出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語02-5-381921/11霊主体従丑 歓天喜地王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
長高山
あらすじ
 荒熊彦夫婦はローマで囚われた。清照彦は妻と死に別れ、父母も囚われの身となり、自分の不孝を恥じて自殺しようとする。そこへ、天極紫微宮の天使が現れ、「天津神が妻と両親に会わせる」と告げる。清照彦は待つこと幾星霜、荒熊彦、荒熊姫、末世姫は言霊別命に連れられてやって来た。「国治立命大神の許しがあった」と言う。
名称
荒熊彦 荒熊姫 梅若彦 大島彦 清照彦 言霊別命 末世姫 天使 元照彦
天津神 国治立命大神 光玉 天女 女神 稚桜姫命
高白山 神文 天極紫微宮 天国 十曜 鳥船 幽界 竜宮城 ローマ
 
本文    文字数=6738

第三八章 歓天喜地〔八八〕

 清照彦は最愛の妻に死に別れ、厚くこれを葬るのいとまもなく、言霊別命の進退ならぬ厳命に接し、ただちに高白山に向ひ、呑剣断腸の思ひをなして、骨肉の父母両親を討滅するのやむなき窮境にたちいたつた。されど神命辞するに由なく、大義を重んじ、ここに血をもつて血を洗ふ悲惨なる戦闘を開始した。
 荒熊彦、荒熊姫は一方血路を開き辛うじて免るることを得た。この時清照彦は、ただちに追撃せばこれを滅ぼすこと実に容易であつた。されど敵といひながら、肉身の情にひかされ、わざとこれを見逃し、心の中にその影を拝みつつ、父母の前途を気遣ひ、いづれへなりとも両親の隠れて安く余生を送らむことを祈願した。親子の情としてはさもあるべきことである。
 荒熊彦は、散軍を集めて尚も懲りずまに羅馬城に進み、決死の覚悟をもつて戦ふた。されど天運つたなき荒熊彦は力尽き、つひに大島彦のために捕虜となり、夫婦ともに密に幽閉され、面白からぬ幾ばくかの月日を送つた。
 清照彦は、風の共響きに両親の羅馬に敗れ、幽閉され、苦しみつつあることを伝へ聞きて、心も心ならず、煩悶苦悩しつつ面白からぬ月日を淋しく送つてゐた。清照彦は忠義に篤く、孝道深き神司なれば、その心中の煩悶は一入察するに余りありといふべし。清照彦は雨の朝風の夕に空を仰いで吐息を漏らし、われ両親の憂目を見ながら坐視するに忍びず、これを救はむとすれば主命に背き、大逆の罪を重ぬるにいたるべし。あゝ両親といひ妻といひ、今はあるひは幽界に、あるひは敵城に囚はれ、子たるもの如何に心を鬼畜に持すとも忍び難し、いつそ自刃を遂げ、もつて忠孝の大義を全うせむ、と決心せる折しも、また飛報あり、
『荒熊彦夫妻は、羅馬において大島彦のために殺されたり』
と。これを聞きたる清照彦は矢も楯もたまらず、吾は山海の洪恩ある恋しき両親に別れ妻に別れ、生きて何の楽しみもなし、自刃するはこの時なりと、天に向つて吾身の不遇を歎き号泣し、短刀を逆手に持ち双肌脱いで覚悟をきはむるをりしも、天空より光強き宝玉眼前に落下するよと見えしが、たちまちその光玉破裂して、中より麗しく優しき女神現はれたまひ、
『吾は天極紫微宮より来れる天使なり。天津神は汝が忠孝両全の至誠を隣みたまひ、ここに汝を救ふべく吾を降したまへり。汝しばらく隠忍して時を待て、汝がもつとも敬愛する両親および妻に再会せしめむ。夢疑ふなかれ』
との言葉を残して、再び鮮光まばゆき玉と化り天上にその影を隠した。後に清照彦は夢に夢見る心地して、合点のゆかぬ今の天女の言葉、われは憂苦のあまり遂に狂せるには非ざるか。あるひは父母、妻を思ふのあまり、一念凝つて幻影を認めしに非ずやと、みづから疑ふのであつた。されどどこやら心の底に、一道の光明が輝くのを認めた。何はともあれ、吾ここに自刃せば、たれか両親および妻の霊を慰むるものあらむ、と心を取り直し、時節を覚束なくも待つことに決心した。
 待つこと幾星霜、山は緑に包まれ、諸々の鳥は春を謳ひ、麗しき花は芳香を放ち、所狭きまで咲き満ち、神司はその光景を見て喜び勇み、あたかも天国の春に遇へるがごとく舞ひ狂うてゐた。されど清照彦の心の空はますます曇り、花は咲けども、鳥は歌へども、諸神司は勇み遊べども、自分に取つては見るもの聞くもの、すべてが吾を呪ふもののごとく、悲哀の涙はかはく術なく、日に夜に憂愁の念は増すばかりであつた。
 清照彦は天の一方を眺め、長大歎息を漏らす折しも、天空高く数十の鳥船は翼を連ね高白山めがけて降り来るあり、いづれの鳥船にもみな十曜の神旗が立てられてあつた。清照彦は、かかる歎きの際、またもや竜宮城よりいかなる厳命の下りしならむかと、心を千々に砕きつつ重き頭を痛めた。
 鳥船はたちまち清照彦の面前近く下り来りて、内より言霊別命、元照彦、梅若彦は英気に満ちたる顔色にて現はれ来り、言霊別命は第一に進んで清照彦にむかひ慇懃に礼を述べ、かつ容を改め正座に直り、
『われ今、稚桜姫命の神使として、当城に来りし理由は、汝に賞賜のためなり』
と云ひをはつて、数多の従臣に命じ善美を尽した御輿を鳥船よりかつぎおろさしめ、清照彦の前に据ゑ、
『汝は忠孝を全うし、かつ至誠をよく天地に貫徹したり。国治立の大神は深くこれを嘉して汝に珍宝を授与し賜ひたり。謹んで拝受されよ』
と莞爾として控へてをられた。清照彦は不審の念ますます晴れず、とも角もその厚意を感謝した。前方の輿よりは顔色美しく勇気凛々たる男神が現はれた。つらつら見れば思ひがけなきわが父荒熊彦であつた。第二の輿を開いて母の荒熊姫が現はれた。第三の輿よりは自殺せしと思ひし最愛の妻末世姫が現はれ、ただちに清照彦の手を取つてうれし泣きに泣く。清照彦は夢に夢見る心地して何と言葉も泣くばかり、ここに四人一度に声を放つて嬉し涙に時を移した。親子夫婦の目出たき対面に、高白山の木も草も空の景色も、一入光を添へるやうであつた。
 ここに言霊別命は懐中より一書を取出し、声も涼しく神文を読み聞かした。その意味は、
『長高山は汝荒熊彦、荒熊姫これを主宰せよ。また高白山は清照彦永遠にこれを主宰せよ』
との神勅である。
附記
末世姫は長高山の城中において自刃せむとしたるとき、たちまちその貞節に感じ、天使来りて身代りとなり、末世姫は無事に言霊別命の傍近く仕へてゐた。

(大正一〇・一一・六 旧一〇・七 加藤明子録)



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