出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語02-4-271921/11霊主体従丑 湖上の木乃伊王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
スペリオル湖
あらすじ
 元照彦が身をやつして美濃彦の元に落ち延びた。美濃彦の部下の港彦は、元照彦を追ってきた猿世彦を、スペリオル湖の舟上で脅して裸にした。猿世彦は寒気で凍りミイラになった。
名称
猿世彦 神軍 立熊別 常世姫 港彦 美濃彦 元照彦
悪神 言霊別命 木乃伊
紅の館 スペリオル湖 常世城 竜宮城
 
本文    文字数=6950

第二七章 湖上の木乃伊〔七七〕

 元照彦は裸体のまま辛うじて常世城を逃れいで、草を編んで簑笠を作り、紅の館に落ちのび美濃彦の門を叩いた。美濃彦の門戸には立熊別といふ守将が、少数の神卒と共に厳守してゐた。そこへ元照彦は顔に桑の実の汁をぬり、容貌を変へ、簑笠のみすぼらしい姿にて現はれたのである。立熊別はこの姿を見て悪神の落ちぶれ者と信じ、大いに叱咤して門戸の出入を拒んだ。
 元照彦は、
『吾は美濃彦の同志である。すみやかにこの旨を美濃彦に伝へられよ』
といつた。立熊別はこれを信ぜず、
『すみやかにここを立ち去れ』
と厳命し、元照彦が何ほど弁明しても聞き入れぬ。そこで元照彦は一策を案じ、
『実は吾は浮浪神である』
と言つて、そろそろ竜世姫の故智をまねて歌を唱ひだした。

『常世の城を逃げだして  身は身で通る裸ン坊
 簑着て笠着て身の終り  どうして会はしてくれなゐの
 館の神の門番は  身のほど知らぬ簑虫か
 わが身の姿の落ちぶれて  乞食のやうに見えたとて
 結構な神ぢやぞ見のがすな  わが身の仇となることを
 知らずに門に立つ熊が  わけも知らずにハネのける
 今は曇りしこの身体  元は照彦身は光る
 光が出たら紅の  館はたちまち夜が明ける
 開けて口惜しい玉手箱  美濃彦今に泣き面を
 かわくを見るのが気の毒ぢや  会はにや会はぬでそれもよい
 後でビツクリして泡吹くな  後でビツクリして泡吹くな』

と繰返しくりかへし踊つたのである。
 立熊別は不思議な奴が来たものと、面白半分にからかつてゐた。美濃彦はあまり門口の騒がしさに立ち出で、じつと様子を考へてみた。合点のゆかぬはこの浮浪神である。顔の色こそ変つてゐるが、どことなく見覚えのある顔である。またその声は何となく聞き覚えのある声である。不思議に思つて、ともかくもこれを門内に通した。門内に入るや否や、美濃彦にむかひ、
『吾は元照彦である。常世の城に敗をとり、全軍四方に解散し、吾はわずかに身をもつて免れ、やうやくここまで落ちのびたのである』
と一伍一什を物語つた。
 美濃彦は驚いて大地に平伏し、立熊別の無礼を陳謝し、ただちに奥殿へともなひ種々の饗応をなし、かつ新しき衣服を出し来りてそれを着用させた。さうして元照彦を正座に直し、自分は左側に端座し、侍者をして立熊別を招き来らしめた。立熊別は美濃彦の前へ出頭した。正座に立派な神のあるのを見て驚き、不審さうに顔を打見まもつてゐる。美濃彦は立熊別に向つて、先程の浮浪神は此方であると、上座の方を指し示した。立熊別はつくづくこれを眺め、はじめて元照彦なりしことを知り、尻を花立にして以前の無礼を陳謝した。
 ここに美濃彦と密議の結果、元照彦は服装を変じ、館の従臣港彦をともなひ、スペリオル湖のほとりに船頭となつて往来の神司を調べ、味方をあつめ、かつ敵の情勢を探らむとした。
 常世姫の軍は、八方に手分けして言霊別命、元照彦の所在を厳密に探らむとし、猿世彦は言霊別命の後を追ふて、いま此処に現はれた。猿世彦は船を命じこの湖水を渡らむとした。港彦はただちに船を出した。船は湖の中ほどまで進んだ。にはかに暴風吹きおこり、浪高く船はすでに浪に呑まれむとする。猿世彦は顔色蒼ざめ慄ひ戦ひてゐた。これにひきかへ、港彦は平気の平左で歌をうたつてゐる。さうして常世の城は言霊別命、元照彦といふ神将のために再び陥落し、常世姫は竜宮城に行つたといふ噂が専らであると、他事に話しかけた。猿世彦は心も心ならず、速やかにこの船を元へ返せと命じた。風はますます烈しく、浪はおひおひ高くなつてきた。猿世彦は気が気でなく、しきりにかへせかへせと厳命した。港彦は少しも騒がず、ますます北方へ漕ぐのであつた。そして港彦は容を正し、猿世彦にむかひ、
『吾は卑しき船頭となつて汝らの来るのを待つてゐたのである。実は言霊別命、元照彦の謀将である。今ここで南へ引きかへさむか、言霊別命は数多の神軍を整へて汝を滅ぼさむと待ちかまへてゐる。北へ進まむか、北岸には元照彦が神軍を整へ汝の到着を待つてこれを滅ぼさむとしてゐる。この湖は両神軍の部将が東西南北に手配りして、蟻のはひでる隙間もない状況である。吾は汝に教ふべきことがある、袖振り合ふも他生の縁といふではないか。汝と吾とはいはば一蓮托生、いつそこの湖に両人投身しては如何。なまじひに命を長らへむとして恥をかくは男子たるものの本意ではあるまい。また卑怯未練な心をおこし身を逃れむとして捕虜となり、恥をさらさば、汝一人の恥のみではない。常世姫の一大恥辱である。覚悟はいかに』
と問詰めた。猿世彦は進退きはまり卑怯にも声を放つて、男泣きに泣きだし、手を合はせて救ひを乞ふた。港彦は愉快でたまらず、
『しからば汝の願ひを聞き届けてやらう。その代りに、吾の一つの願ひを聞いてくれるか』
といつた。猿世彦は、
『命あつての物種、たとへ貴下が山を逆様に上れと言はれても、吾が命さへ助けたまへば決して違背は申さじ』
と答へた。港彦は、
『しからば汝の衣類を脱ぎすて、この湖の中へ投入し、裸になれ』
と命じた。
 寒気の激烈なるこの湖上に、かてて加へて身を切るやうな寒風が吹き荒んでゐる。されど命が大事と猿世彦は、命のまにまに衣を脱ぎ捨てた。たちまち菎蒻の幽霊か地震の孫のやうに、ブルブル慄ひだし、つひには手足も凍り息さへ絶えて、完全なる木乃伊になつてしまつた。港彦は言霊別命の土産として、この木乃伊を乗せて乗場に引きかへしたのである。

(大正一〇・一一・二 旧一〇・三 桜井重雄録)



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