出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語08-3-171922/02霊主体従未 敵味方王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
巴留の国の関所
あらすじ
 オド山津見と蚊々虎は巴留の国の関所で荒熊達と争いになる。荒熊が谷底に落ちたが、オド山津見は荒熊を助けた。

***敵と味方***
 神の道には敵も味方もあるものか。三五教も御主旨は味方の中に敵がおり、敵の中にも味方が在ると教へられてある。
名称
荒熊 オド山津見 蚊々虎 数人の男
幽霊 邪神 鷹取別 副守 本守護神 曲津
鎮魂 巴留の国 霊光
 
本文    文字数=10424

第一七章 敵味方〔三六七〕

 山頂の木を捻倒す如き暴風もピタリと止みて、頭上は酷熱の太陽輝き始めたり。淤縢山津見は、蚊々虎と共にこの山を西へ西へと下りつつ、
『オイ蚊々虎、足はどうだイ。ちつと軽くなつたか』
『ハイもう大丈夫です、この調子なれば如何な嶮しき山でも岩壁でも、たとへ千万里の道程でも行けるやうな心持になつて来ましたワ』
『お前はしつかりせぬと曲津に取り憑かれる恐れがある。何と云つてもまだ改心が足らぬから、ちつとも臍下丹田に魂が据わつて居ないので、種々の曲津に憑かれるのだよ。それで足が重くなつたり、苦みたり弱音を吹いたりするのだ。曲津は我々のこの山を越えて巴留の国へ行くのを大変に恐れて居るのだよ。それで腹の据わらぬお前に憑つて弱音を吹かすのだ。魂さへしつかりすれば、たとへ億兆の邪神が来たとて指一本さへられるものではないよ』
『ほんたうにさうですな、イヤこれからしつかり致しませう。随分私も貴下の悪口を言ひましたが、赦して下さいますか』
『赦すも赦さぬもあつたものか、皆お前に憑依した副守が言つたのだ。お前の言つたのぢやないワ』
『三五教は甘い抜道がありますな。あれだけ私が貴下のことをぼろ糞に云つたつもりだのに、それでもやつぱり副守が言つたのですか』
『さうだ。邪神か四足の言葉だよ』
『それでも現に私が確に云つた事を、記憶して居ますがなあ』
『サア記憶して居る奴が四足だもの、虎の本守護神は奥の方にすつこみて、副守がアンナ下らぬ事を云ふのだ。蚊々虎も副守も、まあ似たやうなものだねー』
蚊々虎『さうすると私が副守の四足ですか、そりやあまり非道いぢやありませぬか。一体貴下のおつしやる事は何が何だか判らなくなりましたよ』
『人間の云ふことならちつとは、こつちも怒つても見たり、理屈を云うて見るのだけれども、何分理屈を言うだけの価値がないからなー』
『へー妙ですなー。テンで合点の虫が承知しませぬわい』
『まあ好い。俺の言ふ通りにさへすればよいのだ。その内に身魂が研けて本守護神が発動するよ』
 二人はコンナ話しに旅の疲労を忘れて、ドンドンと雑木の茂る、山道を下り行く。傍にかなり大きな瀑布が、飛沫を飛ばして懸つてゐる。見れば四五人の荒くれ男が瀑布の前に腰打掛けて、何か面白さうに囁いてゐた。二人はその前を過らむとする時、その中の一人の男が大手を拡げて谷道に立塞がり、
『オイしばらく待つた。お前は何処のものだ。ここは巴留の国だぞ。鷹取別の司の御守護遊ばす御領地だ。他国の者はこの滝より一人も前へ進む事を許さぬのだ。速かに後に引帰せ』
と睨み付ける。蚊々虎は腕を捲り捻鉢巻をしながら、
『巴留の国が何だ。鷹取別がどうしたと言ふのだ。勿体なくも三五教の大宣伝使淤縢山津見のお通りだ。邪魔を致すと利益にならぬぞ』
 途に立塞がつた男、
『俺は巴留の国の関所を守る荒熊といふ者だ。この方の申す事を聞かずに通るなら通つて見よ。利益にならぬぞ』
『よう吐かしよつたな。俺がためにならぬと云へば、猿の人真似をしよつてためにならぬと吐きよる。ウンそれも判つて居る。人に物を貰つて返しにお返礼を出す事がある。オツトドツコイ貰ひ言葉に返し言葉、しやれるない。俺を一体何と心得てをる。俺は貴様のやうな副守の容器になつた四足魂とは訳が違ふのだ。本守護神様の御発動なされる正味生粋の蚊々虎の狼だぞ。下におれ下におれ。神様のお通りに邪魔ひろぐと貴様のためにならぬぞ。コラ荒熊もうお返礼は要らぬぞよ』
『此奴は執拗い奴ぢや。オイ皆の者来ぬか来ぬか。五人寄つてこの黒ん坊を倒ばしてしまへ』
『アハヽヽヽ、蚊々虎は流石に虎さまだ。俺一人に五人もかからねば、どうする事も出来ぬとは、貴様らが弱いのか、俺が強いのか、根つから葉つから分らぬ。ヤイ荒熊の五つ一美事かかるならかかつて見よ』
と拳を握り、腕をニユツと前に突き出し、黒い目をグルグルと剥いて見せる。
『ヤイ貴様あ、何処の馬の骨か、牛の骨か知らぬが、偉う威張る奴だナ。もうそれだけか、もつと目を剥け、鼻を剥け、口を開け、お化奴が』
『言はして置けば何を吐かすか判りやしない。愚図々々吐かすとこの鉄拳で貴様の横面を、カンカンと蚊々虎さまが巴留の国だぞ』
『オイオイかかれかかれ。伸ばせ伸ばせ』
と荒熊が下知するを、蚊々虎は両方の手に唾しながら、
『サア来い、五つ一、一匹二匹は面倒だ。一同五人の奴、束になつて束て一度にかかれ』
『何だ、割木か、柴のやうに束になつてかかれと、その広言は後にせえ。吠面かわくな、後の後悔は間に合はぬぞ』
と前後左右より蚊々虎に武者振りつく。
『ヤー、わりとは手対へのある奴だ。もしもし、センセン宣伝使様、鎮魂だ、鎮魂だ、ウンと一つやつて下さいな』
『マー充分揉れたがよからうよ。あまり貴様は腮が達者だから、鼻の一つも捻ぢ折つて貰へ。アハヽヽヽ』
『そりやあまり胴欲ぢや、聞えませぬ。コンナ時に助けて下さるのが宣伝使ぢやないか、人を見殺しになさるのか。もしもし、もうそれそれ今腕を抜かれる。イヽヽヽイツターイ腕が抜ける。コラ荒熊、荒い事するな。柔かに喧嘩せぬかい』
『喧嘩するに固いも柔かいもあるか。この鉄拳を喰へ』
と云ふより早くポカリと打つ。四人は蚊々虎の左右の手足に確りと、獅噛付きゐる。
『オイ四人の者共それを放すな。これからこの蚊々虎の身体を突かうと殴らうと俺の勝手だ』
『オイ突くのも撲ぐるのもよいが、あまり酷いことをするなよ。ちつと負けとけ、割引せい』
『俺は負けと云つたつて、喧嘩に負けるのは嫌ひだ。木挽ならどのやうにも割挽くが俺や止めた、嫌だ。貴様の生首をこれから捻ぢ切つてやるのだ。アー面白いドツコイ、貴様の面ぢや面黒いワイ。ワハヽヽヽ』
と笑ふ途端に崖から谷底目がけてヅデンドウと落込みける。四人は驚いて掴まへた手足を放したれば、蚊々虎は元気づき、
『さあ大丈夫だ。貴様らもこの谷底へみんな葬つてやらう』
 四人は慄ひ戦き、岩に獅噛付いて居る。
『アハヽヽ、俺の真正面に来よつて、この方の霊光に打たれたと見えて、荒熊奴が仰向けに谷底にひつくり返つた。オイ荒熊の乾児共、面を上ぬかい。俺の霊光にひつくり返してやらうかい。もう大丈夫だ。もしもし宣伝使様、貴方はあまり卑怯ぢやないですか。味方の味方をせずに敵の味方をするとはよつぽど好い唐変木ですよ。それだから貴方はおーどーやーまーづーみーと云ふのだ。この蚊々虎の御神力に恐れ入つたらう。これからは荷物持ちになれ』
と云つて大法螺を吹きながら四辺を見れば、宣伝使の影は煙と消えて見えざりけり。
『あゝ弱い宣伝使だな。此奴もまた谷底に放られたのか知らぬ、あゝ気の毒なことだ。袖振り合ふも多生の縁、躓く石も縁の端、折角ここまでやつて来たものの、荒熊と一緒に谷底に放られてしまうたか、エー気の毒ぢや、アー人間と云ふものは判らぬものだナア。今まで偉さうに蚊々虎々々々だのと昔のかばちを出しよつて、偉さうに言つて居たのが、この悲惨な態は何の事かい。昔は昔、今は今ぢや』
と調子に乗つて四人の男を前に据ゑ、一人御託を並べて居る。そこへ流暢な声で、

『神が表に現はれて  善と悪とを立別る
 この世を造りし神直日』  

と云ふ宣伝歌聞え来たりぬ。
『ヨウまた宣伝使か、誰だらう。谷底へ嵌つた幽霊の声にしては、何んとなしに力がある。ハテナ、怪体な事があれば有るものぢや』
と独語を云つてゐると、そこへ淤縢山津見は谷底に落ちたる荒熊を、背に負ひ労りながら宣伝歌を歌ひつつ上り来たり。
『ヤヤ バヽ化け者が、よう化けよつたナア』
『オイオイ蚊々虎、俺だよ。化物でも何でもない真実者だ。宣伝使は善と悪とを立別る役だ。貴様があまり御託を並べるから同情は出来ない。却つて俺は荒熊に同情してこの危難を助けたのだ。神の道には敵も味方もあるものか。三五教の御主旨は味方の中に敵が居り、敵の中にも味方が在ると教へられてある。貴様は俺の味方でありながら神様の御心を取違ひ致して、却て敵になるのだ。この荒熊さまは吾々に対して無茶なことを云ひ、吾々の通路を妨げる敵のやうだが、敵を敵とせず、敵が却て味方となる教だ。どうだ合点が行つたか』
 蚊々虎は怪訝な顔して、
『へー』
と味のない味噌を喰つたやうな顔をして、首を傾け指をくはへ、アフンとして山道に佇立しゐたり。

(大正一一・二・八 旧一・一二 谷村真友録)



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