出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=07&HEN=7&SYOU=37&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語07-7-371922/02霊主体従午 老利留油王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
豊の国の霧島
あらすじ
 豊日別は砂漠に五穀を実らせて豊かな国にするという仕事を与えられた。豊日別が自信のないような返事をすると、日の出神は「おまえの禿頭に毛が生えたなら、この仕事もできるだろう」と言い、老利留の木の油で豊日別の頭に髪の毛を生えさせた。とても痛かったが、日の出の神の「大峠を越えよ」との言葉に、豊日別は耐えた。
名称
面那芸彦 豊日別 祝姫 日の出神
悪魔 鬼 醜の曲津 白日別 建日向別 虎転別! 八島別
大峠 霧島 筑紫の国 豊葦原の豊の国 肥の国 被面布 老利留
 
本文    文字数=5636

第三七章 老利留油〔二三七〕

 神の光を輝かす  この四柱の宣伝使
 日の出神を始めとし  心も豊に治まれる
 豊日の別の宣伝使  醜の曲津も祝姫
 面那芸彦と諸共に  国の八十国八島別
 神の命に立別れ  漸くここを建日向
 別に別れて進み行く  豊葦原の豊の国
 長閑な春日を負ひながら  脚に任せて山坂を
 岩の根木の根踏みさくみ  深き谷間を打渡り
 豊けき豊の神国の  名を負ひませる白日別
 筑紫の国に渡らむと  勇み行くこそ雄々しけれ。

 霧立昇る霧島の山の尾の上に、四柱は腰うち下し草の上にどつかと臀を据ゑて、流るる汗を拭ひながら、四方の景色を眺めて、無邪気な話に耽りける。
豊日別『あゝ実に高山から見た景色は雄大ですな。四方山に包まれ、一方には荒浪に時々襲はれる肥の国に鳥無郷の蝙蝠を気取つて、権利だ、義務だ、得だ損だと狭つこましきことを言つて争つたり、訳の解らぬ人間を相手に昼夜心を腐らし、心配をしながら虎転別の悪魔だとか、鬼だとか云はれて居るよりも、こうして貴下等と一緒に元の心に生れ変つて、自由自在に山野を跋渉するのは、実に何とも云へぬ天恵ですワ。それに就て私は、豊の国の豊日別となつて守護を致さねばなりませぬが、豊の国は一体どの方面に当るのでせうか』
 面那芸宣使は四方を見廻しながら、眼下に展開せる大沙漠を指さし、
『豊の国はこの西南に当る赤白く見える処ですよ』
豊日別『よを、何だ、草も木も一本も生えて居ないぢやありませぬか。彼れは沙漠ではありますまいか』
面那芸『大沙漠ですよ。そこに草木を植付け五穀を稔らせ、豊な豊の国とするのが貴下の役目ですよ』
豊日別『天恵どころか、非常な天刑です。どうしたら草木が繁茂し、人間が繁殖して立派な国土になりませうかな』
日出神『豊日別さまの頭の禿に毛が生えたら彼の沙漠にも草木が生えるだらう。それを生さうと思へば大変な辛い目をしなくちやならぬ』
『この禿た頭に毛が生えますか』
日出神『痛い目をすれば生える。生やして上げようか』
豊日別『少々痛い目をしたつて天下のためになることなら構ひませぬ』
 日の出神はつと立上り傍の樹木の中に姿を隠したるが、しばらくありて青々とした樹の枝を握り帰り来たり、傍の岩の上にその樹の枝を積み、手頃の石を以ておさんが砧を打つやうに打ち始めたるに、追々と打たれて枝も葉も容量低になり、水気が滴り出しける。日の出神は黒き被面布にくるくると包み、一生懸命に力を籠めて搾り、出た汁は、岩の上の少しく凹みし所に油となつて充されける。
日出神『さあ、これから毛を生やして上げやう。些は痛いが、辛抱できますか』
と云ひながら、豊日別の頭を傍の荒き砂を掴みて、ゴシゴシと擦りけるに、豊日別は、
『イヽヽヽヽ』
日出神『宣伝使たる者が痛いなぞと弱音を吹いてはならぬ、そこが男だ、気張りなさい』
『イヽヽヽヽ好い気分ですワ』
 日の出神は益々ガシガシと擦る。薄皮は剥ける、血は滲む。
『イヽヽヽヽ至つて好い気分ですワイ』
日出神『よし、これからもう一つ好い気分にして上げやう』
と今搾つた岩の上の油を掬うて、ビシヤビシヤと塗りつける。豊日別は顔を顰め、またもや、
『イヽヽヽヽイヽヽヽヽ』
と泣声になつて来てゐる。
日出神『また貴方は弱音を吹くな』
豊日別『イヽヽヽヽイヽヽヽ好い加減です。成ることなら、もう好い加減に止めて、ホヽヽヽ欲しいことない』
と涙をボロボロと零して気張りゐる。
日出神『さあ、これでよし』
と再び芝生の上に腰を下したりける。豊日別は頭を押へ、目を塞ぎ、息を詰めて蹲踞みゐる。暫時すると痛みが止まり、豊日別はやつと安心して顔の紐を解く。
日出神『どうでした。好い気分でせう。人間は一度は大峠を越さねばならぬ。大峠を越すのは随分苦しいものだ』
豊日別『いや、この大峠まで上つて来たが、さう苦しいとは思はなかつたのに、しかし大峠どころの騒ぎぢやありませぬよ。随分痛い、ドツコイ至つて結構な目に会ひました』
日出神『頭に手を上げて御覧なさい』
 豊日別は、頭を撫で、
『やあ、生えた生えた。すつかり生えた。有り難う』
と俄に飛び上り喜ぶ。これは老利留といふ木の油なりける。
『さあさあ行かう』
と日の出神は先頭に立つ。豊日別は禿頭に毛の生えたのを大いに喜び、
『さあ、これで若くなりました』
と肩を怒らせながら、ドンドンと峠を下り行く。四人の歌ふ宣伝歌は谷々に響き渡りぬ。

(大正一一・二・二 旧一・六 外山豊二録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web