出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語06-2-111922/01霊主体従巳 山中の邂逅王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
長白山
あらすじ
 長白山の大森林で春日姫は毒蛇に噛まれて苦しんでいた。そこへ、春姫が通りかかり介抱した。数人の男が二人を襲おうとしたが、逆に二人の宣伝歌によって懲らしめられた。そんなところへ、日の出の守がやってくる。
名称
乙 春日姫 黒熊 甲 丁 春姫 日の出の守! 丙
大道別 曲人 魔神
アーメニヤ ウラル彦 三千世界 長白山 天教山 被面布 モスコー
 
本文    文字数=7591

第一一章 山中の邂逅〔二六一〕

 樹木鬱蒼として昼なほ暗き長白山の大森林を、か弱き足を踏み占めて、トボトボ来る手弱女の、優美しき姿の宣伝使、叢わけて進みつつ、
『キヤツ』
と一声、その場に打ち仆れたり。よくよく見れば無残や、足は毒蛇に咬まれて痛み、一足も歩みならねば、岩角に腰うち掛けて、眼を閉ぢ、唇を固く結びながら、その苦痛に耐へず、呼吸も苦しき忍び泣き、呼べど叫べど四辺には、ただ一人の影も無く、痛みはますます激しく、玉の緒の生命も今に絶えなむとする折からに、はるか向うの方より、優美しき女の声として、

『時鳥声は聞けども姿は見せぬ  姿隠して山奥の
 叢分けてただ一柱  天教山の御神示を
 山の尾の上や川の瀬に  塞る魔神に説き諭し
 やうやう此処に長白の  山路を深く進み来ぬ』

 心も赤き春姫の、春の弥生の花の顔、遺憾なく表白して、ここに現はれ来たり。近傍の岩石に腰打掛けて苦しみ悶えつつある一柱の女人のあるに驚き、天が下一切の神人を救ふは、宣伝使の聖き貴き天職と、女人の側にかけ寄りて、背なでさすり労りつつ、介抱に余念なかりける。
 女人はやや苦痛軽減したりと見え、やうやうに面を上げ、
『いづこの御方か知らねども、吾身は女の独旅、草分け進む折からに、名も恐ろしき毒蛇に咬まれて、か弱き女の身のいかんともする術もなき折からに、思ひがけなき御親切、いかなる神の御救ひか、辱なし』
と眺むれば、豈はからむや、モスコーの城中において、忠実しく仕へたる春姫の宣伝使なりける。
春日姫『ヤア汝は春姫か』
春姫『ヤア貴下は春日姫にましませしか。思はぬ処にて御拝顔、かかる草深き山中にてめぐり会ふも仁慈深き神の御引合せ、アヽ有難や、勿体なや』
と、前後を忘れ互に手に手を執り交し、嬉し涙は夕立の、雨にも擬ふばかりなりき。
 かかる処に、一柱の荒々しき男現はれ来り、二人の姿を見るより早く、一目散に後振り返り振り返り、彼方の森林めがけて姿を隠したるが、漸時ありて、以前の曲男は、四五の怪しき男と共にこの場に現はれた。
甲『ヤア居る居る。素的滅法界な美しい女が、しかも両個だ』
乙『本当に本当に、黒熊の言つたやうな天女の天降りだよ。別嬪だなア、こいつは素敵だ。しかし男四人に女二人とは、チト勘定が合はぬぢやないか』
甲『そりや何を言ふのだい。自分の女房か何ぞのやうに、四人に二人もあつたものかい。女さへ見ると直に眼尻を下げよつて、オイ涎を落すない』
 乙は周章てて涎を手繰る。
甲『貴様のその面は何だい、杓子に眼鼻をあしらつたやうな面構へで、女が居るの居らぬのと、それこそ癪に障らア。何程女が癪気で苦みて居つたつて、御前のやうな杓子面に助けてくれと言ひはしないよ。左様なことは置け置け、薩張り杓子だ』
 乙は烈火のごとく怒りて、狸のやうな眼をむき、息をはづませる。
丙『アツハヽヽヽヽ杓子狸の橡麺棒、黒い眼玉を椋鳥、鵯、阿呆鳥、阿呆にくつつける薬は無いわい』
丁『オーオー、その薬で思ひ出した。俺は今癪の薬を所持して居るのだ。これをあの女人様に献上しようか』
甲『貴様は女に甘い奴だ、なぜ左様に女と見たら涙脆いのだ。貴様のやうな仏掌薯のやうな面つきで、なんぼ女神様の歓心を買うと思つて追従たらたらやつて見ても駄目だよ。肱鉄砲の一つも喰つたら、それこそよい恥さらしの面の皮だよ』
丁『面の皮でも何でも放つとけ。俺がこの薬を飲ましたら、それこそ女人は全快してニコニコと笑ひ出し、あの優美しい唇から、雪のやうな歯を出して「何処のどなたか知らねども、この山中に苦しみ迷ふ女人の身、この御親切は、いつの世にか忘れませう。アヽ嬉しや、おなつかしや」と言つて、白い腕をヌツと出して、離しはせぬと来るのだ。そこで俺は「コレハコレハ心得ぬ貴き女人のあなた様、荒くれ男の仏掌薯のやうな吾々にむかつて、抱き附きたまふは如何の儀でござる」とかますのだ。すると女人の奴、梅の花の朝日に匂ふやうな顔をしやがつて「いえいえ仮令御顔はつくねいもでも生命の親のあなた様、どうぞ私を可愛がつてね、千年も万年も」と出て来るのだ』
甲『馬鹿ツ』
と大喝する。
丁『馬鹿ツて何だい、美しい女の姿に見惚れよつて、顔の紐まで解き、貴様の篦作眉毛を、いやが上にも下げて、章魚のやうな禿頭を見せたとて、いかな物好きな女人でも、そんな土瓶章魚禿には一瞥もしてくれないぞ、あんまり悋気をするない、チト貴様の面相と相談したがよい、馬鹿々々しいワ』
とやり返せば、
丙『オイ黒熊、貴様は結構な獲物が有るなンて、慌しく俺らの前に飛ンで来よつて、御注進申し上げたが、一体この女人は何だと思ふ、恐ろしい宣伝使ではないか。もしも此女らの病気でも全快して見ろ、またもや頭の痛む、胸の苦しい「三千世界」とか「時鳥」とか、「照る」とか「曇る」とか吐す奴だぞ。貴様は明盲者だな、こんな被面布を被つてをる奴は俺らの敵だ。こンな奴を助けてやらうものなら、アーメニヤのウラル彦様に、どんな罰を与へられるか知れやしないぞ。いつそのこと皆寄つて集つて、叩きのばしてウラル彦様の御褒美にあづからうではないか』
一同『それがよからう、面白い面白い』
と目配せしながら、四方より棒千切を持つて攻めかくれば、春姫は涼しき声を張り上げて、
『惟神霊幸倍坐世』
と唱へ、かつ、
『三千世界一度に開く梅の花』
と歌ひ出したるにぞ、一同は頭をかかへ、大地に跼蹐みける。
 春姫は、右の人差指を四人の頭上めがけてさし向けたるに、指頭よりは五色の霊光放射して、四人の全身を射徹したり。
 一同は、
『赦せ赦せ』
と声を立て、両手を合せ哀願するのみ。このときまたもや山奥より、
『三千世界一度に開く梅の花』
と歌ふ声、木精を響かせながら、雲つくばかりの男が現はれたり。これぞ大道別のなれの果、日の出の守の宣伝使なりける。
 黒熊以下の魔人は男神の出現に膽を潰して、転けつ輾びつ、蜘蛛の子を散らすがごとく逃げ去りぬ。後に三人は顔見合はせて、うれし涙に袖を絞るのみなりき。

(大正一一・一・一七 旧大正一〇・一二・二〇 藤松良寛録)



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