出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語06-1-21922/01霊主体従巳 瀑布の涙王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
鬼城山
あらすじ
 大足彦のなれの果ての足真彦神は疲れ果てて鬼城山へやって来た。怪しい男達(美山彦の部下)が「母の供養をしに彼らの家へ来てくれ」と頼む。
名称
鬼熊彦* 鬼虎* 足真彦! 月照彦神
鬼 大足彦 大蛇 木花姫 高虎 野立彦命 棒振彦 枉神 曲津 魔神 美山彦
天の逆鉾 鬼城山 言霊 天教山 常世国 ナイヤガラの滝
 
本文    文字数=6300

第二章 瀑布の涙〔二五二〕

 名も恐ろしき鬼城山、曲の棲処と聞えたる、棒振彦や高虎の、醜男醜女の砦を造り、悪逆無道の限りを尽し、あらゆる総ての生物を、屠りて喰ふ枉神の、朝な夕なに吹く息は、風も湿りて腥く、さしもに広き、鬼城河、紅に染りて汚れはて、地獄ならねど血の河と、流れも変る清鮮の、水は少しもナイヤガラ、一大瀑布を右に見て、足を痛めつ身は長雨にそぼ濡れて、この世を救ふ真心の、両つの眼より迸る、涙は雨か滝津瀬か、響く水音轟々と、この世を呪ふ鬼大蛇、曲津の声と聞ゆなる、深山の谷を駆上り、黄昏近き寒空に、とぼとぼ来る宣伝使、大足彦の成れの果、疲れて足も立ち悩み、大地にドツと安坐して、息を休むる足真彦、面壁九年のそれならで、見上ぐるばかりの岸壁を、眺むる苦念の息づかひ、この世を救ふ神人の、心の空はかき曇り、黒白も分ぬ黄昏の、空を眺めて独言。
足真彦『嗚呼吾は闇の世を照らさむと、心の駒に鞭撻つて、駆廻りたる今日の旅、行衛も知らぬ月照彦の、神の命の御舎を、尋ぬるよしもナイヤガラ、心は急せる大瀑布、滝津涙も汲む人ぞ、泣く泣く進む常世国、弥々ここに鬼城山、若や魔神に吾姿、美山の彦の現はれて、天の逆鉾うち振ひ、進みきたらば何とせむ。嗚呼千秋のその恨み、いつの世にかは晴らすべき、疲れ果てたる吾身の宿世、饑に苦しみ涙にかわき、一人山路をトボトボと、迷ひの雲に包まれし、世の蒼生を照らさむと、心をこめし鹿島立、今は仇とはなりぬるか。山野に暮せし年月を、天教山に現れ坐せる、野立の神や木花姫の、神の命に復り言、申さむ術もナイヤガラ、轟く胸は雷霆の、声にも擬ふ滝の音の、尽きせぬ思ひ天地の、神も推量ましませよ』
と宿世を喞つ折からに、はるか前方にあたつて騒々しき物音が聞え来たりぬ。
 足真彦は、つと身を起し、耳を傾け、何者ならむと思案に暮るる折しも、馬の蹄の音戞々と近より来るものありける。
 見附けられては大変と、心を励まし疲れし足を運びながら、渓路さして下り行かむとする時しも、後方よりは老いたる神と見えて、嗄れ声を張揚げながら、
『オーイ、オーイ』
と呼ばはりける。その言霊の濁れるは、正しき神にあらざるべし。
 疲れ果てたる今の身に、魔神に襲撃されてはたまらじと、運ばぬ足を無理やりに、一歩一歩走り行く。
 駒牽きつれし枉神は苦もなく追着きぬ。進退これ谷まりたる足真彦は、わざと元気を装ひ、剣の柄に手を掛けて、寄らば斬らむと身構へ居る。
 このとき薬鑵頭の爺、両手をついて宣伝使に向ひ、
『貴下は天下の宣伝使と見受け奉る。吾に一つの願あり。願はくば宣伝使の諸人を救ひ給ふ慈心によつて、吾一生の願を叶へ給はずや』
とさも慇懃なり。宣伝使は、
『願とは何事ぞ』
と、やや緊張したる顔色にて問ひ返せば、禿頭の男はただ袖を以て涙を拭ひ、大地に平伏するのみなりき。中にも稍若き、額の馬鹿に突出たる、福助頭の黒い顔の男は、人形芝居の人形の首のやうに器械的に顔を振りながら、涙を拭ふ真似をして、
『旅のお方に一つの御願があります。今ここに平伏して居るのは吾父であります。不幸にして三年以前に妻に別れ、今は老木の心淋しき余生を送る身の上、せめて今日は妻の三年にあたる命日なれば、その霊を慰むるため、この難路を往来する旅人に供養をなし、妻の追善のため四方に家僕を派遣し、往来に悩む旅の人を助け、醜き吾茅屋に一宿を願ひ、宣伝歌を霊前に唱へて、その霊を慰め給はるべき御方を求めつつあるのであります。しかるに如何なる宿世の因縁か、宣伝使たる貴下の御姿を拝し、嬉しさに堪へず失礼を省ず、御迹を追うてここまで到着いたしました。父のためには妻なれど、私のためには肉身の生の母の三年祭、父子は共に宣伝使の往来を待つて居ました。どうぞ一夜の宿泊を願ひます』
と、真しやかに洟啜りながら、声までかすめて願ひ入る。
 油断ならずと宣伝使は、やや思案に暮れながら、無言のまま佇立して彼らの言葉を怪しみつつありける。
 父子は口を揃へて、
『誠に貴下のごとき尊き神人を吾茅屋に宿泊を願ふは、分に過ぎたる願でありますが、袖振合ふも多生の縁とやら、今日妻や母の三年祭に当り、聞くも有難き宣伝使に邂逅し奉るは、全く妻の霊の守護する事と信じて疑ひませぬ。かかる草深き山中の事なれば、差し上ぐべき馳走とてはありませぬが、鬼城山の名物たる無花果の果実や香具の果物および山の芋などは、沢山に貯へて居りますから、どうぞ吾々の願を叶へてこの痩馬に御召しくださらば、お伴仕ります』
と頼み入る。
 足真彦は道に行き暮れて宿るべき処もなく、かつ腹は空しく足は疲れ、悲観の極に達した際の事なれば、やや顔色を和げ、……エー、どうならうとままよ。木花姫の神勅には、決して一人旅と思ふな、神は汝の背後に添ひて守らむと仰せられたれば、これも全く神の御繰合せならむ……と心に決し、直に承諾の旨を示した。
 嗚呼この父子は何者ならむか。

(大正一一・一・一六 旧大正一〇・一二・一九 井上留五郎録)
(第二章 昭和一〇・一・二八 於筑紫別院 王仁校正)



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