出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語06-7-391922/01霊主体従巳 石仏の入水王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
青雲山
あらすじ
 青雲山の麓の四恩郷では、ウラル彦の命令で酋長の寅若以下村人が橋をかけている。一人の男(戊)が郷人(甲)と言い争い、河に投げ込まれたが、平気で岸にあがった。今度は戊は甲を抱きかかえて河に落ちた。しかし、最後には戊は亀に変化して甲を助けた。戊は琴平別神の変化した神人であった。
名称
ウラル彦 乙 甲 郷人 丁 寅若 丙 戊
吾妻彦 天の御柱の神 鬼掴 神澄彦 亀 国の御柱の神
アーメニア 四恩郷 四恩の河 青雲山 黄泉の国
 
本文    文字数=8136

第三九章 石仏の入水〔二八九〕

 天津御空は黒雲の、いや塞がりて降り続く、雨に水量増り行く、四恩の河の架橋は、押し流されて四恩郷、往来途絶えし苦しさに、この郷の酋長寅若は、数多の郷人を引き具して、晴れたる空の星のごと、数多の人夫を駆り集め、今や架橋の真最中なり。
 青雲山より落ち注ぐ百谷千谷の一処に集まり来る水音は、百千万の獅子虎の、声を揃へて一時に、咆哮怒号せるにもいや勝り、その凄じさ譬ふるにものなかりける。
 酋長の指揮に従つて、数多の人夫は真裸体となり、河中に飛び込み、彼処此処の山より数多の木を伐り運び来つて、架橋に余念なく従事し居たりき。
 酋長は人夫の頭目に何事か命令を伝へ、吾家に帰り去りぬ。
 人夫の中より優れて骨格の逞しい、身長高い色の黒い、大兵肥満の男は立ち上り、
『オイ皆の者、一服しようではないか』
といふにぞ、何れもこの一言に先を争うて河の堤に寄り集まり、草の葉を煙草に代へながら、スパスパと紫の煙をたて雑談に耽る。
甲『一体全体この橋はよう落ちるぢやないか。一年に少くて二度、多くて五六度落橋すると云ふのだから、吾々四恩郷の人間はほんとに迷惑な、四恩河なンて恩も糞もあつたものぢやない。至難河だ』
乙『死なぬ河なら長命して善いぢやないか』
甲『貴様は訳の判らぬ奴だな。この橋見い、長命どころか二月か三月に一遍づつ死ぬぢやないか。四恩河なンてほんとうに善い面の河だ。神さまもチツと気を利かしさうなものだねー』
乙『変れば変る世の中といふぢやないか。今度の雨で、昨日や今日の飛鳥川、淵瀬と変る世の中に、変らぬものは恋の道』
甲『ソラー何吐かす。とぼけるない。歌々と歌どころの騒ぎぢやない。この橋を十日間に架けてしまはなくつちや、吾妻別命からまたどえらいお目玉だぞ』
丙『そんな無茶な事云つたつて仕方が無いぢやないか。この泥水にどうしてこんな長い橋が十日やそこらに架かつてたまるものか』
乙『たまつても、たまらいでも仕方がない。毎日かかつて居るのだい。吾々は雨の神とやらに橋を落されて、はしなくもこの苦労だ』
丙『洒落どころぢやないわい。今酋長が言つて居たよ。アーメニヤのウルル彦神が青雲山へお出になるのだて。それでそれまでに架けて置かぬと、どえらいお目玉ぢやと聞いた。俺等は夜昼なしに、たとへ歪みなりにでもこの橋架けてしまはなくちや、酋長に申し訳がないわい』
乙『なんと、アーメニヤがウラル彦つて、何んだい。毎日日にちアメニヤがふられ彦で橋まで落されて俺等の迷惑。アーメニヤがふられとか、ふるとかが橋を渡るなんて、一体訳が判らぬぢやないかい』
甲『判らぬ奴だ。黙つて居れ、貴様のやうな奴あ、雨でも噛んで死んだらよからう』
乙『死ねと云つたつて、貴様最前死なぬ河つて吐かしたらう。雨でも噛んで死ねなんて貴様こそ判らぬ事を云ふぢやないか』
丁『実際の事あ、こちら様がよく御存じぢや。お前達一同は謹聴して、吾々の御託宣を承れ』
乙『イヨー、大きく出やがつたぞ』
丁『大きいも小さいもあるかい。この毎日日にち雨の降るのは、青雲山の御宝の黄金の玉とやらをウラル彦神が持つて去ぬと云ふので、神様が嘆いて毎日涙をこぼさつしやるのだ。それで涙の雨が降るのだ。困つた事になつたものだ。昔神澄彦天使さまが御守護あつた時は天気も好かつたなり、何時も青雲山は青雲の中まで抜き出て立派な姿を現はし、山の頂からは玉の威徳によつて紫の雲が靉靆き、河の水は清く美しく、果物は実り、羊はよく育ち、ほんたうに天下泰平であつたが、アーメニヤのウラル彦神が、青雲山に手を付けてからと云ふものは、ろくにお天道さまも拝めた事はなく、毎日々々、ザアザアザアと雨が土砂降りに降るなり、羊は雨気の草を食うて病を起してころつ、ころつと息盡なり、五日の風十日の雨は昔の夢となり、こんな詰らぬ世の中は有りやしない。何を言つても肝腎の大将が、鬼掴とかいふ悪い奴にまゐつてしまうたのだから、お天道さまも御機嫌が善くないのは当前だ。それまでは二十年や三十年に橋が落つるの、家が流れるのと云ふやうな水が出た事が無いぢやないか。何でも国の御柱神様は、あまり悪神が覇張るので業を煮やして、黄泉の国とかへさつさと行つてしまはれたと云ふことだ。後に天の御柱神様が独り残されて、何もかも御指揮を遊ばすと云ふ事だが、一軒の内でもおなじ事、女房が無くては家の内は暗がりと同じやうに、世界も段々暗うなつて来るのだよ』
と悲し相にいふ。
戊『どうしたらこの世が治まるか。どうしたらこの橋架けられよか』
と唄ひながら立ち上つて踊り出した。
 甲は『馬鹿』と云ひながら、戊の肩を力を籠めて押した途端に、戊は河の中に真倒様に落ち込んだ。
 戊はやにはに橋杭に取り着き、またもや一同の方に向つて、
戊『どうしても私は流れませぬ。どうしたらこの橋架けられよか、どうしたら甲奴が倒されよか』
と杭に抱きつき不減口を叩いて唄つて居る。漸くにして戊は河土手に、濡れ鼠となつて這ひ上り、一生懸命に真裸体になつて衣類を搾つて居る。さうしてまたもや、
戊『どうしたら衣物が乾かうか、これだけ降つては仕様がない、どうしようぞいな、どうしようぞいな、スツテのことで土左衛門』
と気楽さうに踊り出す。
 この男は河童の生れ変りで、水の中を何ンとも思つて居ない。寒い時に温泉にでも這入つたやうな心持になる男なり。
 戊は甲の傍にツカツカと寄り来たり、
『お蔭で泥水を沢山頂きました。なんとも御礼の申様がありませぬ』
と云ひながら、むんづとばかり甲の腰を引つ抱へ自分から体を躱して、共に河の中に飛んだ。甲は石仏を放り込んだやうにぶくぶくと泡を立て、河底へ沈むでしまつた。大勢の人夫は驚いて、どうしよう、かうしようと狼狽まはりたり。戊はまたもや橋杭に取りつき、
戊『どうしたら生命が助からう、ぶくぶく沈んだ石仏、どつこいしよのしよ』
と唄ひ居る。
 大勢は腹を立てて有り合ふ石を手に握り、戊を目がけて打ちつける。
 戊はたちまち水中に潜り込み、しばらくすると甲の体を両手に捧げて浮き上つた。石の礫は雨のごとく降つて来る。戊は甲の体にて雨と降る石礫を受け止めた。甲は、
『あ痛、あ痛』
と頭をかかへて渋面を造つて泣き出すを見兼て、戊は甲を浅瀬に救ひ上げ、巨大なる亀と化し、悠々として水上に浮び、再び姿を隠したり。この亀は果して何神の化身ならむか。

(大正一一・一・二三 旧大正一〇・一二・二六 井上留五郎録)
(第三七章~第三九章 昭和一〇・二・一七 於木の花丸船中 王仁校正)



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