出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語01-5-431921/10霊主体従子 丹頂の鶴王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
シオン山
あらすじ
 赤玉を持っていた鶴若は神界の天使になりたいとシオン山で修行し飛行能力を身につけていた。しかし、アルタイ山の鶴姫と夫婦になり、竹熊の部下の鶴折姫に鮮花色の玉を呑まされ情欲を教えら鶴子姫という子を持った。ところが、この子供は邪神の霊の変化で、鶴若の赤玉を奪った。丹頂鶴の色はこれが由来である。
名称
鶴子姫 鶴折姫 鶴姫 鶴若
悪神 大八州彦命 黒竜 邪神 竹熊 天使 天女
赤玉 アルタイ山 シオン山 シオンの滝 神界 玉の宮 禊身 黄金水
 
本文    文字数=7337

第四三章 丹頂の鶴〔四三〕

 鶴若は、黄金水の精なる赤色の玉を得てより、信念ますます鞏固となり、ひそかに、シオン山に登りて多年の修業をなし、ある時はシオンの滝に飛び込み、ある時はシオンの谷川に禊身をなし、つひには、神通力を自由自在に発揮し得るやうになつた。鶴若はその名のごとく、鶴と変じて空中を翺翔し、天地間を上下して、神界の天使とならむと、一意専念に苦しき修行をつづけてゐた。
 ここに竹熊一派の悪神は、鶴若の神通力を奪ひ、地上に落下せしめむとして苦心してゐた。鶴若は空中を一瀉千里の勢をもつて、諸方を翺けめぐつた。ときに前方にあたつて紫雲棚びく高山が目についた。山頂は雲の上に白く浮出てゐる。鶴若は、その山に引きつけらるる心地していつの間にか、山上に翺けりついた。折しも、山腹の紫雲の中より四方を照らす鮮光あらはれ、光はおひおひ山頂を目がけて立騰つていつた。そして、それが一個の紅色の玉となつた。このとき鶴若は、鶴の姿を変じて、荘厳なる神人と化してゐたのである。その玉は、見るみる左右にわかれて、中より天女が現はれてきた。鶴若はこの天女の美貌に見惚れてゐると、天女はまた鶴若を見て秋波を送り、無言のまま鶴若の側に立寄つてきた。この高山はアルタイ山で、この天女は名を鶴姫といふ。鶴若、鶴姫はここに夫婦の約を結んだ。これと同時に鶴若はたちまち通力を失ひ、空中飛行の術が利かなくなつた。
 山の中腹には巨大な岩窟がある。ふたりはこの岩窟を棲所とし、遠近の山々の者を集めて、ここを中心として一つの国を立てた。さうして、広き岩窟の奥には赤玉を安置し、これを無二の神宝と崇め祀つた。ふたりはたがひに相親しみ、相愛し、永き年月をアルタイ山に送つてゐた。
 しかるにふたりの若き姿は年とともにおひおひ痩せ衰へ、頭には白髪が生えだし、何となく淋しさを感じてきた。ふたりは後継者たる子の生れ出でむことを希求するやうになつた。
 ここに竹熊の部下、鶴析姫は、うるはしき天使の姿に変じてアルタイ山の山頂にのぼり、雷鳴を発し大雨を降らしめた。雨は滝の如くにふりしきり、たちまち山の一角を崩壊し、濁水は流れて岩窟の前に溢れいで、少時にして、その雨も歇み、岩窟の前には、一つの柔かき麗しき鮮花色の玉が残されてゐた。鶴若は手にとりてこれを眺むるに、あたかも搗きたての餅のやうな柔かさである。鶴姫はこれを見て、にはかにこの玉を食ひたくなり、鶴若の手よりこれを奪らむとして、つひに両方よりその玉を引き千切つてしまつた。この引き千切られた玉は、自然にふたりの口に入り腹中に納まつてしまつた。それよりふたりは情欲をさとることになり、鶴姫はつひに妊娠し、月満ちて玉のごとき女子が生れた。これを鶴子姫と名付けた。
 二人は鶴子姫を生んで、寵愛斜ならず、這へば立て、立てば歩めの親心、鶴子姫の泣くにつけ、笑ふにつけても心を動かし、子のためには一切を犠牲にしても悔いないといふ態度であつた。鶴子姫は、両親の愛育によりて、追々成長し、言語を発するやうになつて、初めて「ターター」と啼きだした。両親はその啼声が気にかかり「ターター」とは、如何なる意味かと非常に苦心したが、到底その意味はわからなかつた。鶴子姫は、今度は「マーマー」と啼きだした。何の意味か、これも判らなかつた。しばらくすると鶴子姫は「タマ、タマ」と啼きだした。これを聞いて両親は、種々の鳥類の卵を従臣に命じて集めさせたが、鶴子姫はしきりに首を左右に振り、卵を吸ふことを嫌つた。両親は昼夜膝を交へて、その鶴子姫のいふ「タマ」とは、如何なる意味かと首を傾け色々と考へたが、どうしてもわからなかつた。時に両親は万の従臣を集め、赤玉の祀りある玉の宮の祭典をおこなひ、鶴子姫の無事成長せむことを祈つた。その時鶴子姫は、鶴姫に抱かれて祭場に列した。ここに鶴子姫は、はじめて笑顔をつくり「赤玉、々々」といつて喜んだ。両親は目の中へはいつても、痛くは思はぬ愛児の鶴子姫の笑顔に、満腔の喜びをおぼえ、鶴子姫の要求なれば、自分の生命を捨てても惜くはないとまで愛してゐたのである。祭典は無事にすみ、ふたりは広大なる岩窟の居間に帰つた。万の従臣は直会の酒に酔ひ、万歳を連呼し、各自の住所に帰つた。あとに親子三名は奥の一室に入り、やすやすと寝についた。夜半にいたり、鶴子姫はにはかに「タマ、タマ」と啼きだした。鶴姫はこれを聞いて始めてその意をさとり、鶴子姫が「タマ、タマ」といふのは、かの玉を要求してゐるに違ひなしと思ひ浮かべ、その旨を鶴若に話しかけた。鶴若はにはかに床上に起き上り、腕を組み、思案にくれて、一言も発せず伏向いてゐた。鶴子姫の啼き声はますます激しくなり、両親の胸を引き裂かむばかりに聞えた。両親はゐたたまらず、夜中をも顧みず、鶴若は起つて玉の宮に入り、御神体の赤玉を捧持し、恭しく居間の机上に据ゑた。すると鶴子姫の啼き声は頓にやんで笑ひ声と変じ、その玉に手を触れ、玉の周囲を嬉々として飛びまはつた。両親はそのまま玉を床上に据ゑ、鶴子姫の機嫌とりの玩具とした。
 鶴子姫はかくてだんだんと成長したが、ある日たちまちその姿を黒竜と変じ、その玉をとるや否や、黒雲を捲きおこし雷雨をよび、大音響とともに、父母を捨て、西方の空高く姿を隠してしまつた。後に残りしふたりは驚き呆れ、かつ玉と愛児の行方を眺めて長嘆止まなかつた。ふたりは鶴子姫が邪神の霊の変化なりしことを悟りて、姫の身については断念せるものの、断念め切れぬのはかの赤玉である。かつて竹熊らの侮辱圧迫にたへ、生命にかへて守護したる、かの宝玉を敵に奪はれては、大八洲彦命にたいして一言の申訳なしと、天地にむかつて号泣し、その一念凝つて、頭上に赤玉の痕をとどむるにいたつた。これを丹頂の鶴といふのである。焼野の雉子、夜の鶴、児を愛すること鶴に優るものなきも、これが縁由である。

(大正一〇・一〇・二五 旧九・二五 谷口正治録)



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