出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語07-8-461922/02霊主体従午 白日別王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
白日別の館
あらすじ
 四人の宣伝使と蚊取別は筑紫の国の酋長の館へやって来た。酋長の白日別は、夢のお告げで、「筑紫を出て、高砂の島の守護となれということであった」ので館を後にしていて、書置きが残されていた。そこで、高照彦は筑紫の守護となった。それからは宣伝達は各方向へ分かれた。日の出神は常世国へ、面那芸司は天教山へ、祝姫は黄金山へ向った。
名称
蚊取別 高照彦 面那芸司 祝姫 日の出神
神伊邪那岐命 国魂 国治立命 酋長 白日別! 純世姫
葦原の瑞穂国 天津祝詞 高砂の島 筑紫の国 筑紫の州 天教山 常世国 瓢箪 黄金山
 
本文    文字数=6506

第四六章 白日別〔三四六〕

 夜は仄々と明けかかる。国家興々と鳴く鶏の、声に日の出宣伝使、東天紅を兆して雲を披きて昇りくる、清新の晨の空気を吸ひながら、露路を分けて、日は白々と白日別司の館に進み行く。
 蚊取別は数多の瓢箪を腰にガラガラ云はせながら、跛を引きつつ頭を空中に上げたり下げたり、息もセキセキ四人の後に跟いて来る。その姿の可笑しさは、飯蛸魚が芋畑から立つて逃げる姿そのままなりける。
 日の出神の一行は、白日別の館に近付き、門を叩いて打てども打てども、何の答へもなければ、日の出神は蚊取別に向つて、
『汝はこの塀を越え、中より門を開け』
と命じたまへば、蚊取別は、
『これほど高い塀を私のやうな跛が、どうして越せませうか』
日出神『越せるとも、越せる工夫がある。かうするのだ』
と云ひながら、腰の瓢箪の詰を抜いて、
日出神『お前はもう酒は嫌ひになつたのであるから、もう酒はいらない、捨ててやらう、未練は無いか』
蚊取別『ハイ、未練も焼酎も有りませぬ、並酒ばかりです。もう放かしても一寸も惜しいとは思ひませぬ。しかしこれで一生酒と縁切れぢやと思ふと、名残惜いやうな気がいたします。放かすは放かしますが、一寸嘗めてみてもよろしいか』
日出神『卑しい奴ぢや、思ひ切りの悪い男じやなあ』
と云ひながら、瓢箪の詰を抜いて残らず大地に棄ててしまつた。そして沢山の瓢箪の口より、一々日の出神は力限りに息を吹込み玉へば、瓢箪は見る見る膨張して、風船玉のやうに薄くなり、蚊取別は自然にフウと舞ひ颺りたり。
蚊取別『モシモシ颺ります颺ります、どうしたらよろしいか』
日出神『その瓢箪を一つ一つ放かすのだ。薄くなつて居るから爪で破れ』
 蚊取別は爪の先でパチパチと破つた。一度に瓢箪は破れて、図顛倒と屋敷の中に落ちた。門内にはドスン、「アイタタ」の声聞えゐたり。
日出神『おい、早く門を開けぬか』
蚊取別『あかぬあかぬ薩張あかぬ。抜けた抜けた』
面那芸『何が抜けたのだい』
蚊取別『腰だ、腰だ』
面那芸『間に合はぬ奴だナア。腰を抜かしよつて』
と云ひながら翻然と体をかわし、もんどり打つて門内に飛込ンだ、忽ち門は左右にサツと開かれた。
面那芸『皆さま御待たせ致しました、さあお這入り下さい』
 四人の宣伝使はドシドシ奥へ進み行く。
蚊取別『あゝもしもし、私をどうして下さいます。私を、私を』
と叫びをる。祝姫は気の毒がり、後に引返して蚊取別の手を取り抱き起さうとしたるに、蚊取別はどうしても腰を上げぬ。
祝姫『何故起きないのですか』
蚊取別『はい、私は嬶よりも子よりも、好きな酒がすつかり嫌ひになりました。かうなると思ひ出すのは、国に残した女房の事。あゝあゝ、もうこの頃は死んだか生きたか、何分太平洋を越えて永い歳月、何ンぼ女房が有つたとてまさかの間には合ひませぬ、察する処貴方は独身らしい、どうぞ私に輿入れして下さい。そしたら腰が立ちますよ』
祝姫『オホホヽヽヽまだ貴方は酒に酔うて居るのですか。何ほど男旱の世の中でも、云うと済まぬが、貴方のやうな黒いお方の女房に誰がなりますか。軈て烏が婿に取りませう。私はたとへ烏に身を任しても、貴方のやうな瓢箪面には真平御免ですよ。阿呆らしい、サアサア早く御立ちなさい。日の出神さまに睨まれたら怺りませぬよ』
蚊取別『アーア、成るは厭なり、思ふは成らず、私の好く人また他人も好く。アーア気の揉める事だワイ』
祝姫『知りませぬ』
とツンとして、足を早めてさつさと奥に行かうとする。蚊取別は蓑を握つて、
『もしもし、さう素気無くしたものでは有りませぬ。旅は道伴れ世は情』
祝姫『エヽ、情け無い』
と禿頭をぴしやつと叩いて一目散に走り行く。蚊取別は腰を抜かしたまま、
『オーイ、オーイ』
と叫びゐる。
 日の出神の一行は、館の内を隈なく探し見たが、猫一匹もゐない。不思議ぢやと其処辺中を開けて見たるに、国魂の神純世姫の御魂は奥殿に鄭重に鎮祭されてあり。さうして一切の器具は、秩序よく整頓してある。一同は神殿に向つて天津祝詞を奏上したるが、神殿には何一つ供物は無かりける。一枚の紙片に何事か記しあり。日の出神は恭しく神殿に進み、これを手に戴き拝読したるに、神に奏上する祝詞と思ひの外、次のやうなことが記されありける。
一、私は白日別と申す、筑紫の国の大酋長であります。一昨夜の夢に、国治立の命の珍の御子と、神伊邪那岐命の珍の御子が、この筑紫の島にお降りになるから、汝ら一族は、この国と館を明け渡し、一時も早く高砂の島に立ち去りて、その島の守護職となれ。跡は高照彦神鎮まり給へば、筑紫の国も、葦原の瑞穂の国も穏かに治まるべしとの、夢の御告げでありましたから、私は夜の間に一族を引連れてこの島を立退きました。跡はよろしくお願ひ致します。
   日の出神様
   高照彦様
   外御一同様
と記しありぬ。日の出神はこの遺書により、高照彦を筑紫の国の守護職となし、名も白日別と改めしめ、天運の到るを待つ事としたまひぬ。
 これより日の出神は常世の国へ、面那芸司は天教山へ、祝姫は黄金山に向つて進む事となり、三柱は此処に惜しき袂を別ちたりける。

(大正一一・二・二 旧一・六 高木鉄男録)



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