤縢山津見の帰りゆく姿を眺めて、
『オーイ、オーイ』
と呼び止めるを、淤縢山津見はこの声を木耳の、耳を塞いて悠々と、宣伝歌を歌ひながら下り行く。月は漸々にして、山の端を出で、皎々と輝き渡り、二人の面はここに判然せり。見れば、照彦は、俄に容貌変り、珍山彦の姿に変化し居たるなり。
駒山彦『ヤア、貴様は照彦と思つてゐたら、何だ、蚊々虎の珍山彦か、あまり馬鹿にするな、洒落るにもほどがあるぞ』
照彦『スヽヽスツカリ腰を抜かした駒山彦の宣伝使。そんな腰抜の分際で、どうして道が広まるか。どうして大道が進めるか。雀や燕の親方のやうに口ばかり達者でも……』
駒山彦『スヽヽスリヤ何を言ふのだ。貴様も何時までも、そんな悪い悪戯をせずに、俺に鎮魂をして、脚を起たしてくれたらどうだ』
『スヽヽスワ一大事と言ふやうにならねば、貴様の腰は起たぬ。酸いも甘いも皆知りぬいた蚊々虎を、その方は今まで何と心得て居たか。稲を作つて、米を搗いて、飯を炊いて、サアお食りといふやうに、据ゑ膳を食つた苦労の足らぬ宣伝使。スツカリ曲津に欺されて、隙だらけの汝の身魂、汝のやうな、馬鹿な身魂は尠からう。少彦名神の在します常世の国へ、直に行かうとはチト慢心が過ぎる。この細谷川の山奥で難行苦行の功を積み、神の助けを蒙つて身魂を洗ひ浄め、少しも疵のない、日月のやうな心に研き上げ、素盞嗚尊の雄々しき生れ変り、頭の上から身体の裾まで、気をつけて、スタスタと山路を進んで行くのが汝の天職。素直な心を以て、末永く神に仕へよ。スマから隅まで、澄みきる今宵の月の顔、これを心の鏡とし、皇大神に仕へ奉れ。誠の道をスラスラと脚も達者に起ち上れ』
『セヽヽセングリセングリ、イヤモウ、おむつかしい御意見を承はつて、ウンザリした。世界は広しと雖も、心は急き立てども、急けば急くほど足腰は起たず、世間の奴にこんな所を見られたら、愛想をつかされ、捨てられて、宣伝使の面目玉は丸潰れだ』
『ソヽヽさうだらうさうだらう、ソワソワしいその態は何だ。そこらに人はないと申すが、これだけ沢山の神々が眼につかぬか。それほど外の聞えが気にかかるなら、そなたの心を取り直し、心の底からその慢心を祓ひ出せ。空行く雲も自由自在に走るでないか。其方の脚はそりや何の醜態、それでもまだ気が付かぬか。もうそろそろと我を折つたらどうだ』
『モウ、ソロソロと脚を起たしてくれてもよかりさうなものだな』
『タヽヽヽタヽさぬ起たさぬ。他愛もないこと、大変に饒舌る宣伝使。息も絶え絶えになるとこまで、イヤサ、この場で倒れるとこまで戒めて、高い鼻を叩き折つて、煮いて喰てやらうか。野山の猛き獣の餌食になるか、蛸のやうな骨も何にもないたわけ者、たたきにしようか、それが嫌なら直に改心するか。改心出来たら足は起つぞよ。腹をたてな、腹を立てると足は立つまいぞよ。譬へて言へば高峰の花、大空の月、神の誠の奥は、よほど改心を致さねば、掴むことは出来ぬぞよ。何ほど言うても、訳の解らぬ情ない、なまくら身魂の鉛のやうな両刃の剣で何が出来るか。泣いて暮すも一生なら、笑つて暮すも一生だ。ない袖は振れぬ、ない智慧はしぼれまい。ホロが萎えたか、直霊のみたまに詔り直せ。中々難かしい神の道、気楽に思うて居ると、泣き面かわくやうなことが度々あるぞよ。罪もなく、穢もなく、心の玉に曇りなければ、どんな事でもなし遂げらる。誠の固まつたのは長う栄えるぞよ。名さへ目出度き高砂の、この神島に渡りながら、汝のなしたる修業は蚊々虎の蚊の涙にも及ばぬ、何を致すも耐へ忍びが肝腎だ。鈍刀で悪魔は斬れぬぞ。心の波を静かにをさめ、艱難辛苦を嘗め、奈落の底も恐れぬ魂にならねば、何事も成り遂げぬぞよ。ものの成るは、成るの日に成るにあらずして、成らぬ日に成るのである。早く神心に成れ成れ駒山彦。惟神の道に倣うてこの世を渡れ。チヽヽ知慧や学を頼りに致すな。近欲に迷ふな。直取をすな。ヂグヂグと考へて進め。道に違うた事はやり直せ。小さい心で知識を鼻にかけ、天狗面して笑はれな。チツトは物事を考へて地に落ちた人間を助け、千早振る神の教を世にかがやかせ。凡ての事に心を散らさず、心の塵を吹き払ひ、誠の知慧を働かせ。ツヽヽ月は山の端に隠れむとしてゐる。ヤア、照彦の奴さまもこの場を去らねばなるまい。駒山彦ツ、これからトツクリと御修業なさるがよからう。左様なら』
と言ひつつ照彦はツと起ち上り、悠々としてこの場を去らむとする。
駒山彦『マヽヽ待つて下さい。折角月が出たと思へばこの細い谷間、また月が隠れて真闇がりになつてしまふ。こんな所に一人放置かれては耐つたものではない。ヤア照彦、お前の神懸も、どうやら鎮まつたと見える。俺を伴れて帰つてくれないか』
照彦『神の言葉に二言はない。左様なら』
と、またもや宣伝歌を歌ひ、闇にまぎれて何処ともなく立去りにける。
駒山彦『アヽ、つまらぬ目に遇はしよつた。まるで狐に抓まれたやうな目に遇はしよつて、二人の奴、俺を置去りにして行くとは、アヽ人間も当にならぬものだ。まさかの時に自分の杖となり力となり、何処までも随いて来るものは自分の影法師ばつかりだ。その影法師さへも、闇の夜には随いて来てくれぬ。かうなつて来ると人間も詰まらぬものだ。神の教の司と言ひながら、こんな拙ない、辛い事が世にあらうか。頼みの綱も断れ果てて、終に会うた事もない、月さへ見えぬ谷底に突き落され、地の上に坐らされて、罪滅しか何か知らぬが、蛸を釣られて居る苦しさ。ツクヅク思ひ廻らせば、日に夜に積んだ罪の酬いか。露の命を存らへて、杖も、力も、伝手も、泣く泣く苦しみ悶える浅間しさ。信心は常にせよと、毎日日日、詰めかけるやうに教へられて、漸く宣伝使になるは成つたものの、実につれない浮世だナア。強いことを言つて居つても、かう辛うては到底忍耐れたものぢやない。アヽ、行きつきばつたりに宣伝使になつたのが、吾身の病み月で運の月かい。つくづく思案をして見れば、月に村雲花に風、尽きぬ思ひのこの谷底で、虎狼の餌食になるのであらうか、アーアー』
と独言を言つてほざいてゐる。
 この時闇中よりまたもや大声が何処ともなく響き来る。
 駒山彦は、この谷間に百日百夜、跪坐らされ、断食の行を積み、日夜神の教訓を受け、いよいよ立派な宣伝使となつて、名を羽山津見神と改め、黄泉比良坂の神業に参加したり。しかして彼照彦は、或る尊き神の分霊にして、後には戸山津見神となりたり。

(大正一一・二・一四 旧一・一八 河津雄録)



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