出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語06-2-131922/01霊主体従巳 谷間の囁王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
長白山
あらすじ
 長白山の鴨緑江の水辺で、数人の男が噂話をしている。「毎日地響きが続き、雨は降り続く。鴨は磐長姫の霊だから取ってはならない」など。そこを巨大な黒竜と赤竜が通り過ぎた。
名称
乙 大蛇 甲 丁 丙
磐長姫 大国治立命 八頭
鴨緑江 大洪水 長白山
 
本文    文字数=6956

第一三章 谷間の囁〔二六三〕

 八百八谷の谷々の、流れもここに鴨緑江の、その水上の岩が根に、腰打ちかけて、四五の山人は、弓矢を携へ、水音高き谷川の巌に腰をうちかけて、囁く声はあいなれの水瀬を圧するばかりなりけり。深霧罩めし長白の峰は屹然と、雲に頭を現はして、さも雄渾の気に充たされ居たる。
甲『オイ今日はどうだつたい、何か獲物があつたかの、吾々は谷から谷へ駆け廻り、兎や猪の足跡を考へ附け狙つたが、どうしたものか一匹の獲物もないのだ。大きな顔をして弓矢を持つて家へ帰れた態ぢやない。お前たちの獲つたものでも、一寸俺に貸してくれないか、手ぶらで帰るとまた山の神の御機嫌斜なりだ。いつもいつも夫婦喧嘩は見つともないからなア』
乙『俺らだつて同じことだよ、一体このごろ四足どもは何処へ行きよつたのだらうか。影も形も見せない。俺らア合点がゆかぬが、きつと大変だぜ』
丙『察するところ、つらつら考ふるに、天地開闢の初め、大国治立命御退隠遊ばしてより……』
甲『何ぢや、ひち六か敷い御託ばかりこきよつて、いつも貴様のいふ事は尻が結べた事はありやしない、黙つてすつこみて居れ』
丁『イヤ丙のいふ通りだ、終りまで聞いてやれ、この間からチト天の様子が変ぢやないか。彼方の天にも此方の天にも金や銀の星が集合つて、星様が何か相談しとるぢやないか。ありやキツと大地震か、大風か、大雨を降らす相談だらうぜ』
丙『しかりしかうして、そもそも天上の諸星鳩首謀議の結果は』
甲『貴様のいふ事は訳が分らぬ。すつこみて居れと云つたら、すつこみて居らうよ』
丙『貴様は、いつも吾輩の議論を強圧的に圧迫して、抑へつけようとするのか……』
甲『強圧も、圧迫も、抑へつけるもあつたものか。同じ事ばかり並べよつて、此奴は余程どうかして居るぜ』
丙『どうかして居るつて何だい。本来俺が一言いふと頭から強圧しよつたらう。二度目にはまた圧迫しよつて、三度目には抑へつけよつたらう。面倒くさいから三度のを一遍にいうたのだ。無学の奴は憐れなものだナア』
乙『そんな話はどうでもよい、第一地響きは毎日ドンドンと続くなり、雨はベチヤベチヤ降り続くなり、猪や兎の奴一匹も、どこかへ行きよつて、俺らも最早蛙の干乾にならなくちや仕方がないのだ。俺らの生活上の大問題だよ』
丁『要するに、貴様たちのやくざ人足は何も知らないからだ。この間も宣伝使とかいふ奴がやつて来てね、「猪や兎などは三日前から何でも知つて居る。お前たちの眼はまるで節穴だ」と云つて通りよつたが、大方このごろ山に、鳥や獣の居らなくなつたのは、大洪水の出るのを知つて、長白山の奴頂辺にでも避難したのかも分らないよ。道理でこの谷川の名物緑の鴨も、一羽もそこらに居らないぢやないか。晴天でお太陽様の光が木間から漏れて、この谷川に美しい鴛鴦が浮いて居るときの光景は、何ともいはれなかつたが、今日の殺風景はどうだい。この間の雨で谷水は濁る、水はだんだん増加る、おまけに間断なく雨は降る、これ見ても吾々は何とか考へねばなるまい。キツと天地の大変動の来るべき前兆かも知れないよ』
丙『江山の風景は必ずしも晴天のみに限らず、降雪、降雨、暴風のときこそかへつて雅趣を添へるものなりだ。エヘン』
甲『また始まつた、貴様のいふことは一体訳が分らないワ』
丙『黙言つて終まで聞かうよ。昔から相似の年といつて、長雨も降つたり、地震も揺つたり、星が降つたり、凶作が続いたり、鳥獣が居なくなつたりした事は幾度もあるよ。世の中の歴史は繰返すといつてな、少々地響がしたつて、雨が降つたつて、星が集会したつて、さう驚くに及ばぬのぢや。察するところお前たちの臆病者の腹の中は、もはや天変地妖が到来して、獲物が無いので山の神に雷でも、頭の上から落されるのが恐くつて震うて居よるのだらう。つらつら惟るに、エヘン、お前たちは臆病神に誘はれたのだねえ、エヘン、オホン』
丁『ヤア、そこへ五六羽の鴨が来たではないか』
 ヨウ、ヨウ、と言ひながら一同は弓に矢を番へて身構へする。
乙『待て待て大変だ。この谷は鴨猟は厳しく禁じてあるぢやないか、そんな物ども獲つたら大変だよ。この鴨は昔八頭の妻磐長姫が、悋気とか陰気とかの病で河へ飛び込んで、その亡霊が鴨になつたといふ事だ。それでその鴨は八頭様の奥様の霊だから、それを撃たうものなら大変な刑罰を受けねばならぬ。そしてその鴨を食つた奴の嬶は、すぐにこの谷川へ飛び込んで、鴨になつてしまふと云う事だよ』
丙『そンな事は疾の昔に委細御承知だ。迷信臭い事をいつまでもぬかす奴があるかい、背に腹はかへられぬ。食はずに死ぬか、食うて死ぬかぢや。罰があたりや、当つたでよい。一寸先は闇よ。宣伝使の云ひ草ではないが、天は地となり地は天となる、たとへ大地が沈むとも間男の力は世を救ふのだ。せせつ細しい善とか悪とかに拘泥してゐたら、吾々はミイラになつてしまわア、そンな訳の分らぬ迷信はさつぱりとおいて欲しぼしぢや、梅干ぢや、蛙の干乾ぢや、土用干ぢや、お玉り小坊子や膝坊子や、カンカン』
とただ単独、調子にのつて下らぬことを喋りてをる。
 このとき西方の谷間にあたりて、山も割るるばかりの音響聞ゆると思ふ刹那、身の廻り三丈もあらうと思ふ真黒の大蛇が、谷川めがけて下り来たり、間もなく、少し赤味を帯びたる同じ大きさの二三百丈もある長い大蛇が、引き続いて谷川めがけて驀地に下り来るを見つつ、一同は息を殺し、目を塞ぎ、岩に噛りつき、大蛇の通過するを震ひ震ひ唇まで真蒼にして待ち居たりける。

(大正一一・一・一八 旧大正一〇・一二・二一 加藤明子録)



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