出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=08&HEN=3&SYOU=16&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語08-3-161922/02霊主体従未 霊縛王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
ブラジル峠
あらすじ
 蚊々虎に国照姫が懸かった。醜国別が霊縛して審神をすると八岐の大蛇の眷属八衢彦が懸かっていた。霊縛された八衢彦は「巴留の国から出る」という条件で許された。霊縛を解かれた蚊々虎は正気に戻った。
名称
蚊々虎 醜国別 八衢彦
悪霊 ウラル彦 オド山津見! 国照姫 眷属 木常姫 木花姫 醜の枉津 守護神 邪神 大自在天 常照彦! 常世姫 埴安彦命 日の出神 美山彦 八岐の大蛇 駱駝 稚桜姫
アーメニヤ エルサレム 神言 神懸り 鬼城山 審神 底の国 体主霊従 地の高天原 常世の国 根の国 巴留の国 ブラジル峠 ブラジル山 霊縛 ロツキー山
 
本文    文字数=9333

第一六章 霊縛〔三六六〕

 一行はブラジル峠の山頂に四辺の風景を眺めながら、下らぬ話に耽り居たり。涼しき風は吹き捲り、次第に烈しく周囲の樹木も倒れむばかりなりけり。蚊々虎は側の樹の根にしつかとしがみ付き、
『モシモシ宣伝使様、どうしませう。散ります散ります』
『それだから蚊と言ふのだ。これつばかりの風が吹いたと云つて、木の根にしがみ付いて散ります散りますもあつたものかい。まるで酒でも注いで貰ふ時のやうなことを言ひよつて、弱虫奴が、これから巴留の国へ行つたら、これしきの風は毎日吹き通しだよ。大沙漠を駱駝の背に乗つて横断しなくてはならぬが、貴様のやうな弱いことでは、駱駝の背から蚊のやうに吹き飛ばされてしまふかも知れぬ。あーあ旅は一人に限るナ。コンナ足手纏ひを連れて居ては、後髪を牽かれて、進むことも、どうする事も出来やしない嫌な事だワイ』
『モシモシ宣伝使様、偉さうにおつしやるな、後髪を牽かるると云つても、髪の毛は一本もありやしないワ。俺の頭を見やつしやれ、棕梠のやうな立派な毛が沢山と、エヘン、アハン』
『貴様のは髪ぢや無いよ。それは毛だ。誠の人間には髪が生えるし、獣には頭に毛が生えるのだ。俺の頭は髪だぞ。髪と云ふ事は、鏡を縮めたのだ。よう光つとらうがな』
『蚊が止まつても辷り落ちるやうな頭をして、神様も何もあつたものか。蚊が止まつて噛様だ。アハヽヽヽヽ』
『何を言ふ。俺は勿体なくも頭照す大御神様だ。頭照す大御神様の御神体は八咫の御鏡ぢやといふ事は知つて居るだらう』
『ヘン、甘いことをおつしやいますな。流石は宣伝使様。大自在天の一の御家来、悪い事ばかり遊ばして、根の国底の国に追ひやられて、終には国処を売つて、世界中を迂路つき廻つて、負け惜みの強い体のよい乞食だ。宣伝使様と云へば立派なやうだが、乞食の親分見たやうなものだ。頭照す大御神様も有つたものか。国処立退の命だ』
『貴様にはもう暇を遣はす。これから帰れ。何と云つても連れて行かぬ』
 (義太夫調)
『私をどうしても連れないと言ふのですか。それはあんまり無情い、胴欲ぢや。思ひ廻せば廻すほど、俺ほど因果な者が世に有らうか。常世の国に顕れませる、大自在天のその家来、醜国別と歌はれて、空行く鳥も撃ち落す、勲もしるき神さまの、家来となつた嬉しさに、有らう事かあるまい事か、勿体ない天地の神の鎮まり遊ばした、ヱルサレムの宮を穢し奉り、その天罰で腰痛み、腰はくの字に曲り果て、蚊々虎さまと綽名をつけられ、今は屈みて居るけれど、元を糺せば尊き神の御血筋、稚桜姫の神の御子の常世姫が内証の子と生れた常照彦。世が世であれば、コンナ判らぬ淤縢山津見のお供となつて、重い荷物を担がされ、ブラジル山をブラブラと、汗と涙で駆け登り一息する間もなく、もうよいこれで帰れとは、実につれない情ない、善と悪とを立別る、神がこの世に坐ますなら、淤縢山津見の醜国別、体主霊従の宣伝使、義理も情も知らぬ奴、矢張り悪は悪なりき。猫を冠つた虎猫の蚊々虎さえも舌を捲いて、泣くにも泣かれぬ今の仕儀、どうして恨を晴らさうか、今は淤縢山津見と、厳めしさうな名をつけて、肝腎要の魂は、醜の枉津の醜国別、その本性が表はれて、気の毒なりける次第なり。それよりまだまだ気の毒なは、この山奥でただ一人、足の痛みし蚊々虎に、放とけぼりを喰はすとは、ホンに呆れた悪魂よ。玉の緒の命の続く限り、こいつの後に引添うて、昔の欠点をヒン剥いて、邪魔してやらねば置くものか。ヤア、トンツンテンチンチンチンだ』
『こらこら蚊々虎、馬鹿な事を云ふな。貴様そら本性か、心からさう思つてるのか』
『本性で無うて何んとせう』
と手を振り口を歪め、身振り可笑しく踊り出したり。
『ハヽヽ貴様は気楽な奴だナ。コンナ処で狂言したつて、見る者も、聞く者も有りやせぬぞ。誰に見せる積りぢや』
『お前は天下の宣伝使、これだけ沢山の御守護神が隙間もなしに聞いて居るのが分らぬか。俺はお前に聞かすのぢや無い。其処らあたりの守護神に、お前の恥を振舞うて行く先き先きで神懸りさせて、お前の欠点をヒン剥かす俺の仕組を知らぬのか。それそれそこにも守護神、それそれあそこにも守護神、四つ足身魂も沢山に面白がつて聞いて居る。それが見えぬか見えないか。お気の毒ぢや、御気の毒では無いかいな』
 このとき幾十万とも知れぬ叫び声が四辺を圧して、蚊の鳴く如くウワーンと響きぬ。稍あつて幾十万人の声として、ウワハヽヽヽとそこら中から、声のみが聞え来たる。淤縢山津見は両手を組み、顔の色を変へ、大地に胡坐をかき、思案に暮るるものの如くなりけり。
 蚊々虎は俄に顔色火の如くなり、両手を組みしまま前後左右に飛び廻り、
『くヽヽくにくにくに
てヽヽてるてる
ひヽヽめヽヽ
くにてるひめ』
と口を切りぬ。
 淤縢山津見は、直に姿勢を正し両手を組み審神に着手したり。
『一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、百、千、万』
と、唱ふる神文につれて蚊々虎は大地を踏み轟かし踊り出したり。
『汝国照姫とは何れの神なるぞ』
『キヽ鬼城山に立籠り、美山彦と共に常世姫の命の命令を奉じ、地の高天原を占領せむと、昼夜苦労を致した木常姫の再来、国照姫であるぞよ。その方は醜国別、今は尊き淤縢山津見司となりて、日の出神の高弟、立派な宣伝使、妾は前非を悔い木花姫の神に見出され、アーメニヤの野に神都を開くウラル彦と共に、発根と改心を致して今は尊き誠の神と成り、アーメニヤの野に三五教を開き神政を樹立し、埴安彦命の教を天下に布くものである。これより巴留の国に宣伝のために出で行かむとするが、しばらく見合して後へ引き返し、この海を渡つてアーメニヤの都に立帰れ。巴留の国は神界の仕組変つて日の出神自ら御出張、ゆめゆめ疑ふな。国照姫に間違は無いぞよ』
 淤縢山津見は、全身に力を籠めて神言を奏上し、ウンと一声蚊々虎の神懸りに向つて霊光を放射したるに、蚊々虎は大地に顛倒し、七転八倒泡を吹きだしたり。
『その方は邪神であらう。今吾々の巴留の国に到る事を恐れて、この蚊々虎の肉体を使つて、天下の宣伝使を誑かさむとする枉津の張本、容赦は成らぬ。白状いたせ』
『畏れ多くも日の出神の御使、国照姫に向つて無礼千万。容赦はせぬぞ』
『容赦するもせぬも有つたものか、この方から容赦いたさぬ』
と云ひながら、またもやウンと一声、右の食指を以て空中に円を画き霊縛を施しければ、
『イヽ痛い痛い、赦せ赦せハヽ白状する。妾はヤヽ八岐の大蛇の眷属、八衢彦である。この巴留の国は妾らが隠れ場処、いま汝に来られては吾々仲間の一大事だから、国照姫が改心したと詐つて、汝をこの嶋よりボツ返す企みであつた。かくの如く縛られてはどうすることも出来ぬ。サアもうこれから吾々一族は、ロッキー山を指して逃げ行くほどに、どうぞ吾身の霊縛を解いて下さい。タヽ頼む頼む』
『巴留の国を立去つて海の外に出て行くならば赦してやらう。ロッキー山へは断じて行く事ならぬ。どうだ承知か』
 蚊々虎の神懸りは、首を幾度とも無く無言のまま縦に振つてゐる。淤縢山津見は、ウンと一声霊縛を解けば、蚊々虎の身体は元の如くケロリとなほり、流るる汗を拭ひながら、
『あゝ偉い事だつたワイ。何だか知らぬが俺の身体にぶら下りよつて、ウスイ目に逢うた。サアサア宣伝使様、もういい加減に行きませうかい。コンナ処に居つては碌なことは出来ませぬよ』
と正気に帰つた蚊々虎は先に立つてブラジル山を西へ下り行く。

(大正一一・二・八 旧一・一二 東尾吉雄録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web