出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=05&HEN=5&SYOU=32&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語05-5-321922/01霊主体従辰 波瀾重畳王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
地中海の船上
あらすじ
 神々が酔いつぶれる中船は嵐に襲われた。船は杉高の玉の光に向かおうとするが、難しい。そんな状況で祝部神は宣伝歌を歌い神々を励ました。船は一つ島に漂着した。
名称
牛雲別 船上の神人 祝部神 船戸神
餓鬼 杉高 高杉別
神島 三千世界 瀬戸の海 地獄 鳴門 一つ島 瑠璃光の玉
 
本文    文字数=4362

第三二章 波瀾重畳〔二三二〕

 神人らは強き酒にへべれけに酔ひつぶれ、ほとんど船中の客たる事を忘るる位であつた。このとき祝部神の「三千世界云々」の歌に神人らは何ゆゑか、頭を鉄槌にて打ち砕かれ、胸は引き裂かるるがごとき苦痛に襲はれた。
 夜は深々と更け渡り、万物寂として声なき丑満頃となつた。聞ゆるものはただ神人らの酒に酔ひ潰れて呻く苦悶の声のみである。折しも東北の空に当つて一団の黒雲が現はるるよと見る間に、前後左右に電光石火の速力をもつて押し拡がり、満天墨を流したるがごとく、海上また咫尺を弁ぜざるに至つた。忽ち颶風吹き起り、さしも平和の海面は、ここに虎嘯き竜躍り、海馬は白き浪の鬣を振うて船体に噛みつき始めた。船は木葉のごとく中天に捲き上げらるるやと見る間に、またもや浪と浪との千仭の谷間に突き落され、檣折れ、舵はむしられ、艫は中心より折れて進退の自由を失ひ、ただ風と浪との翻弄するに任すより外は無かつた。
 神人らは一度に酔も醒め、顔は真青となつて、地獄より火を貰ひに来た餓鬼の相好のそのままとなつてしまつた。鼻つままれても分らぬ真暗な海上に潮を浴び、全身濡れ鼠となつて震ひ戦くその光景は、死線を越えて処の騒ぎでは無かつた。
 忽ち前方に当つて一道の光明が赫灼と放射するのを見た。これは高杉別の従者杉高の瑠璃光の玉の光であつた。船戸神は船体をその光の方に向けむとしたが、舵は千切られ、艫は折れ、檣は挫け、帆はむしられて如何ともするよしなく、ただ天を仰ぎ救助を乞ふのみであつた。酒のために空元気を装うてゐた数多の神人らは、恐怖心にかられ、青菜に塩か、蛭に塩、しほしほとして辛い目に遇ふ事よと溜息を吐き、中には卑怯にも泣声をしぼる者さへ現はれた。祝部神は此処ぞと言はぬばかり暗中声を励まし、荒れ狂ふ怒濤の浪音を圧するばかりの大音声で、

『三千世界一度に開く梅の花  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  牛雲別は浪に浚はれ死ぬるとも
 酒を喰らうた神々は  海の藻屑となるとても
 何と鳴戸や瀬戸の海  命の瀬戸のいまはの際に
 神の恵も白波の  馬鹿者どもよ
 命惜しくば天地に詫びよ  詫が叶へば許してやるぞ
 一二三四五六七八九十百千万  万の罪咎さらりと海に
 流してしまへ  涙ばかりを流すぢやないぞ
 心の垢も身の罪も  流して泣かせて腹の中
 泣かぬ日はなき時鳥  八千八声の血を吐いて
 へどまで吐いて今のざま  苦しいときの神頼み
 それでも頼まにや助からぬ  よいとさ、よいとさ
 暗に鉄砲数打ちやあたる  何でも構はぬ神様祈れ
 よいとさのよいとさ  生きるか死ぬかの瀬戸際ぞ
 一つの命を瀬戸の海  一つの島なる一つ松
 一つの玉の御光に  心を照して改めよ
 荒浪如何に高くとも  荒風如何に強くとも
 現はれ出でたる神島の  神の光に村肝の
 心の空も凪ぎわたり  浪路も凪ぎて珍の島
 よいさよいとさ  宵から喰うた酒の酔
 一度に醒ませよ心の迷ひ  迷ひの果ては悟りの船よ
 覚りは救ひの船と知れ』  

と止め度もなく、口から出まかせに歌つた。祝部神の容貌は暗夜のため確と見ることは出来なかつた。されどその謡ひ振りによつて、その相貌や手足の振り方など、歴然白昼を見るが如き感がした。忽ち船底がガラガラと音がした。見れば一つの島にうち上げられてゐた。あゝ惟神霊幸倍坐世。

(大正一一・一・一一 旧大正一〇・一二・一四 加藤明子録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web