出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語08-5-301922/02霊主体従未 珍山峠王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
珍山峠の山麓
あらすじ
 宣伝使の一行は高彦を残して珍の国に向って出発した。珍山峠の山麓に温泉の流れている谷川があった。
名称
オド山津見 蚊々虎 駒山彦 五月姫 高彦
大神 国魂 神霊 鷹取別 竜世姫神 天狗
珍の国 珍山峠 巴留の国 巴留の都 細谷川
 
本文    文字数=5867

第三〇章 珍山峠〔三八〇〕

 高彦は巴留の国の西部の守護職となり、国魂竜世姫神の神霊を奉斎し、鷹取別の後を襲ふことになりぬ。一行は数日間ここに滞在し国人に宣伝歌を教へ、名残を惜しみつつまたもや宣伝歌を歌つて、珍の国を指して進み行く。夜を日に踵いで四人の宣伝使は、漸くにして巴留と珍との国境、珍の峠の山麓に着いた。四人は芝生の上に腰打掛け折柄吹きくる涼風に汗を払ひつつ、四方山の話に耽りぬ。
 四辺の木々の梢には油蝉が、ミーンミーンと睡たさうな声で囀つて居る。駒山彦は細谷川の清き水を手に掬つて飲みながら、
『アヽ水ほど甘いものは無い。酔醒の水の甘さは下戸知らずだワイ』
蚊々虎『オイ駒、酒も呑まずに酔醒もあつたものかい。余り日が長いので草臥れて夢でも見居つたな。夢の浮世と云ひながら、さてもさても困つた駒山彦だ。アハヽヽヽ』
『オイ蝉の親方、乾児が沢山ゐると思つて威張つてるな』
『蝉の親方つて誰のことだい。よもや俺のことぢやあるまいな』
『誰のことだか知らぬが、蝉といふ奴は人が来ると啼き止んで、パーイと隣の木へ遁て行く奴ぢや、その機に屹度小便をかけて行くよ。貴様はこれまで何でも物を買ひよつて、好いほど使ひよつてモー嫌になつたと云ひよつて、価も払はずに小便をかける奴ぢやらう。矢釜敷吐く奴は蝉だよ。しかしモーコンナことは免除して置かうかい、この山坂になつてまた悄気て平太りよると一行の迷惑だからな』
『殊更暑き夏の日に、巴留の都を立出でて、岩の根木の根踏さくみ、心の駒に鞭打ちてここまで来るは来たものの、こないな奴と道伴れに、なるのは俺も秋がきた。大神さまも胴欲だ。困つた駒山彦の奴、珍山峠の頂辺から、駒の如くに転げ落ちて……』
『コラコラ蚊々虎、縁起の悪いことを云ふな。淤縢山津見さまが居らつしやるのを知らぬか』
『おど山も何もあつたものかい。俺の困るのは珍山峠だ。一つ水でも飲んで元気を出して越えてやらう』
と云ひながら、谷水を掬うて一口飲み、
『ヨー、此奴は妙な味がするぞ。さうして湯のやうに熱いじやないか。ナンデもこの水上に温泉が湧いて居るに違ひ無いわ。余り急く旅でも無し、一つこの谷川を伝うて湯の湧いて居る所まで探検しようぢやないか』
 淤縢山津見は不思議さうに、
『さうか、温いか、妙だナア』
『大変に暖かくつて好い味のする水ですよ。旅の疲れを癒すには持つて来いだ。一つ行つて見ませうか』
『よからう』
と一同は、谷川を右へ飛び越え、左へ渡り上ること数十町、漸くにして谷幅の広い処に出て来た。はるか向ふに谷間を響かす宣伝歌聞え来たる。
蚊々虎『やあ宣伝歌だ。コンナ所に誰が来て居るのだらう』
駒山彦『莫迦云へ、誰がコンナ所に来て気楽さうに人もをらぬのに宣伝歌を歌ふ奴があるものか。きつと天狗だよ』
『何ツ! 天狗だ。そいつは面白い。一つ蚊々虎と天狗と力競べでもしてやらうか』
『オイオイ、貴様は何でも彼でも向ふいきの強い奴だナ。ドンナ危ない処でも一番に飛び出しよつて、しまひには失策るぞ』
『俺が失策つたことが一度だつてあるかい。強敵を前に控へて矛を納め、旗を巻て予定の退却をするのは大丈夫の本懐では無いぞ』
『また法螺を吹きよる。まあまあ油断大敵だ。そーつと様子を考へて行つて、その上のことにせい』
『貴様は何時もそれだから困る。畏縮退嬰主義だ。出る杭は打たれる。触らぬ蜂は刺さぬ、事勿れ主義の腰弱宣伝使。俺は偵察ナンテ、ソンナ気の長い事はして居れない。これから一歩先へ行つて偵察兼格闘だ。俺が勝たら呼ぶから出て来い。俺が負けたら黙つて居るわ。お前のやうな弱虫が随いて来ると足手纏ひになつて、碌に喧嘩も出来はしない』
と云ひながら一目散に歩足を速めて、猿の如く谷川の岩をポンポンと飛び越えて、姿を隠したり。
 三人の宣伝使は、その後を追うて悠々と登り行く。忽ち前方に当つて、
『オーイ、オーイ』
と呼ぶ蚊々虎の疳高い声が、木霊に響き来たる。
駒山彦『ヤア、あれは蚊々虎の声ですな。また何か一人で威張つてるのでせう。面白い奴もあればあるものですな』
淤縢山津見『彼奴は剽軽な奴で、比較的豪胆者だから伴れて歩いて居るのだが、旅の憂さ晴らしには打つてすげたやうな男だ。アハヽヽヽヽ』
五月姫『本当に面白い方ですね。彼の方と一緒に宣伝に廻つてをれば、何時も笑ひ通しで春のやうな心持がしますわ。ホヽヽヽヽ』
駒山彦『大変な御執心ですな。お浦山吹さま、駒も堪りませぬワ』
 五月姫は、
『ホヽヽヽ』
と笑ひながら袖口に顔を隠す。またもや、
『オーイ、オーイ』
と云ふ声が響き来たりぬ。一行は思はず足を速めて声する方に急ぎける。

(大正一一・二・九 旧一・一三 外山豊二録)



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