出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語07-3-151922/02霊主体従午 船幽霊王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
太平洋上
あらすじ
 日の出神の宣伝歌で荒れた海はおさまった。人々がまたよもやま話をしていると、海は再び荒れ始めた。
名称
乙 甲 日の出神 丙
幽霊 大綿津見神 魂魄
天の河 言霊 常世の国
 
本文    文字数=5724

第一五章 船幽霊〔三一五〕

 虎吼え竜哮ぶ、さしも凄惨たりし海原も、日の出神の宣伝歌、その言霊の功績に、今は全く凪はてて、世は太平の海の上。彼方此方に嶋影の、疎らに浮けるその中を、真帆に春風孕ませつ、御空に清き月影を、力に進む長閑さよ。天津御空の星の影、以前の如くに輝きて、影を沈むる波の底。銀河は下りて海底に、北より南に横はる、今打渡る天の河、深きは神の心なり。
 今まで虎狼に出逢ひし羊兎の如く、慴伏して弱り切つたる人々は、またもや元気を恢復し四方山の談に花を咲かせける。
甲『先刻妙な女が妙なことを吐かすものだから、大綿津見神さまも御立腹と見えて、どえらい浪を起したり、風を吹かしたり、お月様を隠したり、雷さまが呶鳴つたり、ぴかりぴかりと光つたりして、俺らの肝玉を大方潰しよつた。俺ア、もうおつ魂消て生きて居るのか死ンでるのか、夢だつたか幻だつたか、ほんたうに訳が判らなかつたよ。恐い夢もあればあるものだと思つたが、やつぱり夢では無かつたか。それだから三五教の宣伝使が「言霊は慎まねばならぬ。善い言を云つて勇ンで暮せば、善いことが来る、悔めば悔むことが出来する」とおつしやつたが、本当に実地の学問をしたではないかエー』
乙『本当にさうだよ。山より高き浪が立つとか、海より深いばば垂れ腰とか、何ンだか訳の判らぬこと吐きよつて、池かなンぞのやうに思ひ、鯉だの鮒だのと吐くものだからな、こンな目に逢ふのだよ』
丙『貴様は聞違つてゐる。山より高き父の恩、海より深き母の恩と云つて、父と母との恩は有難いものだと云ふ事を云つたのだよ。貴様は耳が悪いから困るナア』
甲『それでも貴様、彼奴が喋つてから波が高くなつたり、命辛々の目に逢うたのじやないかい』
丙『それあ時節だ、とは云ふものの貴様の精神が悪いからだよ。船の上は慎まねばならぬと宣伝使が云つたじやないか。それに今出ると云ふ時に、嬶と掴み合ひをしよつて、喧嘩をさらすものだから、こンな目に逢ふのだ。貴様の嬶が出るときに何と云つた。「私を捨てて好きなブクさまの傍へ行くのなら、私はたつて留はせぬ。その代りに私を今此処で殺して置いて行つて下さい。私は船幽霊となつてお前の船をひつくり覆してやる」と、恨めしさうに吐いたじやないか。それを貴様は「土手南瓜のしちお多福奴が、何を吐かしよるのだ。貴様の面を見てゐると嘔吐が出る。それよりも美しいブクの顔を見て、一生を暮すのだ。常世の国は遠いと云つても、寝て居つたら行けるのだ。貴様死にたけら勝手に死ね」と吐かして、おまけに拳骨をくれて船に飛び乗つたじやらう。きつと貴様の嬶は「嗚呼残念や口惜い、たとひこの身は身を投げて死ぬるとも私の魂魄は爺の船に止まつて、仇討たいで置かうか」と吐かしてなどンぶと飛び込みよつたに違ひないぜ。その時の渦が段々と拡がつてきて、こンな大きな浪になつたのだよ。さうして彼の雷は、貴様の嬶の呶鳴り声が段々大きくなつて響いたのに違ひないぞ。嬶をおかみといふが、おかみが呶鳴つたので雷さまぢや。それ貴様の後に嬶の幽霊が現はれたワ』
 甲は『キアツ』と云ひながら、目を塞いで頭を抱へる。乙は大口を開いて、
『アハヽヽヽ、弱虫だ、臆病者だなあ』
と笑ひ倒ける。
乙『しかし世の中に鬼は無いとか、神の守る世の中だとか、よく宣伝使に聞いたが、本当に神さまは在るらしいなあ。いま暗がりから何でも日の出神とか、何とか云つて、歌はつしやつた。あれあ人間ぢやない、きつと天の河から船に乗つて降つて来た神さまらしい。も一遍あの神さまの御声が聴きたいものだ。何とも云へぬ清々しい心持がしたよ』
甲『あゝいやいや。あンな声を聞くと頭はガンガン吐かすし、胸は槍で突かれるやうになつてきて、苦しくて堪つたものじやないワ。蓼喰ふ蟲も好き好き、辛いえぐい煙草にさへも蟲が生く時節だから、彼ンなえぐい強い言葉でも、貴様には有難く聞えるのだ。雪隠蟲は彼の汚い糞の中を、天国浄土のやうに思つて、あた汚い糞汁を百味の飲食のやうによろこびて喰ひ、下から人間の尻の穴を拝ンで、結構なお日天さまが黄金の飲食を降らして下さると云うて、暮すやうなものだよ。貴様は雪隠虫か、糞蟲だなあ』
乙『何馬鹿をたれよるのだイ』
と云ひながら、鉄拳を固めて前頭部を目がけて、ぽかりと打つ。
甲『何ンだ、喧嘩かい。喧嘩なら負けやせぬぞ』
乙『針金の幽霊のやうな腕を振り廻しよつて、喧嘩にや負けぬなンて、ヘン喧嘩が聞いて呆れるは』
 またもや俄に暴風吹き荒び、浪猛り狂ひ、四辺は咫尺を弁ぜざる光景とはなりぬ。

(大正一一・一・三一 旧一・四 井上留五郎録)



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