出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語05-1-91922/01霊主体従辰 鶴の温泉王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
鶴の温泉 顕恩郷
あらすじ
 常治彦は、棒岩から落ちて角を折って苦しんでいるところを、鬼武彦のためにエデンの大河に投げ入れらた。そして、河からあがり、山の中に進み、とある温泉で塩治姫に会った。常治彦は角がなくなっていたので好意をよせられ夫婦となった。その後、常治彦には再度角が生えたが、妻が褒めたので自信を持つようになった。
 二人はエルサレムに帰ったが、小島別、田依彦が妖怪変化と邪魔をしたので、常治彦はそれらを鋭い角で刺し殺した。エルサレムには、既に別の常治彦、塩治姫がおり、入り乱れて混乱状態となった。
名称
鬼武彦 小島別 塩治姫 田依彦 常治彦 常世彦
妖怪 南天王
エデン エデンの大河 エルサレム 顕恩郷 根の国 棒岩
 
本文    文字数=5510

第九章 鶴の温泉〔二〇九〕

 話は少しく後へ戻つて、常治彦は棒岩の上より顛落し、角を折られ鮮血淋漓として、全身あたかも緋の衣を纏ひしごとくなつたが、鬼武彦のためにエデンの大河に投ぜられ、その機に血はすつかり洗ひ去られ、蒼白き顔をしながら、ひよろひよろと南方の谿間指して走り入つた。折しも山と山との深き谷間に、幾千羽ともなく、鶴の群が翺翔してゐるのを見た。
 喘ぎ喘ぎ近寄つて見れば、非常に美はしき一柱の女性を中心に、あまたの鶴が舞ひ遊んでゐた。見れば透つた湯壺があつて、湯が滾々と湧出してゐた。その天然の湯槽に、女性は出没して身体の傷所を治療してゐた。よくよく見れば、自分が念頭に離れぬ塩治姫である。いま顕恩郷にて南天王と共に睦まじく酒宴の席に列してゐたはずの塩治姫は、いかにしてかかる山間に来りをれるやと、不審の眉をひそめ茫然としてその顔を見入つた。
 姫は常治彦を手招きし、
『貴下もこの湯に入りたまへ』
と合図した。常治彦は一も二もなく真赤裸となつて、この湯槽に飛入つた。不思議にも前頭部の傷はすつかり癒えて角もなく、実に神格の立派な神となつた。塩治姫は大に喜びし面色にて、ここに夫婦の契を結んだ。
 上空には相変らず幾千羽とも知れぬ鶴が、右往左往に翺翔してゐた。常治彦は自分の願望成就せることを喜び、しばらくこの温泉を中心に養生をつづけ、日を追うて身体は爽快にむかひ、二人はいよいよ手を携へて聖地に帰らむことを約した。たちまち上空より鶴一羽下りきたりて、常治彦の前額部を長き嘴にて二回ばかり啄いて穴を穿つた。常治彦は驚いて、その傷口に両手を当て、痛さを堪へて俯いてゐた。痛さはますます激烈になつてきた。
 ふたたび出立を見合せ、湯槽に飛入り養生することとなつた。傷口は日に日に癒えてきた。されどその後かゆさを非常に感じた。常治彦は一生懸命に掻きむしつた。いくら掻いても、かゆさは止まぬ。つひには、痛く、かゆく、手のつけやうがなくなつてきた。たちまち筍のやうな角がまたもや両方に発生した。塩治姫はこの角の日を追うて延長するを見て、以前とは打つて変つて喜んだ。しかしてその角を撫で廻し、あるひは舐めなどして、口を極めてその角の立派なるを賞讃した。常治彦も、今までこの角を恥づかしく思つてゐたのを、最愛の妻に賞讃されて得意気になり、角の日々に立派に成長するのを待つ気になつた。
 山を越え谷を辿り、漸くにして聖地に帰ることを得た。聖地ヱルサレムの正門には、小島別白髪を背後に垂れ、薄き髯を胸先に垂らし、田依彦その他の神人を随へ、儼然として守つてゐた。このとき常治彦は、塩治姫の手を携へ、欣然としてその門を入らむとするとき、小島別は、
『曲者、しばらく待て』
と呼びとめた。二人は大に怒り、
『われはエデンの宮殿にいたり、それより種々の艱難辛苦を嘗め、漸くここに帰りきたれるを従臣の分際としてこれを歓迎せざるのみか、われに対して無礼の雑言、汝は今日かぎり門衛の守護職を免じ、根の国に退去せしむべし』
と声高に呼ばはつた。小島別、田依彦は躍気となつて顔面に青筋を立て、棒千切をもつて、
『妖怪変化の曲者、思ひ知れよ』
と打つてかかつた。常治彦の頭部の角はおひおひと成長し、二股になつてゐた。常治彦は笑つて小島別の打ち込む棍棒を角の尖端にてあしらひながら、一方には田依彦、一方には小島別の腹部を目がけて、角の尖端にてグサツと突き破つた。
 二人は腸を抉り出されそこに倒れ、
『万事休矣』
の声をしぼつた。数多の神人はこの声に驚いて馳集まり、この体を見て大いに怒り、常治彦に四方八方より、長刀、あるひは棍棒その他種々の兵器をもつて斬りつけ、擲りつけむとした。命の角はだんだんと鋭く尖り、かつ見るみる延長した。聖地はあたかも修羅の巷である。
 常世彦は侍者の急報により、常治彦、塩治姫とともに、この場に現はれた。このとき殿内に在りし常治彦も、頭角おひおひ発達して、いまここに現はれたる第二の常治彦に分厘の差なくなつてゐた。同じ姿の塩治姫の二柱と、また同じ姿の常治彦が二柱できた勘定である。
 前後の常治彦、塩治姫は互に入り乱れて、その真偽の判別はわからなくなつてしまつた。されど少しく異る点は、その衣服の模様であつた。常世彦は、この場の光景を放任し、前の常治彦、塩治姫の手を携へて、奥殿に深く姿を没した。

(大正一一・一・六 旧大正一〇・一二・九 外山豊二録)



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