出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語06-1-31922/01霊主体従巳 頓智奇珍王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
鬼城山
あらすじ
 足真彦は鬼城山の美山彦の隠れ家に連れられてくる。連れてきたのは美山彦の部下鬼熊彦と鬼虎だった。自分が邪神に捕らえられたのを知った足真彦は、聾唖のふりをして鬼熊彦と珍問答を交す。
名称
鬼熊彦 鬼虎 足真彦 番人
邪神 美山彦
鬼城山
 
本文    文字数=6439

第三章 頓智奇珍〔二五三〕

 足真彦は、父子の請ひを容れ、やや不安の念に包まれながら、馬背に悠々と跨り馬の嘶き勇ましく、山路さして奥深く進みゆく。
 ここは鬼城山の美山彦が隠れ家にして、今宣伝使を誘ひ帰りし父と称するは、美山彦の部下なる鬼熊彦なりき。若きは鬼虎といふ邪神なり。行くこと数十町にしてこの隠れ家に着きぬ。
 高山の谷間より漏れくる月の光に照し見て、この深山幽谷に似ず意外に広き館のあるに足真彦は心私かに驚きける。鬼熊彦は声張り上げて、門戸を叩き、
『オーイ、オーイ』
と呼はる。声に応じて門内より四五の男現はれ、ガラガラと音をさせながら、黒き正門を開き、
『ヤア、鬼熊彦、鬼虎か』
と叫ぶや二人は、
『シイーツ』
と窃に制し止むれば、男は平身低頭しながら、
『ヤア、これはこれは失礼なことを申し上げました。夜中の事とて召使の鬼熊彦、鬼虎と見誤り、誠に申訳ありませぬ。御主人様』
と言葉を濁したり。鬼熊彦は態と大声を発し、
『今日は許す、今後はかかる粗忽あるべからず』
といふ間もあらず、鬼虎はその尾に次で、
『今日は母上の三年祭なれば、唯今の無礼は母の霊に免じて差許す』
と言葉を添へける。
 二人は揉手しながら、宣伝使に向ひ、
『何分山奥の事とて、万事不行届、そのうへ行儀作法も知らぬ山猿ばかり、何卒御心に掛けさせられず、ゆるゆる御逗留を願ひ奉る』
と慇懃に述べたり。
 足真彦は馬上のまま、門内に進み入り、馬繋の前にてヒラリと下馬したる時しも、何処よりか四五の男現はれ来り、
『鬼熊彦は偉い奴だ、今日の一番槍。もうかうなつては、籠の鳥も同様、此方のものだ』
と口走りければ、鬼熊彦は驚きて、
『ヤイ気違ひ』
と叱咤しながら、またもや揉手をなし、
『実は今日妻の供養につき、あまたの行倒れ者や狂乱者を集めて能ふ限りの供養を致し居りますれば、かかる狂人の集つて、理由もなき囈言を申すのでございます。必ず必ず御心置なくゆるゆると御衣を脱し、草鞋脚絆を脱捨て、奥殿に休息し給へ』
と言ふにぞ、宣伝使は、いよいよ怪しみ、ここに意を決し、俄に聾者と化け変りけり。俄聾者の宣伝使は、彼らの導くままに、やや美はしき一間に座を占めたり。このとき例の禿頭の男は丁寧に叩頭しながら、
鬼熊彦『アヽ有難き宣伝使よ、よくもこの茅屋に入らせ給ひました。痩馬の事とて嘸御身体を痛め給ひしならむ。まづ御遠慮なく温泉の幸ひに湧き出であれば、ゆるゆる入湯されたし』
と勧むるにぞ、宣伝使は裸体になつては大変と、態と聞えぬ振りをしながら黙し居たり。
 鬼熊彦は幾度も幾度も入浴を勧めたり。されど聾者の宣伝使は、一言も答へざるのみならず、態と自分より言葉をかけ、
『アヽ此処には立派な火鉢があるのー、これは何といふ木で拵へたのかい』
と問ひかける。鬼熊彦は、この言葉を聞くより、頭を傾けながら独言、
『アハー、こいつは聾者になりおつたわい、生命の無い奴は眼玉から先に上るといふ事だが、此奴は耳から先に上つたな。いづれ今晩中の生命だ。美山彦の計略にウマウマと乗せられよつて、うまい事づくめを並べられて、此奴はうまく乗せられよつた馬鹿者だ、もう大丈夫だ』
と小声につぶやき居る。
 宣伝使はその悪言を少しも聞えぬ振りにて、さも愉快気に、にこにこ笑ひつづけ居たり。しかしてふたたび、宣伝使は、
『オイこの火鉢はどこの山の、何といふ木で拵へたのかい』
とまたもや問ひかくるを、鬼熊彦は、
『エー邪魔臭い。耳も聞えぬ態しよつて、俺に聞いたつて何になるかい。人に物を聞くのは、耳の聞える奴のする事だ。此奴は手真似で一つ驚かしてやらう』
と、たちまち自分の鼻毛をむしり、火鉢に燻べて見せるを、宣伝使は、
『アヽさうか、鼻山の穴たの高き欅で造つたのかのー』
と空とぼけて見せるを、鬼熊彦は、
『聾者の頓智、面白いことを吐すワイ』
とまた笑ふ。
 宣伝使は一つ嬲つてやらうと思つて、
『オイ、この敷物覆ひはいつ拵へたのかい』
 鬼熊彦は、
『エー邪魔くさい、自分の生命が今晩終るのも知りよらずに、暢気らしい敷物覆ひまで尋ねよる、尻でも喰つて置け』
と、クルリツと宣伝使の方に後を向け、真黒の尻を捲つて、ポンポンと二つ叩いて見せたれば、宣伝使は、
『ウン、さうかい。後月の二日に拵へたのかい。道理で未だ新しい香がプンプンとして居るワイ』
 鬼熊彦は、その頓智に呆れかへる。宣伝使はまたもや嬲りかけた。
『この押戸は、いつ拵へたかのー』
『エー邪魔臭い。蕪から菜種子まで差出よつて、もうけつが呆れる。差出なイ』
といふ言葉を形容に代へて、またもや宣伝使の方に向つて尻を捲くり、尺を突込みて見せたり。これは、「尺でな」といふ事なるを、宣伝使はまたもや笑ひながら、
『ウン、さうかい。後月の差入れに拵へたのかい。アハヽヽ』
と笑ひ転ける。
 このとき絶世の美人は、淑やかに押戸を開けて入り来り、流目に宣伝使をチラリと見上げ、丁寧に辞儀をしたりしが、互に見合す顔と顔、二人の顔には、ハツと驚きの色現はれたり。この美姓は、果して何人ならむか。

(大正一一・一・一六 旧大正一〇・一二・一九 外山豊二録)



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